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【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

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【2020授業風景】理科の授業は白い子ギツネ

リアクション

3.

「あ、おはようございますー」
 レロシャン・カプティアティ(れろしゃん・かぷてぃあてぃ)は欠伸交じりに挨拶をした。
「おはよう、レロシャン」
 と、芦原郁乃(あはら・いくの)
「子ギツネ探し、頑張りましょうねぇ」
「うん、ちょっと心配もあるけどね……」
 郁乃はそう言って斜め前を見る。そこにはパートナーである十束千種(とくさ・ちぐさ)が待ちきれない様子で飛んだり跳ねたりしている。
「それでは、また後で」
 レロシャンはにこやかに会釈をすると、一人で街を歩き始めた。
 ――やはり相手はキツネなのだから、キツネになりきって探すのが良いかもしれない。
 そう考えたレロシャンは超感覚を発動した。頭に狼の耳が生え、制服のスカートから尻尾がのぞく。
 そうして地面へ四つん這いになったレロシャンは、鼻をくんくんさせながら歩き始めた。
 しかしレロシャンは気づいていなかった。スカートの下にスパッツを履いていながら、しっぽのおかげで破けてしまっていることに。
 道行く人の視線を色々な意味で集めながら、彼女は自分の道を進んでいく。

 千種がどうしてもというので百合園の校舎へ入り、捜索していると、廊下を白い影が横切った。
「わあ、見つけましたぁ!」
 表情ゆるゆるの千種は子ギツネへ向かって全力疾走する。
「あ、ちょっと待ってよー」
 普段は滅多に感情を表に出さないくせに、動物のこととなると人が変わるんだから……と、郁乃は溜め息をつきたくなる。
「子ギツネさん!」
 廊下を突き当たったところで、子ギツネは足を止めた。怖いぐらい目を輝かせて近寄る千種を見て、警戒する様子に変わる。
「ああ、まるっこい! それにもふもふしてますわ!」
 と、千種は距離を縮めて行く。
 郁乃がようやく追いつくと、子ギツネが千種に抱きあげられようとしているところだった。
「クォン!」
 と、一声鳴いたかと思うと、千種の胸へ飛び込んでいく。それとほぼ同時に――。
「きゃあああっ!」
 郁乃のスカートがめくれあがり、水色のしまパンが姿を見せた。
「ちょ、ちょっと千種!」
 しかし千種は子ギツネをもふもふするのに夢中で、全く別世界へとイってしまっている。
 風はどうやら一時的なものだったらしく、すぐにおさまってくれたものの、郁乃は恥ずかしさでいっぱいだった。
「えいっ!」
 かと思えば再び風が巻き起こり、愛らしいしまパンがまた顔をのぞかせる。
「きゃああっ!?」
 郁乃が後ろを向くと、そこには狐尾付きスパッツ水着を着た姫野香苗(ひめの・かなえ)と、にやにやしているどりーむ・ほしの(どりーむ・ほしの)がいた。
「ナイスしまパン!」
 と、親指を立てるどりーむ。郁乃が顔を真っ赤にして口をぱくぱくさせている内に、二人はるんるんとどこかへ去ってしまう。
「あら」
 すっかり千種に懐いていた子ギツネは、ふいに彼女から離れると駆け出した。懐いている場合ではないことに気が付いたようだ。
「待ってー!」
 と、駆け出そうとする千種を郁乃が捕まえる。
「千種っ!」
 振り返ると、郁乃は顔を赤くしたまま、ぶるぶると震えていた。

 校舎内には生徒の姿がほとんど見当たらず、静かだった。
 コンラッド・グリシャム(こんらっど・ぐりしゃむ)が、そろそろ別の場所を探そうかと思い始めた時、階段から何かの駆けてくる音がした。
 そして姿を現したのは、すらりとした体系の美しい女性。
 危うくぶつかりそうになり、コンラッドはとっさに避けたものの、その横顔があまりにも似ていて……目を疑った。
「な、何でお前が、ここに……」
 彼の後ろにいたステファニア・オールデン(すてふぁにあ・おーるでん)もはっとして、コンラッドの腕を掴む。
「コンラッド!?」
 女性は彼を振り返ると、にこっと優しく微笑んだ。その瞬間、その顔が別れた妻にしか思えなくなる。
「ちょっと、何て姿に化けてるのよ!」
 と、ステファニアはメイスを握る。それで女性を攻撃しようとしたのを、コンラッドが制止する。
「駄目だ!」
「な、あれはどう見たってキツネよ。ちゃんと見て、お尻に尻尾が生えてるわ!」
 指摘された女性は後ろを振り返ると、元の姿へと戻った。
 未だ混乱しているコンラッドをあざ笑うかのように、彼らの横を通り過ぎて行く。
「きゃっ」
 ステファニアのスカートが風でめくれ、とっさに周囲を確認する。さっきまでは自分たち以外誰もいなかったが……。
「見た、わよね?」
 柱の陰に隠れていた弥涼総司(いすず・そうじ)を睨み、ぎゅっとメイスを握りしめる。
「このロリコンっ!」
 コンラッドや子ギツネのことなど忘れ、逃げ出す総司を追いかけていくステファニアであった。