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レッツ罠合戦!

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レッツ罠合戦!

リアクション

「うーん、なかなかみんな来ないわねぇ」
「……そうだねぇ」
「暇ねぇ」
「……ひまだねぇ……」

 呑気な会話が繰り広げられているのは、洞窟最深部、宝の眠る部屋……でした。
 重々しい空気に全く似つかわしくない、のったりとした会話をしているのは、リヒター家出入りの画家でもある師王 アスカ(しおう・あすか)とそのパートナー、ラルム・リースフラワー(らるむ・りーすふらわー)の二人です。
「あんまり暇だから、ニセモノの宝箱量産しちゃったわぁー」
 アスカがそう言って目で示した先には、元々設置されていた宝箱そっくりの、大量の宝箱。
 美術畑の人間が作ったので、パッと見では区別が付きません。
「さてさて、誰が一番乗りかしら……?」
 そろそろかしら、とアスカが入り口のドアを仰いだ丁度その時、ぎぃ、と重たい音を立ててドアが開き始めました。

「一番乗り……って、アレ?」

 開いたドアから現れたのは、桜庭忍一行でした。
 一番乗りと信じて疑って居なかったのに、扉を開けた先にあった先客の姿に思わず固まります。
「はぁーい、一番乗り、おめでとうございまぁす」
 アスカはぱちぱちぱち、と拍手しながら、忍たちを出迎えます。
「どういう事だ?」
「リヒター家からのご依頼でねぇ、誰が一番に来るか見張っていて欲しい、ってことで、皆さんが突入する前に入れて貰ったの」
 だから、争奪戦には無関係よぉ、とアスカが告げると、虚を突かれたような顔をしていた忍達も、そう言うことならと改めてお宝を手に入れようと部屋の奥へと進み……
「なんだ、これは?」
 ずらりと並んだフェイクの宝箱に足が止まります。

