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chapter.4 2日目・19時〜7時 


 東地区。
 長女未沙が脱落した後、未那と未羅は美羽らと別れ、東地区を離れていた。残った美羽とベアトリーチェは、未だ鍾乳洞の入口でお墓がある場所を守り続けていた。そこに、関羽が真剣な表情でやってくる。
「あ、カンちゃん! どうしたの?」
 美羽が明るく関羽に話しかける。関羽はそんな美羽を見ると、申し訳なさそうに口を開いた。
「……すまぬな、ルール上、見過ごすわけにはいかないのだ」
 ふたりのすぐそばまで歩を進めた関羽は、指で軽く美羽とベアトリーチェのプレートを叩いた。
「えっ……関羽……様?」
「同じ場所に留まり続けている者は、違反者として処理せよ。この島の掟だ……」
「そんなぁ……」
 がっくりと肩を落とすふたり。関羽はそんな彼女らに、優しく声をかける。
「安心してほしい、この鍾乳洞は私が責任を持って守る」
 それを聞いた美羽、ベアトリーチェは沈んだ顔を上げ、「お願いします!」と元気に返事をし収容所へとその身を移した。
「……とは言っても、常にここにいるわけにもいかぬようだな」
 関羽の耳に届いた情報によると、長時間動きのない生徒が「3人」いるとのことだった。美羽、ベアトリーチェ……そして、あとひとりがまだ残っている。関羽は、急ぎ足で違反者の元へ向かった。

 関羽が見つけたもうひとりの違反者は、サミュエル・ハワード(さみゅえる・はわーど)だった。彼はその大きな体を縮こまらせ、ちょこんと体育座りをしていた。何やらぶつぶつと独り言を呟いているようだ。
「団長が1014人、団長が1015人、団長が1016人……」
「……」
 それを見てちょっと引き気味になる関羽。当のサミュエルは関羽の姿を見つけると、泣きながら抱きついてきた。
「あっ! 関羽!! わぁーん、会いたかったヨー! 今までドコにいたノ!?」
 どうやら彼は島に来てから誰にも会えず、淋しかったらしい。さっきぶつぶつ言ってたのは恐らく淋しさ、そして団長への愛故の行動だろう。そのくらい彼は団長が大好きだった。ちなみに団長とはシャンバラ教導団の校長のことだ。最近ようやく団長が目立てそうなシナリオが来たものの、団長って? と思う人もまだいるだろうということで一応説明をした次第である。まあとにかく、サミュエルは団長ラブだった。
「関羽ー、手繋いでヨ! 俺とっても淋しかったヨ! あ、そうだ関羽、ドロップあげる!」
 そして、関羽ラブでもあった。くじ引きアイテムのドロップを口実に、強引に手を握ろうとするサミュエル。関羽はちょっと鬱陶しくなって、サミュエルにプレートを早く出すよう要求し、変色させた。サミュエルはべそをかきながら収容所へと連行された。



