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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

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燃えよマナミン!(第2回/全3回)

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【2】覇王マリエル無双拳……4


 ここで少しだけ時間を遡る。
 ところは空京中華街の外れにある黒楼館道場。
 壁際に並んだ門下生たちが見守る中、黒楼館の協力者三道 六黒(みどう・むくろ)はマリエルと手合わせをしていた。
「覇王に稽古をつけようなど片腹痛いわ!」
「心は覇王となれど、まだおぬしには実が伴っておらん。奢るな、学べ」
 マリエルの拳型は小柄な彼女にはそぐわない威力重視の攻めの型。
 全身の経絡から溢るる闘気を拳に纏い、的を屈服させるかのような強力な連撃を繰り出す。
 とは言え、覇の道では六黒のほうが先駆者である。荒削りな若き覇王の拳をいなし、自らの技を容赦なく叩き込む。
「ぐおおおおっ!!」
 強烈な一撃にマリエルは床を跳ねた。
「おいおい、マリエルの奴一方的にやられてんじゃねぇか……」
「いい気味だ、すこし見所があるからってカソ様に気に入られやがって」
「むしろおっかねぇのは三道さんだろ。あんな小娘相手にあそこまでしなくても……」
 門下生たちはこの一方的な指導にざわめいていた。
才無き者は黙れ
 六黒の言葉に道場はしんと静まる。
 一方的にマリエルがやられているように見えたのは、彼らが凡夫であることの証左に過ぎない。
 彼女の技は打ち込むごとに改善されていく。六黒もこの才に応えるように一撃一撃を丁寧にマリエルに与えた。
「覇王の道を進むのであれば、全ての一歩を完璧な物とせよ」
「ぬおおおおおーーっ!!」
 拳と拳がぶつかりあう。二人の凄まじい気は衝撃波となって道場の壁を打った。
「全ての技を支えるのは、ただひたすらの反復。しっかりと己の身体で覚えるのだ」
「我は覇王マリエル! 貴様ごとき老兵などすぐに踏み越えてみせるわ!」
「おもしろい……」
 荒ぶる若者を見つめる六黒の眼差しはどことなく穏やかだった。
 遠き日を懐かしむような、いやその面影をこの機会に捨て去ろうとしているような……。
「覇王は何故覇王とよばれるか。それは誰も為しえぬ道を踏破するからこそ覇王とよばれるのだ」
「ぬ?」
「その為ならば、己の内に在る他の何をも捨てねばならぬ。そして、その道で敗北した者達の怨嗟・遺恨を背負うて進まねばならぬ。道を極めんとする者には、すべからくそれがある。わしも、カソら五大人とて同じ
……え、そうなん?
 急に振られてカソはドギマギした。
「故に、その拳は重いのだ。昨日今日、覇王を名乗っただけの貴様の拳では、軽すぎる」
「なにぃ……」
「己にその覚悟はあるか? 全ての繋がりを捨て、己一人で背負うて生きる覚悟は?」
「老兵の愚問など聞くに及ばず。我は覇王マリエル。ただ覇道を突き進む者なり」
「その決意、拳で証明してみせよ」
 奈落人虚神 波旬(うろがみ・はじゅん)が六黒の身体に降臨する。
「ここからはわしが手ほどきしてやろう。この僥倖を喜ぶがよい。そして一日も早く育ち、わしを愉しませよ……」
「古き者ほどほざきよる。新世界の覇王の前に跪くがいい」
 六黒の指導を受けたマリエルの拳はこの数時間で、脅威的な進化を遂げていた。
 放たれる突きは時折、波旬の守りを抜けるほど。それも拳を合わせるごとにより精度が増していく。
「この拳型、六黒の日本武術の痕跡が見られる。なるほど、奴がこの娘をかっていたのも頷ける。しかし……」
 インド総合武術『カラリパヤット』の体捌きを見せ、波旬は身に突き刺さる激しい拳に耐え抜いた。
「実力が匹敵するなら、あとは意地がものをいう。わしとの意地の張り合いに身が朽ちるまで付いてこれるか?」
「答えるまでもなかろう」
 六黒と波旬による鍛錬は、拳士としても覇王としても、みるみるマリエルを成長させた。
「流石カソ様の見出した少女、五大人が六大人になる日もそう遠くはありませんわね」
「ふっふっふ、当たり前アル。人を見る目が違うアル」
 帽子屋 尾瀬(ぼうしや・おせ)がご機嫌をとると、カソは嬉しそうに笑った。
「しかし彼女があのまま育ってしまうと、カソ様でも手に負えなくなるのでは?」
「なにぃ?」
「ああいえ、出過ぎた真似でしたね。ただ万が一に備え、彼女をどうにかする術は用意しておいたほうが得策かと」
「ワタシを舐めてるアルか。扱い易くするのに覇王孔を突いたのにどうしようもなくなったらワタシすごい無能アル」
「まぁそうなんですけど……」
 実際問題そうなりつつある気がするが。
「ところでカソ様」
「ん?」
「実は我ら悪人商会は『門下で習得した技術を社会で活かそう!』キャンペーンを展開しておりまして」
「なにアルか、その浮ついた企画は?」
「これも何かのご縁ですし、今後も良き協力関係が築ければと」
 カソは手渡されたパンフレットに目を落とす。
「……ふむ、おもしろいヤマがあるなら、我ら黒楼館も手ぇ貸すアルヨ。勿論、旨味のあるヤマならの話アルが」
「ええ、勿論ですとも。我が社では各種オイシイ話、ウマイ話を取り揃えております。詳しくはパンフレットを……」