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リアクション
第3章 夜蝶乱舞
「うーん、陸斗殿もあまり蝶の毒を吸い込まないよう気を付けるであります」
空を埋める、闇色をした蝶の群れ。
羽ばたくたびに舞い落ちる紫紺の燐分に顔をしかめるロレッカ。
「どうぞ、これを使って下さい」
そんなロレッカや陸斗達に、藤枝 輝樹(ふじえだ・てるき)は簡易マスクを手渡した。
「こんなものでも、ないよりはましでしょう」
「感謝であります!」
「いえいえ。それより、どうせなら皆で協力しましょう」
輝樹は表情を引き締めると、周りの者達に指示を飛ばした。
「ここから、夜魅さんがいる場所までの最短ルート……先ずはそこに攻撃を集中させましょう」
とにかく道を作るのが大切だった……夜魅へと希望へと続く、道を。
「もし無理でも、陽動とする事が出来ますし」
言って、輝樹はその手に炎を宿した。
「出し惜しみは無しです。夜魅さんを学園を救う為に!」
空に咲く、炎術。花火のようなそれが、この最後の戦いの開始を告げる合図だった。
「遊雲にだって、出来る事あるもん」
百合園女学院の遊雲・クリスタ(ゆう・くりすた)とレイ・ミステイル(れい・みすている)は、蝶を追い払おうとスプレー攻撃を仕掛けていた。
この花壇を守りたいと、虫を捕まえた事もあった。
ケガした人達を手当した事もあった。
怖かったけれど、バジリスクと対峙した事もあった。
そして今、遊雲は夜魅を助けたいと、夜魅を助けようとする人達の手伝いをしたいと、ここにいる。
ここで蝶を退治したいと。
ずっと、友達が欲しいと思っていた。
レイと出会ってパラミタに来て、今、こうして皆で戦って。
出会って関わって絆を紡いで。
「それは多分、とても大切で……幸せな事だから」
夜魅にも知って欲しい、夜魅に伝えて上げて欲しかった。
だから、ささやかでも懸命に、出来る事をする。
「遊雲、あまり前に出過ぎないで下さいよ。あなたには、全部終わった後でも仕事があるんですから」
「うん、分かってる。でも、出来るだけ頑張りたい……早くあの子、助けてあげたいから」
言う遊雲に、蝶が微かに怯えるようにその翅を震わせた。
「気持ちは分かるけど、無理しちゃダメだよ」
そんな遊雲にレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は言って、アーミーショットガンを蝶へと向けた。
バババババっ!
スプレーショットで一気に蝶達を落としながら。
「こっちは任せて。皆は夜魅を止めて!」
蝶は引き受けるから、とレキは声を張り上げた。
「ボクはまだ、弱いから」
自分の今の実力はしっている、分かっている。
それでも、何もせずにはいられなかった。
悲しい宿命を背負う少女を助けてあげたいと、助けようとする皆の手助けをしたいと、そう思う。
遊雲みたいなちっちゃい子も頑張っているし。
「チムチムも、がんばるアル〜」
並び立ち、レキと同じくスプレーショットで蝶を撃ち落とすのはチムチム・リー(ちむちむ・りー)、レキのパートナーだ。
ゆる族らしくいつもはのんびりしたチムチムだったが、今だけは些か怒っていた。
「誰かを操るってやり方は好きじゃないアル」
しかも大切に思う人の前で、使い捨て人形のように扱うなんて……許せなかった。
「うぅ、でもでも〜、それも負の気を煽るための作戦で、それにまんまと乗せられてムカついてる自分にもムカつくアル〜」
「うん……だけど、それは仕方ないよ。あの黒マント、ホント許せないもん」
レキとて本当はあの影使いをドついてやりたかった。
けれど、今の自分は届かないから……まだ。
だから。
「もっと強くなりたい」
その気持ちを胸に、引き金を引く。
蝶の羽が千切れ、乱舞する。
何度も何度も、引き金を引く。
自分の限界が来るまで……否、来たとしても!
「今はせめて、奴の目的を食い止めることで一矢報いればいい!」
操られている人の為にも、被害を最小限に抑える為にも、迅速な駆除が必要だった。
「出来るならばハッピーエンドで終わりたいよね。みんな頑張ろう!」
向けた声に、チムチムや遊雲達が大きく頷き。
「弱くても良い、無様でも良い。それでも誰かを護る為、救う為に立ち上がる時、命を賭けた時、人は誰だってヒーローになるんだっ! 変身!」
掛け声と共に、さぁ変身だ、風森 巽(かぜもり・たつみ)!
「蒼い空からやってきて! 未来(あす)への希望を護る者! 仮面ツァンダー! ソークー1!」
じゃっじゃ〜ん!
「さぁて、ボクたちの出番だもんね。頑張っちゃお〜」
相棒ティア・ユースティ(てぃあ・ゆーすてぃ)に頼もしげに頷き、仮面ツァンダーは獲物を構える。
ライトブレードの柄と長剣型光条兵器の柄を、アタッチメントで接続したもの。
名付けて!