「……さいごの、ワナ、だよ?」
 ラルムがぴょこりと首を傾げてみせます。
 と、その時。

「ちょおっと待つのじゃぁー!」

 忍達の入ってきた扉から、ルメンザ・パークレス(るめんざ・ぱーくれす)とそのパートナーの三人組が駆け込んで来ました。
「お宝はこのルメンザが頂くのじゃっ!」
「後から来て何を言うのじゃ。そうはさせぬわ!」
 ずかずかと部屋の中に入ってくるルメンザ達の前に、信長がずいっと立ち塞がります。
 ばちばちと二人の視線が火花を散らします。
 まさに一触即発、という空気が漂い始めたところに、まあまあ、とアスカが割って入りました。
「ここは、先に本物の宝箱を見付けた者勝ち、ということでいかがですかぁ?」
 笑顔での提案に、二組は一瞬だけ互いににらみ合います。
 そして次の瞬間には、全員が手近な宝箱をものすごい勢いで開き始めます。
「ちなみに、ハズレは空っぽですよぉー」
 アスカとラルムが見守るなか、忍達三人とルメンザ達三人の六人は片っ端から宝箱の蓋を開けていきます。
 それぞれがいくつかの宝箱を開け、だいぶ手つかずの箱が少なくなってきた頃。
「あったのじゃぁああ!」
 ルメンザの快哉が響き渡りました。
「よし、これでお宝は自分のものじゃっ!」
 ルメンザが開けた宝箱の中には、古びた本が数冊入っていました。中身は解りませんが、とにかくこれを持って行けば報酬ゲットです。
 全ての本を抱え、ルメンザは素早く踵を返して走り出します。
「あっ、待って下さい!」
 ルメンザのパートナーであるカーチス・ランベルト(かーちす・らんべると)氏家 小雨(うじいえ・こさめ)が慌てて追いかけます。
「っ……逃がすか!」
 宝を横取りされた形となった忍たちも後に続きます。
 と。
「おおおおおおっ?!」
 部屋を出てすぐのところで、ルメンザの足元が無くなりました。
 来るときは避けた落とし穴に、焦ったせいではまったのです。
 止まりきれなかったカーチスと小雨も、だるまになって落ちていきます。
 慌ててルメンザが懐から空飛ぶ箒を取りだして掴まります。残りの二人もなんとか互いに掴まるような形で落下は免れましたが、本来一人乗りのはずの空飛ぶ箒はみしみしと嫌な音を立てています。
「あの、ルメンザ様、お宝を上の人たちと山分けするように呼びかけてはいかがでしょう」
「そうです! 命あってのもの種です、それにみんなで分かち合った方が、友達も増えて一石二鳥だと思いますよ!」
 落とし穴の底の方にはなにやら液体が仕掛けられているのが見えます。万が一にも毒薬か何かだったら命の危機です。
 (本当は、先ほど信長が仕掛けた酒瓶なのですが。)
 しかし、パートナー二人の忠言にもかかわらず、ルメンザはぎゅっと古びた本を抱きしめて叫びます。
「嫌じゃ、死んでも嫌じゃ! おどれら、箒を放さんかい!」
 その一言に、ルメンザに従っているはずの二人も流石にぷっちんです。
「何て人だ! それでも人間か!」
「吸血鬼のおどれが人間を語るとは、お笑いじゃのう。いいから離せ!」
「いくら何でも、酷過ぎますぅー!」
「バカタレ! 泣き言を言うとる暇があったら、早う放さんかい!」
 カーチスに胸倉を掴まれ、小雨にぽかすか殴られながらも、ルメンザは余裕の表情で箒を握りしめ、他の二人を蹴落とそうと藻掻きます。
「もう最低だ、この人ぉぉ!」
 ついには小雨が泣き出してしまいます。
 その様子を、忍達は落とし穴の上から呆れた様子で見ていました。
「蜘蛛の糸、って話があるけど、まさかこの目で見ることになるとはなぁ……」
「呆れた強欲じゃな……」
「どこかの誰かさんみたいね」
「何ッ?」
 ノアの棘のある発言に、信長が食って掛かります。やる気?とノアも応戦モードで、落とし穴の中も外も大騒ぎです。
「あらら……どうしようかなぁ。助けてあげたいけど、使えそうなものもないし……あ、そこの人たちー、誰か空飛べませんかぁ?」
 一人傍観していたアスカが、後からやってきた一団に向かって手を振ります。
「何人か空飛ぶ魔法が使えますけど、どうしましたか?」
「落とし穴に落ちちゃった人がいてぇー。助けてあげて貰えませんか?」
 仕方ないな、と言いながらやってきたのは二クラスたちの一行です。
 やれやれ、と大儀そうにしながらもゲドーが一歩出て、空飛ぶ魔法で強制的に落とし穴の中の三人を引き上げます。
「うん……? あの本は何だ?」
「自分の宝じゃ、誰にもやらぬ!」
 ゲドーが、ルメンザの持つ本に目を付けますが、地面に下ろされたルメンザはぎゅっとそれを握りしめます。
「いい加減にしなさい!」
「そうですそうです、助けて貰っておいて!」
 かたくなに本を離そうとしないルメンザを、パートナーの二人が囲みます。
「この、最低人間んんんんっ!」
 小雨ががくがくとルメンザの胸倉を掴んで揺さぶります。するとその拍子に、ルメンザの手の中から本がこぼれ落ちました。
「ん? これは……」
 偶々足元に落ちた本を拾い上げたニクラスが、本の表紙をぱんぱんと叩きます。濛々と埃が立ち、そのしたから掠れた紋章のようなものが出てきました。
「ウチの家紋だ……ってことは……!」
「これがお宝か!」
 ニクラス一行が色めきだちます。
「よし、これを持って帰れば……!」
「勘当解除か!」
「よかったね、ニクラス!」
 口々に喜び合う面々の中で、ゲドーのパートナーであるシメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)が、ニヤリと笑いました。
「ふふふ、これであなたは無事シェスティンさんとお別れですね」
 シメオンはニクラスの後から、悪魔のような声で囁きます。
「なっ……しぇ、シェスティンがどうしたって……」
 面白いように狼狽えるニクラスに、シメオンはしめた、とばかりに笑みを深めます。
「アレだけ迷惑をかけたのですから依頼を達成して実家に戻れば二度と会うこともないでしょう。もっとも宝を破棄すれば依頼は未達成。彼女も放り出すような真似はしないでしょう」
 シメオンの囁きに、ニクラスの表情が固くなります。
「もしくはその宝を金に変えれば空賊団も再結成できるかもしれませんね。叶わぬ恋なら力ずくで手に入れれば良いのです」
「こっ……べ、別に恋とかそんなんじゃねえって言ってるだろっ!」
「おや……そうですか、それは失礼……なぁに、ほんのブラックジョークですよ」
 どう見ても顔は赤いのですが、思ったよりも更正するというニクラスの意志は固いようです。
 もう空賊はこりごり、というのもあるかもしれませんが。
 いずれにせよ、シメオンは肩を竦めて引き下がります。
 さあこれで一件落着、と和やかムードに包まれた、その時。
「おいおい、勝手に横取りしていくのは良くないぜ?」
 一行の死角から、忍がバーストダッシュで近づいてきます。
「おっと! そっちこそ横取りは感心しねぇな」
 が、咄嗟に飛び出した白銀 昶(しろがね・あきら)が忍の足元を払います。
 試練は自分の力で乗り越えるべき、と極力手伝いはしないつもりだった昶ですが、不意打ちみたいな真似は許せません。
 バランスを崩した忍は、勢いがついていたことも手伝って盛大にその場で転びます。
「まあ……こっちも漁夫の利感は否めないけどなァ……」
 そのよう酢を見た昶は、そう言いながら申し訳なさそうにぽりぽりと後頭を掻きます。
「いいから引き返すぞ!」
 誰からともなく声があがり、はたと我に返ったニクラス一行はおう、と踵を返して入り口へと戻っていくのでした。