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夏休みの宿題を通じて友達を作ろう

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夏休みの宿題を通じて友達を作ろう

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第一章 始まる輪


「思ったより、多いですわね」
「うん、苦労しているのは私たちだけじゃないってことだね」
 辺りを見渡しながらレティーシア・クロカスは呟き、それを加能 シズル(かのう・しずる)が拾った。
 一人でペンを走らせる人、グループでする人、黙々とする人や唸りをあげる人など多種多彩な生徒がテラスを賑わせている。
「どなたからお声かけいたしましょうか」
「うーん……、出来れば同じところで悩んでる人がいいんだけど」
 考えていても仕方ない。話しかけないことにはわからない。
 そう考えた二人は、とりあえず席を離れ歩き出した――ところで。
「あっ、あの。よろしかったらご一緒に……、課題やりませんか?」
 背後から声をかけたのはアリエル・シュネーデル(ありえる・しゅねーでる)。事の顛末を知っていたのか、手にはシズルと同じ課題プリントを持ち、加えて本も抱えていた。
「うん、是非一緒にやろう。私はシズル、こっちはレティーシアだ。よろしくね」
「はい! 私はアリエルって言います。こちらこそ、よろしくお願いします!」
「うふふ、まさかお声かけされちゃうなんてね」
「予想もしてなかったよ」
「すみません……、突然。他の方にも声をかけようと思ったのですが、なかなかタイミングが合わず……。
そんな時にシズさんとレシアさんの会話が聞こえ、一緒に出来れば捗るかと思いまして」
「そうね。これも何かの縁だろうし、協力しながらやろうね」
 アリエルが加わって3人となった中、レティーシアは自分のことをさりげなくレシアと呼ばれたことに一瞬、疑問に感じたが、新しいあだ名に少し嬉しさを感じていた。
「っと、話している間に席、埋まりましたね……」
「そう……みたい。とりあえず空いている人のところに相席しよう」
 シズルの提案をレティーシアは早速、すぐ隣で頭を抱えているトマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)と、
勉強みているような監視しているような様子の魯粛 子敬(ろしゅく・しけい)に声をかけていた。
「よろしければ、ご一緒させていただけないでしょうか?」
「是非、君たちの力を借りた――いたっ!」
「ええ、みなさんでしたほうが楽しいですからね。ですが、トマスを甘えかさないでください。油断しているとすぐ、サボってしまう子ですから。
それに書物を紐解いたりした結果を、つなぎ合わせて考えるのはあくまでも自分の頭で、ですよ。でなけりゃ覚えません」
「ああ、もう。わかったわかった」
 どこから取り出したのか、孫の手でトマスの額を叩いて会話に割り込んだ。そのおかしなやりとりに一瞬、
レティーシアの動きは止まってしまうが、すぐに気を取り直して「よろしく」と頭を下げた。
 遅れてシズルとアリエルとも挨拶を交わし、着席する。レティーシアと子敬はシズル、アリエル、トマスの勉強風景を眺めながら、スイーツを食していた。
「なるほど。アリエルさんは剣術を、トマスさんは世界の星座伝承をテーマに進めてるのね」
「はい。頭ではわかっているのですが、実戦の様子を文字するのが難しくて……」
「僕は星座と伝承について調べてたけど、どうもしっくりこなくて……」
「……なかなか、難しいもんだね。私はまだ、テーマすら決めてない……はは」
「星座と言えば、予言や占いにも使えますわね」
 苦笑したシズルをフォローするかのように、レティーシアは話しをかえた。
 とはいえ、天使であって星座やら占いには興味がある。その辺の知識をトマスに伝えたら役立つかもしれない、という考えがあった。
「あっ、星占いならアリエル好きですよ」
「おぉー、それはいい。ちょっと教えてくれ」
 アリエルも乗り、場が一気に加速する。
「ふむ、これはこれで、勉強になりますな。……ほー、これはなかなかに美味」
「こっちも美味しいですわよ」
 勉強組と食べ組に分かれ、思い思いに打ち込む。すると――。
「ああ〜! まずい……。非常にまずいな! うち一人だと読めないむずかしい文字や計算式があるじゃねーか! 最悪だ……。
でも戻って説教に加え厳しい補習をうけるのもひじょーに嫌だし……。問題文が読めない、ってのはちょっと恥ずかしいけど宿題未提出よりはマシだ! 誰か助けてくれる人を探そう!」
 シズルの後ろの席で、一息で捲し立て、勢いよく立ちあがった九条 ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)はこれまた勢いよく身を反転させ、シズルと視線を交差させる。
「……あなたもよかっ――」
「助けてくれ……頼む!」
「あ、ああ……いいよ」
「おお! ありがとだ!」
 あまりの気迫に全員が手を止め、ローズを見つめている。辛うじて、シズルが答えられたのは、目があったからといった理由からだ。
 そして止まった時間が戻ると、シズルは机をくっつけてスペースを広げる。
 新たなメンバーが加わり、お互いに自己紹介を終えたところで早速、筆を動かす。
「ここは……と、解釈して考えれば、いけると思いますの」
「おお! さすがレティーシア! よくわかるぜ!」
「うふふ、これぐらい簡単ですわ」
 ローズはレティーシアと子敬の間に座り、主にレティーシアから勉強を教わっている。
「しかし、どこもかしくもみんな同じみたいだぜ」
「そうですわね。宿題なんてものは最初に片づけたほうが余裕があっていいですのに」
「そうですね。しっかりやっておけば、私たちのように美味しいものを堪能できるというものです」
 その会話はもちろん、シズルたちの耳に入り。
「……言い返せないです」
「うん……。だけど、これだけ仲間がいるんだ。あの二人が特別と考えるようにしよう」
「それがいいぜ」
 と、こぼすのであった。
 
