空京大学へ

天御柱学院

校長室

蒼空学園へ

新入生向けにPV作ろうぜ!

リアクション公開中!

新入生向けにPV作ろうぜ!

リアクション

11.四季〜季節を楽しもう!〜



「続いては、『四季〜季節を楽しもう!〜』さんのPVです」



 抜けるような空と陽光の下、緑のワンピース水着にパーカーを羽織ったシリル・フォレスト(しりる・ふぉれすと)がビニールに包まれたスイカと棒をを持って走っていた。
 砂の上にスイカを置いて「おーい」と声をかけると、蔵部 食人(くらべ・はみと)魔装侵攻 シャインヴェイダー(まそうしんこう・しゃいんう゛ぇいだー)非不未予異無亡病 近遠(ひふみよいむなや・このとお)ユーリカ・アスゲージ(ゆーりか・あすげーじ)イグナ・スプリント(いぐな・すぷりんと)アルティア・シールアム(あるてぃあ・しーるあむ)が集まってくる。
「はーい、スイカ割り大会始めるよー。はい、ハミーさん、スイカ割る役一番ね!」
 言いながら棒を押しつけ、「え? 俺が一番?」と戸惑っている内に、手早く目隠しををかける。同時にシャインヴェイダーが食人の肩をつかんで数回体を回し、最後に、とん、と体を押す。
「さぁ、いってみよー!」
「ぐあ、ま、回しすぎだ!」
 そんな食人の文句を無視して、「はい、正面ちょい右!」と他のメンバーが好き勝手に誘導をかけ始める。
「南!南だよ!」
「南ってどっちだ?」
「もう少し西ですよ」
「……その言葉を、俺は信じていいのか?」
(近遠ちゃん、右とか左とかもう少し分かりやすい表現の方が……)
(それだと主観的すぎて分からないのではないでしょうか、ユーリカさん?)
(……理屈をつけてそういう事にしておきたいのであろう?)
(嫌ですね、イグナさん。観測者が複数いた場合、両者のコミュニケーションを円滑に図るにはできるだけ客観的な基準に基づくべきでは?)
(目隠しされてる段階でひとりは客観的基準を共有した観測者たり得ないと思うのじゃが、その辺りはどうじゃ?)
「チェストオオォォォォ!」
 食人が裂帛の気合いと共に大上段から棒を振り下ろした。打撃音。爆発したように砂塵が舞った。
 アルティアが砂塵の奥のスイカを見て、ほぅ、と息を吐いた。
「――残念、お外しになってしまいましたねぇ」
「その、目隠ししている相手に南とか西はないだろう?」
 食人が目隠しを外して文句を言う。
「えーと、南とか言ってたのはそっちか。次そっちな?」
 棒が近遠に押しつけられた。
 


「……何故だ?」
「何がだ?」
「みんなみんな、上にパーカーを羽織っている。スクール水着の上にパーカー、イルミンスール水着の上にパーカー。海水浴だろう? 何が起きている?」
「いや、PV作成のレギュレーションだし」
「分かっちゃいないな。下らん自主規制だ」
「映研側は作る方が歯止めきかなくなるのを本気で心配してるらしいぞ。うかつにやらかしたらそれこそ何も出来なくなるからな」
「なら年齢制限でもかけりゃいいんだよ」
「PVで年齢制限かけてどうするんだよ? つーかそんなPV作る所怖くないか?」
「そんな事はどうでもいい! 表現者が権力を怖れてどうする!? もっと自由になろうぜ!」
「……分かってないのは君の方だよ。パーカーの裾から、という段階を経て伸びている手足や肌に何も感じないなんて」
「回りくどい表現は嫌いなんだよ。言いたい事は、分かりやすく簡潔に、結論を最初に述べる。文章の書き方の基本だろ?」
「僕らが今見てるのは論文じゃなくて映像だよ。PVって段階で結論なんざ最初っから見えてるんじゃない?」
「パーカーが邪魔だ、どけろ、話はそれからだ」
「そいつは原則だ、どけられん、あきらめろ」


