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ゴチメイ隊が行く1 カープ・カープ

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ゴチメイ隊が行く1 カープ・カープ

リアクション

 
    ★    ★    ★
 
「まったく、壊される前から自分たちで壊してどうするんだよ!」
 ぶつぶつと文句を言いながら、朝霧垂は先ほどの戦いで壊れた生け簀を修理していった。本当は、警備用のトラップを設置しようと思っていたのに、とんだ誤算だ。
「そこの黒いメイドたち、警備をするのはいいけどよ、あまり派手な攻撃はするなよな。お前らの攻撃で生け簀が壊れたり錦鯉が死んだりしたら元も子もないんだからなっ!」
「分かってるわよ、そんなこと。だいたい、半分は、あの馬鹿たちが壊したんだし」
 朝霧垂に言われて、ココ・カンパーニュは不満そうに答えた。
「やっと見つけましたわ。まったく、道がお粗末で困りましたわ」
 自転車の荷台に乗ったジュリエット・デスリンク(じゅりえっと・ですりんく)が、ココ・カンパーニュにむかって大きく手を振りながら声をかけた。もちろん、自転車を漕いでいるのはジュスティーヌ・デスリンク(じゅすてぃーぬ・ですりんく)である。相当の特訓と経験を積んだのか、ぼこぼこになっている渡り板の上を多少よろよろとしながらも、器用に障害物を避けて水に落ちないように進んでくる。
 それにしても、なんでこんな所に自転車でやってきたのだろう。それ以前に、どうやって自転車を生け簀まで運んできたのだろうか。
「ずっと聞きたいことがありましたのよ」
 ココ・カンパーニュの前で自転車を止めさせると、ジュリエット・デスリンクは優雅に荷台から降りた。やっと足をついて休むことができて、ジュスティーヌ・デスリンクがハアハアと息をつきながらハンドルに顔を埋(うず)めた。
「そのお召し物、どこでお買いになりましたの?」
「はあ?」
 あまりに予想外の質問に、ココ・カンパーニュの目が点になった。
「そのメイド服に興味がありますの。どちらで手に入るものかしら? 教えてくださるまで引き下がりませんわよ」
 堂々とジュリエット・デスリンクが、食い下がった。
「誰がそんなこと教えるもので……」
 呆れて言い返しかけたココ・カンパーニュの目に、ジュリエット・デスリンクたちの後ろの方で、アンドレ・マッセナ(あんどれ・まっせな)と話し込んでいるチャイ・セイロンの姿が映った。
「そうですよねえ。大半の物は、買った後にみんなでちくちくとお針子して改造してるんですよお」
「おお、すごいじゃん。めもめも」
 アンドレ・マッセナがまじめに話を聞いて、ちゃんとメモをとっている。
「それで、住所と電話番号を……」
「あらやだ、あたしたち住所不定ですのよお」
 朗らかに、何か少し殺伐とした会話が交わされている。
「やれやれ、あれもつれて、ちゃんと警備に戻ってくれ」
 ちょっとうんざりしたように、ココ・カンパーニュは言った。
「あら、このくらいでめげてしまうなんて、メイド失格ですわよ。わたくしなど、あのラズィーヤ様の下で、メイド修行をそつなくこなしたこともありますのよ」
「あそこでか!?」
「たとえどんな不条理な命令でも、たとえどんな困難な状況でも、やるべきことはやってみせるのがメイド魂ですわ」
 驚くココ・カンパーニュにむかって、ジュリエット・デスリンクが自慢げに胸を張った。
 そんな、ジュリエット・デスリンクの背中を、自転車の上からジュスティーヌ・デスリンクがちょんちょんと引っ張る。
「なんですの、いいところですのに」
「あのう、そろそろ戻った方がいいと思うのですけれど」
「なんでですの」
 何か言い返そうとしたジュリエット・デスリンクの視線が、足下近くにいた朝霧垂の目と合った。
「邪魔だ。割れた板替えられないからどいてくれ」
「あらまあ」
 追いたてられて、しかたなくデスリンク姉妹はアンドレ・マッセナとともにその場を離れていった。
「お報せがあります」
 デスリンク姉妹と入れ替わるようにして、今まで見慣れない顔の学生が息せき切ってやってきた。どうやら、新しい連絡船で、夜の警備の学生たちでも到着したらしい。
「ここが狙われているんです」
 アリア・セレスティが、賊が攻めてくることをココ・カンパーニュに伝えた。
「よっしゃ!」
 それを聞いて、ココ・カンパーニュが喜んだ。本当にくるか分からない敵を待ち続けるより、実際にやってくると分かれば、精神衛生上はずっといい。
「なんだか今日はいろいろあったから、すべて泥棒にぶつけてやる」
「生け簀はこれ以上壊さないでくれよ」
 夜霧朔に釘を刺されて、喜び勇んでいたココ・カンパーニュがちょっと嫌な顔をした。
 
「暗くなっても泥棒さんが分かるように、鳴子を仕掛けておくですう。ちゃんと、守りのルーンも刻んでおいたから、完璧ですぅ」
 神代明日香は、生け簀の周囲に紐を張って、鳴子を結びつけていった。ちょうど、渡り板の破壊で木っ端切れが大量に出たので、材料には困らなかった。
「こっちもオッケーですわ」
 神代夕菜が、生け簀の反対側に鳴子を取りつけて言った。
「そちらはもう終わりましたか? よければお茶にしましょう」
 一緒に警報装置を設置していた夜霧朔が、神代明日香たちに言った。
「はーい、お待たせだよー」
 ライゼ・エンブがお茶を運んでくる。
 生け簀の他の場所でも、他の者がせわしなく生け簀の改造を行っていた。
「こんな感じでいいかな」
「上等ですね。これで、こちらがものすごく警戒していると、相手にも分かるでしょう」
 本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が生け簀の端に立てた幟を確認して、樹月 刀真(きづき・とうま)は満足そうに言った。
 かなりの人数が生け簀の警備に集まっているとはいえ、それを相手に知らしめなければ防犯の効果はない。できれば、敵に過大評価させれば、襲撃自体を諦めさせられるかもしれなかった。あっさりと諦めてもらえれば、それにこしたことはないだろう。
「夜になったら、明かりも必要ですよね」
 ランタンを幟に取りつけていきながら、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)は湖面に爆索をそっと流すことも忘れなかった。明かりを消そうとして近づけば、爆索に取りつけた機雷花火で軽く火傷するだろう。
「お茶が入ったようだから、私の持ってきたお菓子なんかどうだい?」
 お茶を配っているライゼ・エンブの姿を見て、本郷涼介が漆髪月夜に声をかけた。
「わあ、いいですね」
 手を休めて、漆髪月夜が喜んだ。
 
「やれやれ、みんなマメだねえ」
 監視小屋の中で、マサラ・アッサムは、のんびりと脚をのばしながらつぶやいた。
「おや、こんな所でおさぼりですか」
 お茶とお菓子を運んできた道明寺 玲(どうみょうじ・れい)が、マサラを見つけて訊ねた。
「いいだろう。さっき騒ぎすぎたんで、少し静かにしてろってリーダーに押し込められたんだ」
「そうですか。なら、ちょうどいいですな。これをどうぞ」
 そう言って、道明寺玲はお茶をさし出した。
「いいねえ、ちょうど甘い物がほしかったんだ」
 マサラ・アッサムは、喜んでお茶菓子を手に取った。
 
「おのれ、みんなでくつろいで……。後悔させてあげるわ。後でみてなさいよ……」(V)
 独り身を隠した船の中で見つからないかとヒヤヒヤしながら、メニエス・レインはじっと機会をうかがい続けた。