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大地を揺るがす恐竜の騎士団(下)

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大地を揺るがす恐竜の騎士団(下)
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第六章 怪獣大決戦



「私の、私のアヴァロンが……」
 協定を結び、多少の慢心はあっただろう。
 突然の背後からの奇襲に加え、恐ろしいほど正確に間接を狙い撃ちにされた。大事な機関はほとんど無傷だが、荒野のど真ん中で修理をするには設備も道具も無い。アヴァロンをこれ以上使うことは不可能となった。
「……この辺りで危険しとくか」
 ゲドーはわりとあっさりそう決めた。この決戦が、最終的にラミナの勝ちに収まれば大体は丸く収まる。そういう算段で、協定を結んだのだ。自分の役割と引き際ぐらいは、心得ているのだ。まぁ、勝てたら勝てたで面白いとも思っていたが、イコンが使えなくなった生身の状態で戦場をかけまわる程、命をかけているわけでもない。
「あとは頑張ってね、ジャジラッドちゃん」

 いつか旅館を開いた時に、観光資源のあるなしは大きく状況が変わってしまう。
 恐竜という大事な観光資源を守るためにも、ここで恐竜騎士団を追い出してしまうわけにはいかない。それが、テレジア・ユスティナ・ベルクホーフェン(てれじあゆすてぃな・べるくほーふぇん)が素性を隠してまで、ラミナの軍勢に参加した理由だ。
 観光資源を守りつつ、ついでに恩も売れるとなれば、多少の危険をと秤にのせても十分釣り合うと判断したのである。
「前の方は賑わっているみたいですね」
 状況は此の方有利といったようすで、第二派閥のジャジラッドとの協定が効いているのは間違いなかった。既に、大将が落ちている陣営もあるらしい。
「いきなり独り言をされると対応できないのだが」
 そう言うのは、今彼女が身にまとっているデウス・エクス・マーキナー(でうすえくす・まーきなー)だ。身元を隠すために、声色を変えるのではなく、魔装のデウスが代わりに喋っているのである。フルフェイスなので、聞く分には判断できないのだ。
「イコンの中でぐらい許してあげなよ。喋っちゃだめってのも、疲れちゃうものよ」
 瀬名 千鶴(せな・ちづる)が言うように、ずっと黙っているのも疲れるものだった。たぶん、喋らないと意識してしまうからだろう。
「けが人の護衛も終わりましたし、戻りますよ」
 戦場の外では医療チームが頑張ってくれているが、彼らの種モミマンでは対応しきれていないのも現状だ。ある程度まとまった負傷兵を護衛しながら、ラミナの戦力でカバーできている部分まで下がってきたのだ。
 あとは、自力で戦場の外に出てリタイアするか、それとも戦場に戻るかは彼らの意思に任せている。そういう選択の余地が無い人は、もう種モミマンが連れていってくれている。
 ツィルニトラと共にある程度前に進んでいくと、戦線がだいぶこちらに寄ってきているようだった。アサルトライフルをいつでも撃てる状態にして、ゆっくりと前に進んでいく。
「どこの部隊ですか?」
「あれは、紫月という人のところね。第四勢力だけど、それにしては随分と押されているみたい」
「中継サイトを見てみるのがよいのではありませんか」
 サイトでは、生中継のほかに最新情報を掲示もしている。見ると、紫月 唯斗(しづき・ゆいと)はこの時点で勢力を二つ倒しているそうだ。ゲドー・ジャドウとリカイン・フェルマータの陣営はどちらも彼の勢力よりも下ではあるが、下位の相手に勝てて当然の状況なら、とっくにラミナが勝って終わってるはずだ。
「あら、変な方向から反応が……速い!」
 今戦っているのとは、違った方向から何かが一つだけこちらに向かってきている。
 すぐにそちらに機体の向きを変えると、向かってきているイコンの姿が見えた。
 絶影、紫月 唯斗の勢力の大将が操るイコンだ。
「味方と連携をとるつもりではないようでございますね」
「一人で突破して大将狙いですか……たぶん、私達よりずっとイコンの操縦が上手なんですよね」