「ツァンダーツインブレードッ! 大風車!」
ツインブレードを風車の様に回す仮面ツァンダー。
蝶や毒、瘴気を切り裂きながら、道を切り拓いていく。
その道行きを阻もうと、操られた生徒達が動く。
「すみません!」
しかし、輝樹が放った威力を落とした雷術が、彼らを昏倒させる。
「ごめんね、でももう少し休んでいて」
ティアは申し訳程度に傷ついた者達にヒールを施し、仮面ツァンダーの後を追う。
「正義とか愛とか難しいのはなしなし。もっとシンプルに誰かを助けたいってだけだよ」
ティアは思う。それがきっと、一番力を与えてくれるから、と。
「毒を吐くと言っても、所詮は蝶です」
本郷 翔(ほんごう・かける)は殺虫剤のスプレーとライターで作った火炎放射スプレーで、蝶を駆除していた。
「おお〜、意外とキレイな光景だよな」
「毒ですし、触らない方が良いですよ」
呑気な感想をもらしたソール・アンヴィル(そーる・あんう゛ぃる)に釘を刺しつつ、作業を続ける。
「分かってるって……正直、今回ばかりはあまりふざけてられない気がするしな」
チラと見るソールの表情は確かに、いつになく真剣だった。
翔と同じように、嫌な予感を感じているのだろう。
ヒタヒタと近づいてくるような、嫌な圧迫感と危機感。
「頑張りましょう。おそらく、そう時間は残されていないですから」
翔に、ソールもまた珍しく無言で頷いた。
「あんなことがあったけど、できれば皆幸せになれればそれが一番だ……カガチさん、協力させてほしいよ!」
椎名 真(しいな・まこと)は蝶を退治し道を切り開くという東條 カガチ(とうじょう・かがち)とエヴァ・ボイナ・フィサリス(えば・ぼいなふぃさりす)に協力を申し出た。
正直、友との戦いで身体はボロボロに傷ついていた。
だが、絶対に引かないと言う表情の真を止める事はカガチにも出来なかった。
「分かったよ、だが無理したら今度こそお仕置きだぞ」
「う……分かってるよ」
じっと見つめられ、目を逸らしそうになるのを何とか堪え。
真は火術を拳と脚とに纏わせ、蝶を退治していく。
それはまるで、蹴りと突きによる炎の演舞。
「……くっ!?」
だが同時に、それらは傷口を開かせ、消耗した身体に否応なく毒の洗礼を受けさせる事に他ならなかった。
「何でもない、何でもないよ、うん」
纏う炎が滲む血を隠してくれる事を祈りながら、真は舞う。
(「『死んだら京子ちゃん悲しむ』、って言われたけど、やっぱり体が自然に動いちゃうんだよな……ならせめて、心配かけないように隠さなきゃな」)
「カガチさん行って! ほら、ここは俺がなんとかするからさ!」
「……いいの?」
「俺を何だと思ってやがるんだろうな。椎名くんが毒を喰らって気付かないわけがないってのに」
エヴァに苦笑をもらすカガチ。
気付かないわけはない。
だが、気付かぬフリをしてやる。
それが男ってものだから。
「男の心意気を邪魔するなんて野暮な真似はいけねえ……ま、後でじっっっくり説教だけどな」
カガチとエヴァが対峙するのは、操られた生徒達。
上空から地上から、夜魅を目指す者達の道を、繋ぐ為。
「敵とは言え他人様んちの子、出来る限り傷つけないようにしないとな」
カガチは気絶させるべく、拳を振るう。
「だから行ってやってくれ。光で満たしてやってくれ。夜魅を、救ってやってくれ!」
道を作り、道を示し、道を守る。
願いを、夜魅に向かう者達に、託す。
(「相棒に、親友に、戦友に、悪友に……魂の片割れに出会うまで、誰かの為に泣いたり笑ったりを知らなかった俺には、光とかそういうのはわからないから」)
けれどその代わり、自分はここに立ちここを守るのだ。
「皆が夜魅を連れ戻すまで、ボロボロの亡霊になっても……立っていてやる!」
「どうか……」
綺人を真人達を送り出しながら、エヴァもまた祈った。
「あの子に教えてあげてください。自分の為に笑い、自分の為に怒り、自分の為に泣く人のある、喜びと幸せとを」
その為に自分達はここに留まるのだ。
行く道を阻む障害を排除する為に
「今は余計な力は使うな……さあ来い、私が相手だ!」
「……キミらも無理したらあかんで」
「おねーちゃん達も、気をつけてね!」
チラとこちらを心配そうに見つめるフィルラントとエディラント。
「心配はいりません、こんな所で易々と倒れてなるものですか」
微笑みと頷きを、エヴァは返し。
「ヒロインを救うのは何時だってヒーローだ。そのヒーローの為に、俺ら脇役は精々道を開けてやるさ」
カガチはその口元に、不敵な笑みを刻んだ。
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