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精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 後編

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精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 後編
精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 後編 精霊と人間の歩む道~風吹くウィール遺跡~ 後編

リアクション

 
 首を二本落とされたヴァズデル、しかしその攻撃はまだまだ熾烈を極めた。弱っているのは誰の目から見ても明らかなのだが、元々の力がそもそもずば抜けて高く、そして対する生徒たちの疲労も蓄積していることが起因していた。
「ハッ!」
 セリシア・ウインドリィ(せりしあ・ういんどりぃ)の振るった樹皮で出来た鞭が、ヴァズデルの首を襲う。一撃、二撃と鞭が枝葉を吹き飛ばすが、三撃目は漆黒の蔦に阻まれる。鞭で吹き飛んだ蔦は塵と消えるが、少しの時間を経て再生し、今度は複数がより集まって一定の太さの蔦を作り、セリシアへ振り下ろす。事前に攻撃ポイントを風の流れで察知して回避するセリシアは、蔦が起こした振動でバランスを崩してその場に崩れ落ちる。
「セリシア様!」
 追撃にかかろうとした蔦とセリシアの間へフィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が飛び込み、振るった剣で蔦を切り飛ばして危機を脱する。
「フィリッパさん、すみません、ありがとうございます」
「いいえ、女性を守るのがわたくしの本懐ですわ」
 体制を立て直すべく引いた場所に、別所で防戦を続けていたメイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が駆け寄ってくる。
「やっぱり、みんなも大分疲れちゃってるね。僕たちはまだまだやれるけど、首の方の相手をしてる人たちは大丈夫かなあ?」
 セシリアが懸念するように、首が二本に減ったことで戦力は増したように見えて、実のところは未だ平行線をたどっている。電撃放射の有効範囲こそ狭まり、死角も徐々に広がっているものの、発射の間隔が短くなり、威力もさほど変化がないことが、生徒たちを苦しめていた。
「わたくしたちも、機を見て首の方へ向かうことを検討した方がよいかもしれませんわね」
 セシリア、フィリッパ、両者の言葉を耳にして、メイベルが発した方針は。
「私たちは、黒い蔦の方を相手します」
 そう告げるメイベル、雷龍ヴァズデルの抵抗力を奪いサティナを助け出すためには皆の協力が不可欠であり、それを阻んでいるのは未だ無数に数を残す漆黒の蔦であると判断しての決断であった。
(首と戦っている方には、負担をかけてしまうかもしれない……だけど、無理をして大きなことをしようとするんじゃなくて、私の出来ることをきっちりこなすことが、私のするべき戦い……!)
 前に出て大きな技を繰り出すだけが、戦いじゃない。皆がやるべきことをやれるように立ち回ることも、立派な戦いである。
「うん、行こう、メイベル! 僕らは決して負けない!」
「わたくしはどこまでも、メイベル様のお側に」
 メイベルの方針を受けて、セシリアとフィリッパが同意の意思を返す。
「お気をつけて。皆さんで姉様を救い出して、一緒に帰りましょう」
 羽を広げ、再びヴァズデルへ向かっていくセリシアを見送って、セシリアが、フィリッパが周りを取り巻く漆黒の蔦へと向かっていく。
「……行きます!」
 二人の背中を見失わないように、メイベルも一声自分に言い聞かせるように告げて、駆け出していった。

