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ホワイトバレンタイン

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ホワイトバレンタイン
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リアクション

 シー・イー(しー・いー)
 王 大鋸(わん・だーじゅ)のパートナーにして、健気な4歳。
 その彼女を棚畑 亞狗理(たなはた・あぐり)は密かに大事に思っていた。
「バレンタインに乗じて、俺様が農業と同じくらいシー・イーを大事に思ってる心を伝えるけん、のう!」
 亞狗理は気合を入れ、シー・イーを探しに行った。
 口調だけ聞くと、亞狗理は気が強そうだが、実はシャイなパラ実男子なのだ。
 だから、バレンタインデーというお祭り騒ぎに便乗しないと、告白する勇気が出ないのだ。
 亞狗理はシー・イーを見つけると、彼女を調理器具を準備した原っぱに誘った。
「孤児院で作るチョコ菓子を試食して欲しいんじゃ。来てくれんかのう?」
 孤児院と言う言葉を聞き、シー・イーは素直に乗った。
 アイデアマンの亞狗理はいろいろなチョコスナックの商品開発をしていた。
「チョコ掛けパラミタポップコーンに、ゆるスターフォンデュ。それから、パラミタ蜂蜜ボンボンじゃ」
「一つだけ無いモノがある気が……」
 シー・イーの言葉に、亞狗理はうんうんと頷いた。
「ゆるスターフォンデュ、といっても、ゆるスター自体は手に入らんし、かたどったパンなんていう高級なものもちょっと手に入らんからなあ。これは企画倒れか、あるいは俺様が代理でチョコ風呂に入って、チョココーティングされるか……」
「……?」
「い、いや、これは冗談じゃ」
 つっこまれるかバカにされるかならば、まだ返しようがあるのだが、本当に不思議そうな顔をされると割と困る。
 亞狗理は話を元に戻した。
「各地に散らばるパラ実生徒も、他の学校の生徒も、買い食いが好きじゃからのう。うまくいけば高級商品化して、日本進出も夢じゃないかもしれん!」
「チョコ掛けパラミタポップコーンは割りと流行りそうだな」
 シー・イーもその意見に賛成してくれた。
 二人は割りと真剣に商品開発の話をし、その途中で、亞狗理はボソッと言った。
「俺様の企画は当たり外れもあるが、でも、少しでもシー・イーの力になれたらうれしいおもっとる。いろいろ大変じゃろうが、何かあったら出来る限り支えるから言うてくれ」
 おくてな亞狗理に言える、それが精一杯の言葉だった。
 
 試食が終わると、亞狗理はシー・イーにチョコ掛けパラミタポップコーンをお土産に持たせてあげた。
「王ちゃんや孤児院のみんなと食べるといい」
 そして、帰るシー・イーの背をいつまでも見送った。
「さて……失敗作を山葉に投げつけに行くかのう」
 うーんと伸びをして、亞狗理は失敗作を袋に入れて、空京に旅立つのだった。


「とにかく一番早くに見られる映画に入ろうか」
 どの映画を見たいか、と聞かれた高根沢 理子(たかねざわ・りこ)は迷った末にそう答えた。
 葛葉 翔(くずのは・しょう)はその提案に頷き、チケットカウンターに行って学生証を見せた。
「『この白き心を染め上げて』を2枚」
 受け取ったチケットを持って、急いで2人は映画館の中に入った。
 もうすぐ映画が始まるからだ。
 すでに中は暗くなっており、先に入った翔は理子に注意を促した。
「足元、気をつけろよ、理子」
「あ、うん」
 理子は頷いたが、急に暗くなったせいで、目が慣れないようだった。
「席、あっちだから行こう」
 翔が手を差し出し、理子がそれに手をそっと乗せ、2人は自分たちの席まで行った。

(き、気まずい)
 自分たちと同じくらいの年の男女が抱き合う姿がスクリーンに映し出され、翔はそんなことを思った。
 この映画はどうやら携帯小説が元になった恋愛モノらしく、最近の流行を反映してか、割りと過激な展開を交えつつ進む恋愛映画だったのだ。
 しかも、映画館の雰囲気が……なんとも言えなかった。
 バレンタインデーということで、カップルか、カップル未満ばっかりだ。
 隣の席の2人は映画を見ながら、手を恋人繋ぎしたりしている。
(…………)
 チラッと翔は理子を見た。
 理子は映画の別れのシーンを見て、目に涙を浮かべていた。
(あれ……?)
 スクリーンの光を受ける理子の横顔を見たとき、翔は胸が少しドキッと、ズキッとした気がした。
 その感覚が良く分からないまま、翔は映画を見終えたのだった。

「今日は待たせちゃってごめんね」
 映画が見終わると、理子は映画の感想より前に、そう口にした。
「いや、俺が着いたのは本当に理子が来る少し前だぞ」
 約束の5分前には着いておこうと決めていた翔は、映画館の前に約束の5分前に着いたのだが、理子も約束の3分前に来た。
 なので、本当に待った時間はほんの少しなのだ。
 自分と恋愛映画を見てどう思ったのか、理子に聞こうか翔は迷ったが、その翔の前に、チョコが差し出された。
「はい」
「ん?」
 差し出されたチョコを受け取り、翔が理子を見ると、理子が微笑を浮かべた。
「なんだかんだいつも気にしてくれてありがとう」
 理子の微笑を見て、映画館の中で感じた胸の痛みをもう一度感じる。
「こっちこそチョコありがとう。気分転換くらいにはなったか?」
 それでもその痛みをうまく表現できず、翔は他のことを口にした。
「うん。映画館なら人目も気にならないし良かったよ。ま、今日はみんな相手のことしか見てなさそうだけどね」
 肩をすくめて笑う理子に合わせ、翔も微笑を浮かべ、別れ際にこう言った。
「またどこかに遊びに行こうな」