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第4章 乙女の「体」は宝物

 午後2時の日差しはまだ肌を焼くのに十分な紫外線が含まれているため、出場者はもちろんのこと、観覧席にいる人たちもみんな、こまめに日焼け止めを塗りなおしています。
 休憩時間は、技部門参加者の料理の試食が出来たり、飲み物が配られたりして、楽しい一時が過ごせたようです。


「おまたせしましたっ!ついについに、“ミス・百合園”コンテストも、最後の体の部が始まりますっ!!体の部は一番出場者が少ないですが、その分、見応え満点間違いなしっ!みなさんもプログラムを見てワクワクしていることでしょう。海を舞台にしたダイナミックなパフォーマンスをぜひご覧くださいっ!」
 すでに1番手の桜月 舞香(さくらづき・まいか)は『日本泳法』を見せるべく、泳ぎに適したあたりにまで、ボートで移動をしています。
 その姿は…、百合園女学院の制服です?!
「桜月さん〜!がんばってください〜!」
 ナトレア・アトレアが、大きな声を出して、両手をぶんぶん回しながら、声援を送ります。その声はちゃんと届いたらしく、舞香は、大きく手を振り返しました。
 そして、制服のまま、海へ飛び込みました。
「桜月さんの『日本泳法』始めは『着衣泳法』ということで、洋服を着たまま飛び込みました〜っ!服を着て泳ぐというのは、本当に大変なことですっ!絶対に真似しないでくださいねっ!!」
 舞香は、百合園の制服を着たまま、スイスイと泳いでいます。その後、『水中脱衣』を行い、泳ぎながら器用に、制服を一枚一枚脱ぎ、大胆なハイレグビキニ姿を披露しています。
 最後に行うのは『水中格闘』手に槍を持って、戦う演武を行います。動きにくいはずの水中で、自由自在に槍を操る事が出来るのは、まさに修練の賜物であると言えるでしょう。
 豊満な身体をボートの上に引っ張り上げて、舞香のパフォーマンスは終了しました。

「『日本泳法』ってすごいんだね〜!あのあとだと…やりずらいなぁ」
 いつも元気な真崎 加奈(まざき・かな)も、さすがにちょっと準備にもじもじと手間取っている様子。
 舞香の豊満な身体と、白と青のタンキニ・しかも下はローレグという水着に身を包んだ自分との差にも、とまどいを感じて、自信を無くしてしまっています。
「でもでもっ!僕は元気なことだけが取り柄なんだからっ。がんばらなくっちゃダメだよねっ」
 船の甲板にしつらえられた飛び込み台を前に、加奈が自分を奮い立たせています。
 飛び込みも十分、技術の必要な競技ですよ?
 加奈は、躊躇なく、飛び込み台から飛び込みました。その姿には、拍手が送られます。
 その後、少し潜った後に顔を出して優雅に背泳ぎを披露しました。大変な事があっても表面は普通に振舞うと言うのが、大和撫子の心意気と加奈は考えます。残り時間は海中をくるくる回ったり、華麗に泳ぐ様を披露したり、最後は笑顔で?サインです。自分のパフォーマンスに、十分に満足出来たようです。

「3番!飛鳥井 コトワ(あすかい・ことわ)!泳ぐッス!」
 そう言って現れたのは、百合園女学院の飛鳥井 コトワです。スクール水着がとても似合っています。彼女のパフォーマンスは『超耐久遠泳』…?!これって、時間制限内にどこまで行けるかということですか?!
「陸の人魚など見世物小屋の奴隷なり! 海に居てこそマーメイド! いま私は自由になるっス!」
 コトワは元気よく海に飛び込むと…スイスイと泳ぎ始めて沖合のほうまで…そしてそのまたはるか彼方まで。制限時間には、どこにいるのかわからなくなってしまいました。
 運営側が安全確認のためにつけているモニターによると、肉眼で出来ないほどの距離に達し、何やらしばらくうろうろとした上で、現在、こちらに帰ってきている模様です。
 せっかくの素晴らしいパフォーマンスも、失格になってしまっては…、残念です。

 同じワンピース型の水着のパレオの裾を、紺色と白の色違いではためかせながら、フィル・アルジェント(ふぃる・あるじぇんと)セラ・スアレス(せら・すあれす)は、最後のステップの確認に余念がありませんでした。
 フィギュアスケートの中でも、とくにアイスダンスのステップを取り入れた今回のパフォーマンスは、二人の息がしっかりと合っていることが大切です。
 フィルが「セラさんはキレイなんですから、冒険の息抜きも含めて参加しませんか?」と誘ったことから、参加を決めた今回のこのイベントですが、セラの運動神経を持ってしても、かならの練習をしなくてはとても二人息の合ったパフォーマンスを見せるどころの騒ぎではありませんでした。
「1・2・3・4、1・2・3・フォー、で、フィルが回転、よ」
 夏の海の上には、当然氷のリンクが現れるわけはありません。二人とも【スキル】バーストダッシュの浮遊・飛行能力を利用して、アイスダンスを行います。
「さぁ、それでは、行きましょう」
 セラがフィルの手を取り、自分たちの指定した海域に危険がないか調査の終わったところで、さっそく演技のスタートです。
 音楽に合わせて、二人が動き出します。同じ動作、シンメトリーな動作を、水しぶきが靄となり、水面を滑走する二人をより幻想的に、ロマンティックに見せてくれます。
 華麗な動きの多いアイスダンスですが、中にはアクロバティックな難易度の高い技もあり、セラが上手にフィルをリードして、大技も決めています。
 二人の演技に会場から拍手の雨が降り注ぎました。
 フィルの嬉しそうな笑顔に、セラも満ち足りた気持ちになりました。

