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Entracte ~それぞれの日常~

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9:00〜


 前日。
「失礼致します」
 水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)は、パイロット科の科長室へと足を運んだ。
「水無月 睡蓮です。この度、留学させていただくことになりましたので、宜しくお願いします」
「マホロバに伝わる鬼鎧の調査を行っていたそうだな。イコンとの違いを学ぶのもいいだろう」
 挨拶をした上で、睡蓮は続けた。
「明日の転入生向けの学院案内、参加させて頂きます」
 記入済みの参加申し込み用紙を提出する。
「よし、確かに受け取った。くれぐれも集合時間には遅刻するなよ」


・学校見学開始


 ヴェロニカに興味を抱いたのは、高島 真理(たかしま・まり)も同様だった。
 彼女がこの学院に編入してきたのは二学期になってからのことだ。わずか半年ばかり前、右も左も分からなかった自分を振り返る。
 そのときは学院の人達に色々と助けられたものだ。今度は、自分が転入生が学院に馴染むための手助けが出来ればと思う。
 学院案内に付き添うことを決めたのは、そういった理由があるからだ。
「ここに来たってことは、ヴェロニカもパラミタに行って何かやりたいことがあるの?」
 契約と異なり、今の強化人間化の施術は素質が問われることはない。そうはいっても、強化人間を志願する以上、何か理由があるのだろう。
 強化人間をパートナーとして持たない真理としては、漠然とリスクがあるということくらいしか分からないが、きっとそれを承知の上で決めたのだろうと推測する。
「パラミタに行く、っていうよりはパイロットになりたいって思いの方が強いかな」
「ふむ、パイロット科希望でござるか」
 真理のパートナーである源 明日葉(みなもと・あすは)が呟いた。
「でも、どうしてなりたいって思ったの?」
「兄さん達がパイロットをしてるって聞いてたから。私もパイロットになれれば、どこかで会えるんじゃないかなって」
 憧れの兄を追いかけてやってきた。真理はそのように彼女の言葉を受け取る。
「でも強化人間になったって知ったらお兄さん、びっくりするんじゃない?」
「きっとね。だから、施術を受けるまでの間にパートナーが見つかれば、それが一番かな」
 ヴェロニカは少しだけ不安げな表情を浮かべた。強化人間になりたい、とはあまり思っていないようだ。
 ヴェロニカの両親は反対しなかったのだろうかと思い、家族のことも尋ねてみる。
「家族の人は、お兄さんも含めてパラミタ行きのこと、どう考えてる?」
「家族は……いないの」
 彼女の言う「兄さん」がどうやら唯一の家族らしい。これ以上は深く追求するべきではないと判断する真理。
「そっか。なら、尚更パートナーを見つけないとね」
 ぽん、とヴェロニカの肩を叩く。
「そういえば、今日は新型イコンの『レイヴン』の試運転が行われるんだって。時間があればそれも見学しない?」
 午前中にお披露目される予定の『レイヴン』。せっかくだからとヴェロニカも誘う。
「うん、確か今回の見学スケジュールにも入ってたと思うから大丈夫だよ」
 快諾するヴェロニカ。

* * *


「皆さん、揃っていますか?」
 学院見学開始の時間になり、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)は集合場所に集まった転入生、及び転入希望者達を見渡した。
「大丈夫そうですね。では皆さん、こちらに付いてきて下さい」
 アルテッツァが誘導を行う。
「今回、皆さんを案内させて頂く、高等部教諭のアルテッツァ・ゾディアックです。長い名前ですので、名字でも名前でも、どちらでも好きな方で呼んで下さい……礼儀には厳しい方ですので、変な呼び方は禁物ですよ」
 海京の四分の一を占めているだけあって、学院全体を把握するのは難しい。そのため、丁寧に順序よく案内していく。
 最初は教養科目の行われている本校舎からだ。
「編入前に多少聞いているかもしれませんが、今回は転入希望者への学校案内も兼ねているので、改めて説明します。本学院の教育システムは、中高一貫教育です。中等部が基礎教養課程となっており、一般的な高等学校までのカリキュラムを済ませることになっておりますね」
 中等部の授業を覗く。
 一般的な学校のイメージよろしく教科書を開いて、座学で授業を受けている。
「次は高等部です」
 生徒達を引き連れ、移動する。
「高等部からはパイロット科・整備科・超能力科の各専門科毎に分かれたカリキュラムになります。生徒の中には、パイロット科と超能力科の二つに属している人も居ますが『単位制』を取っているので、単位取得に支障がなければ、複数の科に所属することも可能なんです。
 ちなみに、成績が良ければ、年齢に関わらず飛び級で高等部在籍ということも可能ですよ」
 もっとも、中学卒業時点の年齢で一般的な大学受験レベルの学力が要求されているので、いくら契約者といえど飛び級は非常にハードルが高い。
「ああ、ボクは高等部在籍なのですが、授業は中等部二学年から出ていますよ。
 さて、次は少々歩きますが、整備科の見学に行きましょう」