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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第2回

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聖戦のオラトリオ ~転生~ 第2回

リアクション


第八曲 〜God’s Proxy〜


「……レイヴン、ですか?」
「はい、マスター。ワタクシ、どうしても『レイヴン』という機体を試してみたいのです」
 アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)六連 すばる(むづら・すばる)から、その提案を受けた。
「実機の威力や、先日の出撃で起こった事故の話は聞いてます。でも、シミュレーターなら大丈夫ですよね? もしものときは強制ログアウト出来ますし! マスター、お願いします」
 今の自分の状態を鑑みて搭乗を避けようとしていたが、シミュレーターだと割り切って、乗ることを決めた。
「……仕方ありませんね。スバル、準備なさい」
「はいっ、マスター!」
 破顔するスバル。
 そして二人は準備を始める。


(・戦闘開始前)


「失礼します」
 シミュレーター管理室に、シフ・リンクスクロウ(しふ・りんくすくろう)は足を踏み入れた。
「初めましてーっ! ココナちゃんでーっす! おじちゃん、おばちゃん、よろしくね!」
 ココナ・ココナッツ(ここな・ここなっつ)が元気に声を発する。
「初めまして、になるわね、博士方。シフのパートナーの四瑞です。レイヴンとBMIの調整のお手伝い、とシフ機の調整をさせてもらえれば、と思いますわ」
 一方、四瑞 霊亀(しずい・れいき)の方は行儀よく頭を下げた。
「レイヴンの、そしてBMI開発に関わっている方々にお願いがあります。一度、シンクロ率が何処まで上げれるのかを試させて下さい」
「しかし……」
「リスクは承知の上。それでも、実戦中に予想外のシンクロ率になった場合を考えれば、一度は体験した方がいいと思います。無論、シミュレーター訓練のときは予定通りの30%で構いません」
「それに、以前にリミッター以上のシンクロ率が出た件もありますし、不足の事態が起こらないように、今一度チェックも必要でしょう?」
 シフと霊亀は譲らない。
 そこへ、長身のスーツ姿の男が現れる。
 風間だ。
「50%。それ以上は危険領域です。少し前に、『暴走事故の状況再現』をやったのですが、適性がどうあれ、50%を超えると暴走確率が格段に上昇します」
「……試したんですか?」
「無理をしたがる子達はいるんですよ。君もその一人でしょう? 試したければ、訓練終了後に私のところへ来て下さい」
「分かりました。お願いします」
 50%。そこが一つの限界点だと言うなら、シフが目指すのはそこだ。
「行きましょう、ミネシア。今の限界を、示しましょう!」
「張り切ってるねぇ。でも、さ、ワタシも今の限界を知りたいってのは同じだよ!」
 ミネシア・スィンセラフィ(みねしあ・すぃんせらふぃ)と共に、イコンシミュレーターに乗り込む。
(レイヴン、貴方も使いこなしてみせる。貴方の限界以上を引き出してみせる。必ず……!)

* * *


「……ゾディ、アンタ大丈夫なの?」
 シミュレータールームに向かうアルテッツァに、ヴェルディー作曲 レクイエム(う゛ぇるでぃさっきょく・れくいえむ)は不安げな視線を送った。
「ヴェル、大丈夫でしょう。この錠剤で自分の感情をどこまで抑えられるかは謎ですが。 ……とりあえず、数錠飲んでおきますか」
 タブレットケースを取り出し、アルテッツァが口の中に放り込む。
「バァカねぇ、アタシは『自分のため』に心配してるのよ。アンタがいなくなったら、アタシも存在出来なくなるでしょ! ほら、無理しない程度に参加してらっしゃい」
「ははっ、憎まれ口言ってくれるなんて有り難いですね。この歳になると、叱ってくれる人は少なくなりますから。そういう相棒は、大切にしなければいけませんね」
 微笑を浮かべ、
「では、出撃してきます」
 と、残して去っていった。
(とは言ってみたけど、正直気が重いわ。ゾディが……アタシの分身がのたうち回る姿なんて、見たくないもの)
 せめてシミュレーター管理室からモニタリングさせてもらわないと。
 ヤバくなったらすぐにログアウトの指示が出せるように。
「行っちゃったね〜」
 レクイエムに声を掛けたのは、ゴスロリ調の改造制服を着た少女だ。
 パピリオ・マグダレーナ(ぱぴりお・まぐだれえな)、彼女もまた、アルテッツァのパートナーである。
「ぱぴちゃんとしては、どーなるか見てみたいな〜」
 悪戯な笑みを浮かべる。
「だって聞いたわよ……すばるんはテッツァがご執心だった『彼女』に対してかなり強い感情を抱いているって。
 ……初の覚醒後体調不良になっている真の原因が、それだったってゆーじゃない?」
 そんな不安定な状態で、二人はレイヴンに乗ろうとしている。
「彼女が手に入れられなくて、精神安定剤の量が増え続けているテッツァと彼女さえ消えればテッツァが自分に向いてくれると思ってるすばるん。そんな二人がシミュレーションの世界で彼女の幻影を見たらどうなるんだろ。
 ……うふっ、楽しみ〜」
「……ぱぴりお、アンタらしいわね」
「ぱぴちゃんは、もがき苦しむ人間大好きだもん。ヴェルレクも、テッツァが死んだら楽譜に戻るだけでしょ。なら、心配いらないじゃん」
 実に悪魔らしい性格だ。
「楽譜に戻る……アタシ、そんなの嫌だわ。アタシも、ゾディと考えは一緒なの。『生き残って、人の心の移り変わりを見ていきたい』の。
 ……アンタと一緒にしないで頂戴」
 しかし、なぜか胸騒ぎがする。
 何事もなければいいが――

