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リアクション
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)がイコン工場に乗り込んだ時、神楽月 九十九(かぐらづき・つくも)とゲブー・オブイン(げぶー・おぶいん)も到着していた。
「ここは……パラ実イコンの展示即売会ですね! やっとお店らしいところですよ」
九十九の勘違いはまだ続いている。
装着型機晶姫 キングドリル(そうちゃくがたきしょうき・きんぐどりる)でライバルを打ち払い、ようやく売り場らしいところに出たのだ。喜びも一入(ひとしお)だった。
九十九はさっそくイコンを見て回り、リーゼントイコンの前で足を止める。
「試しに乗ってみましょう」
「ぶるぁぁぁぁぁ!」
「オイオイ、リーゼントかよ。モヒカンだろモヒカン! 俺様とホーのダブルモヒカンパワーを見て勉強し直せ!」
ゲブーとホー・アー(ほー・あー)は隣のモヒカンイコンへ。
周りで誰かが何か言っているが、九十九には店員の商品説明にしか聞こえなかった。
乗り込むと、操縦盤にはボタンが一つ。一応計器類もあるが、本当に一応の範囲だ。
「動かしてみましょう〜」
ボタンを適当に押すと、搭乗口が閉まりイコンが起動する。
リーゼントイコンは工場から駆け出した。
遅れまいとモヒカンイコンも追いかける。
階段の動きを確認しようと踏み出した時、モヒカンが足を滑らせた。
会議室、資材搬入口を通り過ぎて転がり落ちる二機のイコン。
終わりはミゲルとグロリアーナ達の戦う階だった。
その階の壁をぶち抜いてようやく止まったのだ。
対決する二人と周りの者達を砕かれた壁が襲い、戦いどころではなくなってしまったのだった。
その頃詩穂は、舞台を遺恨凄惨荒襄に移して曲に合わせて歌って踊って攻撃していた。
「このまま工場乗っ取っちゃうよ〜☆」
これから続いて来るだろうパラ実生が、イコンに乗ったチーマーの相手をしなくてすむよう、詩穂はここを強奪する気でいたのだ。
とはいえ。
短刀で切りつけてきたヤクザを無光剣で退け神速で迫って追撃するも、詩穂は低く呻く。
パートナー達の支援があるとはいえ、あまりにも多勢に無勢だった。
「種モミの塔にヤクザが立てこもって困っているとうかがいましたが……」
辺りの惨状にリリィ・クロウ(りりぃ・くろう)は憂い顔でため息をつく。
「これでは確かに迷惑ですわね」
リリィのいるフロアがメチャクチャなのは、パラ実生も大暴れしたからなのだが、原因を作ったのはヤクザだと割り切る。
そのリリィは、イコン工場に来ていた。
今日だけでずいぶんと年季の入ったエモノのようになったフェイスフルメイス。
工場に踏み込む前にパワーブレスで強化する。
「さあ、出て行ってもらいますわよ!」
声をあげ、近くにいたヤクザをメイスで殴打する。
悶絶する仲間に、ヤクザ達の視線が詩穂からリリィに移った。
「皆さん、迷惑してますのよ!」
「今もっとも俺に迷惑をかけたのは、お前さんだ!」
殴られたヤクザが刀を抜き、リリィの二撃目を受け止めた。
周りのヤクザが銃口を向ける。
いきなりピンチになってしまったリリィだが、殺されることはないだろうと気楽に考えている彼女は、バニッシュを唱えた。
ほぼ同時に銃声が鳴り、リリィの体を掠めていった。