 勉強はサクサク進み、思った以上の成果が表れ始めた頃。
「おおー! これでなんとか補習は免れるぞ!」
 ローズは最後の一問を埋めた瞬間、急に立ち上がり、辺り一面を見渡した。
「レティーシア! この感動を他のみんなにも感じてもらいたい!」
「みんな? そうですわね〜……。じゃあ、困ってる人全員、引き込んでしまいましょうか。どうかしら?」
「いいよ。私は構わない」
「アリエルもです」
「僕もだ」
 満場一致となると、レティーシアは席を立ち、シズルの手を引く。
「ん? 私も?」
「わたくし一人でお声かけするのが、大変だからですの」
 確かに一人で声かけするよりは手分けしたほうが早い。それにレティーシア自体は課題を終えていて、手伝うことはあっても手伝ってもらうことはない。
「わかったよ」
 手を引かれるままに立ちあがり、独りで立ち向かっている生徒たちに声をかけた。
「こんにちは。課題でお悩み中ですか?」
 レティーシアは、ボックス席の対面に座ってセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)の勉強を見ている御凪 真人(みなぎ・まこと)の肩をポンと叩いた。
「あ、ああ……そうなんです。俺はこれをまとめるだけなんですが、相方のセルファが全然進んでいなくて」
「しょ、しょうがないじゃない。やりたいことが多くて、宿題できなかったんだから!」
「だから毎日少しずつやっていたらこうならないと、言ってたじゃないか」
「むぅ……わかったわよ。やればいいんでしょやれば! ……少しはノート見せてくれたっていいじゃない」」
「ちゃんと見てあげるから」
 レティーシアは兄弟仲のような会話が終わるのを待って、本題に移る。
「そこでなんですけど、ご一緒にやりませんこと? そのほうがきっと、進み具合も良くて捗るかと思いますわ」
「え、ホン――、ごほんっ。真人がいいっていうならいいよ?」
「う〜ん、それじゃセルファのためにはならないと思うんですけど……」
「あらま、それじゃあ仕方ありませんわね」
「ちょ、ちょっと待って! 真人、これを機に友達作りとか出来るかもしれないのよ!? べ、別に私のことはこの際、置いといて考えればいいじゃない!」
「パートナーはこう言ってますけど、いかがします? うふふ」
「……仕方ない。セルファのためにはならないけど、友達作りというのには賛成ですので」
「そうよ。最初からそう言えばいいのよ!」
 そそくさと広げたものをまとめながら、セルファは真人に聞こえないほどの小さな声で「これで少しは楽になる」と呟いたが、それはしっかりと拾われていた。
「それじゃあ、よろしくお願いします」
「こちらこそ。あちらですの」
 だが、真人は知らない振りを決め込み、二人はみんなの待つ輪へと入った。

 一方、シズルは本を山積みにして用紙と睨めっこしている伊礼 悠(いらい・ゆう)と、隣で静かに本を開くディートハルト・ゾルガー(でぃーとはると・ぞるがー)に、正面から声をかける。
「こんにちは。あっちでみんなと課題やってるんだけど、一緒にどう?」
「…………」
 悠は手を止めることはなく、顔を上げることもなく、まったく反応を見せない。
 かたやディートハルトはシズルに気づき、顔を上げ、目を合わせるが一言も発さず、悠を横目で見つめているのみ。
 シズルは何度も声をかけるが、相変わらず反応しない。そんな素振りにディートハルトがやれやれといった風に、本をテーブルへ置き。
「……悠。一度、手を止めるんだ。悠」
 二度の名前の問いかけにペンを止め。
「ハッ! な、なにディートさん!?」
 勢いよくディートに顔を向けた。
「話しかけられてるぞ」
 目で合図すると、悠はディートハルトの視線を追い、シズルと目が合った。
「あっ! ご、ごめんなさい! 全然、気付かなかったです……」
「ううん。集中してたみたいだから、私のほうこそごめんね」
 二人の会話が始まったのを見届けたディートハルトは、本を再び手に取り、元の姿勢に戻る。
「よかったら、なんだけど。一緒に課題やらない? 今みんなでやっているところで独りでやるよりは進みがよくなると思うの」
「ホントですか! ディ、ディートさん、どうしよ?」
「……いいんじゃないか? 人の助けを借りるのも、時には必要だ」
「そうだよね、うん。こちらこそ……よろしければお願いします!」
「よろしくね」
 ポンッと本を閉じる音をたて、荷物を一緒にまとめるディートハルト。
 そして準備が整ったのを見届けたシズルは二人を先導し、輪の中へと入った。

