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【おとこのこうちょう!】しずかがかんがん! 前編

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【おとこのこうちょう!】しずかがかんがん! 前編
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リアクション

■□■2■□■ 未来のヴァイシャリー スラム

再び、未来のヴァイシャリー、場所はスラム。
未来の一条 アリーセ(いちじょう・ありーせ)は、
「町の獣医さん」を隠れ蓑に、
エリュシオン技術で去勢された男の娘を治療していた。
アリーセ自身、独裁の煽りによって宦官にされかけ去勢済であった。
自分と同じ境遇の者を増やさないため、
ドナーがいれば移植手術、
次善策として機晶技術を応用した義性器などの手術を行うものの、
ドナーの少なさや水没による資源の枯渇、
更には取り締まりにより状況は年々厳しくなりつつあるのだった。
「諦めてはいけません。
草花が再び春に芽吹くように、この大地も貴方の男根も
いつかきっと、元通りになります」
無理やり宦官にされた男の娘達は、アリーセに感謝し、
「闇医者一条アリーセ」の名は、裏社会で有名となっているのであった。

★☆★

未来の音井 博季(おとい・ひろき)は、
ヴァイシャリーの復興のために、「エリザベート魔法学校」を設立して、
スラムと貴族街の人々を分け隔てなく入学させることで、
学力の低下を防ぎ、街の発展のための力としようとしていた。
(僕の初恋の人……リンネさんの目指した魔法の復権にもなりますから)
「先生―、早く魔法が勉強したいよー」
生徒の言葉に、未来の博季は穏やかな笑みを浮かべて言う。
「魔法を学ぶにしても、
身体を鍛えるのは一番大切な基礎中の基礎だから。
身体を鍛えて、心を鍛えて、魔の力を用いるのはそれからです」

時には襲撃から町を守るのも、未来の博季達の役目であった。

こうして、未来のアリーセや博季は、スラムの福祉に貢献するのであった。

★☆★

場所は変わって貴族街。
崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は、
未来の自分に詰め寄っていた。
「ちょっと!
未来の私ともあろう者がこんなちゃっちい地位に落ち着いて、
玉無しに使われてるとか……恥ずかしくないの?」
未来の亜璃珠は、パラ実分校長の経験やドMホイホイ、
本人的には思い出したくないアイドル的求心力を活かし、
静香の部下、地方領主としてヴァイシャリー郊外の一部を治めているのだった。
「私にも考えがあるのよ、過去の私。
 そうね、作戦を立てるから協力しなさい」
現在の亜璃珠がレジスタンス勢力に接触していることを聞いた未来の亜璃珠は、
パートナーのちび亜璃珠に、現在の亜璃珠をなりかわらせ、
兵を引きいらせて、レジスタンスの実力者の元に向かわせた。
表向きはレジスタンスの掃討作戦だが、実際には協力者集めである。

★☆★

未来の志位 大地(しい・だいち)は、
ヴァイシャリー貴族街で暮らしていたが、
未来の亜璃珠と世間話のふりをして情報のやり取りを行っていた。
だが、これは表の顔であり、
本来は、未来の鬼崎 朔(きざき・さく)の率いるレジスタンス組織【紅桜】に所属して右腕を務めている。
「『花見』の準備は念入りにしなければなりません」
未来の大地はつぶやく。

★☆★
未来の朔は、現在の朔と現在の大地を、レジスタンス組織【紅桜】にスカウトしていた。
【紅桜】は、
「スラムの弱者を助け、暴虐を挫く」をモットーにスラムに根城を置くレジスタンスだが、
スラムのか弱き民など「弱者」に手を出す事は絶対に許されない。
手を出した者、組織を裏切った者は即刻「粛清」される。
組織名の由来は、
鬼崎朔本人を意味し、昔の恋人から送られた「桜」の言葉からであるが、
最近は【桜】井静香を血で【紅】く染めるという意味も加わったのだった。

「【三組織同盟】。
 天公将軍、張角率いるゴブリン&オークの集団。
小ラズィーヤを代表とした反乱軍。
そして、【紅桜】を筆頭としたスラムレジスタンス連合。
この三勢力が結託し、
シャンバラ王国を腐敗させ、世を乱した宦官「桜井静香」並びに「十嬢侍」を討つための同盟。
これにより、『花見』の布石とする」
(こんな世界にした桜井静香……。
 護りたいモノを護れなかった私……。
こうならないためにも……選択を間違えてはいけない)
スラム近くにある桜園で、張角やレジスタンス達を集めて演説する未来の朔を見て、
現在の朔は思う。
「いっしょに『花見』に行こう。
……桜井静香という満開の桜が散るところはさぞかし風情があるだろう」
日本酒や甘酒を掲げ、反乱勢力達……【三組織同盟】が乾杯する。
翌日から、【紅桜】の作戦が開始された。

★☆★

未来の崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)の管轄の地域で、倉庫が襲撃された。
御人 良雄(おひと・よしお)に変装し、
レジスタンスの士気や結束を高めた現在の志位 大地(しい・だいち)が襲撃のリーダーを務めたのだった。
「あの良雄様がご降臨なされたぞー!」
「【星帝】と大宦官の全面戦争じゃーっ!」
特に、パラ実から流入し、レジスタンスになった者達は、大いに鼓舞されていた。
(現在の静香さんを保護することができれば、
 さらにレジスタンスの大義名分を高めることができるかもしれません)
大地はそんなことを考えていた。

襲撃場所には未来の亜璃珠が「信頼の置ける人間」とし、
宦官派の人間を配置していたため、
結果的にレジスタンスに敵対する勢力を減らすこととなった。
倉庫の荷物は、【紅桜】で保護している孤児達や、
スラムの貧しい人々に配られた。
「こんなことになってしまうなんて……」
被害者を装い、未来の亜璃珠はわざと困惑した様子を演じる。
襲撃場所には、