 シリルを中心としたスイカ割りのメンバーに、健闘 勇刃(けんとう・ゆうじん)天鐘 咲夜(あまがね・さきや)セレア・ファリンクス(せれあ・ふぁりんくす)アニメ大百科 『カルミ』(あにめだいひゃっか・かるみ)鏡神 白(かががみ・しろ)更科 黒(さらしな・くろ)青崎 更紗(あおざき・さらさ)らも加わった。
「うおおっ、やるぜ! 割る! 必殺の不動割瓜斬を決めてやる!」
 受け取った棒を振り回しながら、勇刃が息巻いた。自分で目隠しをし、誰かの手を借りるまでもなくぐるぐると体を回し、スイカのある(と思しき)方に踏み出す。
 その背中に向かって、
「そのまままっすぐ進んで下さい!」
と咲夜が声をかけて誘導する。
「気持ち左へ! スイカの気配を感じ取って下さいませ! 健闘様ならやれますわ!」
とセレアが微調整をする。
「そこです! 236強パンチで不動割瓜斬を!」
と『カルミ』が口でコマンド入力を――
「違うッ! 不動割瓜斬は236パンチじゃなくて41236にパンチ全押しだ!」
「ダーリン、そんな設定聞いてないよ!?」
 また大上段から棒が振り下ろされた。砂塵が舞う中に、打点が掠ったスイカが回転しながら踊り、砂地に落着。微かに亀裂が入った。
「……っしゃあ! ヒットしたぜ!」
 勇刃がガッツポーズを取った。
 


「この映像のスイカ割りのレギュレーションがどうなのかはよく知らないけどさ」
「そんなもん最初からないと思うぜ」
「必殺技の使用は禁止にして通常技オンリーの方が無難なんじゃねえ? 俺なら粉々に砕け散ったスイカなんて食いたくないぞ?」
「……出力っていうか、自分の力の配分には気をつけないといかんかもな。おれら自身にも言える事だが」
「で、通常技とか必殺技って何の話?」


 スイカ割りの順番がローテーションされる中、川原 龍矢(かわはら・たつや)が女の子を連れて来た。
「この子も仲間に入れてやってくれ。彼女はセシリア・ナート。琴乃の知り合いでキマク出身のシャンバラ人だ」
「よろしくお願いいたします」
 そう龍矢に言われて紹介された女の子は、上品な笑みを浮かべてお辞儀をした。
 目隠しをされ、青崎更紗によって体をぐるぐると4回転ほどされた後、セシリアは踏み出した。数歩歩き、棒を振り下ろす。
 命中。スイカにさらに亀裂が入る。
 ――すげぇ!」
 ――見事だな。無駄な動きが全くない。
 歓声が上がった。
 


 多少眼を回されて、目隠しをされた所で、間合い十数歩以内の動かない目標に攻撃を当てるのは、彼女にとっては造作もない事だ。
(失敗しましたね)
 客席の隅で映像を見ていた伊吹 藤乃(いぶき・ふじの)は、セシリア・ナートに対してそんな印象を持った。
 ――ああいう場では、多少よたつきながら歩いて、失敗するくらいで丁度いいのに。
 変装の基本は、目立たないようにする事なのに、あれでは回りから注目されすぎる。
 慣れない場所で、つい緊張して――おかげで、つい「本気」が出てしまった。
(まだまだ修行が足りませんね、私は)
 藤乃は肩を竦めた。