 中心部へ落ちた稲妻が発する轟音と首から放つ電撃放射の轟音、二つの音とそして光とで、雷が苦手なシルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)はすっかり戦意を喪失していた。
「きゃあああ! ……た、戦わなくちゃいけないのは分かるけど、に、苦手なものは苦手なのよー! ……あのー、向こう行ってていいわよね? ほら、魔物も出たって言うし、背後を突かれないように見張ってるのも――」
 歩き去ろうとするシルフィスティの肩を、天夜見 ルナミネス(あまよみ・るなみねす)の手がしっかりと掴む。
「貴様、どこへ行くのですか? お姉様が必死に戦っているという時に、一人逃げることが許されるとでもお思いですか?」
 まだ言い終わらない内にルナミネスが、自ら展開した脚部装甲のパーツにシルフィスティの足をくくりつけ、擬似的にシルフィスティを背負う形になる。
「あ〜ん、どうしてこんなことになるのよ〜!」
「黙って戦いなさい。貴様が戦わなければわたくしまで電撃で黒焦げです。どうしても戦わないというのでしたら――」
「ヒッ!? 分かった分かったわよ、戦うからそんな目で睨まないで、雷より怖いわ〜!」
 対象への恐怖は、それ以上の恐怖を与えられることで克服される。誰が言ったか知らないが、そんなわけで雷への恐怖を克服したシルフィスティが、ルナミネスの頭上から銃でヴァズデルの首を狙う。距離があるにも関わらずシルフィスティの射撃は確実に命中し、ことごとく蔦を剥がしていった。
「私たちも遅れを取っちゃダメよ! あんたに背中預けるから、ちゃんと守りなさい」
「んなのいちいち言われなくても分かってんだよ!」
 リカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)の言葉に、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)が早く戦いたくて鬱陶しげに吐き捨てる。
「ふーん、じゃあ試してみるけど……右から回り込んで来るわ!」
「っしゃあ!!」
 迷いなくアストライトが、自分から見て右方向へトンファーの一撃を見舞う。そこへリカインの左を向いての鉄拳制裁がアストライトの左後方から襲う。
「自信たっぷりに間違えないでよ! あんたと私は背を向けてるんだから、方向が逆になるくらい分かるでしょ!?」
「う、うるせーなバカ女! 一度言われりゃ分かる、二度は間違えねえ!」
「どうだか――」
 言葉を途中で切って、超感覚で蔦の襲来を悟ったリカイン、同じく殺気を看破したアストライトが振り下ろされた蔦を避ける。
「邪魔しないでよ!」
「ぶっ飛んじまえ!」
 地面を抉った蔦が引き戻される前に、リカインの鉄拳とアストライトのトンファーが同時に撃ち込まれ、撃ち込まれた箇所から先を吹き飛ばす。直ぐに再生が始まるが、その速度は最初と比べると格段に鈍っていた。
「本番ぶっつけだけど、しょうがないわね! 養分にでもされたら一生恨むわよ!」
「へっ、リカなんて死んでも誰も食わねーよ!」
 二人の間を飛び交う罵声は相変わらずであったが、しかしリカが左と告げれば右に、右と告げれば左にアストライトが動き、背後からリカインを急襲しようとした蔦をトンファーの一撃で吹き飛ばす。
「とっちめてやるわ! 覚悟しなさい!」
 ドラゴンの怪力で地面を蹴ったリカインの鉄拳が、ヴァズデルの首にめり込む。もがき苦しむ首が電撃放射で反撃しようとするが、伝播した電気はまるで出口を押さえられたホースに対する水のように、先端の近くでバチバチと音を立てていた。

(今の一撃で頭の攻撃が止まった? ここが攻め時か!)
 構えていたライフルを外した篠宮 悠(しのみや・ゆう)が、攻め時と見るや否やレイオール・フォン・ゾート(れいおーる・ふぉんぞーと)に命じ、自らも距離を詰めるため駆け出す。
「ロロ、あんたはそこで待ってろ!」
「はいですぅ〜。悠さん、気をつけてくださいねぇ〜」
 この遺跡で知り合った『ウインドリィの樹木の精霊』ロロ真理奈・スターチス(まりな・すたーちす)の傍に置かせ、自らは光り輝く長剣を召喚してなおも駆ける。
「騎士の本懐、今こそ果たす時!」
 巨体を躍動させ、レイオールがヴァズデルの首に接近戦を挑む。電撃放射が不可能と見るや、自らに電気を纏わせて体当たりを見舞い、レイオールを吹き飛ばそうとする。
「うおおおお! この程度でワタシを倒せると思うな!!」
 ヴァズデルの首が接触する度に、レイオールの身体を高電流が流れ、強烈な閃光と接触音が生じる。連続した攻撃を受けてもなお、それが自らに課せられた使命とばかりにレイオールが耐える。
「まったく……射撃訓練のつもりだと伺いましたのに、とんだ怪物退治ですね。悠もレイオールも無茶しますこと。私の仕事を増やさないでほしいですね」
 真理奈が悪態を吐きつつも、その優れた銃技を駆使してライフルで蔦を撃ち抜いていく。我武者羅に剣を振るう悠、耐え凌ぐレイオールがその場にとどまり続けていられるのも、彼女がその場で正確な射撃を行い、襲い掛かる蔦の数を減らしていることが大きく関与していた。
「いつまでも、好きにさせてはおかん!」
 攻撃を耐え続けていたレイオールが、向かってきたヴァズデルの首を全身で捕らえ、脚部装甲を展開して自らを地面に縫いつけ、首を羽交い締めにする。ヴァズデルは逃れるべく電気を放電し、轟音が響き渡る。
「ワタシの命に代えてでも、離しはしない!」
 動きを止めてしまえば、後は強大な力と技でその身を両断するのみ。その力を持つ者は地面を蹴り、自らの背を上回る刀身を光り輝かせ、ヴァズデルの首の根元へ剣を振り下ろす。一際大きな閃光と爆音が響き、悠とレイオール、二人の身体が大きく吹き飛ばされる。
「蔦さん、力を貸してくださいですぅ〜!」
 ロロが周囲の蔦に願えば、悠の落下地点に蔦が伸び、それらは自らをクッションにして悠を衝撃から守る。レイオールは巨体が災いしてそれらでは到底衝撃を受け止め切れず身体を地面に思い切り打ち付けるが、意識を失わない程度に耐え抜いた様子である。
「……蔦ってのも微妙だが……ともかく、助かったぜ」
「どういたしましてですぅ〜」
 ロロの満面の笑みが花開いた。