空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

【2019修学旅行】斑鳩の地で寺院巡り

リアクション公開中!

【2019修学旅行】斑鳩の地で寺院巡り

リアクション



●唐招提寺巡り

「随分と賑やかなことになってるねぇ。……あはは、人が二人、吹き飛ばされてったよ。見ていて飽きないねぇ」
 講堂を近くに見渡すことのできる建物の傍で、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)が楽しげな表情を浮かべていた。
「しかし、どこも木の建物ばかりだねぇ。火元の管理はさぞ気を使ってるんだろうねぇ」
 呟いたリナリエッタの耳に、「よーし、魔法のぱんつを手に入れて、ねーさまに見られないようにするんだから!」という声が聞こえてくる。
「……魔法のぱんつ、だってぇ? もしかしたら魔法少女的なアイテムが買えるかも? 面白そうだし行ってみよ〜!」
 リナリエッタが駆けていく、その向こうではアルステーデ・バイルシュミット(あるすてーで・ばいるしゅみっと)シエル・テスタメント(しえる・てすためんと)が、パンフレットを覗き込みながら建物を見学していた。
「唐招提寺の金堂は、奈良時代建立の寺院金堂としては現存唯一のものである……か。やはりここもかつては、あの小さな可愛らしいガイドの言うように、子供たちの遊び場になっていたのかな?」
「そうデスネ、文化財の裏に落書きがあるかもしれマセンネ」
「はは、それを見つけるのも何だか楽しそうだ。では色々と回って、日本の文化というものにもっと触れることにしよう。……もちろん、子供の落書き探しも、だね」
「ハイ、了解しマシタ、アルス様」
 言ってアルステーデとシエルが歩き出す、彼女にしては珍しく楽しさを前面に押し出した表情を見せるアルステーデを見遣って、シエルもその無表情な顔の奥に、『楽しい』という感情を秘めながら、二人の見学は続いていく。

「千手観音像は普通、合掌している手を含めて四十二手で千手を代表させるものが多いが、この千手観音像は実際に千本の手を表現した例だ。破損などによって少なくなってはいるが、確かに千本の手を表現しようとした痕跡は残っているだろう?」
「はぁー……本当にお詳しいのですね、刹那様」
 千手観音像の前で、八月朔日 刹那(ほづみ・せつな)が自ら持つ知識をユーニス・アリマプティオ(ゆーにす・ありまぷてぃお)に教授していた。
「刹那様、あちらは何でしょうか? それと、こちらのあれは何でしょうか?」
 ユーニスが刹那に次々と質問を投げかけながら歩いていく、そして刹那はユーニスが歩いた後に、見学を始めた時からユーニスが集めていたパンフレットやらチラシやらが落ちているのに気がつく。
「ユニ、鞄からチラシが落ちているぞ」
「えっ、あっ! も、申し訳ございません刹那様、ただいま――きゃっ!!」
 慌てて拾い集めようとしたユーニスが、床のチラシに足を滑らせる。
「ユニ! ……危ないところだったな、大丈夫か」
 刹那が咄嗟に踏み出し、ユニを身体で受け止める。
「……刹那様、もう少しだけこのまま……」
「ん? どうした、ユニ?」
「あ、いえ、な、何でもありません。もう大丈夫です、ありがとうございます」
 言ってユニが刹那から離れ、床に落ちたチラシを拾い集めていく。首を傾げつつ、刹那もそれに加わった。

「ん〜……はぁ、久しぶりの京都ですねぇ……何だか時間がゆっくり流れているみたいですねぇ……」
 陽光が柔らかく降り注ぐ中、茶屋の一角に腰を下ろして、藍乃 澪(あいの・みお)が伸びをする。
「ここのみたらし、京都に来たら絶対行くんだってチェックしてたんですよぉ。では、いただきまぁーす」
 皿に盛られた団子を頬張って、澪が幸せそうな表情を浮かべる。
「先生がこんなことしてていいんでしょうかねぇ……うん、いいですよね。生徒さんはしっかりしてるし、ガイドさんまでいるし……はぁ、のんびりできますねぇ……」
 気持ちよさそうに瞳を閉じる澪、その向こうでは寺院巡りに歩き疲れ、一休みとばかりにアンドリュー・カー(あんどりゅー・かー)フィオナ・クロスフィールド(ふぃおな・くろすふぃーるど)葛城 沙耶(かつらぎ・さや)が和菓子タイムを満喫していた。
「兄様、どうぞ召し上がってくださいませ。はい、あーん」
「ちょ、ちょっと沙耶さん!? アンドリューさんの世話は私が見てるんですわよ? 私の仕事を取らないでください!」
「あら、それは向こうの世界での話でしょう? ここはあたしの言わばホームグラウンドですのよ。でしたらあたしが主導権を握るのは当然のことではありませんか?」
「そ、それは……ううん、ダメです! やっぱり私がアンドリューさんに食べさせてあげるんです!」
「いいえ、あたしが兄様に――」
「私が――」
 どちらがアンドリューに和菓子を食べさせてあげるかで、フィオナと沙耶が静かな戦いを――周りの人たちに迷惑をかけないようにするのは、二人の暗黙の了解であった――繰り広げる。
「……ハァ、向こうでもそうだったけど、こっちでもこうなるのかぁ……」
 その様子を見遣って、アンドリューがため息をつく。
「……こうなったら、兄様に直接決めてもらいましょう。……兄様、あたしとフィオナ、どちらが適任か決めていただけますか?」
「私ですわよね、アンドリューさん!」
「いいえ、あたしよね、兄様?」
「正直、どっちでもいいよ……」
 アンドリューの呟きは、高い空に上って消えていった。