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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

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燃えよマナミン!(第3回/全3回)

リアクション


【4】天宝陵『万勇拳』ここに有り!……1


 五重塔……いや、五重塔があった場所。
 エヴァルト・マルトリッツ(えう゛ぁると・まるとりっつ)は塔の残骸が散らばり土煙が舞う光景を見ていた。
 気を失った黒楼館の門弟に混ざって、万勇拳の仲間もちらほら見えた。中には瓦礫の下になってる者もいるだろう。
 しかし救助をしている余裕は今は無い。
 黒楼館館主ジャブラ・ポー、この男の所在を確かめるまでは気を抜く事は出来ないのだ。
(凄まじい爆発だったが、あの程度でやられるような敵じゃない。まだどこかにいるハズだ……)
 とその時、凄まじい殺気を感じて、エヴァルトは身を躱した。
 その途端、目の前にあった瓦礫の山が粉々に砕け散った。
「出やがったな、老師の仇!」
 殺気を読むと、空間に掌打を放つ。
 すると手応えと共に、光学迷彩で消えていたジャブラが姿をあらわした。
「許さんぞ、万勇拳! よくも祭壇を……! 我が野望の前にはだかる者は何人たりとも生かしてはおかん!」
「勝手な事を。良いも悪いもリモコン、いやさ祭壇次第の龍脈も、そいつが無くなりゃどうにもならないようだな」
「黙れ!」
 ジャブラの龍尾返しをエヴァルトは避けた。
 変則的な尻尾を注意しながら、素早く牽制の突きを放ち、守りに重きを置いて立ち回る。
 とは言え、浅い踏み込みから繰り出す技はさほどダメージにはならない。
 幻魔無貌拳『龍』の型を使うジャブラは龍と同等の生命力を持つ。生半可な攻撃ではすぐに回復されてしまうのだ。
(……そいつはわかってるが、向こうは一撃に長けた使い手、ここは我慢の時だ)
「覇気の感じられぬ気の抜けた突きだ。万勇拳では攻め方のイロハも教えてないのか?」
「なんとでも言え」
「ふん、腰抜けめ。そちらが来ないなら、こちらから行かせてもらう」
 そう言うと気を口に集束させた。
「消し飛べ! 幻魔無貌拳奥義『龍咆哮』!!」
 天地を鳴動させると言われる龍の叫び、それを模したこの技は、口から石壁を粉砕するほどの衝撃波を放つ。
「うおおおおおお!!」
 全身を打ち付ける強烈な衝撃に、エヴァルトは気合いで耐える。
 凄まじい威力だが、しかしそれほどの技だからこそ、繰り出した時の隙も大きい。
「はあああっ!!」
 エヴァルトは力を振り絞って、ジャブラの顎に渾身のアッパーを叩き込む。
 不意の一撃に加え、閉じた口の中で衝撃波炸裂、これにはさしもの彼も悶絶した。
「ぐおおおおおおおっ!!!」
「龍脈の加護無き今、お前には加護のツケが一気に回ってくる。何倍もの不幸になってな!」
「なんだと……!」
今の貴様は空京一ツイてない不幸人間なのだッ!
