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星影さやかな夜に 第三回

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星影さやかな夜に 第三回

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 第十一章 「ダブルヒロイン 現・人喰い勇者」

 廃墟前。
 ハイ・シェンはエヴァ・ヴォルテール(えう゛ぁ・う゛ぉるてーる)エリス・クロフォード(えりす・くろふぉーど)と刃を交えていた。

「ほらほら、こっちだよ!」

 エリスはわざわざハイ・シェンの間合いに近づきプロボークで注意を逸らす。
 だが、それはハイ・シェンの攻撃を正面から受けるということも意味している。
 悲姫ロートを横で薙ぎ、エリスは咄嗟に後ろに飛んで刃をかわすが切っ先から溢れる炎がエリスに襲いかかる。
 混沌の楯を前に出し、シールドマスタリーでなんとか防いだ。

「いつまで耐えきれるかしら?」
「おいおい、それをあたしが黙ってみてると思うか?」

 エリスの背後からエヴァが飛び出し、左から疾風突きを放つ。

「エリス!」

 エヴァが叫ぶとエリスはランスバレストで突撃を仕掛ける。
 風を裂くような音と共に剣先がハイ・シェンの横腹に伸び、威圧感を覚える強固な盾が迫る。
 だが、ハイ・シェンは槍の石突きを地面に突き刺すと槍に上るように高く跳躍すると、エリスの頭を飛び越えて頭を蹴り飛ばした。
 不意に後頭部への一撃が入り、エリスは脳震盪を起こしたのかしばらく動けなくなってしまう。

「この……!」

 エヴァは再度疾風突きを放つが、槍の柄を回し突きの軌道をずらすと二人はそのまま鍔迫り合いの形に移行する。

「仲間を殺された復讐……気持ちはわかるさ。でもな、人を殺すっていうのはいずれ自分も殺される覚悟がいるんだよ」

 エヴァは語りかけ、ハイ・シェンは薄く微笑んだ。

「なら、殺される覚悟があればいくらでも殺していいのかしら? 半端な正義感で説得なんて笑い話にもならないわ」

 ハイ・シェンの言葉にエヴァは眼光を鋭くして睨み返す。

「半端な正義感? ふざけんなよ……! 自分たちの犯した罪で死ぬ覚悟もねぇ精神年齢ガキ野郎どもにあたしらの信念が折れるわけねーだろうが!」
「そんな正義なら、アタシが折ってあげるわ」

 ハイ・シェンは槍を一気に引き、エヴァは押し戻される力を失ってバランスを崩すと腹を思い切り蹴飛ばした。

「ぐ……ぁ……!」

 身体がくの字に曲がり、エヴァは地面を転げる。

「エヴァ!」

 エリスはまだ身体をふらつかせながらエヴァに駆け寄ると、エヴァは素早く立ち上がって武器を構えた。
 この執念にハイ・シェンは辟易した。
 と、

「ハイ・シェン!」

 リーゼロッテ・リュストゥング(りーぜろって・りゅすとぅんぐ)を纏った桐ヶ谷 煉(きりがや・れん)が横から切りかかってくる。
 ハイ・シェンは槍の柄で受け止めると、勢いを殺すように後ろに飛んだ。

「三……いえ、四人がかりではさすがに分が悪いわね。渚、アルティナ。あっちは任せたわ」

 ハイ・シェンは御剣 渚(みつるぎ・なぎさ)アルティナ・ヴァンス(あるてぃな・う゛ぁんす)に指示を出し、二人はエヴァたちの方へと向かう。
 渚は電子ゴーグルで二人を見つめ、エヴァへと視線を向けた。

「あっちの子はまだ蹴りのダメージが完全に抜けきってないみたいだな。悪いが狙わせてもらおう。……アルティナ」
「分かっています。主の命令通り、死ぬ気で死んでも主のお役に立ちましょう」

 アルティナはバーストダッシュで急速に接近するとエヴァへと攻撃を開始する。

「させないよ!」

 その攻撃をエリスが受け止め、カウンターを入れようとするが、

「おっと」

 アルティナはスウェーで難なく回避し追撃されないように渚が弾幕援護で足止めする。
 援護を受けてアルティナはエリスの盾へと攻撃を加え根負けを狙う。
 二対二での戦闘が続く中、煉とハイ・シェンの睨み合いが続く。

「アイツを食ったんだな……お前の覚悟と意地はわかった。
 それなら俺も迷いはしない、加減もしない仲間を守る為に全力でお前を殺す」

 煉はA.D『黎明』でエネルギーを凝縮させると大剣を具現化させる。
 その目には悲壮にも似た覚悟の色があるのをハイ・シェンは確かに感じ取った。

「そう、それなら……あなたも殺される覚悟をしないとね?」

 ハイ・シェンは槍を構えると、煉の首目がけて槍を突いた。
 煉はそれを払うと、すぐさま刀身が別の急所を狙ってくる。まるで正確無比の速射砲だ。

「くぅ……!」

 怒りや狂気など一切感じさせない、冷静でいて一撃で命の火を消そうという意思のみが磨き抜かれたような重たく冷たい一撃が煉を立て続けに襲い、冷たい汗が背中を流れる。
 突き、払い、振るい、かち上げ、叩き、逸らし、いなし。ありとあらゆる攻撃と防御策に煉は追い詰められる。
 派手な技ではないが、それだけに崩しがたくリーチを活かされれば手も出しがたい。

「……」

 先ほどまでの軽口など感じさせないほど暗い表情で、正確に相手の隙を狙い続けると、いよいよ煉の集中力が限界に達し、魔鎧となっているリーゼロッテに直撃し始める。
 煉の顔が痛みで歪み、動きが一瞬鈍るとハイ・シェンは足目がけて槍を突く。

「ぐぅ……!」

 槍の刀身が足に突き刺さり、煉は小さく呻く。
 それを契機にギリギリ拮抗していた攻防は一気にハイ・シェンへと傾く。
 嵐のような槍が煉の身体を貫く。
 煉はなんとか急所を外すように動くが、その身体は徐々に自分の血で染まっていく。
 血で目の前が赤く染まる中、ついに煉の集中力が途切れ、その隙を待っていたようにハイ・シェンは心臓に狙いをつけて槍を突いた。
 と、

「やらせるもんか!」

 突然、護りの翼が煉を優しく包み込むと、ハイ・シェンの槍は弾かれる。
 護りの翼を広げたのは行人だった。
 煉は息を整えながら現状を把握しようとするが、あまりにも突然のことと出血が思考を鈍らせる。

「……そこをどきなさい」

 ハイ・シェンは冷たい声音でそれだけを口にするが行人は首を横に振って動こうとしない。

「俺は……ブレイブセイバー! みんなを護るヒーローだ! 悲しいことなんてこれ以上起こさせるもんか!」

 ありったけの力を込めて行人は叫んだ。

「なんでこんなことするんだよ! 誰かを殺したって楽しいことなんか起きないぞ! 悲しいことになるのはやらなくたって分かるだろ!」
「……」

 ハイ・シェンは何も答えず、行人を殴り飛ばした。

「……うっさい。そんな綺麗事は天国で天使にでも語るのね」

 ハイ・シェンはそれだけ言うと、トドメを刺すように行人の額に槍を構える。

「おい」

 と、不意に横から声が聞こえる。
 声の主は、煉だった。
 身体の傷はあの短い間にリジェネーションとナノ治癒装置によって確実に塞がっていった。
 そして、それに気付かなかったことがハイ・シェンの最初の誤算であり、

「お前の相手は……俺だろうが!」

 初めて一撃を食らう要因となった。