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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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七不思議 憧憬、昔日降り積む霧の森(ゴチメイ隊が行く)

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「やれやれ、やっと見つけたようじゃな。おおい、こっちじゃ」
 カラスのフギンムギンやフクロウの使い魔たちたちを使って霧を払いのけながらココ・カンパーニュを見つけだしたウォーデン・オーディルーロキが、月詠司たちを呼んだ。だが、やってきたのは月詠司とシオン・エヴァンジェリウスだけだ。
「捜しに来るべき者が、バラバラに離れてしまっては……。まあ、この霧ではしかたないか」
「とりあえず、手分けした方が見つかるだろう。ああ、携帯に出てくれれば一発なのに……」
 やっと落ち着いたココ・カンパーニュが、呼び出し音だけで応答のない携帯を悔しそうに握りしめながら言った。まあ、何度か携帯をかけて立ち止まったおかげで、ウォーデン・オーディルーロキたちが追いつけたわけではあるが。
 どこかで呼び出し音が聞こえれば、アルディミアク・ミトゥナが近くにいると分かるはずなのだが、マナーモードなのか近くにいないのか、いっこうに手がかりはなかった。
 どうも、アルディミアク・ミトゥナは、携帯をずっとマナーモードにして着信を自ら分かりにくくしていた節もある。正確には、十二星華としてゾディアックのプロジェクトに参加するようにと間接的な連絡が来ているのを避けていたようだ。
 ココ・カンパーニュの妹として生きていくことを決意した彼女にとっては、それはアルディミアク・ミトゥナに対しての要請であり、シェリル・アルカヤとしてはまったく関係のないことであった。まして、彼女が忠誠を誓っていたアムリアナ・シュヴァーラは、再びお隠れになってしまったという。新しい女王がそれに値するかは、彼女としてはまだ判断しかねる状況であったのだ。
 だが、そんな悩める精神状態が、霧の作りだした何者かにつけいる隙を作りだしてしまったのかもしれなかった。あるいは、他に何か理由があるのであろうか……。
「そんなに、この霧というのはやっかいなの?」
 初めて霧と接するシオン・エヴァンジェリウスが使い魔たちを周囲に放ちながら、月詠司たちに訊ねた。
「ああ、シオンは初めてじゃったのう」
 ウォーデン・オーディルーロキが、どことなく待ってましたとばかりに説明を始めた。
「あれはタシガンの古城に巣くっていた化け物でな、周囲の生き物の記憶、思い出と言ってもいいじゃろう。それを感じとって形を手に入れるのじゃ。もちろん、形じゃから、中身まで一緒というわけではない」
「へーえ、物知りなのねえ」
「もちろんじゃとも。これでも、昔から博識だと称されておったのじゃ」
 シオン・エヴァンジェリウスとココ・カンパーニュに感心されて、ウォーデン・オーディルーロキがちっちゃな胸を張った。いや、シオン・エヴァンジェリウスはまだしも、ココ・カンパーニュまでが感心するというのは、普段どれだけ勉強をしていないかということの表れなのだろうか。
「へえ。いつごろの昔からなのよ」
「そ、それは……」
 シオン・エヴァンジェリウスに聞かれて、ウォーデン・オーディルーロキがちょっと口籠もった。
「見えてますよ」
 月詠司が、さりげなくウォーデン・オーディルーロキの耳許でささやいた。あわてて、ウォーデン・オーディルーロキが荷物からはみ出していたイルミンスール魔法学校大図書室のレポートの写しを隠した。
「誰か来る?」
 霧の中に人の気配を感じて、ココ・カンパーニュが身構えた。
 見ると、霧の中を長身の人影が二つ横切っていった。
「なんとなく、ウォーデンくんに似ていますね?」
 月詠司が、ウォーデン・オーディルーロキの顔をまじまじとのぞき込んで言った。
「追いかけるよ。どこへむかうのか確かめないと」
 ココ・カンパーニュが走り出した。あわてて、月詠司たちがその後を追う。
 音もなく進んで行く二人を追いかけて霧の中を進んで行くと、少し開けた場所に出た。とはいえ、周囲は霧につつまれているので、それがどれほどの広さであるのか、はたまた現実の風景であるのかは杳としてしれない。
 ただ、見た感じ、そこはどこかの屋敷の庭園のようでもあった。綺麗に刈り揃えられた芝生の上に丸テーブルと椅子のセットがいくつかおかれ、午後のお茶会の用意がされている。
「こちらへどうぞ、お客様。おお、そちらにも新しいお客様が、どうぞこちらへ。さあ、どうぞどうぞ」
 よく見ると、月詠司そっくりの男が、執事然とした態度でココ・カンパーニュたちを手招いた。
 二つあるテーブルには、一組の男女と三人の姉妹がそれぞれ座っていた。
 男女は、先ほど霧の中で見かけた二人であった。テーブルの横には長刀が立てかけてあり、いかにもマホロバあたりからきたかのような服装をしている。
 隣のテーブルの三人は、遠目には似た顔立ちをしているので姉妹らしい。
「あれって、シオンじゃないんですか?」
 姉妹のうちの一人を見て、月詠司が訊ねた。
「不本意ながらそうみたいね」
 しぶしぶシオン・エヴァンジェリウスが認めた。
 紛れもない、中央で椅子に座りながらも、ちょっと疲れたようにして頑張っているのがシオン・エヴァンジェリウスだ。本来ならば、その場にいるのは妹と姉、そして執事のはずだ。だが、この風景が現実であったのは数千年前のこと。今では、誰もがその姿を変えてしまっている。だからこそ、これは幻だ。
「面白いな、この霧は。本人も自覚しない深層心理から、形状を拝借しているようじゃ」
 開いているテーブルに大胆に近づいていきながら、ウォーデン・オーディルーロキが言った。一緒にいる男女が、自分の記憶から形作られたものだというのは分かるが、それが誰であるのかは分からない。月詠司は何やらしたり顔をしているが、それは後で締めあげて吐かせるとしよう。
「拝借というのは、少し違う……」
「あなたは黙ってらっしゃい。ここはわたくしの出番です。いいですか、拝借というものとは違いますのよ」
 姉が、霧のシオン・エヴァンジェリウスを黙らせると自分が勝手にしゃべり出した。むっとした霧のシオン・エヴァンジェリウスが、テーブルを蹴っ飛ばした。身を乗り出してしゃべりまくろうとしていた姉が、姉妹をすべて巻き込んでテーブルごとひっくり返る。
「あーあ、いつもああいうことをしていたんですね」
「何のことかしら? ワタシにはぜーんぜん。だいたい、病弱なワタシに、あんなまねはできないわよ。それに、あそこにいるのは偽物でしょ」
 シオン・エヴァンジェリウスが、ごまかすように答えた。
「いや、そうとも限りませんよ」
 その声に驚いて一同が振り返ると、ひっくり返ったはずのテーブルが綺麗に元通りになっていた。いたはずのシオンたちエヴァンジェリウス三姉妹の姿はいつの間にか消えてしまっている。隣の席に座っていた男女もいつの間にか別の人物にすり替わってしまっていた。