 南地区。
 西から移動してきた隼、ファタ、竜花、神山らチーム「美夢」は、次の標的を見つけていた。ターゲットは、今夜の寝床を探しうろうろしていた樹とフォルクスだ。
「よし、昨日と同じ具合でお願いしますよ、ふたりとも!」
「任せて、一式くん!」
「わしらのコンビネーションは、無敵じゃからのう」
 隼がファタと竜花を鼓舞し、ふたりがそれに答えると、昨日同様彼女たちは囮となって樹たちの前に現れた。
「す、すいません……! 私たち、女ふたりで戦う手段がなく、困ってるんです! どうかお供させてもらえませんか?」
 樹は「大変そうだなぁ……」と言葉を漏らしながら無警戒に近付いていく。その時、真人を倒した時と同じ手口で隼と神山が横から急に姿を現した。ただ、真人の時とはひとつだけ異なっているところがあった。それは、もうひとり急に姿を現した者がいたことだった。そのもうひとりとは、ファタのパートナー、ファム・プティシュクレ(ふぁむ・ぷてぃしゅくれ)だった。突然の出来事に動きが一瞬止まった隼と神山。そこに、ファムが襲い掛かった。
「こーんにーちはっ! ねぇねぇおにーちゃん、ファムと遊ぼっ?」
 ファムが持つフェザースピアの矛先は、隼のプレートだ。思いもしていなかった展開に隼の体はついていけず、ファムによって隼のプレートは変色させられた。
「まさか……最初から裏切るつもりで……?」
 ファタはにいっと笑みを浮かべた。
「ファムをずっと隠れて待機させていた甲斐があったようじゃな。んふ、人の嫌がることをやるとぞくぞくするのう」
 そう、彼女はこの時のため、あらかじめパートナーを控えさせていたのだ。
「言ったじゃろ? わしらのコンビネーションは無敵じゃと。さて、そろそろ残りも片付いた頃かの? ファム」
 後ろを振り返るファタ。しかしそこに倒れていたのは竜花でも神山でもなく、今現れたばかりのファムだった。
「な……ファム!?」
「裏切りを予想してないとでも思ったか?」
 大根をパシパシと手で叩き、してやったりといった表情でファタを見る神山。
「俺はハナっから各務しか信用してねえよ。裏切りは常に警戒して、しっかり反撃の準備もしてたぜ?」
「くっ……チーム名が恥ずかしいから裏切った、それのどこが悪いのじゃ!」
「いや、悪くねえぜ。悪かったのは、各務を狙ったってことだ」
 神山が、ファタも脱落させようと大根を振り下ろす。それをギリギリでかわしたファタは、全力でその場を走り去った。
「一式くん……ファタさん……」
 バラバラになったチームの様子に、竜花の表情が曇る。
「何て顔してんだよ。各務。俺らで生き残んだよ」
 神山のそんな言葉で、竜花は手に持った大根をぎゅっと握り締めた。
 隼、ファムの2人がここで脱落となった。

「何だか分からないけど……助かったのか?」
 裏切りのどさくさに紛れてその場から逃げ去っていた樹に、フォルクスが話しかける。
「もう少し慎重に行動しなければいけないな、樹」
「そっか、騙し合いとか何でもアリなんだもんな……ぐっ!?」
 突然、背後から襲われ前に倒れる樹。そこには、ホーリーメイスを持ったベルフェンティータがいた。
「その通り、何でもアリなのよ……不意打ちだって、ね」
「貴様らっ……!」
 樹がやられ、自分を抑えきれず反撃に出るフォルクス。しかし5人もいる過激派組に敵うはずもなく、クリムリッテの火術がフォルクスを容赦なく攻め立てる。
「樹……我はお前をひとりにはしない。脱落する時は一緒だ」
 燃える炎で逃げ場がなくなったフォルクスは、プレートを叩き自決した。
「ふふふ、私つよーい。超天才かも」
 過激派集団「七星椿」は、さらなる暴の世界を求め、去っていった。

 一方、命からがら神山から逃げ出したファタの目の前に現れたのは、宮津 欣二(みやづ・きんじ)だった。息を切らしているファタに、欣二が話しかける。
「ど、どうした!? 何かあったのか?」
「……ちょっとした事情で、追われておってな」
「何っ、大変じゃないか! あっちに人目につかなさそうなスペースがあったから、そこで休んでやり過ごしたらどうだ?」
「そうか……ではそうさせてもらうとするか」
 この時、ファタに裏切りを計画した時のような計算高さがあったならば、違和感に気付いたかもしれない。しかし逃走中で疲弊していた彼女に、その注意力はもう残っていなかった。違和感。そう、もし本当に人目につかないスペースがあるのならば、なぜ欣二はそこにいない? つまり、欣二のその言葉は嘘だった。彼の嘘には、狙いがあった。話は十数分前に遡る。なお、これより先はどうしようもない下ネタが時々出てくるため、そういうのが苦手な人は読み飛ばした方がいいかもしれない!

「おぉう……これはこれは、刺激的な格好だ」
 欣二と鉢合わせたのは、全裸姿の刀真だった。彼はフォーシスターズとの戦い以降、ずっと全裸で島を徘徊していたのだ。その格好を見てピンと来た欣二は、刀真にある情報を与えた。
「さっき、小さいのにどこか色っぽいという、魅力的な女性を見かけた。おそらくここで待っていれば、そのうち通っていくと思うよ」
 言わずもがな、それはファタのことであった。それを聞いた刀真は、ようやくこの姿を活かせる時が来た、と喜びスタンバイをした。