 会場が拍手で包まれている中、先ほど時間オーバーで失格となった飛鳥井 コトワが、両手に巨大な魚やら鮫やらを抱えて戻ってきました。
「静香っちに献上するッス!」
 どさどさと、審査員席の静香様の前に、おもむろに獲物を下されて、
「うわーっ!きゃーっ!!何コレ何コレーっ?!」
 静香様、喜んでます…?!
「ちょっくら沖で捕まえてきたッス!美味しいッスよ!」
 …あまり、市場で見かけたことない魚ばかりですが、本当ですか?
 献上品はともかく、飛鳥井 コトワさん、時間オーバーで失格ですよ!!
「あはっ。マジッスかー?そんなの知らねーッスよー」
 …とりあえず、席に戻ってくださいね。


 会場でそんな騒ぎが起きていた頃、蒼空学園の羽入 勇(はにゅう・いさみ)は、そのスクープを取り逃していることにまったく気付かず、カメラのチェックに余念がありませんでした。
 勇の出し物は『水中撮影画像をみなさんにお届け』というもの。カメラを抱えてダイビングしたところで、その映像がきちんとスクリーンに映し出されなければ、意味がありません。
 スクリーンそのものは、心・技の部でも出場者を映し出すべく利用されていたものがあるので、それを流用させてもらうことにしました。
 会場のモニターに勇が撮影したものがリアルタイムで映し出されるよう設置して、準備OK。
「さて、僕がみんなにパラミタ内海のステキな光景を見せて上げるよー」
 カメラの内臓された水中マスクをつけて、勇が海へ潜ります。
 パラミタ内海はとても美しく、澄んだ水の海ですので、外側からでも、その美しさは素晴らしいものですが、やはり海中から見た光景というのは一味違います。
 スクリーンに映し出された、色とりどりの魚たちの群れ、サンゴ礁たち、美しくたなびく海藻類、パラミタ内海の美しくも幻想的な光景が、人々を魅了します。
 光があちこちで反射して、魚が動くたびに、新しい光を生み出しています。
 そんな中、一瞬ですが遠くできらりっと光るものが映り込みましたが、まぶしいパラミタ内海の海中では、それが何かわかりませんでした。
 制限時間いっぱいまで、勇が撮影したパラミタ内海の映像は、人々の心に感動を生みだしました。

 スクリーンの美しい映像が終わってしまい、みんなそれぞれに感嘆のため息を漏らしていたり、きゃあきゃあと大興奮している人もいたり、それぞれの心に大きな思い出を作ってくれたその頃、次の出場者の準備はすっかり完了していました。
 ロザリィヌ・フォン・メルローゼ(ろざりぃぬ・ふぉんめるろーぜ)は、根拠はないけれど、すっかり優勝するつもりでいました。
(おーほっほっ!この時を待っていましたわ!ついにわたくしの真の魅力を百合園の姉妹達に知らしめる時が来ましたのね!)
 ロザリィヌは、ヨーロッパの名高い貴族の跡取でしたが、魔法の台頭によって家が没落してしまいました。しかし、誇りとプライドは、もちろん、まったく捨てていません。
 そのため、今回の参加にあたっても、水着を用意するお金がありませんでしたが、人から借りるだなんてそんなこと出来ませんわっ!昨晩夜なべして紙で作った水着を着て参上いたしますわ!
 …体の部門の舞台は「海」なんですが。
 え?体の会場はステージではなく海でやりますの!?待ってくださいませ!そんな事をしたら自作の水着がすぐ溶けてしまいますわ!?
 …あの、棄権なさったほうが…。
 い、いやですわっ!でもでもっ!身体を手で隠しながらでは、泳ぎが得意でないわたくしは、か弱く溺れてしまいますー!?どなたか助けてくださいませー!
 それでも、しつこく海へ入ろうとするロザリィヌと、溶ける水着とロザリィヌの身体を隠すべく、運営側と警備でタオルでぐるぐる巻きにして取り押さえたのが、ちょうど制限時間と同じく10分後のことでした。
 ロザリィヌの出し物『取りもの劇』…でした…?!

「なんだ、あいつ…、百合園にはあんなアホまでいんのか」
 ビキニやお遊戯レベルの心技体で決める、ミス・百合園だなんて、聞いて呆れるぜぇ、とパラ実から参戦したのがナガン ウェルロッド(ながん・うぇるろっど)です。
 六尺褌に、胸に詰め物入りのサラシ・鉢巻きを身につけ、いつも通りにピエロメイクで素顔を隠している姿は、乙女たちにショックを与えているようです。
 長身で細身のモデル体型であっても、やはりピエロメイクはこの白い砂浜では浮いています。
「大和撫子は奥ゆかしく可憐で凛とした強さを秘めているモノだろうに、じゃじゃ馬共が」
 ナガンのパフォーマンスは『薙刀』です。確かにこれは、大和撫子らしい「体」のひとつであると言えるでしょう。
 ナガンは浅瀬で薙刀を構えると、気合いの声と共に、長い薙刀を軽々と振り回しながら、演武を見せます。
 その薙刀さばきは大変に美しく、大和撫子を目指す乙女たちにとって、お手本とすべきくらいのレベルです。
 いや、言うだけのことはあります。ただ、まだ六尺褌とピエロメイクのショックから立ち直れない乙女たちがたくさんいることだけが問題ですが…。