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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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 HMS・テレメーアからも、艦載機が甲板へと移動を始める。
「ちょっと、なんでボクがサブパイロット席なんだよ!」
 鬼龍貴仁にゲシュヴィントヒルフェのサブパイロットシートに追いやられて、鬼龍白羽が思いっきり文句を言った。
『仕方ないよ、だって貴仁だもん』
 半ば諦めたように、機内オペレータ席に追いやられた鬼龍黒羽が言った。おかげで、ゲシュヴィントヒルフェの売りであるエネルギー発生補給装置が取り外されているとは夢にも思ってはいない。
「ふっ、なんとでも言え。だが、このテレメーア艦内で見つけた戦艦用の主砲、これさえあれば勝つる!」
 テレメーア内で見つけた予備の主砲のハーツを無理矢理ゲシュヴィントヒルフェに持たせて、鬼龍貴仁が勝ち誇った。
「さあ、出撃だ!」
 ゲシュヴィントヒルフェとさほど大きさの変わらない砲塔をかかえながら、鬼龍貴仁はHMS・テレメーアの甲板へと這い出していった。
『ちょっと、いったい何を持ちだしているんでございますかあ!』
 その様子に気づいた常闇夜月が、あわてて通信を入れてきた。
「おっ、ちょうどいいところへ。エネルギーバイパス、ちょこっと頼むぜ」
 悪びれもせずに、鬼龍貴仁が常闇夜月に請求した。
 
    ★    ★    ★
 
 ウィスタリアでも、補給を終えたイコンが再出撃を行っていた。
「よし、補給は完璧じゃ。行ってこい!」
「ゴスホーク、発進する!」
 補給作業を終えたアレーティア・クレイスに見送られて、柊真司のゴスホークがウィスタリアから再出撃した。
 
