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横山ミツエの演義(最終回)

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横山ミツエの演義(最終回)

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 食糧庫襲撃の報告に、董卓はとたんに落ち着かなくなった。
 自分が行く、と言う董卓を珂慧とミストラルで何とかなだめる。
 すると、そこにどこからかポリ袋に入れられた中華まんが放られた。
「クルト、見える?」
「いいえ……よほど特殊な方法でも取っているのでしょうか」
 室内を見回してもクルトのメガネには何も映らない。壁や扉の向こうに見慣れない者はおらず、光学迷彩で姿を隠しているわけでもない。
 ミストラルも気配を探るが何も感じるものはなかった。
 そうしているうちに、董卓はポリ袋の中の中華まんを疑いもせずかぶりついた。
 三人が気づいた時にはもう遅く、全部董卓の口の中だった。
 満足そうな顔で飲み込んだとたん、董卓の首がカクンと落ちる。
 そして、力の抜けた手から誅殺槍が離れた。
 槍は傾き、石の床に当たって砕け──なかった。
 寸前でミストラルが掬い取ったからだ。
「あっ、壁から……!」
 思わず声を上げた珂慧が指した壁から、エル・ウィンドが半身を現していた。壁から生えているようでちょっと不気味だ。
 エルは誅殺槍へ雷術を放った。
 ミストラルは勘で軌道を見極め、身をかわす。
 ちょうどその位置に扉を蹴破って現れたトライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が綾刀を投げた。
 無理矢理身をひねったミストラルの腕が浅く切られた。
「──外したかっ」
 舌打ちするトライブにミストラルが反撃に出ようとしたが、いつの間に背後に迫っていたのか、というよりどこから出てきたのかホワイト・カラー(ほわいと・からー)がライトブレードを突き出していた。
 ホワイトもエルも、壁の中を這う電気線を、体を電子に変えて伝ってきたのだ。
 ミストラルの体が剣に貫かれるかと思った時、ホワイトの手首に鞭が絡みつき動きを止めた。
「苦戦してるじゃない」
 クスクス笑いながら開け放たれた扉のところにいるメニエス・レインの手には、ダークネスウィップがあった。
 短い時間ながらも、この騒ぎで中華まんに仕込まれていた眠り薬で眠らされていた董卓が目を覚ました。
 ミストラルが董卓に誅殺槍を返す。
 董卓は玉座を立つと、わずかの間、眠っているうちに増えた客人らを見渡し、スッと目を細くした。
 そこに、ロザリアス・レミーナが駆け込んできた。外で暴れていたせいか、服はだいぶくたびれていたが、体はピンピンしていた。
「敵襲? こいつら、やっちゃっていいのかな?」
「いいけど、外でやってね。城が壊れてしまうわ」
「了解っ。それじゃ、みんなまとめて外に出ようか!」
 瞬間、ロザリアスの姿が消えた。目に見えないほどの速さで移動したのだ。
 次に彼女が足を止めた時、両手にエルとホワイトを掴んでいた。
「何をするっ」
 エルが手を振り払おうとした時、ふわりと体が宙を舞った。
 そして、衝撃。
 ガラスが割れる音。
 エルの体は窓を突き破り、外へ放り投げられていた。
「エル様……あっ」
 名を呼んだホワイトもすぐに後を追うことになった。
 得意気に口の端を吊り上げたロザリアスは、次に外に放り出す相手──トライブを見た。
 目を見開き、もう姿の見えなくなったエルとホワイトの消えた窓を凝視していたトライブは、自分に向けられた視線に戦慄し、膝を落とした。
「ここまで、か……」
「あれ、諦めちゃうの?」
 ゆっくりと近づいてくるロザリアス。
 ぎゅっと拳を握り締めながら、トライブは密かに全員の位置を確認する。
 ──董卓の傍には誰もいない。
 朱鷺。
 トライブが心の中で名を呼んだ。
 それに応えて、トライブの影から何かが飛び出した。
 影の中に潜んでいた千石 朱鷺(せんごく・とき)がバーストダッシュで董卓目掛けて一直線に飛び出したのだ。
 トライブの絶望した姿に誰もが油断していた。
 ロザリアスの脇を駆け抜ける朱鷺。
 グレートソードを引き抜き、董卓の手の誅殺槍を真っ二つにしてやるところだった。
 あとほんの一、二歩のところで、小さな爆発音が二つ鳴り、あっという間に煙幕でいっぱいになった。
 煙だらけにしたのは、出雲 竜牙(いずも・りょうが)モニカ・アインハルト(もにか・あいんはると)の二人だったが、その姿をちらりとでも見ることができたのは、扉付近にいたトライブと董卓の一番近くにいたミストラルだけだった。
「あの人は……!?」
 メニエスの指揮下に入ることは拒否したものの、今まで侵入者を相手にしていたはずだったとミストラルは思い出す。
 裏切られた、と奥歯をかみ締めた時、董卓の慌てた声が煙の向こうから聞こえた。
「誅殺槍を取られた!」
 玉座の間にいた全員が声を上げ、そして扉へ殺到した。