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リアクション
遅れてきた新人といつもの中尉/クィクモ
再び、クィクモへ戻って……
日が暮れようとしている。と言っても、太陽が沈むのではない。常夜のコンロンでは、月が暗くなることで一日が終わる。ちょうど出兵の第一陣としてコンロンに滞在し始めた者なら、この繊細な日々の移り変わりが肌でも感じられるようになっている頃かもしれない。
が、この男は……
「ふわぁー、疲れましたね。今は夜? 昼? まあ、どうせずっと夜なわけですけど……」
ルース・メルヴィン(るーす・めるう゛ぃん)中尉。
【鋼鉄の獅子】隊長室に、もうずっとこもりっきりで、事務仕事をこなし、このまま戦いの終わりを迎えそう、か。
灰皿には煙草煙草。また頭をぼりぼりとかいては、頭を悩ませている。
「厄介な状況になりましたね。しかし、こちらは我々の担当方面に集中する他ない。
っというわけで、ヒクーロに向かわせた援軍の200は目的地まであと二日の地点まで到着、ですか。この内の20名には、諜報員としてヒクーロの町で動いてもらいましょう。今回は、ここが肝要です。戦いだけではない……うん? なんでしょうね」
階段をばたばたと駆け上がってくる音。
「むむ。こないだは月島と城が忙しいときに邪魔しに来ましたが、もう獅子の皆はいないわけで。何かの報告でしょうか。しかし、せわしない。油断はしないでおきましょう。わ、わっ」
扉がバタン! と開くなり、
「司令官、私をヒクーロに向かわせる隊に加えてください」
彼もまた新人の士官候補生、
「維暮 征志郎(いぐれ・せいしろう)と申します。最後の戦いだ……帝国兵は一兵残らずコンロンから駆逐するぞ!」
和風の名前とは裏腹に、欧米風の容姿。趣味もクラシック音楽に絵画、バレエ鑑賞、紅茶、と多様なのだが……とりあえず、物腰柔らかに、挨拶をした。
その後ろに影のように付き従っているのは、パートナーの壱影 封義(いちかげ・ふぎ)。「いい加減にしなさい」と、早速征志郎を止めた。「え、えっ……何故……」
「は、はぁ」
とにかく、随分やる気のある真面目な新人のようではあるなあとルース中尉が感心していると、
「コンロンには何か独自の文化があるでしょうかね。おいしいお茶とかお菓子とか舞踊とか……」
既に心は、戦争が終わってコンロン生活を楽しむことに飛んでいるようであった。
「あ、あの、ちょっとまだ早いですから……ここは終章じゃなくて序章……と、とにかく。どうやら部屋を間違えていませんかね?
ここは【鋼鉄の獅子】の棟です。司令部の棟なら、真ん中のいちばん高い……」
「そ、そうでしたか。すみません。し、しかしではあなたが、名高き獅子の……」
「ふふん」
ルースは胸を張って立ち上がった。
「レオンハルト・ルーヴェン……隊長?」
「ずっ」お約束でこけます。「ま、まあ獅子でも隊長代理のオレならこういう役どころもできますが……」
ルースは、夜空に目をやる。「レオン……今頃あなたは」
「あ、ルース中尉でありましたか!」
「ふふん」
ルースの名は無論通っている。
「では、大変失礼致しました」
「ええ。お気になさらず。ヒクーロに向かうなら、イコンと共に行く部隊に加わることになるでしょう。
あちらでは、オレたち獅子の仲間も苦境にある……是非、助けてやってください」
「はっ!」
こうして少し遅れてきた新人、維暮はヒクーロへ。「その前に、クィクモにいる同じ新入生たちに挨拶をしていきましょう。その中にはきっと上官になり上がって行く人もいるかもしれませんね……!」
「そう、ヒクーロか」
ルースは少々苦い表情をする。【鋼鉄の獅子】のこれまでのヒクーロにおける戦局から、隊を陥れようとする動きが出てきてもおかしくはない。そうルースは危惧しているのだ。ヒクーロに不利な噂が流れることなどもないよう、そこで諜報面を強化せねばと。「ヒクーロと対立する気はないですからね。頼みますよ」
裏で行われようとしているよからぬ動き……「フハハハハ」「おう、おうおう」。薔薇に行ったあの男と鯉の不敵な笑い声が聴こえてくる。手を打っているのは、獅子だけではない。裏で絡まり蠢く陰謀。更に、別の悪も……果たしてどうなる。
ルースは書類が纏まると、足を投げ出し伸びをした後、煙草をふかした。
「隊長っていうのも、大変ですね……。はぁ。しかし、静かだ。獅子の皆……ほんとに、頼みますよ。どうか……」
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