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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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七不思議 秘境、茨ドームの眠り姫(第1回/全3回)

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「いいかげんに……」
「そうよ、いいかげんにイコンに慣れなさいよね。さあ、いくわよ!」
 まだ簀巻き状態のシルフィスティ・ロスヴァイセに言うと、リカイン・フェルマータがコロージョン・グレネードを茨にむかって投げつけた。
 ビチャッと黒い粘性の液体が飛び散り、茨の一部が枯れ始める。だが、とても、効率よく茨を排除しているとは言えなかった。
「無様だわ」
「ううっ、やっぱり、豪快に切り刻む方がいいわね」
 今度はダブルビームサーベルを取り出して、豪快に茨を切り刻み始める。
「はははは……」
「ぴーぴー」
「はっ?」
 調子に乗って高笑いしていたリカイン・フェルマータであったが、突然変な鳴き声に気づいて後ろを振り返った。
 見ると、いつの間にか獣人の子供が、タオルにくるまれてコックピットの端っこで泣いている。
「フィス姉さん、いつ産んだの?」
「ほ、ほどけえ! すぐ殴り倒す!」
 簀巻きのままで、シルフィスティ・ロスヴァイセが激しく暴れた。
「だから、イコンは呪われてるっていうのよ。なんで捨て子まで乗ってるのよ!」
「そ、それは……、あっ、なんだかパワーが上がっている気が……。よし、このまま茨を殲滅よー」
「ごまかすなー!!」
「びーびーびー」
 シルフィスティ・ロスヴァイセの大声に、獣人の子供が火がついたように泣きだした。
「ええっと、とにかく、この子どうしよう……」
 オートでダブルビームサーベルをイーグリットに振るわせながら、リカイン・フェルマータはつぶやいたのだった。
 
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「さあ、いよいよ、追加武装ユニット・重爆撃型の性能テストだ!」
 満を持して、ドクター・ハデスがヘスティア・ウルカヌスに命じた。
「分かりました。戦闘モード、起動」
 イコンの肩に装着されたヘスティア・ウルカヌスが、モードをチェンジした。瞳の虹彩が絞られ、表情が固定される。その視界は、今はイコンの物を使用しているようだ。
『ミサイル発射します』
 ドクター・ハデスの前のコンソールから、ヘスティア・ウルカヌスの声が聞こえた。通信ではなく、イコンのシステムを直接制御したものだ。
「許可する。思いっきりやるのだよ」
『はい』
 ヘスティア・ウルカヌスのバックパックから、次々にミサイルが茨にむけて発射された。いや、この攻撃ではイコンとコネクトしている意味はまるでないと思うのだが、あくまでもイコンはヘスティア・ウルカヌスのオプションパーツの一つというデザインである。
「よし、あたる。明後日ミサイルと言われた、限りなく命中しないミサイルがイコンのFCSと連動することによってあたるようになったのだよ」
 ドクター・ハデスは得意満面だが、ほぼ0距離射撃で直径1キロ以上ある茨ドームを外すという方が神業である。さらには、FCSを管理しているのはメインパイロットであるドクター・ハデスなので、本当はヘスティア・ウルカヌスは今まで通り何もできないでいるのかもしれない。
「だが、結果は出ている! さあ、今までの無駄弾の鬱憤を晴らすがごとく、どんどん撃ちまくるのだあ!」
 よっぽど結果が出たのが嬉しかったのか、ドクター・ハデスがほとんど無差別に茨を攻撃し始めた。やはり不思議なことに、たまにミサイルが外れて、関係ない大木を破壊したりするのだが、そういうのはあまり気にしてはいない――というよりは、即座になかったことにしているようであった。
 だが、流れ弾で破壊された大木の方は、幻でもなんでもなく燃えながら周囲に飛び散っていった。広範囲に飛び散った燃えさしが、秋の乾燥した落ち葉に燃え移り、やがて下生えの草に、そして樹木へと拡大していったのだった。
 
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「なあんだ、結構一人でもやれるじゃないか。ほれほれほーれ!」
 一人で操縦するイコンは、普段の出力の30%程度しか出ないが、反撃もしないただの茨の茂みを攻撃するだけであれば、相手がどれだけ巨大であろうと、ほとんど射撃練習のようなものである。調子に乗ったラグナ・レギンレイヴは、ツェルベルスの三首を大きく振り回して走りながら、周囲に地獄の業火を振りまいていた。やがて、それはラグナ・レギンレイヴの考えるよりも大きく広がっていったのだった。
 
