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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

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聖戦のオラトリオ ~覚醒~(第2回/全3回)

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(・海上要塞2)


 司令室で総督から紹介されたのは三人。
 旧鏖殺寺院の残党だという仮面の男、そして腕の立ちそうな傭兵とそのパートナーだ。
「なるほど、護衛ですか」
 総督によれば、内部警戒と身辺警護を申し出ているということだ。
 もっとも、寺院関係者はあくまでも傭兵ではなく総督とローゼンクロイツから離れるつもりはなさそうな様子である。
「内部を知っておいた方が宜しいでしょう。私が案内致します」
 要塞内部を把握してもらうため、ローゼンクロイツが三人を連れて司令室を出る。
「総督が言っていたんだが、あんたがローゼンクロイツか?」
「ええ、そうです。総督は何と仰っておりましたか?」
「『十人評議会』からの差し金、くらいだ」
 仮面の男はローゼンクロイツに興味があるらしく、積極的に話しかけている。
「俺としては、その十人評議会がどんな組織なのか知っておきたい。今の鏖殺寺院の中にあるのか、それともまったく別の組織なのか」
 元寺院メンバーとしては、それが気になるようだ。
「お答えしましょう。ですが、その前に――お顔を拝見させて下さい」
 顔の分からない者に、馬鹿正直に教えはしないということらしい。
 傭兵――女装した天音の方は、顔を覆っていたノクトビジョンを外して、一度目を合わせた。
「旧寺院の生き残り、ということでしたら躊躇う必要はないはずです。それとも、『寺院関係者を自称すればまかり通る』とでも思ってらしたのでしょうか?」
 言葉は丁寧だが、追い詰めるように仮面の男に迫ってくる。
「な……!」
 パン、と音がしたと思うと、仮面が割られ――トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)の顔が露になった。と、彼は感じた。
「どうなさいましたか?」
 ローゼンクロイツの声がトライブの耳に入る。
 確かに、今自分の仮面が割られたはずなのに、変わらずに自分の顔を覆っている。
「……無理を言って申し訳ありません。顔に傷を負っている、という可能性もありますね。そちらの事情も鑑みずに失礼致しました」
 ローゼンクロイツは頭を下げた。
「では、お答えします」
 メニエスに説明したように、現在の地球寺院についてを説明するローゼンクロイツ。それを聞き終え、トライブはさらに質問した。
「エリュシオン帝国との関係は?」
「評議会と帝国の利害は一致しています。ともにシャンバラにいる地球人がパラミタに害をなす存在だと考えているため、今は協力関係にあります。帝国は表立って鏖殺寺院との関係を否定しておりますが、それ自体は嘘ではありません。鏖殺寺院とは、あくまで評議会が目的を成すための、手段の一つなのですから」
 その事実に、言い知れぬ苛立ちをトライブは感じていた。
 旧鏖殺寺院に未練や愛着があるわけではない。だが、ただの道具として好き勝手にされるのはどうにも気に食わない。
「組織としてそれだけの力があるってんなら……その評議会とやらのメンバーはあんたと同じ位強いのか?」
 相対したときには、ローゼンクロイツから特に強者の気配を感じたわけではない。
 だが、さっきの錯覚。得体の知れない何かを持っているのは確かだ。
「強さ、というのが何を表しているのかによります。十人が十人、戦闘に特化しているというわけではありません。それに、私は所詮彼らから命じられて参上した身です。とてもあの方々には敵いませんよ」
 あくまでローゼンクロイツはメンバーではないということらしい。
 彼が嘘をついているわけではない。あくまで十人評議会の会議に出ているのは、第一席の『総帥』の代理としてである。
 無論、口に出していない以上、それを知る術はトライブ達にはないのだが。
「実際に会えば彼らがどれほどのものか、貴方も知ることになるでしょう。もっとも、評議会を構成するメンバーを知ったとしても、それを口にすることは出来なくなりますが」
「どういうことだ?」
「評議会のメンバーのほとんどは表の顔を持っております。それも、世界的に有名な人物であるために、彼らと会う権利を持つ者は事前に『規制処置』を施されます。外部に彼らの正体を漏らさないために。無論、評議会のメンバーも全員施されておりますよ」
 それは非常に強力なもので、処置を施された者は、同じ情報を共有している者同士でなければ口にすることも、メモに記すことも出来ないという。
「ならば、なぜあんたは喋れる?」
「これまでの情報は、話しても問題がないものです。例えば、世界を裏で操る秘密結社があり、そのメンバーを自称する者が教義や理念を口にしたとします。それをどれほどの人間が信じますか? 実際、現在の反パラミタ勢力の多くは『十人評議会』を都市伝説の類としか思っておりませんよ」
 世界を裏から支配する、というのはそういうことだ。
 その存在を知られることなく、しかも支配される側は自分が誰かの意のままに動いていることすら知らない。
 だからローゼンクロイツは告げた。
「もし貴方が『十人評議会』について知りたければ、その権利を得る必要があります。ですが、それを得たしても絶対に他人に伝えることは出来ません。また、権利を破棄する場合は、評議会に関する記憶が全て抹消されます」
 これ以上の情報は、勢力に加わる以外で得ることは出来ない。その事実に、トライブは半ば絶望した。
 自分が思っていた以上に、十人評議会――いや、今の地球勢力は強大過ぎたのだ。
 