 エヴァルトはビシィと指を突き付けた。
「雑魚が、頭に乗るなっ!!」
 ジャブラの背後から飛び出した尻尾が、エヴァルトの胸に突き刺さった。
「がはっ!?」
 その衝撃たるや凄まじく、壁に叩き付けられたエヴァルトは、完全に意識を失って倒れた。
「エヴァルトちゃん!」
 遅れて駆けつけた殺戮の爆炎拳緋柱 透乃(ひばしら・とうの)は声を上げた。
「ふん、新手か」
「こちらにもいますよ」
 続いて、安芸宮 和輝(あきみや・かずき)と仲間達もジャブラの前に立ちはだかる。
「龍の技を使う男ですか……」
 安芸宮 稔(あきみや・みのる)は言った。
「おそらく、その真の名は『青竜』」
「青竜?」
「ええ、方角は東、色は青、属性は嵐、季節は春……。雷撃や嵐にまつわる攻撃に気を付けてください」
 あまりにもそれらしく語るので、一瞬、あ、そうなのかな……ってなったが、あくまでも推測である。
「龍とは自然の驚異そのもの。天駆ける稲妻、山を焼く炎、川を溢れさせるもの。何が来てもおかしくはありません」
「なるほど……」
「二人とも気を付けてください。ジャブラがこっちに来ますわ、下がってください」
 クレア・シルフィアミッド(くれあ・しるふぃあみっど)は稲妻を掌から放出した。
 しかしジャブラは龍鱗功で身を覆うと、稲妻をものともせず、真っ直ぐに突っ込んで来た。
「まさか……!」
「龍の鱗は炎も稲妻も寄せ付けん。破れるのは、ただ純粋な力だけよ!」
「それなら、これはどうです!」
 魔力を集め、今度は目の前に酸の霧を放つ。
「!?」
 勿論、炎も稲妻も弾く龍鱗功相手では酸も効果は薄い。
 だが、それでも彼の接近を刹那止める事には成功した。
「小賢しい真似を!」
 鞭のようにしなる尻尾が、クレアに襲いかかる……とそこに稔が立ちはだかった。
 雷撃を帯びた矛で、乱れる尻尾の乱打を冷静に見極め、弾き落とす。
(この威力。防御に専念すれば尾ぐらいならばなんとか……。しかし懐に潜り込まれたらひとたまりもありませんね)
 矛に響く強烈な衝撃に、稔はジャブラの底知れない実力を推し量った。
「ちょっとちょっと、ジャブラちゃん。敵はそっちだけじゃないよっ」
「むっ!」
「そりゃあああああああ!!」
 拳に気合の烈火を灯し、煉身の声気と共に、透乃はジャブラに詰め寄った。
 ジャブラは闘気をその腕に集束し、次々に繰り出される彼女の拳打を止める。
 一目見ただけで、剛拳の使い手と判断し、防御を固めたジャブラだったが、彼女の拳打は想像よりも強力だった。
「おりゃおりゃおりゃ!!」
「この拳気……!」
 この怒濤のラッシュを前に、ジャブラも反撃の機会をなかなか掴めずにいる。
「へぇ、なんだかいい感じ。やるじゃない、透乃ちゃん」
 陰から様子を窺う月美 芽美(つきみ・めいみ)は、不敵な笑みを浮かべた。
 彼女の信条は手段は選ばず勝てばいい、真っ向勝負を避けて奇襲の隙を見極めていたが、その時は意外にも早く来た。
「もらったぁ! 必殺『翔羽流星脚』!!」
 死角から一撃必殺の飛び蹴りを放つ。
 ところが、彼女は以前食べた『智恵の実:無意識の発声』の影響で、技を出す時は声が出てしまう性。
 奇襲のはずが、思いっきり声が出てしまっていた。
「ぎゃんぎゃん喚くな、失せろ!」
「きゃああああ!!」
 必殺の龍尾返しが芽美をぺしんと叩き落とす。
「芽美ちゃん!」
「人の心配をしている場合ではないぞ、小娘。貴様が対峙している男が誰だか忘れたか?」
 次の瞬間、ジャブラの吐き出した龍咆哮が、透乃をその場から吹き飛ばした。
「うわあああああっ!!」
「透乃さん!」
 和輝は声を上げた。
 その人智を超えた攻撃力と、並の攻撃を寄せ付けない防御力は、まさに龍だった。一辺の隙も見当たらない。
「龍ならば……」
「?」
 ふと稔が言った。
「彼が龍を模倣しているならば、弱点もまた龍と同じでしょうね」
「龍の弱点……ですか?」
「攻守ともに脆弱な真下に回り込んで逆鱗から脳を打つ。昔、そんな龍退治の伝説を聞いたことがあります」
