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機晶石アクセサリー盗難事件発生!

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機晶石アクセサリー盗難事件発生!

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第二章



「はぅ……」
みんなに任せる、と言ってファクトリーに戻ってきたものの、気分が晴れないままの表情でエメネアは溜息をついた。
皆を信じていないわけではもちろんないが、自分が作ったアクセサリーのせいでこんなことになってしまった、という自責がどうしてもぬぐえないのだ。
「そんなに気を落とさないでください」
笹野 朔夜(ささの・さくや)が気遣うようにエメネアに声をかける。
「エメネアさんは悪くありません、無理に奪うという手段をとった輩が悪いのですから」
「でも、うう……」
「聞き込みに、囮捜査、文献調査、出来る手はもう打っているのですから、みなさんを信じてもう少し待ってみましょう」
「そうですよ! それに、みんなはエメネアさんが好きだし心配だからお手伝いをしたいって思うんです。そんなみんなのためにも、自分をあまり責めないでください」
東雲 いちる(しののめ・いちる)の言葉にエメネアは顔を上げる。
「みなさん……」
「さて、できましたよ」
思わず瞳を潤ませかけたエメネアの前に置かれたのは、ほわほわと湯気を立ち上らせるオムライスだった。
エメネアが顔を上げると、本郷 涼介(ほんごう・りょうすけ)が湯気の向こう側でどうぞ、と促した。
ぐぅぅぅぅ、と、エメネアのおなかがかすかな音を立てる。
「はぅ」
「さぁ、温かいうちに食べてください」
「あ……、いただきます、です」
少しだけ恥ずかしそうにスプーンをとったエメネアは、ふわふわのオムライスをほおばった。
「ん〜!」
おいしい、と言いたげに下がった目尻に涼介が微笑する。
「私も悪いのはこういった事件を起こす人なのだと思いますよ。だからエメネアさんが気に病むことはありません。あなたは人に喜んで欲しくてあのアクセサリーをつくったのでしょう?」
涼介の言葉にエメネアは控えめに頷く。
「それならそれは誇ってもいいことだと思いますよ。人を笑顔にするということは、難しいことですから」
「涼介さん……」
「エメネアさん、そのオムライスはおいしく出来ていますか?」
「はい!」
「それならよかった。私もあなたと同じでみんなの笑顔が見たいからこうやって料理を作るんですよ」
「あ……」
「おいしいもの食べると幸せになりますもんね」
いちるが微笑んでうんうんと頷く。
「おなかが満たされれば心も満たされますよ」
「あとはあったかい飲み物でも飲んで、落ち着きましょう! 私お茶淹れますね」
「あ、マスター。お茶だったらワタシが淹れますから……」
立ち上がろうとしたいちるを制して、ソプラノ・レコーダー(そぷらの・れこーだー)がポットを手に取る。
お湯が沸くのを待ちながら、ファクトリーを見回すと、件のアクセサリーが並んでいた。
「綺麗ですね……」
きらきらとしたそれらに目を奪われ、歩み寄ってそっと指先で触れる。
「あ、これはマスターに似合いそうです……クー様にはこれ……」
「ソプラノ?」
「っ、はい!」
背後から突然声をかけられて振り返ると、そこに立っていたのはクー・フーリン(くー・ふーりん)だった。
「何をしているのです? お湯が沸いて……」
「あっ、す、すみません!」
「? ……ああ、これが機晶石のアクセサリーですか」
「そのようです。ワタシが機晶姫のせいか惹かれるものを感じてしまいます……」
「ええ、ですが、それを抜きにしてもこのアクセサリーは美しいと思いますよ」
「クー様もそう思いますか?」
「もちろん。人は美しいものが好きですからね、こう美しいものは欲しくなるのでしょう」
「でも、奪うというのはどうかと思います」
「無論、それは褒められたことではありませんね。だからこそエメネアさんのように優しい気持ちで宝石に接することができるのは素晴らしいと思いますよ」
