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Entracte ~それぞれの日常~

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Entracte ~それぞれの日常~

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13:30〜


・空京の街では


「いい天気です……どこに行きましょう……」
 空京の広場で、神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)が空を見上げた。着物姿で佇んでいる姿は、かなり目立つ。
 そこへ、パートナーのシェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)が駆け足でやってくる。
「やべえ、寝坊した……目覚まし掛けるの忘れてたし」
 その顔には、焦りがある。
「大丈夫ですか? ……そんなに急がなくても……昨日も遅かったようですし」
 微笑を浮かべる。
「悪い、遅くなった。あちこち行くなら、遅れたら回れないだろう」
 空京は海京に比べれば施設も充実している。
「それでは……行きましょう……」
 繁華街まで移動する。
 とはいえ、着物と黒コートの二人組というのは人目を引く。
(視線を感じる。紫翠は女に見えるからな。接触してくる奴がうざくて心配だが、今のところは大丈夫か)
 美形な男二人、とうのが実際だが傍から見れば美形な男女に見えている。さすがに、シェイドがいるため、紫翠にナンパしてくる者はいないが。
 二人が立ち寄ろうと考えているのは、洋服屋と本屋だが、どちらに先に行くかは決めていない。
 ふと、『MARY SANGLANT』看板が紫翠の目に入ってきた。
「すごい……人……ですね」
「なんでも、新作発表会だとかって話だ。そうは言っても女物の店だし、洋服だから紫翠には縁がないだろ」
 人だかりを横目に、近くの本屋へと足を踏み入れる。
「さすが……本の種類多いです……悩みます」
 空京の本屋だけあって品揃え豊富だ。
 紫翠が手にとっているのは、猫の写真集である。
「猫か?」
「そうです……触れないので見て癒します」
「確かに、飼えないからな。もしかして猫好きなのか」
「猫は……好きですよ」
 そんな話をしつつ、しばらく経ったら本屋を後にした。

* * *


 こちらは、空京駅前広場。
 まだ少し先ではあるが、バレンタインフェアが催されている。
「平日だというのに、今日は賑わってますね」
 その一角に、看板を掲げているのはリュース・ティアーレ(りゅーす・てぃあーれ)達、「T・F・S」である。
「空京は、やっぱり日本の文化に習ってるのね。リュースの故郷では逆なんだっけ?」
 リュースの隣から陽風 紗紗(はるかぜ・さしゃ)が聞いてくる。
「ええ、向こうでは男が女に贈り物をするんですよ。チョコレートに限ったことではありませんが」
「へえ、そうなんだ。なんだか奥が深いね」
 パラミタと最初に接点を持ったのが日本だったこともあり、広く浸透しているのは日本文化だ。
 愛の告白として女性が男性にチョコレートを贈るのは日本独自の風習であり、他の国はその限りではない。欧米式では、男女関係なく親しい人(恋人に限らない)に贈る日となっている。もちろん、贈り物の種類は様々だ。
 余談だが、ホワイトデーというのは日本を含めた東アジア特有のものであり、欧米には見られないものである。
「バレンタインの贈りものに、お花はいかがかしら?」
 漣 麗南(さざなみ・れな)が呼び込みを行う。
 ただ声を発するのではなく、花屋らしく花を髪に飾り、梅の花を扇に見立てて舞を披露したりもする。
「へえ、花売りなんてのもやってんのか」
 そこへ、女性客がやってくる。こちらへ近付いてくるかと思うと、知り合いにあったらしく声を掛け合っていた。
「あれ、ガーナ? どしたの、こんなところで?」
「お、エミカか。いや、サフィーのヤツと途中まで一緒だったんだけどよ。はぐれちまってさ」
「携帯には連絡したー?」
「アイツ、携帯忘れていきやがった」
 などとやり取りをしていると、少女達がこちらを見た。
「いかがですか、バレンタインの贈り物に」
 うーん、とエミカが悩ましげな表情を浮かべている。
「リヴァルトに贈るのも、って感じだし、かと言って先生には似合わないしなー」
「男も花は嬉しいものですよ。好きな人から選んでいただければ、ね」
 フラワーアレンジメントやブリザードフラワーを一つずつ見せていく。
「新作買えなかったし、せっかくだから頂こうかな」
 とは言っても、別に恋人とかがいるというわけではなさそうだ。
「それじゃあ、オレンジ色の薔薇なんかどうかない。男性もそこまで困らない色と花言葉だし、それを中心に同系色でまとめるといいかな」
 紗紗が花束を作成する。
「それ、いっつもあんたをからかってるあの男にでも贈ってやったらどうだ?」
「えー、確かに反応は面白そうだけど、最近なんだか雰囲気変わったっていうか……まあ、ちょっと近寄りがたいんだよねー」
 などと何やら話しこんでいるが、お金を貰って花を渡す。
「ご一緒にローズヒップティーは如何ですか? お肌にとってもいいんですよ。ジャムもオイルも置いてありますので、良かったらどうぞ」
 シーナ・アマング(しーな・あまんぐ)がローズヒップティーを勧める。
 広場ということもあり、オープンスペースに椅子とテーブルも設置されており、オープンカフェのような様相を呈している。
「じゃ、三つちょーだい」
 エミカには連れがいるため、三つなようだ。
「ま、ゆっくり飲みながら待ってりゃアイツもくんだろ。ここは目立つからな」
 そのまま離れていく。

 少し経って、また別の客がやってきた。
「久しぶりにここまで来たが……今日は祭りか何かの日か?」
 精悍な青年、といった感じの人物だった。
「あなたは……!」
 リュースはその男に見覚えがあった。パラミタ各地を旅して回っているはずの藤堂 平助である。
「またすぐに出る。たまたま一周して戻ってきたのが今日だっただけだ」
 平助が麗南の方を見た。
「舞踊か。マホロバで見て以来だ。久しぶりに見ると、何事も新鮮だな」
 一通り眺めてから、紅茶だけ貰って去っていった。
「あっ……歌菜ちゃんに知らせませんと」
 おそらく、ここに来たとあればPASDにも立ち寄るだろうが、彼と会いたがっているだろう友人に知らせた方がいいと判断した。
「ちょうど平和なときに戻ってきましたか」
 タイミングがいいというかなんというか。
「リュース、またお客さんが来るよ」
 休む間もなく、人は訪れる。
「ほんと、今日は賑やかですね」
「でも、これもつかの間の一時でしょうね。悲しいけど、それが現実。でも、せめてその一時が輝いていれば、ね」
「今は難しいけど、皆でお花を楽しむ世界になればいいですね、兄様」
 仮初の日常とはいえ、せめて今くらいはと、各々が勤しんだ。