「真下、つまり顎の辺りでしょうか。そう言えば……、エヴァルトさんの攻撃もそこに入っていましたね」
 とは言え、顎を狙うには正面に立たなければならない。龍の正面ほど、死が匂い立つ場所もないだろう。
「どうにか隙が出来ればいいんですが……」
 とその時だった。
 不意に漆黒の影が、ジャブラの背後に迫った。
 エヴァルトの気絶と共に、その意識を完全に掌握した殺戮本能 エス(さつりくほんのう・えす)だ。
「くくく……、気絶したなら好都合、こういう時でもないと体を乗っ取れないからな」
「なんだ、貴様は……!」
 銀から赤に変化した髪、煌煌と光る黄金の目。
 風貌もすっかり様変わりした彼に、ジャブラは同一人物だとは気付いてないようだ。
「俺が誰かなんざどうでもいい。どうせお前はここでくたばるんだ。知ってもしょうがねぇだろ?」
「ふん、虫けらが持つには大そうな自信だ」
「自信じゃねぇ、確信だ。俺が目覚めた時に目の前にいたのが運の尽きだ」
 その手が不気味にゆらめいた刹那、血をすする妖刀の如き、鋭い手刀の七連撃が放たれた。
「その程度」
 ジャブラは掌を龍牙掌で覆うと、息をも吐かせぬ連撃を、こちらも尋常なるざる神業で相殺していく。
「ほう。なら、こいつには耐えられるか。このナラカの底で鍛えた暗闇の技にな……」
 漆黒の闘気がエスを包む。
「これが本家本元『鬼震黒掌』! はああああああっ!!」
 怒濤の連続攻撃が、敵の反応を僅かに上回った。渾身の掌底に、ジャブラは大きく態勢を崩す。
 この隙を逃さず、和輝も一気に間合いを詰めた。
(敵は龍、手負いの龍ほど恐ろしいものはありません。ここは一撃で仕留めなければ……!
 安芸宮に伝わる秘技『水月捷歩』で素早く懐に入り、グッと構えた拳に全闘気を集める。
「!?」
「技をお借りしますよ、透乃さん。万勇拳奥義『抜山蓋世』!!」
 一撃に全てをかけた必殺拳が、ジャブラの下顎を打ち砕く。
「ぐ、あああああ……!!」
 天高く突き上げられたジャブラは、脳をゆらす衝撃に大きな目をぐるぐる回した。
 しかし万勇拳の攻撃はまだ終わっていない。
 素早く攻撃後に間合いをとった和輝と入れ替わり、今度は透乃が攻撃に転ずる。
「あの奥義は私が一番修行を積んだんだもん。ここは本家の抜山蓋世を見せないとね……!」
 大きく息を吸い込んで露出拳、膨張した筋肉に大胆なチューブトップが弾け飛ぶ。
 大きな胸がぷるるんと露になるも、彼女はまったく気にもせず、ただひたすらに気を練り上げる。
 これは背水の陣、あえて露出拳を使う事で自分を追いつめたのだ。
(抜山蓋世、まだあの奥義の神髄に、私は到達していない。本来ならあの技を食らって吹き飛んだりはしないもの)
 対象が吹き飛んだと言う事は、気の集束が不足しているに他ならない。
 元来、抜山蓋世は一点突破の破壊の奥義。対象をただ粉砕せしめてこそ完成するのだ。
「やっぱり慣れない事はするもんじゃないよねっ」
 透乃は一切の守りを捨て、攻撃にだけ意識を集中する。
 拳士の作法に則ろうとしても無理が生じる、元々自分は梟雄、ならばその中で徒手格闘の妙技を完成させればいい。
「梟雄には梟雄なりの、私には私なりの、戦い方があるんだから!」
 大地を力強く踏み込んで跳躍、空中を舞うジャブラに全身全霊の必殺拳を叩き込む。
「万勇拳奥義『抜山蓋世』!!」
 その胸に突き刺さった拳は、龍鱗功の護りを貫き、ジャブラの胸板をガラスの如く粉々に粉砕する。
「がはっ!!」
 落下したジャブラは受け身も取れず、その場でのたうち回った。
「うおおおおお……、き、貴様ぁ……、よくも!!」
「……出来た、抜山蓋世」
 透乃はぎゅっと拳を握りしめた。
「よし、もう一発」
 再び腰を落としたその時、ジャブラの姿がスッと消えた。
「!?」
「気を付けて、光学迷彩です!」
 和輝は叫んだ。
 とは言え、和輝も透乃も敵の気配を追う術を持たない。不意打ちに備え、気を張り、防御を固めるのが精一杯だ。
「……消えた」
 エスは殺気を慎重に探りながら言った。
「ちっ、ここにはもう奴の殺気はねぇ。手負いの龍を逃がしちまったか……。厄介だな」