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リアクション
quattuordecim 中原の女帝・その思惑
セルウス獲得の為にミツエの乙王朝が動いた、という話は、コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)のパートナーの英霊、馬 超(ば・ちょう)を落ち着かなくさせた。
「昭烈帝陛下がおられるのか……」
「なにあの人どしたの」
「馬超のあんなにも落ち着かない姿を見るのは初めてだな」
ハーフフェアリーのラブ・リトル(らぶ・りとる)とハーティオンがひそひそと話す。
どうやら、セルウスを追っている者に、彼に縁のある人物がいるらしい。
「うむ、しかし……」
ぶつぶつと、何やら葛藤している。
ダシに使うようで申し訳ないとは思うが、セルウスに、ミツエからの使者に会うようにと薦めることによって、自分も彼に会えるかもしれない。
しかし彼は敵対する側だ。セルウスや仲間達がそれを許さないかもしれない。
だがもしも許して貰えるなら……
「だーっ!」
業を煮やしたラブが背後から馬超の頭に膝蹴りした。
「とりあえず、セルウスを探し出すことが先ではないか?
その後の状況によっては、馬超の希望も叶うやもしれぬ」
苦笑して、ハーティオンが言った。確かに、その通りだ。馬超は頷く。
「にわかにセルウスをゲットする為にミツエだのアンデッド恐竜だのが騒ぎ出してるみたいだけど」
ラブはふふんと笑った。
「ふっ遅い連中ね。
あたしは既に、セルウスに「ラブ様」と呼ばせる関係よ! つまりセルウスは既にあたしの所有物!
ミツエなんかの出番は無いのよ!」
断言して胸を張るラブを、とりあえずハーティオン達は放っておいて、セルウス捜索の相談をする。
「彼女はたまによく判らないことを言い出すからな……」
「何ですってっ! それはあなたの脳が眠ってるんじゃないのっ」
「こら、顔を蹴られては痛いぞ、ラブ」
「あーら痛覚通ってて良かったわね!」
「ミツエさんに会ってみる」
鬼院 尋人(きいん・ひろと)の決心を聞いた時、パートナーの吸血鬼、西条 霧神(さいじょう・きりがみ)は驚いた。
ミツエがセルウスとの契約を狙っている、という話を聞いた時にも驚いたが、直接話をしに行く、という尋人の言葉にも驚いた。
「一体、どうしたんです?」
「話をしたら、協力してくれないかな。
これ以上敵を増やしたくないし、薔薇の学舎の騎士として、ちゃんとした挨拶をすれば、ミツエという人も、そうそう危ないことはしないんじゃないかな、って」
「しかし、女性を訪ねるのに、手ぶらというわけには……」
霧神は無念そうに言った。
こんな時でなければ、自慢の薔薇のティーセットで、ミツエに最高のティータイムを楽しんで欲しかったが、此処では、ろくな店も無い。
ミツエへの面会は、拒まれなかった為に思いの他易くできた。
出会ったパラ実生にミツエに会いたいことを告げれば、案内さえしてくれたほどである。
「で? 用って何よ」
「セルウスさんのことなんですが。彼の何に、そこまで興味があるのかと」
ミツエまでがセルウスを狙うことになった、その理由を、尋人は知りたいと思った。
「自分が会ってみた感想は、普通の食いしん坊な子供にしか見えませんでした。
少しは剣の腕もあるようですが」
「ま、凡人にはあの相は解らないんじゃない。
アスコルドだって、掘り出される前はパン屋だったじゃない」
「セルウスさんが、アスコルド大帝と同じだと?
