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第一章 マホロバ城にて1
扶桑の噴花は続いている。
無数に舞う桜の花びら。
美しい花弁に巻かれたものは、この地を離れ、別の土地へと誘われた。
新たな生命として生まれてくるために。
シャンバラ教導団霧島 玖朔(きりしま・くざく)は、扶桑の都をバイクで疾走していた。
密かに軍用のものを運び入れたのだ。
これができたのも、長年鎖国していたマホロバにシャンバラと通商通行条約が結ばれ、その直後、噴花が起きた混乱によるものであろう。
「くっそ、花びらで前がみえん……あれは、誰だ!?」
玖朔の問に、ハヅキ・イェルネフェルト(はづき・いぇるねふぇると)が冷静に応える。
「人が倒れています。都の人の多くは逃げたり、家屋に閉じこもっているようだけど……逃げる途中で、何かあったのでしょうか」
「若い女?」
玖朔はバイクから飛び降り、倒れていた少女を抱き起こした。
高価な着物姿の彼女は一見して高い身分の女性に見受けられた。
かろうじて意識があるらしく、しきりに人の名を呼んでいた。
「……貞嗣(さだつぐ)……今、お城に帰りますからね……あ、この腕は……貞継(さだつぐ)様? まさかね……」
少女はそのまま目を閉じた。
慌てる玖朔に伊吹 九十九(いぶき・つくも)がサイドカーの席から下りた。
「このまま此処に置いてもおけないし、噴花はまだ続いるわ。それにさっきの言葉……」
「ああ、貞継って前のマホロバ将軍と同じ名だな。ひょっとしてってこともある」
玖朔は彼女の身体を担ぎ上げ、助手席に乗せた。
「都にはまだ不逞の輩もうろうろしてる。撤退せずに残った龍騎士もいるだろう。ここは、俺達もヤバそうだ。移動するぞ」
ハヅキは頷き、エンジン音をあげて先陣を走った。
それに続き玖朔、しんがりを三尖両刃刀を持った九十九が走る。
「……追ってきたか、しつこい」
九十九が片手で運転しながら、炎の術を構える。
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「助けていただいてありがとうございます。私は秋葉 つかさ(あきば・つかさ)と申します。前マホロバ将軍鬼城 貞康(きじょう・さだやす)様の御花実です」
助けた後で、少女の素性を知った玖朔は驚きを隠せずにいた。
しかも彼女は、巫女として扶桑の中に取り込まれ天子と意思を交わしたものの、扶桑とひとつになれなかったことひどく悔い病んでいるようだった。
「こんな私でも、貞継様やマホロバの民のお役に立てるかと思ったのですが……」
玖朔は詳しい事情はわからないがと前置きして、こう言った。
「この状況を見るに、俺はその方が良かったと思うがね。扶桑になっちまったら、その将軍の子とも逢えなくなるんだろう。たとえマホロバの世界樹なったとしても所詮は『樹』だ。何が出来る? その子にとってこの世で唯一の味方は、あんたしかいないんだから」
彼らはマホロバ城へ向かう途中で野宿し、焚き火を囲んで見つめている。
火は地面におちている花びらを燃やしている。
つかさは、はらはらと涙を流していた。
玖朔はハヅキや九十九たちパートナーがいる側で、臆面も無く言った。
「このまま、連れ去ってやりたい気分だ」
彼はつかさを抱き寄せて淡い色の髪を撫でていた。
つかさはしばらく玖朔に身を任せていたが、一瞬彼から身を離し、両手で地面の花びらをかき集めて夜空に向かってばらまいた。
「天子様、この鬼の力……お返し致します。あなた様も本当は、人として生きたかったのでしょう。鬼に、逢いたかったのですか?」
つかさの問いに返事はない。
しかし、彼女はこの声は桜の世界樹に届いているのを確信していた。
玖朔はそれを目の当たりにする。
「お、おい……これはどうなってんだ……!?」
つかさの失われた体の一部分が戻っていく。
小さな蕾のようだったそれは、大きく、柔らかく膨らみ、たちまち彼を魅了した。
「なにか、よからぬことをしたのですか?」
と、つかさの大きく膨らんだ胸を見て、目が笑っていないハヅキと九十九が玖朔に詰め寄っていた。
「いや、俺はまだ触ってな……」
「やっとまともに働く気になったかと思ったのに」
「俺はいつだって真剣だろうが……局地的にな」
玖朔たちのやりとりに、つかさはいつしか微笑を浮かべていた。
「そう……繋がる相手が居るのが自然な形。マホロバの皆様も……幸せに過ごせますように……」
つかさはこの地に芽吹くであろう新しい命にの幸せを祈っていた。
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