リアクション
* * * (さて、会うにしてもどこにいることやら……) 仮面の男――トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)は、ローゼンクロイツの姿を探していた。 海京決戦のときは、天沼矛にいると踏んで行ってみたら会うことが出来たが、元々どこで何をしているのか分からない人物だ。 「そろそろ私に会いに来る頃合だと思っていましたよ」 背後から声がかかった。そこにいたのは、漆黒の男――ローゼンクロイツだった。 「相変わらず不気味なヤローだぜ」 「そう仰らずに。単に、『私に会いたい』と行動し、その結果がここにあるだけです。いわば、貴方自身が事象を引き付けた、ということですので、私が何かをしたわけではありませんよ」 何やら思わせぶりなことを言ってくるが、その意図は分からない。 「天学の連中、色々と動いてるぜ? 第二世代機に、それに知り合いの子が何か学院のお偉いさんからお呼びがかかったみたいでさ。何やら、次の戦いに向けて準備を始めてるみてぇだ」 ローゼンクロイツが不敵な笑みを浮かべた。 「『今回』は、随分と早いですね」 「うちらは何か対抗しないのかい? 十人評議会の連中がいくら化け物揃いでも、戦力を小出しにして各個撃破されるってのは、適役がやられる定番だ。イコンだけじゃなくって、生身で戦える連中も揃えておいた方がいいんじゃねぇの?」 「生身の戦力も十分に揃ってますよ。もっとも、イコンこそが重要な意味を持つのですが、ね」 このローゼンクロイツも、生身でイコンと戦えるだけの実力は備えていることだろう。海京決戦の最後に登場した『総帥』に至っては、もはや別次元の存在だ。 「で? あんたはなぁにやろうってんだい。のんびり高みの見物ってわけじゃねぇんだろ」 「貴方から見れば、その高みの見物ってことになるでしょう。『制約』が多いものでして。私自身は特に何かしようというわけではありませんよ。しいて言えば、総帥のサポートです」 「で、その総帥に関してだけどよ。ちらっと聞こえてきたんだが、『終わり』をもたらす可能性を持つ者だっけか。ちょーっと穏やかな響きじゃねぇよな。例えば全てをゼロからやり直す。なぁんて物騒な終わり方は、乱暴過ぎるだろ」 相変わらずローゼンクロイツは微笑を浮かべたままだ。 「終わりを滅びと考えるのは、実に短絡的なことですよ。しかし、貴方の例えは総帥の目的に非常に近く、そして限りなく遠いものです」 「さっきからほんとによく分からないヤツだぜ。あ、滅ぼそうと思って滅びちまう世界なら、滅びた方がマシだろ。そうじゃねぇから、今でも俺達は飯食って働いて夜寝てるんじゃねぇか? それってもしかして、調和を求めて失敗した連中の流した血が、無駄じゃなかったって証になんねぇか……なんて、感傷的過ぎるかぁ」 それを受け、ローゼンクロイツの顔から笑みが完全に消えた。 「しかし、人は果たして滅びが訪れたとき、世界が滅んだと気付くのでしょうか?」 「どういうことだ?」 「一人称での死を人は体験出来ないように、世界もまたいつ滅んでいたとしても、誰も認識出来ないかもしれないというだけの話です。例えば、因果が歪められたことに、誰も気付いていなかったように」 「あんた、何を知っている?」 「さて……。私の口から話せることは特にありませんよ。言うならば、『運命を変える』という行動自体が、さらに大きな運命によって既に決められているかもしれない、ということですよ」 ただ、彼にも彼の思惑があるのだろう。 「ま、そんでも俺は俺の守りたいモンのために戦うだけさ」 必ず守れるわけじゃないが。 それでもせめて、目の前で拾える命は拾っておきたい。 海京決戦で戦った天学の夕条 媛花が生きていることを知り、ほっとしたくらいだ。仮面を被って悪党を気取ることがあっても、殺しが好きなわけじゃない。 ……まさか、海京決戦後に表の顔であんな形で再会することになるとは思わなかったが。しかし、裏の顔で次に会ったらまた戦うことになるだろう。奇妙な縁もあったものだ。 「貴方が私達の側で戦おうというのなら、F.R.A.Gへ行くことをお勧めします。もっとも、彼らは十人評議会が組織の裏にいるとは知りませんが」 F.R.A.Gも天学も、まだ均衡状態が続いている。争わずに済むならいいと互いに考えているらしいが、 「お互いに協調を目指していたとしても、おそらく一度は戦うことになるでしょう。それが最初で最後になるか、あるいは長い戦争の始まりとなるかはまだ分かりませんが……ね」 その横顔には、どこか悲しげな色が浮かんでいた。 |
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