でもミツエさん、大帝との契約は拒んでいたんじゃ?」
「当り前でしょ。他人の思惑の駒にされるなんて面白くないじゃない」
ミツエの答えに、尋人は考え込む。
「……もしも、互いにきちんと合意の上でなら、その契約に口を挟むことはできません。
でもセルウスさんにはとりあえず、やらないといけないことがあるみたいだから、パートナーになったら、彼の手助けをしてあげてくださいませんか?」
「ええ、勿論、コンロンには行かせてあげるわよ。じゃなきゃ契約する意味無いし」
ミツエは頷く。
「ありがとう。
お礼、というのは変だけど、ミツエさんが何か困った時には、オレがあなたを全力で助けますから」
騎士として、そう誓いを述べた尋人に、傍らで霧神が驚く。
「護衛は間に合ってるわ」
ミツエはあっさりと言った。
「まあ、護衛じゃなくて“騎士”って響きも悪くないわね。
本当に、二心なくあたしを生涯唯一の主として、護り続けると誓えるなら、乙王朝に入れてあげるわよ!」
ふふっとミツエは笑う。
霧神は、心配そうに尋人を見た。だが自分はそれでも、どこまでも尋人と一緒のつもりだ。
東 朱鷺(あずま・とき)もまた、思惑あってミツエの拠点を訪ねた。
「初めまして、朱鷺は葦原の陰陽師、改め、羅刹の朱鷺という者です」
「ミツエよ。それで、用件は?」
「ぶしつけですが、朱鷺と取引をしていただけませんか?」
「取引?」
ミツエは眉を寄せた。
「つい先日、ドワーフの坑道でこんな宝物を入手したのですが、これをさしあげます。
今回はおまけに、ついでに、先程話を伺いました、セルウスさんですか? 彼との契約にも尽力させていただきましょう。
朱鷺は多少は腕のたつ方の契約者だと自負しています。お役に立てますよ。
代わりといっては何ですが、朱鷺と友になっていただきたいですね。何ならお姉さんと呼んでもらっても良いのですよ」
ミツエの偉業の数々を聞いていた朱鷺は、面白い人物と思い、いつか知り合いたいと思っていたのだ。
「ドワーフのお宝?」
朱鷺が配下のパラ実生に渡したそれを受け取り、ミツエは胡散臭そうに見た。
「まあ、献上するっていうなら貰っておくわ。
乙王朝の臣下につくというのは別に拒まないから、姉と呼ばれたいなら、しっかり役に立つことね!」
そして、朱鷺からの宝を、パートナー達に見せる。
「役に立ちそうかしら?」
「役に、とは?」
劉備 玄徳(りゅうび・げんとく)が訊ねた。
「今迄に入ってきた情報によれば、セルウス側にもドワーフの関係者がいるらしいじゃない?」
「成程、餌に使うというわけか?」
「関係者なら、その価値も理解しているんでしょうしね」
曹操 孟徳(そうそう・もうとく)の言葉に、ミツエは頷く。
「セルウスが忘れてった骸骨もあったわね。
あなた達、これ使ってセルウスを捕まえてきなさい」
ミツエはパートナー達に指示を出す。
「心得た」
劉備と曹操は、それぞれドワーフのお宝とクトニウスを持って、配下と共にミツエの前を辞した。
クトニウスは、キリアナの計らいでセルウスと同じ場所に落ちることはできたが、それによって一緒に乙王朝に拾われた。
だが、それを知らないセルウスは、置いたまま逃げ出してしまっていたのだ。
「ミツエ様は行かないのですか?」
朱鷺が訊ねた。まさか、とミツエは答える。
「確定情報も無いのに、大将駒がそう簡単に動くわけないでしょ」
「ミツエさんは拠点待機なんだね」
騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、残念そうに言った。
「キリアナさんも、乙王朝を警戒して、前線に出てこないみたいだし……。
世紀のちっぱい対ちっぱいが見られるかと思ったのに……」
というか、むしろそれを仕掛けるつもり満々だったのだが。
「そりゃあ、随分捨て身の発言じゃのう」
詩穂に装備されている魔鎧、清風 青白磁(せいふう・せいびゃくじ)の突っ込みは、詩穂にのみ届いている。
小学生体型の詩穂も、全く人のことは言えなかったからだ。
詩穂は、彼の言葉を聞こえないフリをした。
「準備万端、詩穂、ミツエさんに会った時の為にスケブも用意してたんだよ」
「それはいつのネタでございますか」
偵察の様子を知らせたヴァルキリーのセルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)が苦笑する。
