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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

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薄闇の温泉合宿(第2回/全3回)

リアクション

「では、参りましょう」
 ロザリンドが、友であり、白百合団の仲間でもある円、そして集まった皆に声をかけた後、アジトの方へと歩いていく。
 慎重に岩の上を歩いて、滝の裏側へと入り込み、大岩の前へと出る。
 ロザリンドは皆の到着を待ったあと、岩の先に向かって警告をする。
「内部の調査をさせていただきます。残っている方は大人しく投降してください!!」
 凛とした大きな声が響き渡る。
 ……岩は動く気配はない。
 だが、岩の向こうから僅かな反応は感じられた。
「早く降参しないと痛い思いするよー。こっちは数も実力も洒落にならい人が一杯居るし」
 テレサ・エーメンス(てれさ・えーめんす)もそう声を上げるが、答えは返ってこない。
「仕方ないねー。今更合言葉もないし」
 テレサがロザリンドを見る。
 ロザリンドは真剣な顔で首を縦に振る。
 賊の船長に合言葉は聞いてあったが、破壊しての突入を選ぶことにする。
 ロザリンドは合図をして皆を下がらせると、ヴァーチャースピアを大岩に叩き込む。即座に、後方へと飛ぶ。
 続いてひびの入った岩に、円やリュシエンヌ・ウェンライト(りゅしえんぬ・うぇんらいと)が、銃弾を浴びせ穴を開けていく。
「先陣はわしに任せろ」
 突如、洞窟に男が飛び込んできた。
 見かけない男性だ。合宿参加者ではない……?
 即座にロザリンドが動き、男――三道 六黒(みどう・むくろ)を阻んだ。
「所属と名前をお願いします」
 言いながら、ロザリンドは円に目配せする。
「行くよ」
 ロザリンドの代わりに円が皆に言い、まずリュシエンヌがパートナー達と共に岩の中へと入っていく。
(行ってくるよ)
 続いて、鬼院 尋人(きいん・ひろと)が、ポケットに入れてある『1日リクエスト権』と書かれた紙に触れた後、ソニックブレードを放ち、更に岩を破壊して洞窟の中へと入り込む。
「龍騎士も来る……それが分かっていて、あの人はどうして来ないんだ」
 尋人は現場に訪れもせず、今頃女子達とスイーツを楽しんでいるだろうゼスタに不信感を抱いていた。
 この合宿には西のロイヤルガードの刀真や、東のロイヤルガードの早川 呼雪(はやかわ・こゆき)といった、信頼している大切な友人がいる。
 彼らが気楽に一緒に行動できない様子であることが、気持ちが裂かれるようで辛かった。
 自分はロイヤルガードには志願せず、両方の友人として行動していきたいと現状では思っていた。
「疑念は……人から教えられて晴れるものではない。自分で……感じ取るのがいい。先入観のない目で見れば良い」
 尋人がある事件からずっと、精神状態が不安定であることにパートナーの呀 雷號(が・らいごう)は気づいていた。
「なんだか砕音先生を思い出しますねえ。最初の頃、尋人はむちゃくちゃ砕音先生の事警戒しまくってましたからねえ。懐かしい」
 西条 霧神(さいじょう・きりがみ)はくすりと笑みを漏らす。
 霧神もタシガン出身の吸血鬼だ。けれど、ずっと地球にいたため、タシガン貴族の情報に関しては、詳しくはない。最近色々な噂が多いなと感じている程度だった。
「砕音先生とは違う。でも分からないところは一緒。彼――ゼスタはオレ達契約者を試そうとでもしてるのか……」
「すぐに解らずともいい……今は、すべきことを」
「……そうだね」
 尋人は雷號に返事をして、気合を入れるために拳を握り締める。
 さまざまな思いを抱いていても、よりよい解決を目指すために、今は探索に集中しなければならない。
「投降して下さい。武器を持たずに両手を上げてる方には、攻撃はしませんっ」
 真口 悠希(まぐち・ゆき)もそう声を上げながら、洞窟の中へと入ってくる。
 しかし、細い通路を越えた先にあったドアを、悠希がピッキング開けた途端、契約者達に石が投げつけられる。
