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リアクション
狼煙――火蓋は切って落とされる
作戦が開始されたのは、荒野の王が茶器に手をつける数分前のことだ。
「遺跡龍、周遊軌道を変更――……チャンスです」
ローザマリアの一声に、遺跡龍攻略に回っていた面々は、一様に表情を引き締めた。
全員の通信が繋がるのを待って、相沢 洋(あいざわ・ひろし)はマップに赤い点を幾つか表示させた。
「大型飛空艇の接舷可能ポイントは以上だ。この軌道なら、最適なのはこの位置だな」
示されたのは、巨大遺跡群の中心にある塔のような建造物だ。遺跡龍のやや頭上であり、全方位に柔軟に対応出来る位置である。
「だが同時に、最も攻撃を受けやすく、また防ぎにくい場所でもある」
その言葉に、ぐっと顔を引き締めたカル・カルカー(かる・かるかー)に、洋は続けた。
「我々が橋頭堡を確保完了した後、突入班の輸送を頼む」
「了解」
緊張した面持ちながら、カルは姿勢を正す。
「物資の搬入と、突入班の収艦を急ぎますッ」
「それじゃ、こっちは派手に行くとしますかね」
続けて声を上げたのは、リンだ。
「遺跡龍の側面につきました。いつでもいけます」
スモークディスチャージャーによって身を隠す歌菜が答えるのに「了解」と応じて、スカーレッドが口を開く。
「突入班を内側へ届けるのが、今のあなた方の”任務”よ。各自、全力を尽くすよう」
軍人の面が強く出た硬い調子でそう告げてから、モニター越しに真っ直ぐ見やって、スカーレッドはその語調を変えて、託すように声をかけた。
「――頼むわね」
その一声を合図に、最初に動いたのは洋の指揮するシュトルム・ブラウ・イェーガーだ。
「火器管制機構に問題なし。洋孝、操縦を任せます。洋様の子孫であれば使いこなせるはずですよね?この機体を」
乃木坂 みと(のぎさか・みと)の言葉に一応は頷きつつも、相沢 洋孝(あいざわ・ひろたか)は操縦席で苦い顔でパネルを叩いていた。
「S−01タイプのメインかあ……まいったなあ。火器管制、シミュレーターで訓練したのS−03改だよ」
未来人である洋孝にとっては、IRR−S01のシュトルムは前世代の機体である。同型とはいっても、それだけ年代を遡れば性能も操縦方式も随分変わってくるものだ。
「……まあ、やるしかないか」
呟く洋孝の言葉を半ば聞き流し、刻一刻と変動するマップを確認しつつ、洋は指示を続ける。
「洋孝、エリス、空対地攻撃開始」
「了解」
「ミサイル輸送ユニット扱いですか。まあ、仕方ありません。攻撃開始します、以上」
洋孝と共に、溜息のように答えたエリス・フレイムハート(えりす・ふれいむはーと)が、シュトルムに併走する形で小型飛空艇ヴォルケーノを駆り、発射されるレーザーバルカンと共に搭載した小型ミサイルを、目的ポイントに向けて一斉に撃ち込んだ。
「ミサイルポッド欲しいなあ……調達失敗したのは痛かった……」
そんな中、レーザーの威力にぼやくように言ったのは洋孝だ。だが直ぐに切り替えるように首を振る。完璧な装備を整えられないのは、今に始まったことではない、と、自分のいた未来の戦場を思い出しながら、みとの伝えてくる小型龍の機影に照準を合わせ続けた。
「けど、なんとかしなきゃ。足りない足りないは工夫が足りない!」
威力は求めるより低くても、数がある。幸い塔の頂上近くにいたのは数体はそれで大方薙ぎ払われたようだった。それを確認して、洋は小型飛空艇ヘリファルテを発進させた。
「これより空挺降下を行う。爆撃援護を頼む」
その通信に、不意に割り込んだのは、狙いを悟られないためもあって遺跡の真正面で特攻中の光一郎だ。
「相変わらずだな」
揶揄するようなそうでないような言葉に、洋の顔が一瞬だけかすかに笑った。だがそれも直ぐに掻き消えると、軍人の顔に戻ってシュトルムに通信を入れる。
「みと、洋孝の援護を。情報管制を任せる」
