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リアクション
倉庫内は死屍累累といった状況になったが、その容赦ない暴行のひと時を逐一映像に収めている者がいた。
国頭 武尊(くにがみ・たける)である。
彼はあるときは物陰から、あるときは天井からぶら下がりながら、あるときは腹ばいになって、気絶したチンピラの体の横から、皆がチンピラを『暴行』しているさまを撮影していた。
『光学迷彩』と『迷彩塗装』で身を覆っているため、誰にも気づかれることはなかった。
彼は思う存分撮影し、常人以上の力を持つ契約者たちの『横暴』を目の当たりにしてため息をついた。
アリアとかいうお嬢ちゃんの行方なんかはどうせたかが知れている。
この場所に入ったときにアリアの姿がないのを国頭はいち早く察知したのだが、誰かがそれを指摘する間もなく一方的な戦場と化してしまったことに呆れていた。
おいおい、そこ、もうちょっと手加減してやってもいいんじゃないのか。
国頭は迷うことなくこの現場の『摘発』を決意した。
己の力に酔いしれる者が多く、無駄に力を使う者が増えてきたと彼は感じていた。
この問題提起で、ちっとは変わってくれればいいんだがな。
彼は淡々と、倉庫内を撮影し続けた。
戦闘はあっという間に終了し、不満そうに倒れたチンピラたちを眺める皆の中、怪力の篭手を身につけた赤羽 美央(あかばね・みお)はやや物足りなかった戦闘に切りをつけて、直前に殴り倒したチンピラの一人の胸倉をつかんで体を起こした。
「眠るのはまだ早いですぞ」
美央の姿をうっすらとあけた瞳にとらえたチンピラは、ふっと力を抜いて死んだふりをした。
「……とぼけるだけの余裕はあるようですな」
たちまちチンピラはぱっちりと目をあけて何度も瞬きして見せた。
「よろしい。アリアという少女のことは知らないんですね?」
「あい、知りません」
「結構です、それでは手伝いなさい」
「へ?」
「探すのを手伝うのです、他の仲間にも言い伝えなさい」
「……」
「返事は?」
「あいあいさ!」
チンピラは自分の仲間に伝えるべく慌てて美央から離れた。
「殺されないだけましと思いなさい」
彼女は怪力の篭手をさすった。
本当ならばナイトらしく剣でばっさばっさといきたかったのだが、思いのほかチンピラたちが弱かったので剣を抜かなかったのだ。
闇咲 阿童(やみさき・あどう)は横たわるチンピラの間でしゃがみこんでいた。大神 理子(おおかみ・りこ)が倉庫内を走り回ってアリアの姿を探し回っていたからだ。
その間、阿童は気だるげにチンピラを眺めていたが、近くのチンピラが意識を取り戻したようなので、ちょっと声をかけてみることにした。
「ちょっとそこの」
「……」
「アリアという少女、知らないか」
チンピラは頭を振ると、再び昏倒した。
「……わけもわからずぶっ飛ばされましたって感じだな」
立ち上がって、彼は理子を探した。
理子は熱心に倉庫に隠し部屋がないか探し回っていたが、やがて息を切らせて戻ってくると、困ったように報告した。
「阿童君、アリアさん、見つからないよ」
「まぁ、たぶん、いないんだ、もともと」
「え……ここまでしておいて、そんな落ちはちょっと……」
「仕方ない。世の中には、勢いだけで物事を解決しようとする連中が多いんだ。今日はそういう連中が集まっただけの話だ、俺たちを含め」
見るからに理子の耳が垂れ下がった。表情もやや暗くなる。
「必ずしも「正義」が勝つとは限らないんだね」
「そういうこともあるさ。それより、俺はおなかがすいたな」
理子は阿童の眼差しに急に生気が宿ったのに気づいて、慌てた。
「よし、じゃあ、食べに行こう、僕はこの事件のことは忘れることにするから、食べに行こう!」
阿童が足取りも軽やかに外に向かうのを追いかけながら、理子は名残惜しげに振り返った。彼女はやはり、まだアリアの行方が気になってならないのであった。
朔が我に返ったのは、彼女の保護者である鬼崎 洋兵(きざき・ようへい)が現れてその腕に手を置いたからだった。
「派手にやったなぁ」
咥えタバコをくゆらせながら、洋兵はしみじみとそう言った。
「ま、俺はちょっくらバローザのおっさんのところに行ってくるわ。朔は好きにしろ」
まだ呆然としている朔の肩をたたいて洋兵は倉庫を出て行ってしまった。
ふと彼女は自分の足首を何者かが掴むのを感じた。
