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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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空を渡るは目覚めし艦 ~大界征くは幻の艦(第3回/全3回)

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 当然のように、生体要塞ル・リエーとナグルファルの戦闘は、ゴアドー島の警備にあたっていた者たちによって逸早く察知された。
「なんですか、あの戦闘は?」
「よし、調べに行ってみるか、御主人」
 そう言うと、雪国ベアがメカ雪国ベアを戦闘空域にむけた。
「なんです、あれは? 気持ちの悪い敵要塞を、正義の要塞が攻撃しているのでしょうか?」
「いや、よく見ろよ、あれはアイランド・イーリからのデータにあった、敵の黒いフィーニクスだ。気持ち悪い方は、味方だろう……多分な」
 ちょっと自信がなさそうに、雪国ベアが言った。その間にも、戦闘空域は、あっけなくゴアドー島に近づいてきている。
「とにかくやりますよ、ベア。悪い人は撃墜です」
「おおよ。俺様の活躍を見てなよ!」
 そうソア・ウェンボリスに答えると、雪国ベアは、メカ雪国ベアのマフラーアームを振りかぶって敵イコンに戦いを挑んでいった。
『パラミタにいるフリングホルニのエステル・シャンフロウと傭兵契約を結んだすべての人たち、そして、これが聞こえるすべての人たちに、現状を伝えるわ』
 アイランド・イーリのリネン・エルフトから、ニルヴァーナの現状を伝えるメッセージが、データリンクを構築した各イコンや大型飛空艇、ついでに近隣にいた者たちへも伝えられた。
 ちょうど、第二報として、遺跡のゲート崩壊までの情報が含まれている。先ほど、ゲートから発せられた謎の電波の解析が終わってはいないが、今は、状況をみんなに把握させることの方が重要だ。
「リネン、アイランド・イーリを中心として、ゴアドー島のゲートを要塞化して守るよ」
「イーリを敵部隊正面に移動させます」
 ユーベル・キャリバーンが、操舵輪を勢いよく回してアイランド・イーリーの舵をとった。
「分かった、相手をさせてもらうわ
 そう決意すると、リネン・エルフトがゲート警備隊のプラヴァー・ギャラクシーの部隊に、敵の接近を告げた。部隊の隊長に、こちらの配置と、それに対するプラヴァーの配置を指示する。
 ゴアドー島の空港から、次々にプラヴァー・ギャラクシーが飛び立ち、小隊単位で編隊を組む。とはいえ、数は二〇機にも満たない。
イーリ、バリア展開
 ユーベル・キャリバーンが、アイランド・イーリのバリアを展開した。
「それにしても、敵がこちらにむかっていると聞いたときは、こちらのゲートからも突入して挟み打ちも考えたのだけれど、そうそう簡単にさせてはくれないものよね」
 作戦は常に変化するものだと、ヘリワード・ザ・ウェイクが再確認した。
 
    ★    ★    ★
 
 移動する戦場に、パラミタの各地からむかう者たちがいた。
「くそう、もう始まってるのか。空港に着いたら異界対応処理を施してもらって、一気にゲートに飛び込んで挟撃をと思ってたんだが。間にあわなかったな」
 大型武装ヘリ【鶺鴒】のコックピットで、柊恭也が言った。ゴアドー島を襲おうとしている敵要塞を探していたのだが、どうも見当違いの場所を探していたために、大切な時間をずいぶんと費やしてしまったようだ。まさか、すでにこんなにもゴアドー島の近くまで来ていたとは思わなかった。
 同じころ、ジェニー・バールのル・アンタレス号も、ゴアドー島直前にまで達していた。
「まったく、敵の接近をここまでになるまで気づかないなんて、ゴアドー島のレーダーは節穴かなあ!?」
 ジェニー・バールがぼやいた。
 確かに分厚い雲の中に入ってしまえば、合成開口レーダーなどを使わなければ、パラミタにある通常レーダーで水平面の探査は困難ではある。現在の地球のように、細かなレーダー網が張り巡らされ、システム化されているのであればいざ知らず、観測衛星すらないパラミタでは、その点がかなり遅れてはいる。ただし、西パラミタは地球面に露出しているので、本来ならばそのへんの恩恵も得られるはずなのだが、いかんせん、航行している飛空艇やイコンなどが個人所有の物や未登録の物が横行しているため、きちんとした管理ができていないのが実情である。
 仮に、空港近くに不審機として何かがキャッチされたとしても、いちいちそれを確認に行ったのでは、一日のスクランブルの桁がとんでもないことになってしまう。
 実際、レーダーには、飛行している大型飛空艇やイコンの他、浮き島なども映ってしまうので、静止していた場合、目視確認しか方法がない。もちろん、衛星による精密分析を行えば、それが何かを分析することは可能であるが、それは、そういうことを行った場合である。衛星とのデータリンクを予約確保し、それを分析用のコンピュータにかけた場合のみ分かるのであって、すべての浮遊物に対してそう言った検査をするのは非常識すぎて行われてはいない。
 特に、ゲート近くの空間は、ゲートによる影響を受けているので、レーダー等が干渉を受けることもあり、主に飛翔体からの識別信号による航行管理システムの方が一般的であった。アクティブではなく、パッシブ方式が主流なのだ。
 また、大型飛空艇などになるとかなりスピードは出るが、すべての飛空艇がそれだけの性能を有しているはずもなく、個別の性能差さは天地ほどの開きがある。ましてや、常時マックススピードで飛行しているはずもない。マッハを超えるイコンでさえ、巡航スピードは遥かに低速であり、逆に空中静止できることがこれら機晶石を使ったフローターの特長であるため、空中衝突事故は予想よりも発生しにくい状況になっている。
 これらに加えて、ナグルファルのステルス機能は光学迷彩などの応用ではなく、空間湾曲を利用した別の方式のようであり、そのことがさらに発見を困難にしていた。
 生体要塞ル・リエーがナグルファルと接触できたのは偶然による幸運でしかないが、いくらシステムが進化しても、人が考えることは大差がないと言うことの証明であるのかもしれない。
「味方の配置はどうなってるのよ?」
 ジェニー・バールが、ジャン・バールに聞いた。
「ゴアドー島にアイランド・イーリの信号を確認しているぜ。そこにむかって、このル・アンタレス号の他に、鶺鴒、オリュンポスパレスがむかっている。戦場は、生体要塞ル・リエーとかいうのとアストロラーベ号を中心として、じょじょにゴアドー島の方に移動しつつある。各イコンはその間を飛び回っているという感じだ」
 各機の識別信号から得た文武図を表示しながら、ジャン・バールが答えた。
「ちょっと待って、アストロラーベ号は、今、ニルヴァーナに行っているはずじゃない。なんでパラミタにいるのよ!?」
 おかしいじゃないかと、ジェニー・バールが言った。
「やられたあ。敵に識別信号を解析されて利用されたんだよ。このアストロラーベ号の信号を出しているのが、敵さ。まったく、あたしたちをコケにして……。全速で敵にむかうよ。容赦なく、巡航ミサイル、スカルプ・ナヴァールを撃ち込んでやる」
 よりによって、僚艦の名を騙られるとは失態以外のなにものでもない。敵が見つからないはずだ。