ほーらやっぱり、とリリィは思うが、閃光の不意打ちに狙いがそれただけだ。ヤクザは殺る気満々だった。
「こいつ、力もけっこうあるし、油断するな!」
ヤクザ達からピリピリとした殺気が向けられる。
(メイスの威力はパワーブレスで増加されてるからとか、知られるわけにはいきませんわね……)
パワーブレスのかけ直しのタイミングは要注意だ。
「おい、顔は傷つけるな。向こうのお嬢さんもまとめて売り飛ばしてやるからさ」
「どっちももう少しおとなしく矯正が必要だけどな」
「あなた達、そんな悪いことばかり考えていると」
天罰がくだりますわよ、とプリーストらしい言葉を口にしようとした時、どこからか飛んできたコンクリートの塊がヤクザを直撃した。
リリィも驚いて目を向ければ、ぼんやりと焦点のあっていない目の笹咲来 紗昏(さささくら・さくら)が、うっすらと虚ろな笑みを口の端に浮かべていた。
「ヤク中か……? ありゃやべぇな」
「殺るしかねぇな」
紗昏は売り物にならないと判断された。
コンクリートをぶつけられたヤクザは完全にダウンしている。
「ちょっきんちょっきん」
紗昏は巨大な舌切り鋏を鳴らして次の標的を選んでいる。
不意に、紗昏の輪郭がぶれた。
と思ったら、まったく予期しないところにもう一人紗昏が現れる。
ヤクザの視線がそれた一瞬、コンクリートが再び宙を飛んだ。
「あの鋏は見せ掛けか!?」
「じゃあ、つかう」
キンッ、と鳴らして舌切り鋏でヤクザの胴を真っ二つにしようと襲い掛かれば、刀に弾かれた。
勢い、前のめりになった紗昏の首輪からたれる鎖を、ヤクザが強く引っ張り彼女の体は固い床に打ち付けられる。
「舐めたマネしてんじゃねぇぞ」
ギリッと頭を踏みつけられた紗昏の口が小さく何かを呟いた。
直後、ヤクザの後方にアルバティナ・ユリナリア(あるばてぃな・ゆりなりあ)がゆらぐように現れ、両手の拳銃でヤクザの太腿を打ち抜く。
悲鳴をあげて倒れるヤクザを横目に、紗昏はゆっくりと立ち上がった。
倒される前にはなかった危険な光が瞳に生まれている。
まだ自分達を取り囲んでいるヤクザ達に、殺人衝動に歪んだ笑みを見せた。
「サア、チョン切ラレタイノハ誰? ──全員カ?」
ミラージュ、サイコキネシス……紗昏は使える技はすべて使い、ヤクザからどんな反撃を受けても心底楽しそうに笑って舌切り鋏で仕返しをしていく。
アルバティナも二丁の奪魂のカーマインを駆使して、紗昏がとどめを刺しやすいように動いた。
「……チッ。動キニクイワ!」
突然、紗昏がロンTを自ら引き裂いた。その下は何も身につけていない。アルバティナを召喚した時の契約の印から滲み出た血も乾きかけていた。
その行動に虚を突かれたのはヤクザ達だけではなかった。
思わず頭が真っ白になったリリィ。隙をつかれ、ヤクザに蹴飛ばされてしまった。
紗昏により動きの止まったヤクザをアルバティナの銃弾が襲う。
そのアルバティナは加勢に来た別のヤクザの持つ警棒にしたたかに腕を打たれ、銃を取り落とした。
蹴られた腰をさすって起き上がろうとしたリリィの顔のすれすれに、刃物がちらつく。
「おとなしくしてもらおうかねぇ」
メイスを持つ腕を捻られ、痛みで握っていられなくなった。
紗昏達を見れば、彼女は引きずる鎖を掴まれていいように振り回されている。
(まっ、まさかの本気ですのー!?)