「頼む……もう助けてくれ」
まだ子供のようなチンピラを見下ろし、他のチンピラたちも同じように年齢のいかない者たちであることを感じた朔は、しゃがみこんで彼に告げた。
「助けてやる」
あっさり言って手を差し伸べる朔に、チンピラは目をぱちくりさせた。
先ほどまでの鬼神のように剣を振り回していた人間と同じとは見えない慈愛を感じたのだ。
「悪かった。少年、もしよかったら手伝わないか」
「え?」
「一緒にアリアを探そう、今この機会だけの部下にしてやる」
チンピラ少年はよくわからないままに頷いていた。
瀬島 壮太(せじま・そうた)はチンピラたちにちょっとした親近感を感じつつも、他の者たちがチンピラたちを打ちのめすのを眺めて戦いには加わらなかった。
一見してそう強い連中ではないのがわかったし、何より彼は無用な戦闘は好まないのだ。
くたばっているチンピラたちをよけつつ一人ひとり顔を覗き込みながら、なんとなくボスっぽい者を認定した。
「おまえ」
「……?」
「ああ、そこのおまえだよ。仲間たちがちょっとやんちゃしちゃって悪かったな」
チンピラボスは無言で体を起こした。
「ところで、こんなことになっちまったわけ、おまえわかってるか?」
チンピラボスは吐き捨てるように言った。
「まったくわからねぇ」
「ああ、そうか、やっぱりな」
それにしちゃあ、ずいぶんとやっちまったもんだ。連中は最初から犯罪集団の撲滅にやってきたようなもんだ。
「オレたちはアリアってお嬢様を探しにきたのさ。あんまり長いこと家出したまま帰ってこないもんで、てっきり犯罪に巻き込まれているんでないかと思って……この有様だ」
「ちっ、いい迷惑だぜ」
「オレはそう短気ではないんでね、穏やかにいきたいもんだが、アリアってお嬢様のことは知らないか?」
チンピラボスは青く晴れ上がった頬を上げてにやりと笑ったが、すぐに痛みに顔をしかめた。
「センター街の女という女、俺様はすべて知り抜いているのさ。アリアって奴は、本当になんにもしらねぇガキで、そりゃぁ、最初はいわゆるギャルって女たちの手を煩わせたもんだ」
「ふむ、で、どこにいるんだ」
「センター街の入り口付近の牛丼屋でバイトしてるぜ」
あっけなくつかめたアリアの行方に、壮太は満足した。
「そうか、助かったよ」
「いや、まぁ、ここの収拾をつけるのは任せたわ」
チンピラボスが辺りを見回してため息をつくのを尻目に、壮太はあたりの仲間に声をかけた。
一同は困惑しているチンピラたちを置いていっせいにセンター街入り口に向かった。
牛丼屋に大勢で押しかけるも、アリアはその日はすでにバイトを終えて帰ったらしい。寝泊りはネットカフェを転々としていると聞いたので、それぞれセンター街のネットカフェをめぐることにした。
「ネットカフェってどうやらいっぱいあるみたいですよ」
ソニア・アディール(そにあ・あでぃーる)はくるりとその場でまわり、ネットカフェを指差した。
「ぬぅ……片っ端から見て回るしか手段はないだろうな」
ラス・サング(らす・さんぐ)はサングラスをきらりと光らせながらあたりを見渡した。
グレン・アディール(ぐれん・あでぃーる)は思案深げに黙っている。ここはパートナーたちの判断に任せようと考えていた。
「よし、歩くぜ! 歩いて何ぼだろ、俺はそういうの大好きだ!」
李 ナタ(り・なた)は宣言して真っ先に目に入ったネットカフェに入ろうとしたが、そのネットカフェのしたにはゲームセンターがあった。
その店頭にあるUFOキャッチャーにサングは釘漬けになってしまったのだ。
「こ……この、のぶ太くんのメガネレプリカ!!! 欲しい、欲しいぞぉ!」
「でも、サングさん、今はそんな場合じゃ……」
「だがしかし、これは本当にレアなのだ、オークションでも高額で取引されている超レアアイテムなのだ!」
「……あ、俺、あれと戦ってみたい」
ナタは奥のほうに置かれているにょきっと突き出して、さぁかかっておいでといわんばかりの腕相撲のゲームに突進した。
「あらら、もう、なんてこと」
ソニアは呆れて、グレンを見上げた。
「グレン?」
「……寄り道をするなとは言われていないな」
ソニアはグレンのその言葉に肩をすくめた。
「グレンはどのゲームが気になったんですか」
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