 レティーシアとシズルが新たな仲間を連れてくると、勉強中だったメンバーは一度手を休めて、四人を歓迎した。それぞれが自己紹介し、やっている課題の内容や悩んでいる部分を話しあっていたところに。
「あの〜、よろしければボクら加わってもよろしいでしょうか?」と、シズルに声をかけてきたのは、六連 すばる(むづら・すばる)親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)を連れたアルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)であった。
「いいですよ……と、教師の方ですか?」
「はい。勉強はボクではなくて、こっちの彼なんですけどね。まだ友達が少なくて、あなた方の行動を拝見させていただき、ちょうど良い機会だと思いまして。
それに困ったことがあれば、ボクから教えて差し上げてあげることもできますでしょうし」
「そうですね。特に制限とかつけてないので、歓迎します」
「ありがとうございます。ボクはアルテッツァ・ゾディアックと申します」
「わしは親不孝通 夜鷹っていうぎゃ」
「六連 すばるです。本日はゾディアック先生の付き人としてやってきてます。よろしくお願いします」
 自己紹介を終えると、シズルが椅子を用意し、席へと着く。
 全員とも一通り挨拶を終え、さぁ勉強始めるぞと課題用紙を出して間もなく。
「何でこんなんやらなきゃいけないぎゃ。トマトの観察日記だけで十分ぎゃー!! 17+8で、えっと、10くり上がって…3?」
 悪態をつき、早くもつまずいてしまった。
「じゃあ、ボクは飲み物買ってくるからね。六連君、少しだけ見てあげてね」
「はい、了解しました」
 アルテッツァがいなくなったのを見届けた後――。
「……だとさ、ぎゃーぎゃー騒がんで、往生しいや」
「わ、わかったぎゃ……、ちゃんとやるぎゃ」
「それでええんや。大人しくしてりゃぁ〜、なんもせんからのぉ」
 二人の会話は全員に聞こえ、驚きと震えを背筋に走らせながらペンを走らせていた。
 ある程度の輪が出来上がり、各々が意見交換をしていると真人と悠にレティーシアが呼ばれた。
「どうしました?」
「あはは……、あたしも手伝ってほしいーかな、なんて思って」
「彩の宿題を早く終わらせてのんびりしたいのですわ。なので、是非ともお力をお借りしたくて」
 そう言ってやってきたのは、筑摩 彩(ちくま・いろどり)イグテシア・ミュドリャゼンカ(いぐてしあ・みゅどりゃぜんか)である。だが彩については上級生らしく、
教えれる人がいるかどうか疑問――ではあったが、アルテッツァがいることを思い出し、問題はないと判断した。
「ええ、是非とも。先生の方もいらっしゃるので、わからないことがあれば、お聞きになるとよろしいですわ。物によっては、わたくしでも」
「あ、ありがと! やったよぉ〜イグえもん。これであの量が少しは!」
「誰がイグえもんですか。とりあえずこれで、一安心……ではありませんが、色々教えていただきなさい。代わりにわたしくは他の方の力になってきますから」
「うう……ありがと、イグえもん」
「だからイグえもんじゃ……、もういいですわ。早く終わらせて、一緒にお茶を飲むのよ」
 小さな輪が少しずつ広まり、大きな輪となって賑わいを見せる。
「アリエルは……と書いたほうがまとまってて、見やすくなると思います」
「おおー、なかなか鋭いね! これには気づかなかったよー!」
「確かに……。でも、もうちょっとここを〜こうすると……。ほら、まだまだ良くなるでしょう?」
「あっ、本当です! さすがです!」
 アリエル、彩の二人はアルテッツァにより伝わりやすく、手間のかからない書き方を教わっている。
「はい! わかったぞ! 自分わかったぜ!」
「僕も僕も!」
「わ、私だって! これぐらい簡単よ!」
 飛び出す勢いで手を挙げたローズにつられて、負けじとトマスとセルファが挙手した。
 しかし、その合間を縫って――。
「え……っと、これで大丈夫……でしょうか?」
 と、悠が答えを書いた紙を真人に渡した。
「うん。正解ですよ」
「えぇ!? 手あげた意味ない!?」
「だ、誰よ! 手なんか最初にあげた人は!」
「はい! 自分であります!」
 挙手制は永遠に続いている。

「わたくしがしーっかりと、数学ってものを教えてさしあげますわよ!」
「……も、もう逃げたいだぎゃ……」
「あぁん!? 逃げたらどうなるか、わかってんのか……コラ」
「あっ、はいぎゃ。……今日はいつもの2倍怖いぎゃ」
 夜鷹を囲うように陣取るすばるとイグテシア。
 そしてこの全光景を静観する子敬とディートハルト。
「なかなか大きくなってきたわね」
「まだまだ昼前だ。もう少し人が増えると思うよ」
 シズルの課題にレティーシアは目を向けた。