 そして、欣二に教えられた場所に着いたファタとそこで待っていた刀真は出会ってしまった。欣二が狙っていたのは、まさにこのシチュエーションである。彼は茂みに隠れ、配られたアイテム、油性ペンを手にしている。
「さあ、思う存分恥ずかしいシーンを演じるんだ」
 欣二は湧き上がる興奮を抑えきれず、はあはあ言っていた。文句なしに変態である。刀真を誘導する際に本人から聞いた情報によれば、刀真のパートナーは剣の花嫁だったが、もう脱落してしまったらしい。
「つまり、邪魔者は入らない……! どんな卑猥な言葉も、俺が書き残してあげるから、さあ始めるんだ……!」
 ファタに全裸で近付く刀真。その姿を見て欣二はある事に気付いた。
 彼のパートナーが剣の花嫁ということは、彼の武器は光条兵器……まさか、彼の光条兵器はアレなのか!? そういえば刀真はこんなことも話していた。「俺の光条兵器は黒い刀身の剣だ」と。
 黒い刀身……やはり、アレは彼の光条兵器!! あの人は、これが全年齢対象のゲームだと分かっているのか!?
「な、なんじゃおぬし、その格好は……」
 たじろぐファタに、刀真が迫る。
「能ある鷹は爪を隠す……今がその爪を出す時!」
 もう何を言っても下ネタにしか聞こえない刀真の言葉に、欣二のボルテージも上がっていく。そして刀真がファタに手をかけようとしたその時! 欣二の潜む茂みと逆側の茂みから、この場にいる誰よりも変態な男が現れた。
「ふふ、ふははは……悪い子はいねえがぁあああーっ!?」
 ストッキングを手にはめて振り回しながら走ってきたのは、明智 珠輝(あけち・たまき)だった。彼はくじ引きでストッキングを当てた時、一晩かけて考えた。
 これを頭にかぶったのでは、よくいる普通の変態だ。私はもっと高みを目指したい。どうすれば、どうすれば……!
 そして彼が辿り着いた結論が、伝統文化とエロスの融合である。なまはげとストッキングという組み合わせなら、新しい世界が拓ける気がしたらしい。珠輝はストッキングで刀真の黒い刀身を包むと、ぎゅうっと引っ張った。
「いててててててて!!!!!」
 刀真は悶絶した。珠輝はそれを見て、自分でやった癖にちょっと羨ましくなった。彼の中のS心とM心が揺れ動く。
「くくく、ははは、はーっはっは! 泣け、叫べ、そして揉め!」
 しまいにはどこかの格闘ゲームのキャラみたいなセリフを言い出す珠輝。揉め! と急に言われても、ファタはどこを揉んだらいいのか分からない。刀真に至ってはそれどころじゃなかった。
「揉みづらいのならば、脱ぎましょうか? 脱げと言ったらどうですか? さあ!」
 珠輝はもうやりたい放題だ。最終的に彼は「チラリズムの秋だ」とか言い出し、大事な部分だけをチラ見せしだした。というか一般的に人はそれをチラ見せとは言わない。モロ見せである。ファタと欣二は「もうこの人には勝てないよ」ということで、プレートを自ら変色させ、収容所へ移った。もはや瀕死状態の刀真も、その後「全裸になったことを今では後悔しています」という謝罪コメントと共に収容所へと向かった。こうしてファタ、欣二、刀真の3人は脱落した。これが世に言う、明智珠輝による「本能時も変」である。



 西地区。
 悠、翼、祥子、クレア、ハンスら即席教導団組に囲まれていたのはフォーシスターズの生き残り、ケイとラキシスだった。
「くっ……逃げ道を塞がれたか……!」
 ケイは懸命にラキシスを守ろうとするが、やはり多勢に無勢、徐々に追い詰められていく。
「困ったものね、貴女たちのような可愛い子がこんなおいたをするなんて。お仕置きが必要なようね」
 祥子が妖艶な笑みを浮かべる。奇襲という形で先に攻撃を仕掛けたのはケイたちだったが、祥子のスキル「女王の加護」によって危険察知され、奇襲は失敗に終わったのだった。
「私たちを狙ったのが、運の尽きだったな」
 悠が大根を構える。
「ケイちゃん……!」
「大和先輩、すいません、どうやら俺たちはここまでのようです……」
 そして、無情にも大根が振り下ろされ、フォーシスターズは全滅した。

