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葦原の神子 第2回/全3回

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葦原の神子 第2回/全3回

リアクション

 蛟丞は黒装束に顔にはぐるぐるの包帯を巻く異形だ。房姫を自分に変装させ連れ去る作戦だ。敵を察知するために忍犬を連れ、地下にもぐる。

 蛟丞が祭壇に辿り付いた時、そこには誰もいなかった。祭壇といっても何があるわけではない。墓標が一つあるだけの狭い空間だ。
 房姫はその墓標の前、土の上で眠っている。胸が上下している。
「不畏卑忌蛟丞、只今御助けに参りました・・・・・なーんてカッコつけすぎかね?」
 小声で房姫の耳元に呟く。
 房姫は眠り薬を嗅がされているのか、起きる気配がない。
 式神が出てきた。いつの間にか安倍 晴明のもとに集まる式神。
「なるほど、そうか。もう儀式は終わってるぞ」
 晴明の顔が怒りで染まる。
 房姫の手には一筋の刀傷がある。薄らと付いた傷からはポタポタと血が地面に落ちる。
「姫の血を大地に。それが復活に必要だったんだ」
「ひでーことする、まさかこの包帯が役に立つとは」
 蛟丞は房姫を自分に見せかけるために持ってきた包帯を、怪我した手に巻きつける。
 まて、いつのまにか橘柚子と木花開耶もいる。
「傷の治療にきたんどす」
 開耶は、ヒールとキュアポイゾンを使い、房姫の傷を治してゆく。
 しかし房姫の目は覚めない。
「しかたない、抱えてゆくか」
「手伝う」
 レンが暗闇から現れた。
「俺だけか、皆はまだか」
 レンは仲間を気遣うと共に、蛟丞を見る。
「別の入り口からきたよ、ニンジャだからね、ってわけでなく」
 蛟丞は、式神を手に乗せる。
「こいつに助けてもらったんだ」
「先を越されたか!」
 トライブが駆けつけてくる。


 トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)蘭堂 一媛(らんどう・いちひめ)も、先立って内部に潜入していた。
 目の前で房姫を略奪されたトライブと一媛は、警護のものの一瞬の隙を見計らいスキル・バーストダッシュで祠の中へと突っ込んでいた。防御は考えず脇目も振らず走り、ここまで来た。
「途中変なもんみたぜ」
トライブが遅れたのにはわけがある。
トライブは、スキル・殺気看破で奇襲や不意打ちなどに備え後ろを付いてきた一媛を窺う。
「なあ」
「ああ、あれは女の屋敷だ、鏡とか茶道道具とかあって…」
 一媛がそこまで話したとき、少し離れた場所で何かが壊れる音が聞こえる。
 と同時に、蝙蝠や野鼠が皆を取り囲んだ。
「姫さん、柚子さんたちを頼む。道はうちの犬、あさりとしじみが知っとる。二匹に付いて行き。逃げ通せたら褒めてやってな」
「急げ!」
 レンは、孔明に房姫を託し、毒虫の群れを打つ。バタバタと前列の魔物が息絶える。
「火は使うな」
「分かってる」
 声より先に身体が動いていたのは、一媛だ。
 喜び勇んで戦っている。
「ふっふっふ。一媛だけで十分だ、みんな掛かって来い!」
 飛びつく蝙蝠を捕まえ羽をおり、牙を剥き飛び掛る野兎を廻し蹴り。戦えば戦うほどテンションが挙がっている。
トライブが一媛の後ろに来て、
「いいか、すこしずづ下がるぞ」
「なんでだ、敵はまだまだいるぞ」
「房姫が心配だ、それに騒ぎを起こすと拙い」
 魔物がジリ下がった瞬間に、出口に向かい走る一同。


 その頃、枝分かれした道を歩いた一同は、結局同じ場所に来ていた。先ほどトライブと一媛が話していた屋敷だ。

 屋根は砂に埋もれているが、引き戸の入り口は開いており室内が見える。早く到着した一輝ら、室内を隈なくみている。
「お茶室もあるだね」
 コレットは持ってきたチョコを出したくてうずうずしているが、どうもその間はないようだ。


 続々と探索隊が集まるその屋敷外では、なにやら皆が気配を感じていた。皆の殺気看破が同じ標的を探しだした。
 繭螺が近一帯に酸性度ゼロのアシッドミストを発生させる。次に、その霧に対して氷術を使い、水滴を凍らせて、地面に落下させる。
 氷の欠片が地面に落ちる。
 この計画は、すでに皆に知らせてある。
 暗闇の中、氷を踏みしめる音がする。幽巫が現れたのだ。
 アシャンテは、右手に小銃型の光条兵器を構え、左手は背中の刀のために空けてある。

 太郎は目を閉じ気配に集中していた。もし背後にくれば素早く幽巫の懐に入り込み、特技「柔道」仕込みの投げ技で地面に叩きつける計画だ。

 ヴァーナーは幸せの歌を歌っている。八鬼衆は闇黒属性の匂いがするからだ。

 詩穂は音が鳴るほうに、バーストダッシュして、蹴り上げる。氷の破片が飛び散る。確かに幽巫にあたったようだ。
「あっ、ごめーん、痛かった?ふふふ、よい転がりっぷりです☆」
 氷を巻き込んだ、黒い霧が詩穂の前に広がる。
 刹那!
 詩穂が宙を飛んだ。幽巫の小袖が舞い、詩穂の身体を覆う。
 武尊の『武器の聖化』で光輝属性を付与されたライトブレードが小袖を絶つ、小袖は再び黒い霧となり、詩穂は地面に叩きつけられた。
 ヴァーナーが天使の救急箱でその怪我を治す。
 垂がすかさず、幽巫に向かって試作型星槍を投げつける。怯んだ幽巫にライゼが、氷術で凍らせて動きを鈍らせる。
 栞は垂を援護するよう、同じように氷術をつかう。
 ロートラウトが固まった幽巫を殴りつける。凍った小袖がロートラウトの頬を打つのを感じ、デーゲンハルトがすかさずキュアポイゾンを施す。
 幽巫は小袖を振り回し、踊るように皆に向かってくる。
 アシャンテが再び、袋を投げつける。スィメアにて宙で打ち抜き、飛び散った虫を呼ぶ薬品を幽巫にかぶせ、毒虫の群れを呼び寄せる。
 毒のせいか、かすんでいた幽巫が少し実体化した。
「房姫おねえちゃんをかえしてくださいです!」
 幽巫に向かってヴァーナーが叫ぶ。
「もう、姫に用は無い。必要なものは頂いた…命も尽きるころであろう」
 か細い幽巫の声だ。
 着物を着た幽巫の小袖が大きく広がる。
「我と黄泉に旅立とうぞ」
 その場にいる全てを黒い霧が覆う。
 太郎が気配を掴んだ。思いっきり何かを引っ張る。小袖に包まれた幽巫の腕だ。
 そのまま柔術を使い、投げ飛ばす太郎、押さえ込む。
「いまだ!」
 幽巫を包んでいた毒虫が飛び去り、その素顔が見える。
 皆が一斉に、氷術を撃つ。実体化して固まる幽巫。毒で顔が醜く腫れているが、瓜実顔の美女だ。
 幽巫は、そのまま自らの身体を壁に打ち付けた、かのように見えた。
 粉々に砕け散る。


 光太郎は、壁の様子がおかしいことに気が付く。
 房姫救出の一報がレンから各々にもたらされる。
「早くここから出るべきでござる」
 光太郎は皆をせかす。