    ★    ★    ★
 
「敵艦隊捕捉。位置データ送信しますわ」
「相対距離維持。偵察を続けます」
 敵ヴィマーナ艦隊に追いついたファスキナートルから、エレナ・リューリクが敵艦隊のデータをブラックバードを通じてフリングホルニに送った。富永佐那が、味方艦対の射線を避けつつ敵艦隊を追尾する。
 どうやら、足の遅いソルビトール・シャンフロウの母船に速度を合わせているためか、思ったよりも距離は離れていないようだ。それとも、全艦をコントロールできる範囲には、限界があるのかもしれない。
「敵艦隊捕捉。各艦、射撃管制システムリンク確認」
「全艦、攻撃開始してください!」
 送られてくる情報を確認すると、エステル・シャンフロウが攻撃開始を命令した。
 魚麗の陣を敷いたフリングホルニ艦隊が、一斉に攻撃を開始する。
 HMS・テレメーア、土佐、伊勢、シュヴァルツガイスト、オクスペタルム号の艦載用大型荷電粒子砲と、クイーン・メリー、ウィスタリアのグラビティカノン、ヒンデンブルク号の要塞砲、バロウズのレールガン、ジェファルコン特務仕様のバスターレールガン、ヤークトヴァラヌス百式、でくのぼうの艦載用大型荷電粒子砲、パラスアテナ・セカンドのウィッチクラフトキャノン、アペイリアー・ヘーリオスの大型ビームキャノン、E.L.A.E.N.A.I.のヴリトラ砲、アウクトール・ジェイセルのヴリトラ砲とウィッチクラフトキャノンが一斉に発射された。艦内やイコンに地響きのような発射音が響き渡る中、一瞬の静寂の直後に、前方で激しい閃光と爆発音と共に爆炎が広がった。
 ふいをつかれる形になったヴィマーナ艦隊だが、即座に反撃がやってくる。だが、進行方向の問題から、砲塔の多くを前方に集中できるフリングホルニ艦隊と比べて、後方用の砲塔しか使えないヴィマーナ艦隊は火力を集中できずにいた。
「全艦、防御陣形!」
「全艦、防御陣形へ!」
 グロリアーナ・ライザ・ブーリン・テューダーの命令を、ローザマリア・クライツァールがH戦隊に伝達する。
 ウィスタリア、クイーン・メリー、ヒンデンブルク号、伊勢が、連動してジャマー・カウンター・バリアを展開して前面に立った。
 艦隊前面に展開された力場によって、ヴィマーナからのビーム攻撃が湾曲して拡散消滅する。
 四隻のバリアを盾にしながら、素早い艦隊運動で他の艦が砲撃を続けた。今のところ、ヴィマーナを数隻沈めてはいるが、未だ50隻近くの敵艦が残っている。幸いにも、フリングホルニ以下の艦船にはまだ被害がない。
「少しおかしいですね。敵の攻撃が単調すぎる。遺跡でも感じてはいましたが……」
 優勢に戦いを進めつつも、ちょっとグレン・ドミトリーが首をかしげた。
「おそらくは、ソルビトールのせいだろうな」
 デュランドール・ロンバスが苦笑しながら言った。
 ソルビトール・シャンフロウは、もともとヴィマーナの存在を知っていてニルヴァーナへ渡ったわけではない。今回の黒幕らに、その存在を教えてもらって、それを我が物とするためにやってきたのだ。
 実際には、黒幕らに何らかの処置を施され、ヴィマーナを制御する因子を身体に組み込まれていた。完全に、その因子をヴィマーナに運ぶためのトランスポーターにすぎなかったわけだ。本来であれば、生きていようが死んでいようが、ヴィマーナに取り込まれてその因子をマザーに渡せば用は済んだのである。ところが、生きてマザー・イレイザー・スポーンに取り込まれたソルビトール・シャンフロウの意志は、予想に反してマザーの中に残ってしまった。
 いや、それは意志と言うにはあまりに単純で、復讐に駆られた妄執に近い物であっただろう。ヴィマーナの艦隊で、イルミンスールとユグドラシルの二つの世界樹を破壊して、シャンバラ王国とエリュシオン帝国を滅ぼす。その思いだけが、現在のヴィマーナ艦隊を強烈に支配しているのである。
 だが、個人としての単純な意志が全体をコントロールしているための弊害が如実に艦隊行動に影響を及ぼしてしまっていた。つまり、本来であれば、マザーの全体命令に対して、個々のイレイザー・スポーンがある程度の独自判断で攻撃を行うはずなのだが、ソルビトール・シャンフロウの命令が強すぎて、個々の判断を制限しているのである。
 単純に言えば、マルチタスクで動く戦艦を、シングルタスクで動かしていることになる。
 さらに、ソルビトール・シャンフロウが、ヴィマーナのことを完全把握しているわけではないと言うこともある。マザーと融合したとは言え、実際には取り込まれたにすぎない。時間が経てば、意識の融合も完全な物となるだろうが、今のところはまだ、ヴィマーナを完全に把握できていないので、扱いかねているのである。
 そのため、ヴィマーナ固有の特殊な兵装の存在や、独自の戦い方ができないでいる。現在、ヴィマーナからの攻撃は、実際には寄生しているイレイザー・スポーンの能力のみである。寄生し、変化したイレイザー・スポーンが、ビームや実体弾の砲塔、あるいはミサイルに変化し、その能力で攻撃しているわけだ。おかげで、その圧倒的な数のわりには、攻撃力が著しく低くなっているため、フリングホルニの艦隊でも互角以上に戦えている。
 だが、問題はヴィマーナがパラミタに着いてしまったときだ。
 黒幕の組織は、最初からヴィマーナの存在を知っていた。また、スキッドブラッドの内部に、ヴィマーナと思われる大型飛行艇を隠していた節がある。そこから、敵の本隊はヴィマーナに精通していると考えるべきであろう。
 ソルビトール・シャンフロウの役目がトランスポーターであり、それがニルヴァーナからパラミタへとヴィマーナを運ぶためだけのものであるとすれば、ヴィマーナがパラミタに到着したところでその任務は完全に終わる。おそらくは、そこで、敵の組織の人間がヴィマーナに乗り込んでくるつもりなのだろう。一隻のヴィマーナを操艦するのにどれだけの人間が必要であるのかは定かではないが、イレイザー・スポーンをコントロールする術を持っている彼らのことだ、少人数で可能なのであろう。
 もしも、ヴィマーナに敵の移乗を許してしまえば、敵艦の攻撃能力は飛躍的に跳ね上がるだろう。そうなれば、現在のフリングホルニの艦隊などはひとたまりもない。
「勝負は、回廊内と言うことですね」
 デュランドール・ロンバスの推測の説明を受けて、エステル・シャンフロウが、あらためて気を引き締めた。
「うまくパラミタに情報がいって、ゴアドー島のゲート側からも味方が進入して挟撃ができればいいのですが、そこまで高望みはしない方がよろしいでしょう」
 グレン・ドミトリーが言った。
「敵艦との距離縮まりました。中距離砲、ミサイルの射程に入ります」
 状況の変化を、リカイン・フェルマータが告げた。
「各艦載イコン、独自に攻撃を開始。主に敵のミサイルを迎撃せよ。そろそろ、敵イコンも出てくるはずだ。近づけさせるなよ!」