(……どうした、天音?)
(さっきローゼンクロイツは何をしたのか、考えてたんだよ)
 ローゼンクロイツに悟られないように、小声でブルーズと天音が小声でやり取りをしている。
(彼の仮面は、確かに一度壊された。でも、瞬いたときには元通りだった。錯覚には思えないんだよね)
(当人も一瞬戸惑ったようだし、我もそれは見た。三人が全員同じように感じたのであれば、錯覚ではないだろう。検討は一切つかないが)
(ローゼンクロイツ。彼が何者なのか、もう少し知る必要がありそうだね)

* * *


 約二時間前、イコンハンガー。
「カミロ様、その情報は確かですか?」
 イコン部隊の一員である、グエナ・ダールトンが司令官であるカミロ・ベックマンに尋ねた。
「海京、それも天御柱学院を知る者からの情報だ。信頼していいだろう。先日のプラント戦でこちらが疲弊している間に攻め込む、というのがあちらの考えらしい」
 それを知ったから、カミロは戻ってきたのだ。
「総督は東シャンバラから傭兵を受け入れ、イコンの整備も迅速に行ったが、それでもこちらは完全とは言い難い」
「申し訳ありません」
 グエナが頭を下げる。部隊の半数を撃墜され、パイロットが数組失われた。無傷で帰ってこれたパイロットは自分達を含めて十組ほどだろう。
 カミロは地上から応援を連れてきたものの、それでも今回の出撃は四十機が限度だ。
 そのことで、グエナが責任を感じているようだ。
「お前が相手を過小評価して、手を抜くような男ではないということは知っている。それだけ向こうも実力をつけていたのだろう」
 かつて相手を甘く見たゆえに痛い目を見たカミロとしては、素直に敵の今の力量を評価せざるを得なかった。
 まして、グエナという男は部隊一といっていいほどの慎重派だ。例え相手が子供であっても馬鹿にはしない、そんな人物である。
「総督のことだ、傭兵の身辺調査はまともに行わず、数だけ集めようと躍起になっていることだろう。あまり期待は出来ない。我々が敵に、この要塞に侵入する隙を与えないのが最優先だ」
 自分達が包囲網を張っておけば、敵が直接要塞を攻撃するのは難しくなる。そうなれば、中に直接戦力を送り込もうとしてくるはずだ。
 孤島であるがゆえに攻めるのは難しいが、逆に追い詰められたら逃げ場がなくなる。あんな人間であっても、総督を抑えられたらこちらの負けだ。
「グエナ、エヴァン、出撃準備を」
「「は、カミロ様!」」