* * *


「どうした?」
 パイロット科教官長、五月田 真治の元に、カーリン・リンドホルム(かーりん・りんどほるむ)が訪れる。
「普段と同じような環境で訓練を受けれるような状態にはしたいと思って」
 彼女の所属する部隊、ダークウィスパーは試験的に機体間の相互連携システムを搭載している。あくまでサポート用であるが、有用性は証明されつつあるものだ。
 整備科のベルイマン科長経由でアポを取ってこうして掛け合いに来たというわけである。
「ブルースロート込みの編成で、レプンカムイ搭載機と非搭載機での体験会兼ねたシミュレーション演習、なんてのはどうかしら?」
「あのシステムは確かによく出来ている。が、搭載する際には一つ問題があってな。ダークウィスパーのように、小隊メンバーが固定なら問題ないが、お前達のように固定メンバーで組んでいる者は少ない。その辺を含めて、目下検討中といったところだ。
 あと、そちらの小隊に関しては心配いらない。シミュレーターでも、ちゃんと再現してある」
 現行機に今から導入するのは少々難しいらしい。
「おっと、そろそろシミュレーター訓練の準備が終わる頃か」

* * *


(どうしてあんなことがあったのに、平然とレイヴンを使い続けられるんだ……!)
 狭霧 和眞(さぎり・かずま)はこのシミュレーターにレイヴンが導入されると聞き、内心で憤っていた。
(皆の安全と平和を守るのが、俺達パイロットの、整備員の、開発者の仕事だろ! その「皆」の中に、俺達パイロットは含まれないんスか!?)
 ウクライナの一件以降、レイヴンに対する不信感は募っていった。
(……なら、オレとトニトルスはもっと強くなる。レイヴンなんて必要なくなるくらい、強くなるんだ。あんな危険な機体に皆を乗せたくない。もう二度とアイツみたいな目に会う人を見たくない……!)
 そのためにも、今回のシミュレーター訓練でF.R.A.G.には勝ちたい。
「兄さん……」
 そんな和眞の姿を見て、ルーチェ・オブライエン(るーちぇ・おぶらいえん)が声を漏らした。
 どこか良き急いでいる様子の彼と、置いてかれている彼女。
 だが、何かを決めたように、ルーチェが真剣な表情になる。置いてかれたままではいけない、自分も歩み寄る努力をしよう、そう決めたということだろう。

「早苗、今回はBMI30%を使いこなすわよ」
「えっ……30%ですか?」
 葛葉 杏(くずのは・あん)の言葉に、橘 早苗(たちばな・さなえ)は戸惑う。ウクライナで暴走した烏丸 勇輝は40%だった。出力を上げればリスクも上がると先の戦いで自覚している。
「早苗、あんたは私を120%信じなさい」
「でも、あんな風になるのは絶対に嫌ですぅ……」
 自分は、杏のように強い人間ではない。早苗が大丈夫だと信じられても、自分は耐えられるのか。
「私は早苗が出来ると信じている、だから早苗は私の言うことを120%信じなさい」
 30%を使いこなせれば、次はもっとパーセンテージを上げてもらえるだろう。そして40%も使いこなせれば、烏丸達とは違うと証明出来る。
 レイヴンが搭乗者の意思に呼応するものなら、強く信じ抜けば弱さにも打ち勝てる、といった感じで杏は励ましてくれた。
「……分かりました。杏さんを、信じます」

