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【初心者さん優先】『追憶のダンスパーティー』

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【初心者さん優先】『追憶のダンスパーティー』

リアクション


■Prologue


 新年が明けて間もない蒼空学園。
 真冬の空は澄み切っていて、どこまでも蒼い空は寒さを纏って突き抜けていた。
「……冷えるのぅ」
 そんな空を見上げた遠野 舞(とおの・まい)がぽつりと呟くと、同時に吐息が白く霞んだ。
「そうだねぇ」
 パートナーのカーズ・トゥエンティ(かーず・とぅえんてぃ)が自然と呼応する。それから身を縮めた。舞はそんなカーズを見て笑みをこぼす。
「ふふっ、もう少し着込んでくれば良かったな?」
「いいんだよ、今日は正装なんだから」
 いつも通り何気なく微笑んだつもりだったのに、舞は自分の手が少し疼いたことに気が付いた。クリスマス以来、二人の関係に僅かながら変化が生まれつつあるのだが、お互いにそれを確認するには少しばかり勇気がいる。どうしようもなくて、舞は視線を下げた。
 そんな舞の目の前に、一枚のビラが差し出されていた。
「うん?」
「ようこそ! パーティー会場はあちらになりますなぁ」
 日吉 のどか(ひよし・のどか)が会場である体育館を示すと、舞はもらったビラに目を落とした。
「これはなんじゃ?」
「それはパーティーの案内ビラですなぁ」
 のどかが言いながらカーズにもそれを差し出す。しかしカーズは片手を振ってそれを断った。
「ああ、僕はいらないよ。掲示で案内は見てるし、舞のを見るから」
 のどかが潔く引っ込めると、二人はのどかの傍を通り過ぎて会場へと向かった。吟味するような目で二人を見ていたのどかのパートナー・御手洗 健(みたらい・けん)は、彼女らを見送ると意味深な溜め息をついた。

     #

「この寒い中をようこそいらっしゃいました。上着とお荷物を預からせていただきます。中は暖かくなっておりますのでご心配なく」
 会場に到着すると、執事服を身に纏った沢渡 真言(さわたり・まこと)が恭しく出迎えた。
「偉く本格的じゃのぅ」
 コートを渡す舞がそうこぼすと、真言は笑みながら顔を上げた。
「お二人は蒼空の方ですか? でしたら驚かれるのはまだ早いですよ。本格的なのは、待遇だけではありませんから」
 その言葉に舞とカーズが目を合わせると、真言が会場の入り口に手をかけた。

 そして二人の目の前で、幾重もの絆を結ぶ宴の扉が開かれる――。

「これは……!」
 思わず舞は息を呑んだ。
 天井からはシャンデリア、中世ヨーロッパの貴族館を思わせる内装、そこへほんのりと味付けをする上品なピアノの音色。それは煌びやかな光に包まれていて、ドレスアップした各学校の生徒たちは会場に花が咲いたようだ。舞たちに馴染みある蒼空学園の体育館はもはや会場の名ばかりで、中身は丸ごと入れ替えられたとしか思えなかった。
「この学園もなかなかやるなぁ」
 カーズが関心する傍で、真言がしなやかに頭を下げた。
「ようこそ、『追憶のダンスパーティー』へ」
 すっかり魅せられていた舞の前に、カーズの手が差し出される。
「さぁ、行こうか、舞」
「うん」
 少し頬を赤らめつつ、舞はカーズの手を取った。

     #

ようこそ、『追憶のダンスパーティー』へ!
 響く声は獅子導 龍牙(ししどう・りゅうが)だった。壇上でマイクを持つ彼は威勢よく言い放つ。
「あけましておめでとう! 俺様は司会進行を務める獅子導龍牙だ! 今日は思う存分楽しんでいってくれ!」
 龍牙は言い終えた格好のまま待つが、なかなか反応が返ってこない。
「なんだ? 歓声がないぞ?」
「龍牙様、本日はもう少しお上品な場ですので……」
 補佐役の神薙 魔太郎(かんなぎ・またろう)が咳払い混じりにそう言う。龍牙が会場を見渡して大きく鼻を鳴らすと、改めてマイクを取り直した。
「今日はパートナーとの絆を深めることを前提に開催された宴だ。もちろん、同性同士で踊ってもらって構わない。美味い食い物も酒もある。未成年者は飲んじゃダメだが、そういう形式に囚われないで踊ることが――あー、要するに楽しんでくれ!」
 勢い任せの口上を終わらせ、龍牙はグランドピアノの方に一瞥くれる。それを見た如月 英一(きさらぎ・えいいち)は、スタンバイしているシエラ・シェパード(しえら・しぇぱーど)に声をかける。
「さて、そろそろお前の出番らしいぞ」
「オッケー。まっかせて」
 それを聞いた英一が龍牙に準備よしの合図を送る。
「さて、まずは子犬のワルツだ!」
 龍牙の声が響き渡ったのと同時に、パーティーの幕が上がった。