 スイカ割りの棒は、鏡神白に手渡された。
「…えっと……ボク?」
「そう、白の番だよ! とりゃ〜♪」
 更科黒が、目隠しをされた鏡神白の体を楽しそうにぐるぐると回す。手伝う青崎更紗に至っては「サイコキネシス」まで使う念の入れ用だ。
「…あうぅぅ…」
 三半規管が揺さぶられた状態で、よたよたと鏡神白が歩き出した。
 更紗が声をかけた。
「真っ直ぐ行ってー、ちょい左!」
「……え、左……?」
「そこで決めポーズ!」
「へ、変身……」
 その瞬間を逃さず、更紗が防水携帯で写真を撮った。
 さらに、更科黒が指示を出す。
「いいよいいよ! 右いって!」
「……み、右?」
「で、左にちょっと向いて!」
「えと、これくらい?」
「はーい、そこでボケて!」
「え、えーと……な、なんでやねん……」
 


 客席の一部から、一斉に声が上がった。
「それはツッコミだ貴様ァーーーーーーッ!!」


 永井 託(ながい・たく)が、傍らのアイリス・レイ(あいりす・れい)に声をかけた。
「アイリス、僕たちも泳ごうか」
「そうね」
 しばらくは普通に平泳ぎなりクロールなりをしていたが、不意に永井託が
「おーい、アイリス〜」
と声をかけ、「なに?」と振り返ったアイリスに向けて思いっきり水をかけた。
「きゃっ! もう、託!」
 ふたりの水の掛け合いが始まった。
 その様を岸から見ていたセシル・フォークナー(せしる・ふぉーくなー)が「面白そう」と飛び込み、合流する。
「雫澄さん、雫澄さん」
 セシルが陸上の高峰 雫澄(たかみね・なすみ)を手招きした。
「折角ですし、ご一緒に泳ぎませんか?」
「分かりました。ちょっと待ってて下さいねぇ――」
「やだ! 待たない! とぅっ!」
 雫澄の後ろに忍び寄っていた南條 琴乃(なんじょう・ことの)が、体当たりをかける。
 水音。
 頭から水の中に飛び込んだ雫澄は、「ふ、ふふふ……」とちょっと怖い笑いを浮かべながら浮上してきた。
「こんなコトをする悪い子には、お仕置きが必要だよねぇ?」
「わぁ、なすみんコワいなぁ。コワいから一緒に遊んで機嫌直してもらおう。それっ」
 琴乃が、持ち込んでいたビーチボールを雫澄に放った。
 海でビーチボールで遊ぶ一同を映しながら、画面に文字が被さった。
「四季〜季節を楽しもう!〜
 みんなで楽しくやりましょう!」
 


「……この撮影、すげぇ大変だったなぁ……」
 如月正悟が遠い目をした。
「そうですねぇ……スタジオとかどっか借りて撮影しましょうって言ったのに、南條さんたら結構頑固で……」
 セルマ・アリスも溜息をつく。
「参加者も多ければ、ロケーションのタイミング取りも大変で……天気図や天気予報の情報かき集めて、内海にいつ行くかってのに気を使いましたよ」
「春先だから、気温も低くてなぁ……『火術』使いの人大量に手配して……」
「こっちに藤野夜舞さんがいてくれたのは助かりましたね。弁当はみんなあの人が手配してくれましたから……」
「? お前が業者頼んだんじゃなかったのか?」
「如月さん、そりゃないですよ」

「代表の南條琴乃さんにお話を伺います。
 楽しそうな雰囲気が伝わってくる映像でしたね」
「いえ、私達、本当に遊んでいるだけでしたから。撮影とかで色々仕事をして下さった方には、ちょっと申し訳ないかな、とは思ったんですけど」

「それが裏方の宿命です」
「お前はいいヤツだな、セルマ。出世できるぞ」
「いや、便利にこき使われるだけで終わるかも知れません……ま、人の上に立つ柄じゃないのは自覚してます」
「なぁ。お前、もう少し野心とか野望とか持ってもバチはあたらんと思うぞ」

「私達、コミュニティ『四季』は、名前の通りみんなで集まって楽しくやろう、というコミュニティです。
 夏に海水浴と肝試しとキャンプを予定してます!良かったら参加してね!」
 琴乃は観客席に向かって手を振った。