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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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 エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)ルーノ・アレエ(るーの・あれえ)を百合園女学院の門までお迎えに行き、門の前で彼女を待った。
 純白のスーツ姿のエメは非常に目立ったが、紳士として、女性をお迎えに行かないというわけにはいかない。
 エメは時々向けられる百合園女学院の生徒の視線に照れながら、ルーノが出てくるのを待った。
「お待たせした」
 現れたルーノに、エメは優しい笑みを向ける。
 ルーノはいつもとは違うシンプルな白いワンピースを着て、ぎこちない笑みを浮かべていた。
「とても素敵です。今日はお会いできて、本当にうれしいですよ」
「私も……」
 エメからの誘いの手紙を受け取ってうれしかったこと。
 迎えに来てもらって喜んでいることを。
 久しぶりに会えたことを心から喜んでいたのだが、ルーノはうまく表現できず、それを先に言ってくれるエメの言葉にこくこくと頷いていた。
「これを、ルーノさんのために作ってきたのですが、もし、よろしければ、おつけしてもいいでしょうか?」
 エメはプリザーブドフラワーの深紅のミニ薔薇と金のリボンで作られたコサージュを取り出し、ルーノに見せた。
「綺麗」
 ルーノの微笑が少し柔らかくなったのに喜び、エメも微笑む。
「では、お願いします」
「かしこまりました」
 エメは身体に触れないように注意しながら、胸元にコサージュをつけてあげた。
 そして、ルーノが時間が大丈夫だというので、ヴァイシャリー貴族御用達の上品な喫茶店に誘い、ゆっくりと話しをすることにした。

 ルーノはエメがマメにお手紙をくれたことを、この時代にメールではなく、便箋に万年筆で手書きのお手紙をくれたことを、感謝していた。
 そして、エメの求めに応じ、近況を話した。
「あれから、沢山の方に出逢い、迷惑をかけた……助けてもらうばかりで、私はなにもできていない……私は、力がすべてではないと感じました。優しい思いが、なによりの力であると……作られた身の上ながら感じました」
 ルーノの話を聞き、エメはルーノが支えてくれる仲間たちに恵まれたことを心から喜んだ。
「これからも自分だけで抱え込まずに周りを頼ってください。今度こそ私もそばで護りますから」
 エメは真摯な瞳でルーノに語りかけた。
「本当に心配なんですよ?」
「ありがとうございます」
 ルーノは自分の胸に手を置き、軽く瞳を閉じた。
「ここには、私を助けてくれている沢山の人達の想いがあります。そこには、エメ・シェンノート……あなたの想いもある……私の、心を支えてくれています」
「ルーノさん……」
 自分もルーノの支えになっていると聞き、エメはうれしそうな笑顔を見せた。
 それと同時に、勇気を持って、エメはいつにない言葉を口にした。
「もし……もし、ルーノさんがお嫌でなければ、名前を呼んでいただけるとうれしいのですが……」
「名前」
「はい」
 ルーノは一瞬間を置き、答えた。
「分かりました、エメ」
 その返答を聞き、エメの顔がパーッと明るくなる。
 ものすごい奥手で、真摯なエメは、知った仲であるルートの会うとあっても、手すら触れる気もないくらいに真面目だ。
 名前を読んでくれるだけで望外の喜びだった。
「エメにこれを」
 ルーノは用意してきた小さな紙袋からチョコを取り出した。
「親友たちから教わりました、今日は大切な方々にお菓子を差し上げる日だと伺いました……どうか、受けとってほしい」
「えっ!」
 エメはあまりに驚いて、おたおたしてしまった。
 プレゼントにコサージュを持ってきていたのだけど、自分もチョコを作ってくるべきだったかなとか、あ、驚くんじゃなくて、まずはお礼を言わないととか、こんなにうれしいことが起きるなんてとか、いろんなことが頭を交錯し、エメはばたばたおたおたしながら、とにかく紳士的にお礼をと頭を下げた。
「ありがとうございます。とても、本当に本当に……うれしいです」
「良かった」
 
 エメは帰りもきちんと百合園の門までルーノを送ってあげた。
「今日はありがとう」
 ルーノは親友から教わったハグを、エメにしてあげた。
「えええっ!」
 エメが、白いエメが赤いエメになるほどに、顔が真っ赤になる。
「親友からこうすると教わった。感謝の気持ちを込めて」
 ルーノは離れると、ぺこりとお礼をして寮に入っていった。
 エメはルーノが寮に入るまでずっと見守り続けたのだった。