「はい」
みとが頷くと同時、洋はヘリファルテをポイントまで一気に急降下させた。
「邪魔だ、どけッ!」
怒声一喝。飛来する飛空艇を敵と見定めた小型龍が接近してくるのにも構わず、洋は飛空艇の速度を上げる。そして、両者が激突する直前、洋は飛空艇から空中に身を躍らせると、予定ポイントへと難なく着地した。
殆ど同時に、飛空艇が爆音を上げたが、直撃を食らったはずの小型龍は、半壊状態ではあるものの、その追撃が止まらない。初撃は自身の弾幕によって辛くもかわしたが、生身での相対では長くは持たない。
「ち……、洋孝、エリス! 私ごと狙え! とにかく輸送船の接舷ポイントを確保するんだ!」
洋が叫び、エリスが小型龍にミサイルを放ったが、間に合わない。その牙が洋に猛然と迫ろうとした、その時だ。休息接近した機体のビームサーベルが、小型龍の中心を撫でるように切り落とした。桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)とエヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)の駆る、セラフィートだ。
「遅れてすまない、天御柱の桐ヶ谷だ」
スカーレッドは、その通信に「状況は」と尋ねる。
「聞いている。俺も突入部隊の援護をさせてもらうぞ」
最後の言葉は、誰に向けたものか。口にするが早いか、煉はくるりと機体を反転させる。
「エヴァっち、機体のリミッターを解除しろ」
「了解、セラフィート、リミッター解除!」
応じて、背中の6枚の翼がエネルギーを最大にして展開され、強い光を放ち始める。
「全エネルギーを主翼に回したぜ! そのまま殲滅しちまえ!!」
大胆な指示にも、煉は頷くと、空裂刀を抜き放ち、そのまま最大速度で機体をポイント付近の遺跡龍の群れへと突入させた。その勢いにあかせ、機体を旋回させることで弾丸のように突き進むセラフィートは、そのポイントまで至る進路に点在する小型龍を撃ち抜くようにして撃破していく。そうして穿たれた穴へ、洋孝のレーザーバルカンが追い討ちをかけ、進路を切り開いていった。
「目標までの進路はクリアした。あとは任せたぞ」
煉の通信と同時、弾かれるように飛び出したのは、リンのカリプテ・ヘレナだ。
接近し、その頭まで通り抜ける道すがらに、マジックカノン、レーザーライフル、ソニックブラスターと、ありったけの武器をお見舞いして、遺跡を挑発に掛かる。未憂がサブパイロット席で悲鳴をあげているが、それはスルーだ。
「鬼さんこちら〜♪……あ、鬼じゃなくて龍だったっけ」
「手の鳴る方へ、ってか?」
それに合いの手を入れて、併走するのは柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)の刃金だ。同じようにして持てる火力を全て遺跡龍の鼻面へと叩き込む。挑発し、気を引くのが目的であるから当然ではあるが、目の前をちらつく敵を退治しようと、遺跡龍はその口を広げて噛み付きに来、あるいは炎を纏った岩石を吐き出した。
「っと、危ない」
眼前に迫る牙をすんででかわして息をつく恭也に、馬 岱(ば・たい)の方は、やや諦めたような風情で息を吐き出した。この距離では、少しの負担も命とり、とオペレーターを買って出ているが、モニターに巨大な岩石が迫ってくる光景は余り心臓に宜しくない。イコンの装甲が硬いとはいっても、限度があるからだ。
「相棒ー、お願いだから無理だけはしないでよね?」
だがその言葉が無駄になるだろうことも、何となくは判っている岱なのだった。
そうして、代わる代わる攻撃を食らわせては離脱し、と意識を捕らえ続けること暫し。
「ポイント到達まで20秒!」
歌菜が上げた声に、それまで味方機に隠れるようにしながら、岩石の飛来を避けていた戦部 小次郎(いくさべ・こじろう)とリース・バーロット(りーす・ばーろっと)の龍神丸が、遺跡龍の頭めがけて飛びかかった。振り払おうとする遺跡に、グレネードで一瞬怯ませたところで、小次郎が声を上げた。