「ねぇ、ウォーレン。なんで第二世代機のブルースロートじゃなくて、第一.五世代機のレイヴンなの?」
 水城 綾(みずき・あや)ウォーレン・クルセイド(うぉーれん・くるせいど)は、レイヴンTYPE―Eでシミュレーター訓練に臨む。
「あのなぁ……フォワードアタッカーの俺達が防御特化型に乗って何をするつもりだ?」
 二人は前衛で戦うことが多い。そのため、ブルースロートは性に合わないということらしい。
「それに乗り慣れたタイプの方が色々都合良いだろ」
 それには一理ある。
「今回はシミュレーターだから命のやり取りはないけど……超能力者用のイコンか」
 一応、マニュアルは読んでいる。
 公開試運転以降のデータは閲覧出来るため、必要な情報は大体持っている。もっとも、公になっている情報は、レイヴンのテストパイロットが直接知っているものに比べて少ないが。
 それらを再確認し、シミュレーターへと入った。

(F.R.A.G.の方々は強かった……彼らとの関係がどうなるにせよ、これから先、第一世代機では厳しいかもしれない)
 端守 秋穂(はなもり・あいお)は悩んでいた。
 今後の戦いに備えて、機体を乗り換えるべきかどうかを。
「秋穂ちゃん、大丈夫ー?」
 ユメミ・ブラッドストーン(ゆめみ・ぶらっどすとーん)が案じてくれている。
「うん、大丈夫」
 迷ってはいたが、今回は自機、セレナイトのデータをシミュレーターに組み込んだ。
「この機体でいいのか?」
 シミュレーター室の職員から確認させられたため、
「はい。一緒に戦い、共に覚醒までした、自分達の大事な存在ですから」
 と、自分達の相棒と共に訓練を行う旨を伝えた。

「かおるんかおるん。もっとリラックスリラックス〜」
 大羽 薫(おおば・かおる)もまた、真剣に考えていた。リディア・カンター(りでぃあ・かんたー)からの言葉を受けても、いつものように切り返すことが、なかなか出来ない。
(あの青いイコン……俺達は『覚醒』を使っても、後一歩のところで届かなかった。そんなヤバいヤツがごろごろいるはずがねぇ。ならアレに乗ってるのはやっぱり……だとしたら、今度こそ俺はあいつを超えたい。もっともっと強くなりたいんだ!)
 だが、そのためには自分の操縦技術だけではきっと足りない。相棒にも強くなってもらわなくては。
 シミュレーターということもあり、今回は自分なりの改造案データを入力してもらっている。それによってどこまで戦えるか、試すために。
「よっしゃ、んじゃ行くぜ相棒」
「そだ! もう付き合い長いんだし相棒さんにも名前をつけてあげようよ!」
 そういえば、まだちゃんと名前はつけてなかった。
「ん……そうだな。『限界を破壊するもの(リミットブレイカー)』なんてのはどうだ? ちょっとかっこつけすぎかもしれねぇけど……一緒に限界を超えてやろうぜ」
「りょうかーい! よろしくね、りみっかー♪」

「こいつがブルースロートか。こいつぁまた……趣味の外見だなぁ」
 シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)は訓練前に、ブルースロートの外観を確認した。
 女性型のイコン、となると母校である百合園女学院に配備されていても、何ら不思議ではない。
 もっとも、この機体は女神を彷彿とさせる白金の【ナイチンゲール】が元になっているため、このような姿なのである。
「さて、見せてもらおうか。天学の第二世代機の力のほどを。だけど、防御特化型ってのはどうも怖いものがあるよねぇ……」
 サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)が声を漏らす。
「さすがに、イーグリットに置いていかれるようなアホな機体は着作らねーだろ。それに、ベースとなった機体はシャンバラ戦線でかなりの活躍だったみたいだぜ」
 ヴェロニカ達のことは、噂程度には耳にしている。
 その防御性能を受け継いでいるのなら、それほど不安がるものでもない。
「にしても……この計算式。乗りこなすにはこれ全部覚えねーとダメってのがな」
 味方機へのエネルギーシールドも、どうやら干渉機能の一種のようなものらしい。要は動力源となる機体の機晶エネルギーを抽出し、それをシールドとしてその機体の周囲に展開する。
 戦闘時の機体の座標やエネルギー残量、さらにはシールドそのものの展開範囲を自分で計算しなければならず、状況判断能力と高い情報処理――演算能力がなければ使いこなすことが難しい。
 一応、演算サポートプログラムが試験的に搭載されているが、あくまで補助的なものでしかない。ただ、多少の誤差は調整してくれるので、一度展開すれば、仲間を見失わない限り維持するのは可能である。
「……やるだけやってみるか」
 付け焼刃とはいえ、基本式は大体頭の中に叩き込んできた。あとは実際に試してみるだけだ。