青ざめるリリィの様子に、彼女を押さえつけるヤクザが酷薄な笑いをもらした。
何とか紗昏を取り戻したアルバティナは、彼女に退却を訴えた。
戦いの血に酔って痛みに鈍感になっているのか聞き入れようとしない紗昏を、アルバティナは引きずるようにして階段へ向かう。
置いていかれてしまう、と焦るリリィ。
それでも、心のどこかに「大丈夫大丈夫」という危機感の薄い部分があったりする。
それが叶ったのかはわからないが、紗昏達に迫るヤクザ達が数多の氷の礫に打ちのめされた。
範囲魔法であるため紗昏達も多少は巻き添えになったしまったが、セルウィー・フォルトゥム(せるうぃー・ふぉるとぅむ)がすぐに安全な場所に引き寄せていた。
工場設備の置くから現れたのはイーオン・アルカヌム(いーおん・あるかぬむ)だった。
彼はリリィを押さえつけているヤクザやその周辺のチーマーに目をとめると、サンダーブラストを放つ。
イーオンは敵勢のみを狙ったが、リリィもヤクザを通して少ししびれた。
だが、押さえつける力は弱くなったので、その隙にヤクザを払いのけてイーオンのほうへ走った。その際、メイスを拾って殴っておくのも忘れない。
イーオンから目配せを受けたセルウィーが「イエス・マイロード」と、すべて心得た返事を返し、リリィをヤクザからかばう。
「お怪我は?」
「たいしたことありませんわ。ありがとうございます」
その間にイーオンはアシッドミストで足止めをして、セルウィーに移動を促す。
もっと全体が見渡せる場所を探すために。
イーオンがヤクザとの戦いに身を投じたのは、荒野にある孤児院の安全のためだった。
そこの校長を務める身として当然のことだとイーオンは思っていた。
子供達の育つ環境として戦乱は良くない、と。
一刻も早く戦乱を招いたチーマーやヤクザを追い出したかったのだが、喧嘩を売ってくるだけあり手強かった。
ちょうど良さそうな設備を見つけ、備え付けの梯子を上る。
思った通り、工場フロアで戦いの場となっている数箇所を見渡すことができた。
イーオンの表情が厳しくなる。
チーマーはともかく、ヤクザは罠などを仕掛け巧妙にパラ実生を仕留めている。
このままでは、このフロアから追い出されてしまうだろう。
その時、
「パラ実のみんな! ここが踏ん張りどころっスよー!」
サレン・シルフィーユ(されん・しるふぃーゆ)の覇気あふれる声が響き渡った。
数箇所の戦闘範囲のほぼ真ん中で、ビキニのブラにホットパンツ姿で押され気味のパラ実生に応援の歌を送る。
サレンのオリジナル曲【波羅蜜多恋愛歌】だ。
♪それは運命の出会いだったの カツアゲしているあなたの姿
一目見かけたその日から 私の心はあなたに釘付け
何処にいたって思い浮かぶわ 胸倉掴むあなたの横顔
どうかその逞しい腕で 私の事も奪って欲しいの
あなたになら私の全てを差し出してもいい
心も身体も全てあなたの物になるわ
だからお願い どうか私を掴んで離さないでいて♪
サレンちゃん……!
どこからかパラ実生の感動の声が沸く。
彼らはその妄想力で、サレンが自分に恋をしていると思い込んだ。
中には、
「詩穂ちゃんを守ってサレンちゃんを彼女にするぞ!」
と、よからぬことを考える奴もいる。
そんな彼らの下心をよそに、サレンはパラ実生に元気が出たことを素直に喜んでいた。
が、そんな派手なことをすれば当然目をつけられる。
「四十八星華がもう一人来たぞ! 二人まとめて俺らのものにしちまえ!」
四十八星華ファンはチーマーにもいるため、彼らの闘争心にも火がついてしまった。
「ファンになってくれるのは嬉しいんスけどねー」
もれなくヤクザが付いてきてパラ実生を支配下に置こうとするのは考え物だ。
サレンは殺到してくるチーマーに煙幕ファンデーションを投げつけ、姿をくらます。
ヤクザ達から、換気扇を回せ、と声があがる。
いったん設備の陰に身を潜めたサレンは、ホッと息を吐きつつ、まったく別のことを思っていた。
(ホットパンツはいといて正解だったっスね……)
中で水着が食い込んでいた。
見られていたら、とても恥ずかしい。
裾から指を入れて直したサレンは、周囲の声からチーマーやヤクザの位置を測り、駆け出す。
「まだまだ歌うっスよー!」
歌は中断されながら、サレンは工場用の巨大換気扇に負けないように煙幕で敵勢を惑わした。
それに便乗するイーオン。
サレンに集まり、煙幕を張られたところにサンダーブラストやアシッドミストを放つ。
彼の魔法攻撃に無駄な間隔がないのは、セルウィーが適宜回復をしているからだ。
イーオンに気づいたヤクザがこの場所まで上って来ようとしたが、彼らは梯子を伝いきる前にセルウィーに突き落とされた。
ふと、イーオンは先ほど保護したはずの紗昏とリリィが、再び戦闘に参加している姿を見つけて苦笑した。
「セル、適当なところで移る。本当の敵はここにはいないようだ」
セルウィーはイーオンをまっすぐに見て頷いた。
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