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輝く夜と鍋とあなたと

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輝く夜と鍋とあなたと
輝く夜と鍋とあなたと 輝く夜と鍋とあなたと

リアクション

 ちょっと大きめのカマクラの中では、ちょっとしたカオスが巻き起こっているようだ。
「ちーちゃんが俺様に手料理を!? なんだでだろ? 涙で視界かすんじゃう!!」
「えへへ♪ 待っててね」
 不束 奏戯(ふつつか・かなぎ)は感激のあまり涙が出ているのか、デローンを食べきったときの事を体が覚えていて涙が出ているのかは、わからないが、喜んでいるのは確かなだ。
 おまけ小冊子 『デローンの秘密』(おまけしょうさっし・でろーんのひみつ)の手を握っているのだから。
「えっと……お湯か……コレで良いよね」
 鍋を作ろうとお湯を沸かしているはずなのだが……何故か赤い色をしている。
「あぁ、デローン様……。不束様ですので容赦なく作って構わないと思いますよ」
 にっこりと良い笑顔でそう進言したのはミリオン・アインカノック(みりおん・あいんかのっく)
「キシャーっ!」
 ミリオンが淹れたばかりのお茶は奇声を発しながら、赤いお湯の中へと自らの意思で入って行った。
「わぁー、ミリオンさん凄いー! そっか、容赦しないでいいのか……じゃあ、私もコレ入れようー」
「えっ……?」
 ミリオンのヲチャ(銃研部で敬意を込めてそう呼ばれているらしい)に続いて、鍋の中に投入された赤い謎の物体を見て、奏戯は冷や汗が止まらない。
「……大丈夫、大丈夫、愛が、ちーちゃんの愛があるなら……あるならきっと!!」
 奏戯が自分に言い聞かせているが、誰も気に留めていない。
 デローンから出てくる謎の物体……蛍光緑の固形物、七色に油が浮いているような輝きを放つ液体、茶色のむにむに蠢く物体……デローンはそれらを全て鍋の中へと入れた。
「ああ、本当に容赦なく作られてますね」
「だって、奏ちゃんの為に容赦なんて出来ないよー!」
 ミリオンが良い笑顔で言ったのを、どんな風に捕えたのか……デローンは素直な笑顔で返したのだった。

 そんな地獄絵図を横目で見ているのは鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)達だ。
「……フフフ、ボクもう知らないー。大丈夫、愛があるからダイジョウー」
「そうですよねぇ、デローンさん良い顔してますから、愛情たっぷりですよねぇ」
 氷雨の言葉は若干棒読みだが、オルフェリア・クインレイナー(おるふぇりあ・くいんれいなー)は本気でそう思っているらしい。
「あ? なに愛があるだ……あいつは楽しんでるだろ……」
 ユズキ・ゼレフ(ゆずき・ぜれふ)がミリオンを見て、言うと、視線に気が付いたミリオンがユズキににっこりほほ笑んだ。
 むしろ、その笑顔が怖い。
「ユズキー。ボク良い子に待ってるからチョコフォンデュ作ってー」
「チョコフォンデュってまた甘ったるいモンを……作ってやるから引っ付くな!」
 氷雨はユズキに背後から抱きついたが、頭を軽く叩かれ、離れた。
「大人しく待ってろよ。お前がやるとろくなことにならないから」
「うんー。だから、早く! 早くー!」
 氷雨はキラキラした目で見つめる。
「わかったから! さて、とりあえずこの辺のチョコ溶かすか……おい、あんた手伝え」
「自分は見てない……自分は何も見てない……って、自分か?」
 ユズキは地獄絵図から目を反らしていた『ブラックボックス』 アンノーン(ぶらっくぼっくす・あんのーん)に声を掛けたのだ。
「見たところまともなのあんたくらいだからな」
「ああ……まあ……」
 アンノーンは軽く頷いた。
 ユズキがチョコを溶かしている間に、アンノーンがいちご、メロン、バナナを丁度良い大きさに切っていく。
 この間、氷雨とオルフェリアは何やら最近はやりのゲームで盛り上がっていた。
「そういえば、この間テレビでやっていたので、せんべいも出してみるか」
「そんなのやってたのか」
「夕方からやってる料理番組だ」
「ほう」
 こっちはこっちで料理談義に花が咲いている。
 アンノーンは材料を手早く切ると、次の料理に取りかかった。
「栄養バランスが心配だからな」
 そう言って、チーズ、ホウレンソウ、トマト、ジャガイモを入れたキッシュまで作り上げてしまった。
「ほれ、出来だぞ。後は勝手に食ってろ」
「わぁーい、チョコフォンデュだー! オルフェさん美味しいねー」
「はい。とっても美味しいですー」
 ユズキが声を掛けると出来あがったチョコフォンデュにさっきまでゲームをしていた2人が食いついた。
 それを見てから、ユズキはカマクラの端のほうへと移動し、煙草に火を付けた。
「甘いものを食べているとのどが渇くだろう? 紅茶のアイスとホットを用意しておいた」
 2人はアンノーンが用意したお茶にもすぐに手をつける。
 と、ここで、向こうの謎の物体Xなお鍋も完成したようだ。
「い、いただきます!!」
 奏戯が一気にそれを口の中へ入れた。
「……」
「どうかな?」
 奏戯は固まり、手が止まったかのように見えたが、次の瞬間には残っている鍋を平らげる勢いで手を動かし始めた。
「……うまいっす、うまいっす……」
「本当!? えっと……食べさせてあげるね、はい、あーん」
「……うまいっす、うまいっす……」
 デローンが照れながら食べさせると、それも口の中へと入った。
「あれ? 奏ちゃん? なんか目が虚ろになってきてる気が……」
 確かに焦点があっていない。
「……うまいっす、うまいっす……」
 とうとう同じ事を呟きながら奏戯はぶっ倒れた。
「か、奏ちゃん、大丈夫? 生きてる?」
「あ、不束さん……ふふ、デローンさんの手料理だから食べ過ぎてしまったのですね」
「そうかな? えへへ」
 デローンは心配して駆け寄ったが、オルフェリアの言葉に照れて足が止まった。
「デローンさん、お幸せになのですよ」
 そう言うと、オルフェリアは倒れた奏戯の体を起こし、デローンに預けたのだった。
(死にかけてるな……ま、ある意味お似合いの2人って感じだな)
 煙草の煙を外に向かって吐きながら、ユズキは呟いた。
「ユズキー、アンノーンさん、果物おかわりー。オルフェさんこっちきて早く食べよー」
 一番楽しんでいるのは氷雨だったようだ。