「花の宴(はなのえん)」

と書かれた紙と、
【紅桜】のサインが置かれていた。

★☆★

朝倉 千歳(あさくら・ちとせ)は、未来の自分とともに、
【紅桜】として活動していた。
(ラズィーヤさんや静香さんの未来にも驚いたが、
従姉妹の舞まで一緒になって圧政に加担しているとはショックだ。
だが、舞には悪いが未来の私は変わってなくてちょっとホッとした。
 ラズィーヤさんも根は悪い人ではないはずだし、
未来の舞だって話し合えばきっとわかるはずだと思う。
話し合えば分かり合えると口癖のように言っていたのは舞自身だしな)
現在の千歳は考える。
(武装蜂起は荒っぽいが、
現状では、ラズィーヤさんや静香さんが交渉のテーブルにつくことはまずないだろう。
まずは、少々荒っぽい手段をつかっても、話し合いができる状況をつくらないといけないと思う。
それからお互いに妥協点を探っていくというのも決して悪い話ではないと思う。
武装蜂起という内容に、舞は不満そうだけど、わかってくれるだろう)
現在の橘 舞(たちばな・まい)は、ラズィーヤの説得をなんとか行おうとしていたようだが、
千歳は、レジスタンスの作戦はやむを得ないと考える。
良雄に変装した現在の大地の襲撃の翌日、
貴族街に電気を供給する施設を、未来の千歳が隊長となり、襲撃した。
(最初は、ラズィーヤの側近になり
非道な圧政に協力し始めた従姉妹の舞を説得して止めたい気持ちだったし、
それができると思っていた。
若かったからな、私も。
 ラズィーヤ一派の横暴を止めるのは、言葉ではなく、剣になるだろう。
残念だがな……)
未来の千歳は、襲撃に成功する。
そして、現在の千歳が、

「酌み交わす酒」

という挑発文を置いて、発電施設から去るのであった。

★☆★

「よし、成功したな」
未来の朔は、報告を受けてうなずく。
「思ったよりもスムーズに進行しているが、
 大丈夫だろうか?」
未来の千歳に、未来の朔は言う。
「たとえ、何らかの策略を敵が行っているとしても……。
 暴虐の限りを尽くす連中はツブすのみだ!」
現在の朔は、自分の過去、スラムでの地獄の日々を思い返し、
未来の朔の憤りに共感する。
(明日は私が……。
 不条理に泣く民衆を一人でも救ってみせる!)

★☆★

高峰 結和(たかみね・ゆうわ)は、
エリザベートやアーデルハイトにイルミンの現状を聞いた後、
ヴァイシャリーのスラムを訪れていた。
(せっかく未来に来たんだから、いろんな事を学びたいなー。
未来の魔法とか。錬金術なんか科学に近いし、きっと色々進んでると思うんだよねー。
でもそんなこと言ってる場合じゃない。まずはこの世の中を、なんとかしなきゃ。
私に出来ること……あまりないと思うけど、がんばってみる! よし!)
【紅桜】の組織を大きくするため、
スラムの中で目立たない格好に着替え、
結和はスカウトを行う。
元イルミン生などを中心に、協力者を探していた。
一方、未来の結和は、
運痴コンプレックスのあまり、
人体改造を繰り返し、兵卒を経て狙撃手に、そして今や強化人間になっていた。
そのため、色々と不安定になってビビリが消えものぐさをこじらせていた。
【紅桜】の工作・スカウト班長の未来の結和だったが、
「もーー嫌こんな世の中面倒臭すぎるー楽したーい」
などと言い、壁にもたれかかっている。
「そんなこと言ってないでがんばろうよ」
「ねーもう私帰っていいー?
 過去の私がいればいいよね?」
現在の結和と未来の結和は、そんな漫才を繰り返す。

★☆★

ところは変わって、シャンバラ大荒野。
【紅桜】に所属した現在の万願・ミュラホーク(まんがん・みゅらほーく)は、
王 大鋸(わん・だーじゅ)と、シー・イー(しー・いー)を探し出し、説得しようとしていた。
一緒に来てもらい、【紅桜】の一員となって戦ってほしいというのである。
「大鋸殿、頼むである!!
今、奴らをどうにかせねば、スラム街の人々はただ苦しんでいくだけである!
お主も孤児院に住む子ども達の様な子を、
増やしていいのであるか!?
お主だって、親がいないという悲しみを味わう子どもを増やしたくはなかろう!?」
「たしかにな。
 俺様も、孤児院のガキが寒い思いをしないように世界樹イルミンスールを切り倒したんだ。
 てめぇの言うこともわかるぜ」
「ダージュ……」
王はうなずき、シー・イーは、立ち上がる王を見る。
「俺様も協力するぜ! 派手に暴れてやるぜェ! ヒャッハー!」
「ありがとう!
いま、お主が英雄……キングとなり、スラム街の人々を救えるチャンスである!!」
万願は礼を言い、一行は一斉蜂起に向けて、ヴァイシャリーに向かった。

★☆★

だるいと言いつつも、スカウト班長に任命されるだけはあり、
未来の結和は、
官憲ともめている者達や、
不自然な服装・容貌の人間を観察しては、
価値ありと判断したら【紅桜】に引き込んでいた。
(私、体力はないし、
魔法もまだまだ上手くないけど……歩き回ることはできるし。
やっぱり人数は力だもんねー。
足を使って、なんとしても組織を大きくするよー!)
現在の結和も、共にスカウトを続け、
さらに、王とシー・イーの加入もあり、
【紅桜】は着実に規模を大きくするのであった。