「クー様……」
「さぁ、みんなが待っています。お茶を出しに戻りましょう」
「は、はいっ」
人数分の茶を運ぶソプラノを手伝ってクーが皆の元へ戻ると、いつの間にか来訪者が増えていた。
「おや、お茶を淹れなおして来なければなりませんね」
「……俺の分はいらない。エメネアの様子を見に来ただけだ」
そう言って長原 淳二(ながはら・じゅんじ)はエメネアに向き直った。
「……エメネア」
「は、はい」
「思ったより元気そうで安心した」
そう言って優しくエメネアの頭を撫でながら、淳二は口角を上げる。
「……大丈夫……お前は悪くない」
「でも……」
「お前はみんなに喜んで欲しいからアクセサリーを作ったんだろう? 望みどおり、みんな喜んでいるじゃないか」
「え……」
「その通りですよ、エメネアさん。証拠を見せてあげましょう」
「ふぇ? ――ひゃあっ!?」
淳二の言葉に頷いたガイアス・サンクフィールド(がいあす・さんくふぃーるど)は、ひょいっとエメネアの身体を持ち上げた。
そして軽がると肩に乗せると、見てください、と指をさした。
その先にいたのは聞き込みをしているらしい優希と、それからエメネアの作ったアクセサリーの持ち主の少女だった。
「あっ、あの方は……」
「エメネアさんのアクセサリーを持っているようですね。すごく、嬉しそうな笑顔です」
「はい……」
「きっとエメネアさんのアクセサリーがとても気に入っているのでしょうね。……ほら、囮役の生徒も見えますが、みんな嬉しそうだ」
指し示されるままに視線を向けると、確かに何人かの生徒の姿が見える。
ウィンドウに自分の姿を映してみたり、パートナー同士指差しあって話をしてみたりと、反応は様々だが皆一様に嬉しそうだった。
「……何をしているの」
と、呆れたような崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)の声がして、エメネアはガイアスの肩を降りた。
「まったく、噂を聞いて来てみれば随分と大所帯ね」
「大変なことになってるみたいだね」
「開店休業状態ね……」
亜璃珠の後ろから如月 佑也(きさらぎ・ゆうや)アルマ・アレフ(あるま・あれふ)も顔を出す。
「メンテしてもらおうとして来たんだけど……それどころじゃなさそうね」
「機晶石アクセサリーの盗難が相次いでいるとか……先ほど聞いてびっくりしたよ」
「あう……すみません」
「エメネアさんが謝ることじゃないよ。エメネアさんは何も責任はないよ。みんなのために一生懸命アクセサリーをつくってあげただけじゃないか」
「そうだよ、エメネアちゃんは悪くないわ」
「あ、そうだ。元気になるかはわかんないけど、シュークリーム買って来たんだ。甘いものでも食べてさ、少し休もうよ」
「それじゃあ皆様の分、お茶を淹れますね」
ソプラノが再び奥へ戻り、一同もエメネアを励ましながら各々腰を落ち着ける。
自らも戻ろうとしたエメネアを、淳二は呼び止めた。
「……少しは励まされたか」
穏やかな声で問われ、小さく頷いたエメネアの頭をもう一度撫でて、淳二は踵を返した。
「……こんなことする盗賊団は退治してやるから」
そしてそのままバイクに跨るとその場を後にする。
遠ざかるバイクを見送っていたエメネアに、亜璃珠がぽつりと呟く。
「あまり気にすることはありませんわ」
「え」
「盗まれるくらい人気があるということよ。そう思うくらいのおばかさんでいいんだから、エメネアは」
「亜璃珠さん……」
「もっと胸を張っていいのよ。工芸品ってのはその時の人の心が出るものだしね。良いものだということは、それだけエメネアの思いが伝わってるってことよ。心が曇れば、せっかくのアクセサリーも曇っちゃうわ」
ちらりとエメネアを一瞥し、亜璃珠はファクトリーの中のアクセサリーを吟味するように手に取る。
「だから、いつもののほほんとしたあなたでいなさいな」
「……はい」
「ところでエメネア、何かお勧めのものってないの?」
せっかくだから私も何か欲しいわ、と亜璃珠はエメネアを振り返る。
その表情はいつものような勝気な微笑だった。