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桜吹雪の狂宴祭!?

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桜吹雪の狂宴祭!?

リアクション

――花見客がいる広場から少し離れると、途端に人気が少なくなる。
 喧騒が遠く聞こえ、月の明かりだけが道と桜を照らしている。
 その桜の樹の下を、夜景回りに誘われた涼司達は歩いていた。

「へぇ……そんなことがあったの」
 先程あった出来事を聞き、笑いを堪えつつ宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)が言った。
「うぅ……お恥ずかしい限りです……」
 泪が頬を染めて恥ずかしがった。そこまで飲んでいなかったせいか、酔いは既に醒めている様である。
「見たかったわね、泪先生が乱れる所……所で一杯どう?」
「……わざとやってますね?」
 祥子から持っていた酒ガメを差し出され、泪がじとっと睨む。
「冗談よ、冗談」
 そうも言いながら、祥子は笑いを堪えている。泪をからかうのが楽しいようだ。
「で、その後はどうなったんだ?」
 少し後ろを歩いていた樹月 刀真(きづき・とうま)が聞いてきた。
「どうもこうも……騒いでたのが全員寝ちゃって、その処理に一苦労だったよ」
「それはまた……大変でしたね、校長」
 涼司が溜息交じりに言うのを聞いて、漆髪 月夜(うるしがみ・つくよ)が苦笑する。
「まあ、これほど美しい桜だ。浮かれるのも解る気がするのう」
 桜を見上げつつ、玉藻 前(たまもの・まえ)が呟く。
「浮かれる、というレベルじゃなかったけどな……」
 先程の光景を思い出し、涼司が呟いた。
「狂わされたのかもしれんぞ? 桜の魅力は最早魔力に近い、なんて言われてるしな」
「あまり人を化物扱いしないで欲しいのよ」
「おっと、これは失礼」
 玉藻がくすくすと笑いながら言う。
「けどこれを見ると、それほどまでの美しさというのはわかる気がするけどな」
 刀真も、桜を見上げて呟いた。
「えっと、さくやだっけ? 今日の記念と言ったら何だが、枝を一本もらっていいか?」
 刀真の申し出に、さくやは悲しそうな顔をし、首を横に振った。
「……申し訳ないけどお断りするのよ。私はあの樹そのものみたいなものなのよ。折られると痛いのよ」
「そうか……いや、すまない」
「いいのよ。それよりまた来て欲しいのよ。私はみんなが春に飽きてくるくらいまでは咲き続けるのよ」
 そう言って、さくやは笑みを浮かべた。
「そういえば、記念といえばこの間の女湯潜入した感想はどうでした、刀真さん?」
「う……」
 ニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべる祥子に、刀真は言葉を失う。
「え? 何の話ですか?」
「この間スパリゾート行った話、泪先生知らない?」
「ああ、何かニュースになってましたね……って女湯潜入?」
「人聞きの悪い事を言わないでくれ……あれは覗きじゃなくて悲鳴が聞こえたからであってだな……」
「……でも玉ちゃんの裸見てデレデレしてた」
 月夜が頬を膨らませ、刀真を睨む。
「してないっての!」
「ほう、刀真は我の裸に欲情したのか。それならばそうと言えば良いのだ。我はお前のモノなのだからな」
「話をややこしくしないでくれ……ん?」
 刀真の右腕に、月夜がしがみ付いてきた。
 月夜は刀真を睨み、言葉にこそ出さないが何かを主張していた。
「やれやれ……」
 溜息を吐きつつも、刀真は月夜を振り払うような事はせずしたいようにさせる事にした。
「あらあら、むくれちゃって月夜ちゃん可愛いわね。お姉さんがその慎ましやかな胸を育てるお手伝い、してあげようか?」
 そう言いつつ手をわきわきと握る祥子を見て、月夜は怯えたように刀真の後ろに回りこむ。
「あのな……お前が不審者やってどうするんだ!」
「不審者とは人聞きが悪いわね……んぐんぐ……ぷはっ! ああ、お酒飲むと焼き鳥って美味しいわねぇ」
「祥子、我にも一本くれ」
「口移しになるけどいいわよ……んー……」
「いいわけないだろ!」
 玉藻に口付けしようとする祥子を、刀真が止めた。
「……これ、一応巡回なんですよね?」
 確認するように、泪が涼司に問いかける。
「そのはずなんですけどね……」
 涼司が苦笑しつつ、答える。
「けど、こういう風に歩くのも楽しいのよ」
 さくやがそう言った瞬間だった。
「うおぉぉぉぉぉぉぉ! よっ幼女おぉぉぉぉぉぉ!」
「にょおぉぉぉぉぉぉ!」
 いきなり男が飛び出して来て、さくやに抱きついてきた。
「な、何なのよ!? 何なのよ!?」
 その手から逃れようと、もがくさくや。しかし力の差が歴然とし過ぎており、逃れる事が出来ない。
「幼女様ぁ! お願いします! お願いしますぅ!」
 男は何か叫びながらも、抱きついた手を離そうとしなかった。
「さ、さくや! この……」
 涼司が男を引き剥がそうと駆け寄ろうとした時だった。
「山葉校長、どいて!」
 祥子がさくやに駆け寄り、
「なぁにしてる永太ぁッ!」
男を思いっきり蹴り飛ばした。
「あひぃん!」
 奇声を上げ、さくやから男が離れる。
「……知り合い、なのか?」
 刀真が聞くと、祥子はうんざりした表情でええ、と頷いた。
「あいつは神野永太……」
 その時、男――神野 永太(じんの・えいた)がゆっくりと立ち上がる。
「何者なんですか?」
 永太を警戒しつつ、泪が祥子に聞く。
「あれは……」
 祥子が何か言おうとしたのを遮り、永太が叫んだ。

