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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)

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イコン博覧会(ゴチメイ隊が行く)
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イコン博覧会

 
 
「機材は、そっちにまとまってるからお願い」
「はい」
 シャレード・ムーン(しゃれーど・むーん)に言われて、ステラ・クリフトン(すてら・くりふとん)が携帯式の録音機器を肩にかけた。
「とにかく、会場は広いから、みんな手分けしてお願いね。各学校のイコンは、基本的にあなたたちバイトに任せるから。私は、個人所有のイコンを回るからね。そこのあなたは、模擬店とかをお願いね」
「模擬店……。嫌な感じがするわ」
 今はここにいないカレー魔人の気配を感じて、日堂 真宵(にちどう・まよい)がつぶやいた。
「嫌なら、別の人に……」
「いえー、やりますやりますー♪」
 よそゆきのチャイナドレスの裾をひらひらさせて、日堂真宵があわてて答えた。さすがに、イルミンスールでアルマインのキャンギャルバイトが決まっていたのに、「蟲(むし)の番なんて面倒くさい」と陰でイコンを蹴っ飛ばしたのをしっかりと見られて、あっされりとクビになったとは口が裂けても言えない、言いたくもない。
「じゃ、あなたも、機材運んで」
「はいはいー。――運べ」
 シャレード・ムーンに言われた日堂真宵が、ペットの鴉のふきむぎと猫のむるんに命じる。なんだか溜め息をついてから、二匹のペットが録音機材を首にかけて、ずるずると引きずりながら日堂真宵の後をついていった。
「壊したら弁償ですからね!」
 シャレード・ムーンの言葉が、ぐさりと日堂真宵の背中に突き刺さる。
「それで、あなたはなんなの?」
 ちょっと場違いな感じで突っ立っていたヴィゼント・ショートホーン(びぜんと・しょーとほーん)を軽く睨んでシャレード・ムーンが言った。
「自分ですか。自分は警護の御相談を。なにせ、こちらには放送機器が揃ってるって聞きましたんで。もしテロが起きるとすれば情報網が狙われるってえのは、先日の浮遊大陸衝突騒ぎでも御存じの通りかと。それに、的確な指示というのは、連絡網あってこそのことだと思いやして」
「あら、意外と、報道の重要性を理解しているじゃない」
 シャレード・ムーンがちょっと感心する。
 彷徨(さまよ)う島の騒ぎでは、メカ小ババ様によって混乱がもたらされた。メカ小ババ様は、その特性からか、周囲に電波障害をもたらすことが多い。それを早期に察知するには、放送機器の近くにいた方がいいだろうと、ヴィゼント・ショートホーンは判断したのだった。
 とはいえ、敵がすでに露見した欠点をそのまま放置しているとは思えないが。先日再び現れたメカ小ババ様も、蒼空学園のときのバージョンとは違って、レーザー通信を装備していたらしい。対電波シールドぐらいされていても不思議ではないだろう。
 それでも、命令系統を押さえておけば、パートナーたちとも迅速な行動ができるというものだ。
「ここは、お任せを」
 中継車の横に立って、ヴィゼント・ショートホーンが警備を請け負った。
「じゃ、私たちは中継にむかうからよろしくね。あなたたちも、早く各学校のブースにむかいなさい。この広さじゃ移動を甘く見ると何もできなくなるわよ」
「分かったですぅ。みんな出発ですぅ」
 メイベル・ポーター(めいべる・ぽーたー)が、元気よく真っ赤なバットを振り回してパートナーたちに告げた。
いくよー
 セシリア・ライト(せしりあ・らいと)が元気よく走りだす。
「こちらも行きましょう」
 フィリッパ・アヴェーヌ(ふぃりっぱ・あべーぬ)が、ステラ・クリフトンを伴ってその後を追う。
「ねえ、フィリッパさん、なんで、さっき、メイベルさんはバットなんか振り回してたんですか?」
 ステラ・クリフトンに訊ねられたが、フィリッパ・アヴェーヌは横顔で少し笑っただけであった。
 
    ★    ★    ★
 
「今のところ、不審な人はいないようですね」
 水無月 睡蓮(みなづき・すいれん)に問われて、鉄 九頭切丸(くろがね・くずきりまる)が両腕を胸部の前で水平に組んだまま周囲の様子を確認した。殺気を放つ者はいないと、静かにうなずく。
 彼女たちのイコン、羽々斬丸は、個人展示ブースに放置してきている。さすがに、これだけ衆目がある場所で、あれだけ巨大な物をすぐにどうこうできるというものではないだろう。
 それに、ノーマル仕様の雷火である羽々斬丸は、さすがのこの会場では多数のイコンの間で埋もれてしまっていた。まったく目立ってはいない。はっきり言って、葦原明倫館のブースに行った方が雷火の詳しい話は聞けるだろうから、お客は閑古鳥状態だったのだ。
「そうは言っても、こういったイベントは格好のテロの標的ですから、気を抜くことはできません。しっかりと見回りをしましょう」
 ついでに他の学生が展示しているいろいろなイコンを見ながら、水無月睡蓮は鉄九頭切丸を伴って歩いていった。
 同じように考える生徒たちは多く、自主的に会場のあちこちでイベントを楽しみつつも、警備態勢を強化していた。先ほどのヴィゼント・ショートホーンなどもその一人だ。
「大学から近いから来てはみたが、こりゃ、思ったよりも大きなイベントだな。警備の方は大丈夫なのか?」
 珍しいイベントがあるからと聞いてやってきたラルク・クローディス(らるく・くろーでぃす)であったが、予想以上のお祭り騒ぎにちょっと心配になった。
「こりゃあ、ちょっと力を貸すべきかな。いろいろと物騒だからな、見学ついでに怪しい奴は叩きのめすかあ。これも修行の内だな」
 パシンと両の拳を軽く打ち合わせてラルク・クローディスが言った。
 なにしろ、肉弾戦を得意としているので、いまいちイコンはピンとこない。空京大学にもイコンはあるはずだが、今まで積極的に触ったこともなかった。
「この際だから、少しお勉強もかねるとすっか。ってえことで、まずは腹ごしらえからだな。腹が減っては戦ができないっとくらあ」
 とりあえず不審者が身を隠して機会を狙うとしたら、メインの会場よりは付随する売店などだろうと、的確、かつ、都合のいい解釈をする。真紅の縁取りがある西ロイヤルガードのコートをひょいと無造作に肩に担ぐと、ラルク・クローディスは模擬店の方へとむかった。