「だからといって、見逃すつもりはないでしょ?」
「もちろんです」
「キマク旅館「恐竜荘」を作る為には負けられませんよー」
 アサルトライフルで迎撃しようとするが、こちらが狙いをつけようとした瞬間、がくんと軌道が変わった。中のパイロットはあんな動きをして酔わないのだろうか、なんて素朴が疑問が浮かんでくる。
「撃ちながら、狙いを補正します」
 向こうだってこっちの姿は見えているのだ。よーく狙って、とはさせてはくれない。とにかく撃って、少しでもダメージを与えるのだ。
 今装着されているマガジンが空になるまで撃ち続けたが、着弾の確認はできなかった。いい感じの弾はいくつかあったが、相手の動きにこれといって変化が無かったからだ。
「マガジンを切り替えている暇はないわね」
 千鶴が言う。
 もうだいぶ近づいてきてしまっている。マガジンを交換するなんて隙を見せたら、かなり手痛い一撃をもらうだろう。最悪、一撃でリタイアだ。
「ガネットランスで、一か八かだ」
 傭兵口調でいうデウスの台詞が中々決まっていた。それに従うのが今のところ最善の策だった。一か八かの時点で策とは言いがたいが、他に手があるわけでもない。
 アサルトライフルを捨てて、ガネットランスを構えて近づいてくる絶影にすれ違いの一撃をと気構える。だが、ツィルニトラがライフルを捨てたと見るや、絶影は高度を取って三人の上を通りすぎていった。
 攻撃する手段が無いのならば、わざわざ相手をする必要はない。
 そうあの機体が喋ったわけではないが、そんな風に言われた気がした。追いかけるには、あのイコンは早すぎる。
「技量の差は覚悟してたけど、無視されるというのは心外ね」
「……とにかく、今は勝つことです。幸い、あの方向に進むのならラミナには当たりません。放っておいても、大丈夫です」
「ラミナ様が勝たないと、恐竜荘の話も全て消えてしうな」
「そうね、今はテレサちゃんの言うとおりか。こっちも被弾ゼロ、ちょっと弾丸を無駄遣いしちゃっただけだもんね」
 千鶴うんうんと頷いて、まずは先ほど投げたアサルトライフルを拾った。
 マガジンを交換しつつ、前方の戦闘の援護に向かった。

 ソーの操る超大型のティラノサウルスの通称は暴君王。その巨大な体で、敵陣に乗り込んで蹂躙する。
「でかさだったら、こっちも同じくらいはあるんだ」
 ニコライ・グリンカ(にこらい・ぐりんか)ボア・フォルケンハイン(ぼあ・ふぉるけんはいん)が登場するフェアラートはLLサイズのイコンだ。尻尾の先まで計測して全長で比べればすれば向こうの暴君王が勝つだろうが、頭の位置には大きな差はない。
「なんとか、あのティラノサウルスだけでも仕留められればいいんですが」
 全軍を引き連れて、戦場を駆け回るソーが中々止められない原因が、この暴君王だ。他の勢力の軍勢が壁を作っても、いとも容易く踏み壊していく。機能を半減させられたところに、彼の軍勢が飛び込んでくるので中規模の軍勢をぶつけても、あっという間に壊滅してしまう。
 その為、暴君王さえ取り上げることができれば、彼らの突撃力は大幅に下がるだろう。
「まずはこっちからだ!」
 大地を揺らしながらフェアラートは前に進み、暴君王の顔面を殴りつける。さすがに、同程度の重さがある相手の一撃は効いたらしく、暴君王はたたらを踏んで下がった。
「効いてますね、いけますよ」
 今度は暴君王が、その場で体を捻って尻尾を振るう。幾多の軍勢を一撃でなぎ払ってきた尻尾攻撃だ。だが、映像で何度か見ている攻撃でもある。
「うおおっ」
 大きさもあるので、飛び回って回避なんて術は取れないし、取らない。最初から受ける覚悟はしていたが、物凄い振動がパイロットの二人を襲う。普通なら、操縦もできないような状況だが、フェアラートはしっかりとその攻撃を受け止め、さらに尻尾を掴んだ。
 シェイクされた二人のパイロットの技ではなく、この場にいないで遠隔地からフェアラートを操縦しているザウザリアス・ラジャマハール(ざうざりあす・らじゃまはーる)のおかげだ。
「……頭がぐわんぐわんします」
 額を抑えながら、ボアがうつむいた。