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「なんだ、もうとっくの昔にかたづいていると思っとったら、まだなんかい。これは追加手当のチャンスやな」
 オベリスクから戻ってきた大久保泰輔が、燃えながらまだ原形をとどめている茨ドームを見て言った。
「やれやれ、張り切りすぎなのだがな」
 まあ、こっちはさっきのような危険はないだろうと、讃岐院顕仁も大久保泰輔の好きにさせることにした。
 燃えて崩れかけた茨ドームを、ダブルビームサーベルで撫で切りにする。コバルト色のフォイエルスパーの機体が、炎の照り返しを受けて赤紫色に輝いた。
 
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「ああ、帰ってきたんだもん。おーい」
 戻ってきたアルヴィトルの姿を見て、ココナ・ココナッツが手を振った。隊長の連れてきたメイドたちと一緒に、安全な所で待機していたのだ。
「なんだか、ずいぶん壊れちゃってるんだもん」
「大丈夫、見た目だけですから。中身は平気ですよ。それより、思った以上に火が広がっているみたいですが……」
 飛び火して延焼している森を見て、シフ・リンクスクロウが聞いた。その背後に、同じく帰還してきたツィルニトラが、かかえてきた宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢ごとゆっくりと着地していった。
「あのね、もうイルミンから消火隊が出たからいいんだって隊長さんが言ってたんだよ」
「隊長が? イルミンにスパイでも放っているのかしら」
 情報が早すぎると、シフ・リンクスクロウがちょっと訝しんだ。
『ははははは、燃えろ燃えろー。最高、最強、最凶、サイキョーだぜぇい!!』
 そんなシフ・リンクスクロウの懸念を吹き飛ばすかのように、ゲブー・オブインの拡大された声が周囲に響き渡った。
「とりあえず、茨の駆除は他のイコンに任せて、私たちは周囲の警戒にあたりましょう。遺跡というのが現れたら、その正確な位置を確認しなければいけませんからね」
 ココナ・ココナッツの安全を確認すると、シフ・リンクスクロウは茨ドーム上空へとアルヴィトルで移動していった。
「なんで、もうこんなに炎が広がっているの?」
 広がる炎を見て、テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェンも唖然としていた。自分が宇留賭羅・ゲブー・喪悲漢を運ぶためにゆっくりとしていたから、こんなことになったのだろうか。
「テレサちゃんのせいじゃないわよ。さあ、これ以上関係のないところに火が広がらないようにうまく立ち回りましょう。今、火が広がらない茨の焼き方を計算するから」
 瀬名千鶴が、コンソールに指を滑らせながら言った。
『データ受け取ったでございます。このラインに沿ってガネットランスで防火帯を作ってから、内側にむかって焼いていきましょうでございます』
 デウス・エクス・マーキナーが、中のテレジア・ユスティナ・ベルクホーフェンに言った。
 
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「さあ、いけー、ヘルハウンドちゃんたち! みんな、滅して下さい
 茨を指さして命令しながら、志方綾乃が空飛ぶ魔法でヘルハウンドたちの群れを纏めてコントロールした。さすがに数が多いので、集中力が半端なく必要になる。
「きゃんきゃんきゃん」
「わんわん」
「ぽっぽー」
 元気に空中を駆け回りながら、ヘルハウンドたちが口から炎を吹き出して茨を焼いていく。たまに勢い余って転んでしまい、後続を巻き込んでコロコロの犬団子になってしまうのは御愛敬だ。怒濤の子犬集団が通りすぎた後は、燃えさかる炎が茨を焼き尽くしていた。
「その調子よ、今度はあっちですよー」
 調子に乗って、志方綾乃がヘルハウンドたちに命じた、そこに一瞬の気の緩みがあったのか、ヘルハウンドの一匹が茨のトゲを踏んづけてしまった。
「キャンキャンキャン!!」
 とたんに、悲鳴と共に隊列が乱れる。
「ああ、ちょっと、どこへ行くの!?」
 驚いた志方綾乃のコントロールも乱れ、ヘルハウンドたちは茨ドームとは関係のない森の中へと駆け込んでいった。
「ああ、そっちはだめです!」
 炎を撒き散らしながら延焼を広げて行くヘルハウンドたちを、志方綾乃はあわてて追いかけていった。