「お願いします幼女様ぁ! 私を……私を踏みにじってくださぁぁぁぁい!」

「……御覧の通り、ロリコンでマゾのドレッドノート級の変態よ」
 疲れたような表情で祥子が言った。
「……成程、よくわかりました」
 泪が顔を引きつらせる。
「さくや、大丈夫か?」
「うぅ……酷い目に遭ったのよ」
 ふらふらになりながらさくやは涼司の元へ避難する。
「さて……何であんな事をしたか話を……うっ、お酒臭い……」
 祥子が永太を問い詰めようとするが、漂う酒の臭いに顔を顰める。
「酔っているんですか?」
「ええ……それも相当ね……」
「はぁはぁ……お、お願いしますぅ! もう我慢できない! よ、幼女様でなくても構いません! 誰か私を踏みなじってくださぁい!」
「……仕方無いわ、ちょっと失礼……ほらこっち来なさいッ!」
 足元にすがり付く永太に、祥子は溜息を吐きながら無理矢理立ち上がらせ、樹の陰に連れて行った。
「……どうするんでしょうか?」
「さあ……」
 涼司達が首を傾げていると、

「オラオラオラオラオラ! これか! これがいいのかぁ!?」
「あひぃぃぃぃぃぃぃぃぃ! いい! いいですぅ!」
「喜んでんじゃないこの変態がぁ!」
「も、もっとぉ! もっとお願いしますぅ!」
「変態が人様にお願いなんてしてんじゃないわよッ!」
「はあああああん! お尻! お尻をそんなに踏まれたら割れてしまいますぅ!」

 樹の陰から聞こえる、何かがぶつかる音と罵声。そして歓声。
 罵声は祥子、歓声は永太の物だった。
 ぶつかる音は恐らく踏まれている音なのだろう。
「……刀真、我でよければ踏んでやるぞ?」
「人を変態のように言うな玉藻!」
「刀真……わ、私刀真がどんな趣味でも受け入れるから……」
「月夜まで!?」
「なにやらあっちが大変なことになってるのよ」
 さくやが刀真達を指差して言う。
「あっちも大変な事になってるぞ」
 涼司が樹の陰を指差して言う。

「……思いっきり踏むだけっていうのも芸がないわ……永太、仰向けになりなさい」
「こ、こうですかぁ!?」
「そうそう……それでこんな風に……」
「はうぅぅぅぅ!! な、撫でるように踏まれてますぅ!! 力強くない分もどかしいけれど、それ以上に屈辱的! いい! いいですぅ!」
「ほぉら……これがいいの?」
「あああああ! これはこれでいいけど……お、お願いしますぅ! もっと! もっと強く!」
「ド変態が人様に物を頼む時、どうするか学んでこなかったの?」
「ひゃあああああ!! つ、冷たい視線もキモチイィィィィ!」
「学んでこなかったのかって聞いてんのよ、止めるわよ?」
「そ、それだけはぁ! それだけは勘弁してくださいぃ! さ、祥子様ぁ! この私の! 私の顔を思いっきり踏んでくださあああい!」
「……よくできました。それじゃ、ご褒美をあげなきゃねぇッ!」
「ひゃあああああ!! が、我慢できねぇぇぇぇ! い、イッ――!」

「……静かになりましたね」
「そうですね……」
 泪の言葉に涼司が頷くと、
「ふぅ……」
何かやり遂げた顔の、祥子が戻ってきた。
「山葉校長、泪先生……ちょっと用事が出来たので夜景回り抜けさせてもらいますね」
 戻るなり、祥子が涼司達に言った。
「そ、それは構わないけど……用事って?」
「いえ、あのド変態を椅子にしなきゃならなくなったんで」
「……そうか」
 涼司がそれ以上聞けずにいると、祥子はそのまままた樹の陰へ戻っていった。
「それじゃ、俺達もそろそろ行くんで」
 刀真が涼司に言った。
「ああ、気をつけてな」
 そういうと、刀真は軽く頭を下げて歩いていった。
「刀真、酒があるから酌を頼む」
「あ、そうだ向こうで記念撮影しようよ」
「あーはいはい」
 歩きながら色々言われている刀真達を見送る。
「俺たちも行きますか」
「そうですね」
「行くのよ」
 涼司達はそのまま、歩き出した。

「はうぅぅぅぅぅ! こっこれもたまらない屈辱ですぅぅぅぅ!」
 
 遠くから何か聞こえたが、涼司達は無視した。恐らく、それが正しい選択だろうから。