 フェアラートは遠隔操作が可能だからと、ザウザリアスはこの場ではなく中継を確認しながら、ニコライと精神感応を行い、最大限の情報を集めをしつつ戦場のイコンを操っている。
 それは戦術としてはかなり有効なのだろうが、ニコライはともかく、ボアがこの場に乗っている理由が甚だ疑問に思っていた。別に、案山子か何かでいいように思う。特にこんな強敵を前にして、何もできないし何もすることもないままダメージは受ける現状は面白くはない。
「ボア、なんでもいいから捕まれ!」
 突然、ニコライが言い出す。急いだ様子に、意味を確認する間などなく適当なところに捕まった。
 すると、尻尾を掴んだフェアラートは傍目からには緩慢な動作で、その場で回転しはじめた。怪獣の尻尾を掴んだ時のお約束、ジャイアントスイングだ。
「うおおおおおお」
「目が回る〜」
 遠心力で座席から吹き飛ばされないように、手近なものを掴んではいるが、回転する時に振り回される三半規管までは守れない。
 十分に勢いが乗ったところで、暴君王を投げ捨てる。その体が大きすぎることもあって、敵の軍勢を巻き込んで大きな損害を与えたようだが、二人も結構な損害を受けた。それでも、フェアラートの動きは鈍ったりはしない。
 大地を揺らしながら、追撃のために前へと進んでいく。
「は、はやくあの恐竜を倒して、開放して欲しい……」
 ボアの願いむなしく、暴君王はまだまだ戦えるぞとすぐに立ち上がると、頭を突き出して突進してきた。ガードが間に合わず、今度はフェアラートが吹き飛ばされる。だが、機体への損害はそれほどでもなく、すぐに立ち上がってみせた。
 巨大ロボット対巨大恐竜の戦いは、互いに一歩も引かないまま繰り広げられていた。それを、見つめる視線が一つ。絶影だ。
「マスター、決着がつくまで待ちますか?」
 プラチナム・アイゼンシルト(ぷらちなむ・あいぜんしると)が唯斗に尋ねる。
 怪獣大決戦ともいうべき迫力のある戦いの余波で両軍の部隊に被害が出ている。決着がつくまで待てば、それだけあの周囲の軍勢を減らすだろう。
「……ソーは乗ってはいないみたいようだな」
 エクス・シュペルティア(えくす・しゅぺるてぃあ)が言うように、暴君王の背中の上にソーの姿は無い。あんな立ち回りをしている恐竜の上に乗っていたら潰されてしまうだろう。
「あそこに割り込んでもいいことはないですね。ソーを見つけて、そっちを狙いましょう」
 暴君王の背中にいないのならば、ソーは生身で動いているはずだ。いくら強いといっても、生身とイコンではイコンの方が有利になるはずである。もっとも、世の中には生身でイコンを圧倒する化け物も少なくないので、あくまで常識の範囲ではという話だ。
「見つけた」
 ソーの姿は、フェアラートの肩の上で見つけた。
 大立ち回りをするイコンの上で、ふらつくことなく立っている。ソーはそこで自分の剣を抜くと、自分の立っているフェアラートの肩にその剣を突き立てた。
「ふおおおおおおおおおおおおっ!」
 そして、走る。突き立てたままの剣を引きながら、重力を無視したように肩を一周回ってみせて、最初に剣を突き立てたとことまで戻ってきた。
 剣を引き抜くソーの背後では、暴君王が頭突きをしようと向かってきていた。その狙いは、ソーの立っている肩の部分だ。ぶつかる一瞬手前で、ソーは高く飛び上がり、そこに頭突きが命中する。
 切れ込みが入った肩はその衝撃に耐え切れず、ひしゃげてしまった。千切れこそしなかったが、肩から先はだらりと垂れ下がり、操作を受け付けなくなってしまっているのが見てとれる。
 そこからは暴君王の独壇場だった。壊れた腕の側に執拗に回り込んでは、何度も打撃を加えていく。防御も反撃もままらないまま、フェアラートはついに倒れて動かなくなった。
「もはや曲芸ですね、あれは」
 暴君王とやりあえる唯一の味方が倒れたことで、ジャジラッドの兵隊は戦意を大きく落とし、あっという間に壊滅させられた。敵を蹴散らした一行は、そのまま唯斗に向かって進んでくる。
「とりあえず見える敵を狙っているのだろうな。追いかけっこなら逃げ切れるだろうが、どうする?」
「倒しても利の無い配下ならまだしも、相手は大将です。背中なんか見せては失礼ですよ」