「リース、目を狙ってください!」
「了解」
瞬間、吹き出したスモークディスチャージャーが、遺跡の目を覆って曇らせた。視界を失った遺跡龍が、その動きを止めて、何とか煙を払おうと振りかぶった、その時だ。
「今やで!」
惹鐘の合図と同時、フィサリスのオプスキュリテが、ワイヤーロープでその首を塔に括りつけたのだ。
「や、やった……!?」
だが勿論、それが長く持つはずは無い。小次郎はすぐさま声を上げた。
「頭部の固定完了しました。誘導班、全速撤退を!」
その合図を受けて、ローザマリアが声を上げ、恭也たちの機体が全速で遺跡の側面から離脱する。
「発射角度、修正。射線上に味方機影無し、クリア」
「エネルギーチャージ、完了」
コルセアの声に、吹雪が続く。それを受けて目線を投げたローザマリアに、ホレーショは頷いて掌を大きく振り下ろした。
「オープン・ファイアリング!」
一声。伊勢の荷電粒子砲が、遺跡龍の後尾に向けて放たれた。首を取られ、動きを奪われた相手である。狙いは違わず直撃し、龍の尾……つまり推力を奪われて、どうん、と地響きと共に遺跡龍の動きが止まった。
「今だ……!」
瞬間。その隙を狙っていた猪川 勇平(いがわ・ゆうへい)とセイファー・コントラクト(こんとらくと・せいふぁー)のバルムングが、悲鳴をあげるように開かれたその口の中へと突入した。当然、口の中に異物を感じた遺跡龍は、すぐさま口を閉じようとするのに、バルムンクは歯の隙間へと剣を突きたてて支えにすると、その体そのものをつっかえ棒代わりにして、上あごが落ちてくるのを受け止めた。
「ぐうぅ……ッ」
ただですまなかったのは、機体と同調しているセイファーだ。そのかかる負担が、ぎしぎしと体を軋ませるのに、脂汗が滲む。操縦桿を手放すわけには行かず、それをただ見ることしか出来ない勇平は、ぎり、と奥歯を噛んだ。
「耐えてくれよ、セイファー、バルムンク……ここが正念場なんだ」
血が滲む思いだ吐き出される言葉に、セイファーは苦しい息の中「大丈夫、です」と切れ切れに言って気丈に笑って見せた。
「この程度の、痛みで……、私が負けるわけ、……ありませんっ!」
それでも、その苦痛ははたからでも見て取れる。一時撤退するか、と勇平が危ぶんだ、その時だ。唐突に、その負担が僅かに軽くなる。
「……ッ!?」
見れば、夜刀神 甚五郎(やとがみ・じんごろう)とホリイ・パワーズ(ほりい・ぱわーず)の乗るバロウズが、バルムンクがこじ開けた隙間へと機体を捻じ込ませていた。その巨体が加わったことで、ぐぐっと僅かにだが遺跡龍の上顎が持ち上がる。
「こじ開ける手は、多いにこしたことねえだろ!」
「そうそう、操縦と同じですねぇ〜」
ホリイが頷いた隣には、補助シートで操縦に加わったブリジット・コイル(ぶりじっと・こいる)と阿部 勇(あべ・いさむ)の姿がある。シートの座り心地に感心しながらも、その手は忙しなくコンソールを叩いている。
「ソニックブラスターによる探査を開始します」
バロウズが放ったソニックブラスターは、遺跡の中に音波を放ち反響させると、暫しして目的の「それ」を見つけた。
「……! ありました。岩石の射質口です」
「ソニックブラスター出力調整。破壊します」
勇が声を上げると同時、ブリジットがソニックブラスターの出力を上げた。探査用の音波はその質量を変えて、遺跡龍の中を襲い、やがてそれに耐えかねたように、岩石の射質口は沈黙した。それによって岩石を正面から食らう危険性が減ったものの、二機を押しつぶそうとする力はますます強く、ギギっと機体が軋む音がコクピットにまで聞こえてくる。勇平は、マップ上を移動する一機の大型飛空艇を見やって、ぐっと唇を噛んだ。
「急いでくれよ、皆……っ」
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