「あっ、ほてやみつえさんじゃないんだっけ☆」
間違えちゃいました♪ と、詩穂は笑った。
「とにかく、ドミトリエ様達は飛空艇で荒野を、セルウス様の捜索をされています。
乙王朝も、ローラー作戦で荒野の捜索をされていますね。
ですが、キリアナ様に協力する方達が、その捜索を阻もうと襲撃を仕掛けようとされておりまして、ミツエ様はそれに対抗する為の軍勢を集結させています。
ミツエ様のパートナーの方々は、現状、セルウス様の捜索を優先させているようでございますが」
「じゃあ、そこにアンデッド恐竜の群れを誘導してぶつけちゃえば、すごく混乱するよね」
「そうでございますわね」
詩穂の言葉に、セルフィーナは頷く。
二人は、レッサーダイヤモンドドラゴンで飛び立った。
「誰がちっぱいですってえっ!!!」
叫んだ後、ミツエは自分の叫び声で我に返った。
「はっ、うたた寝してたわ。あたしとしたことが」
ミツエの護衛をしていた風祭 優斗(かざまつり・ゆうと)と酒杜 陽一(さかもり・よういち)が苦笑する。
陽一と、そのパートナー、酒杜 美由子(さかもり・みゆこ)は、正体を隠す為に仮面を着けていた。
『禁猟区』を施した虹のタリスマンをミツエに渡し、自分達の目的の根源は別にあることを、ミツエにはちゃんと伝えてある。
「ミツエ様は、セルウス君を自分の目的の為に利用しようとしている。
俺も、キマクの状況を少しでも良くしたいが為に、ミツエ様に擦り寄っている」
と。
平たく言えば、恩を売る為、少しでも人脈を得たいと思う為だ。
「いいんじゃない。実績さえあげられれば」
と、ミツエが言って、護衛となっている。
「時に、セルウス君と契約する際には、その危険性やミツエ様の真意を、きちんと説明して欲しい」
「ふうん?」
「セルウス君にはすべきことがあって、それは世界に大きく関わることらしいし、ミツエ様に擦り寄る為に彼を利用しようとしている俺としても、それはできるだけ尊重したい」
「すべきこと、ね」
ミツエは言った。
「それは勿論、させるつもりよ。じゃなきゃ、契約する意味だってないもの」
「ところで私、アニメ会社に依頼して、ミツエちゃんのPVを作って貰ったわ!
セルウス君が来たら、ミツエちゃんの紹介の為に是非観て貰おうと思ってるの!」
「PV?」
美由子の言葉に、ミツエは顔をしかめた。
「何だか嫌な予感がするんだけど。それちょっと観せなさい」
「お楽しみに!」
「あたしには検閲する権利があるわ!」
「おたのしみに〜!」
このPV、本人が見たら怒るぞ、と陽一は言い、そんなことない、と美由子は請け負う。
「この作品は、『環境破壊への警鐘を鳴らす乙王朝の理念の表れ』なのよ!」
そんなPVが上映されるのは、セルウスが連れて来られた時のお楽しみである。
確認したいのですが、と、優斗はミツエに言った。
「セルウスさんをパートナーにしようと考えている意図について、パートナーの御三方には、了解は得ているのですか?」
「勿論よ」
ミツエは即答した。
「…………なら、いいのですが……」
けれど優斗にはしっくりと納得できないでいる。
どうにも、ミツエがパートナーをないがしろにしてしまっているような印象を受けてしまうのだ。
ミツエのことは、今も好きだ。
だからこそ、パートナーのことを大切にして欲しいし、彼等とは、強い信頼関係で結ばれていて欲しい。
仲間より、勢力拡大を優先するような人になって欲しくなかった。
「何?」
優斗の沈んだ表情に、ミツエは首を傾げて訊ねた。
「いえ、……その、了解はされていても、理解をされているのか、と、そう思って……」
優斗は躊躇ったが、そう言った。
「ミツエさんには、パートナーを大切にして欲しいと思うので」
「あたしは、全てのパートナーを大切にするわよ! いえ、全ての人類をね!
だってあたしの臣民なんだから」
ミツエの言葉に、優斗は憂いを深める。
それは、自分の望んだ答えではないように感じた。
ミツエのパートナー達とも話をしたいと思ったが、彼等は既に、セルウスの捜索に出ている。
戻って来て、全員が会した時に、また、進言できることもあるだろうか。
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