「……あれ、クレアは?」
 ケイたちを撃退した悠らは、クレアの姿が消えていることに気付いた。
「どうやら、はぐれてしまったようですね……わたくしが探して参ります」
 パートナーのハンスがすぐさまクレアを探しに行く。
「……私たちも、探そうか」
「そうだな」
 悠、翼、祥子らもいなくなったクレアの捜索を始めた。ハンスが南に広がっている森の付近まで来た時、そこから人影が現れた。それは、いなくなったクレアだった。
「上手くいったようだな」
「ええ……彼女たちはバラけました。後はひとりひとりここに誘導するだけですね」
 そう、これはクレアとハンスが仕組んだ計画だったのだ。彼女らは、裏切られる前に裏切ることにしたのである。その罠に掛かったのは、悠だった。
「悠様、クレア様が見つかりました。皆様あちらでお待ちです」
 言って、誘導するハンス。悠は少し離れたところにいる翼を呼び寄せて一緒に行こうと考えたが、後で呼び戻せばいいかと思いそのままハンスに着いていった。いざとなれば光条兵器を持ち出せるし、たしか彼女――クレアのアイテムは大根だったはず。大根でどうにかできるものでもないだろう。しかし、この油断が悠にとって致命傷となった。
「こちらです、悠様」
 ハンスが案内した先には、クレアがいた。
「どこに行っていたんだまったく。さあ、行くぞ」
 悠はクレアの姿を見ると、電話で翼を呼び寄せようとする。クレアは大根を手に、すっと悠に近付いた。
「もしもし、翼か、クレアが見つかったからこっちに集合してくれ。場所は……」
 コン、と音がして、悠の持っていた電話、そしてプレートが地面に落ちた。
「な……クレア?」
「大根も、油断を誘うには有効な武器だったようだな」
「く……私としたことが……」
 電話の向こうでは、翼の「もしもーし」という声が空しく響いていた。

 続いてクレアとハンスは、翼を潰すことにした。同じ手口で翼を誘い込み、大根で襲おうとするクレア。しかし、それは翼に読まれていた。
「ちっ……!」
「そんな手にボクは引っかからないですよー。悠くんの電話が途切れた時、おかしいと思ったんですよねえ」
 翼は後ろに立っていたハンスのプレートを素早く叩き、変色させた。
「クレア様……申し訳ありません……」
 脱落した悠、ハンスと生き残った翼、クレア。そこに、祥子がやってきた。
「貴女たち、何を……」
「……ここからは、正面から闘うしかなさそうだな」
 クレアがふたりを向いて構えを取った。
「ボクは負けませんよー」
 翼もやる気満々だ。祥子はこの場の状況から、既にチームはなくなり、身内での生き残り戦争が始まったのだと悟った。
「そう、そういうことなのね……遠慮はしないから」
 そして3人は、熱く火花を散らし始めた。あまりに戦いが熱すぎて、3人とも脱落した。即席教導団チーム壊滅である。



 北地区。
 開始直後に玉ねぎを利用して焔を倒した乃羽が、洞穴の中で休憩を取っていた。
「はぁ、疲れちゃった。お風呂入りたくてしょうがないよ」
 玉ねぎを手でもてあそび、溜め息をつく栗。と、洞穴の入口にいつの間にか人が立っていた。
「誰っ……!?」
 しかし影は乃羽の問いに答えず、ゆっくりと乃羽へと近付いていく。
「あっ、あたし、もう脱落しようと思ってたんですっ、だから、攻撃しないで欲しいんです……っ!?」
 乃羽は言葉の途中で、腕を掴まれた。そのままぐるんと投げ飛ばされ、乃羽は宙を舞った。運良く水溜まりに落下したお陰で大した怪我にはならなかったが、プレートは赤く変わっていた。
「うぅ……オーラス前にハコることになるとは……一体……何者なのです……か……」
 そこで初めて、男は名乗りを上げた。
「オレか!? オレは最強の男、竜司だ!」
 そう名乗った巨体の主、吉永 竜司(よしなが・りゅうじ)は満足そうに洞穴を後にした。彼にとっては男も女も関係なかった。そう、彼はただ暴れたいだけだったのだ。竜司は次の獲物を探しに向かった。

 そしてロウンチ島に、再び朝が訪れた。
 【残り 51人】