「人質がいる。入ってきたら殺すぞ!!」
 太い男の声が響いてくる。
 その言葉に、契約者達は足を止める。
「そんな……人質を解放し、投降してください。これ以上罪を重ねてはいけません」
 舞は真剣に説得しようとするが。
「嘘ね。突入するわよ」
 ブリジットがそうきっぱりと言う。
 船長から事前に聞きだした話では、ここは宝置き場のようなもので、人が暮らせるような設備は整っていないとのことだ。
 中に人がいるとしたら、見張りに付いていた賊数人だけのはず。
「行くわよ。二人共準備は良いわね?」
 リュシエンヌが自分の前に立つパートナーのウィンディ・ライジーナ(うぃんでぃ・らいじーな)キアラ・オルテンシア(きあら・おるてんしあ)に声をかける。
「特にそこの白い子もしっかりして頂戴、前衛なんだから」
 白い子とはキアラのことだ。契約したばかりで、連携がうまく取れていない。
「わかりました」
 そう答えたキアラに、ウィンディは軽く悪戯気な笑みを向ける。
「それじゃ、行くわよ」
 そして、リュシエンヌが合図を出し、3人はドアの向こうへと飛び込んだ。
 その先には、広い空間があった。
「くそっ」
 入り口付近に居たと思われる男が、奥へと駆けていく。
 奥の方にいた盗賊達は石を契約者達に投げつけてくる。
「罪のない人質がどうなってもいいのかー!」
 確かに一人、縄で縛られている男がいるが……人質には見えなかった。賊の中で一番ひ弱な者を、人質に仕立て上げたのだろう。契約者達はそう判断する。
「逃げ場はありません。罪を重ねても何も良いことはありません。大人しく手を上げてください」
 キアラがそう説得していくが、賊達は攻撃を止めない。
 やむを得ず接近し、キアラはフェザースピアでチェインスマイト。
「ぐあっ」
 賊はあっけなく倒れる。
「石だって当たれば痛いのよ。降参しなさいな」
 続いて適者生存と威圧で迫るウィンディに恐怖し、賊達は抵抗を止めていく。
 別の方向からまだ抵抗をする賊には、リュシエンヌが光条兵器で斬り込んでいく。
「周りの岩は斬らないわ。斬るのはあなただけよ!」
 言いながら、大鎌を振り賊のわき腹を斬る。
「捕縛しましょう。あと、皆さん罠には気をつけて下さい!」
 縄を手に、美咲が駆け込んできて、賊を縛っていく。
「抵抗、しないほうがいいよ……!」
 石やナイフを投げつけてくる賊に、尋人が飛び掛る。
 ナイフを弾き飛ばし、逃走に転じようとした賊にチェインスマイト。
「数でも、力でもこちらが勝っていますから」
 霧神は、尋人の背を守り、攻撃を加えようとする賊に氷術を放つ。
「う……っ」
 賊の腕から石が落ちる。
「これで最後だな。……他に気配は感じられない」
 隠れ身で身を隠しながら、探っていた雷號がその賊に近づき、腕をねじり上げる。
「大人しくしていてね」
 尋人が縄で賊の身体を縛っていく。
 続いて、ユリアナを護衛する者と、ユリアナが洞窟内へと入ってくる。
 しかし梅琳やロイヤルガード達の姿はまだなかった。
「ロザリン……」
 円が入り口の方に目を向ける。
 先陣を切ろうとした男と揉めているようなのだ。
「みんなを護ればいいんだよね! で、ここの人は倒していいんだよねー!」
 ミネルバ・ヴァーリイ(みねるば・う゛ぁーりい)が楽しそうな表情で円に尋ねる。
「あ、うん。龍騎士はダメだけどね。やり過ぎないように」
 円がそう答えると、ミネルバは武器を手に、奥へと駆けていく賊を追っていって、体当たり。
「えーい」
 ぐさりと足を斬って、動けなくする。
 それから縄でぐるぐる巻きにして、ずるずると引きずって皆の下に連れて行く。
「物足りな〜い。でも龍騎士さんは手をだしちゃだめーっていわれてるから我慢がまーん。我慢がまーん」
 飛び込んでいきたいなーと思いながらも、ミネルバは言いつけを守って我慢をするのだった。
「それじゃ、ちょーさだね」
 賊を放した後、ミネルバは殺気看破で警戒をしながら周囲を見回していく。
「光ってるもの〜おたから。マンガ〜おたから。むずかしい本〜ゴミ」
 危なっかしいことを言いながら、並べられている箱に近づき、中身を出してみる。
 洞窟の中には、ライトが設置されており、薄暗いが真っ暗ではなかった。