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リアクション
「手間をかけたな」
ハーリーの背から降りた信長が飛空挺の甲板で出迎えた優梨子を労う。
その様子を物陰で震えながら見ていたのは、こっそりと天魔衆に付いてきていたあい じゃわ(あい・じゃわ)だった。
まるでぬいぐるみのように小さなゆる族であるあい じゃわ(あい・じゃわ)は、パートナーである藍澤 黎(あいざわ・れい)の指示でハーリーの背中に乗っていたのだが。
まさか飛空挺の甲板から空へ向かってダイビングをするとは想わなかった。
優梨子が乗ってきた飛空挺の甲板に着地した後、すぐに身を隠したが、今でも身体の震えが収まらない。
ぷるぷると震える手でポケットから大好きなチョコレートを取り出す。
あい じゃわ(あい・じゃわ)は知らなかったが、黎が持たせてくれたチョコレート。どうやって手に入れたのかは不明だが、実は光学迷彩のスペシャリストであるブルーノ・ベリュゲングリューン(ぶるーの・べりゅげんぐりゅーん)特製のSPタブレットである。これを食べると通常よりも長いこと光学迷彩を使用し続けることができるのだ。
「がんばってお仕事しなくちゃなのですー」
チョコを食べ、気を落ち着かせようとしているあい じゃわ(あい・じゃわ)のすぐ目の前では、彼の存在を知ってか知らずか。信長たちが今後の方針について話していた。
優梨子は意味深な笑みを浮かべながら信長に問いかける。
「これからどうします、信長さん?」
「これ以上の攻めは奇襲足り得ぬ。都としてはちと物足りないが、例の儂の居城とすることとしよう」
行動の幅を広げるためにも「人」という軍事力だけでなく、それを収容する拠点が必要であると信長は考えていた。優梨子が乗ってきた飛空挺という「足」ができたが、慌ててこの場を去るよりも、薔薇学勢を島から追い出し、この地を拠点とする方が良いだろう。
幸いにも「城」となるべく遺跡には国頭 武尊(くにがみ・たける)をはじめとする仲間たちが向かっている。
自分もそちらに合流し、今は城を確保することに専念するべきだろう。
「それでは私は飛空挺を安全な場所に隠しておきますわ」
そう言うなり優梨子は、たゆませたナラカの蜘蛛の糸を飛空挺に張り巡らせる準備をはじめる。
「ヒャハー、だったら俺は久しぶりにハーリーと暴れてくるかな。薔薇学連中を追い立てる連中も必要だろう?」
珍しくまっとうなことを言う鮪に、信長は満足そうな顔で頷いた。
そうは言っても、やはり直情的な行動が目立つ鮪が心配だったのだろう。
「だが、深追いの必要はないぞ」と言い置く信長に、鮪は鼻を鳴らした。
「分かっているって。お前も一緒に行くだろ?」
ついでに白菊とラフィタ・ルーナ・リューユ(らふぃた・るーなりゅーゆ)に誘いをかける。
「あっ、はい!」
白菊は危険を省みず助けに来てくれた鮪に恩義を感じていた。即座に頷いたのは言うまでもない。
しかし、その隣では、白菊のパートナーであるラフィタは何やら考え込んでいた。
鮪は白菊の先輩ということだが、信長をはじめとした天魔衆の面々の行動は、単なる空賊とは思えない。明確に敵味方の判別ができない今、自分は信長に付いていき、彼の意図を探りたい…ラフィタはそう考えている。そうは言っても…。
「どうしたの、ラフィタ? 行っちゃうよ」
穏やかな笑みとともに促されれば、やはり白菊を一人、鮪に同行させるわけにはいかないラフィタである。
「待て、私も一緒に行く」
すると、慌てて駆け寄るラフィタに、鮪が何やら思い出したように問いかけた。
「そう言えばオッサン。薔薇学の奴がラフィタのことを亜陀流兎獲屡斗卿野宴蛇ってとか言われてたがよ。どういう意味だ?」
鮪にとってそれは、たまたま「思い出しただけ」にすぎなかったが。
「あーだるう゛ぇると、きょうの…えんじゃ…」
その言葉がラフィタに与えたショックは大きかった。
タシガン領主アーダルヴェルトとラフィタの関係は、白菊以外に話したことがなかった。
一族の鼻つまみ者であった自分のことを、伯父であるアーダルヴェルトが誰かに話すとも思えない。
鮪を睨み付けるラフィタの心情を慮ってか、信長は顎髭を撫でながら嘯く。
「念仏のようなものじゃ。お主が知った唱えたところで何も起こりはせぬよ」
信長がこの場で自分を問いただすつもりがないことに、ラフィタは密かに胸を撫で下ろした。
しかし、幼少の頃から嫌悪し、逃げ続けてきた一族と、近く向き合わなくてはならないことを、ラフィタは感じずにはいられなかった。
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