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虹色のかたつむりを探せ

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虹色のかたつむりを探せ

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=第8章=   再会




 精霊が初めてあらわれた日――精霊が、あらわれてしまった日と言ってもいい――さつきはひとり、体調不良により保健室で寝ていた。
 子供の精霊は、自分と同じ境遇にいるさつきに惹かれ、そんなさつきが具合悪そうにしているのを心配し、つい姿を見せてしまったのだと
 言った。

 園児と変わりない容姿だが、自然界のエネルギーの力でこの世界に生を成したばかりの子供精霊は、子供と言っても精神的には
 赤ん坊のようなものだ。
 親もいない、会話する友もいない、心細さの絶頂にいたのだ。

 自分に害を成す者か成さない者かという判断は、ほぼ本能で下したに違いない。



 もちろん、さつきには子供精霊の姿が見えた。
 だから薄目を開けた時にもその形がハッキリとしていたのだ。

 けれど、保健室の先生――いわゆる大人――がやってきて、精霊は姿を消してしまった。




 *




「向日葵さん、あの子・・・・・・精霊の周りに・・・・・・」
「まるで、おとぎ話みたいじゃん」


 精霊があらわれたと連絡を受け、お遊戯室に駆け付けた秋野 向日葵大岡 永谷が見たのは、
 至近距離でさつきと向かい合っている子供精霊の水色のオーラの中に、まるで絵の中から飛び出たようなラクガキの生物や物が
 ふよふよと浮かんでいるという、夢のような光景だった。

 どうやら、幼いながらも精霊と言うだけあって、何らかの特殊能力を発動させているようだ。
 ただ、まだ成長始めの彼(彼女?)は、力がコントロールできていないのだ。


「雨の精霊」


 携帯電話を耳にあてた綾原 さゆみが呟いた言葉が、そこにある光景を肯定する。
 それは、蒼空学園にいる探求組からの連絡をいの一番に受けられたゆえの一声だった。

 雨に属する精霊ならば、その不思議な光景には首肯できる要素がたくさんできる。

 
 ――かさ、アジサイ、水滴、雨合羽、かたつむり、そして虹と、“雨”に関わるものがイラスト調になって具現化し、
   子供精霊の周りをぷかぷかしている。

 “虹”に関してはイラストではなく、精霊の水色のオーラに虹色のまだらがにじむかたちだ。
 緊張状態になったり気持ちが高揚した際に、子供精霊・・・・・・もとい、雨の精霊は自分も知らないうちに、そんな幻想を体にまとうのだろう。

 さつきに出会った時も、知らない場所にいるという不安と、得体のしれない者が登場した緊張から力が発動した。

 精霊の姿を見たさつきもその時は体調が悪く、開いた目も鮮明に光景を映していなかったから、
 「虹のまだら模様」と「かたつむりのイラスト」を同時に見ることで、「虹色のかたつむり」という虚像が生まれたのだ。




 想像はすでに肯定されたも同然に、雨の精霊の体の周りを、虹色のまだらと雨に属するイラストが包んでいた。


「あなたが、虹色のかたつむりを、わたしに?」
「う・・・・・・ぁぅ・・・・・・むん・・・・・・」


 意味を成さない単語の羅列を発する雨の精霊だったが、自我も自制も理解しているのか、大いに泣きそうになる顔を必死に元の形にとどめ、
 涙を流さんと頑張っているのが分かった。

 幼稚園と言う場所に、大人に近い少年少女が大勢やってきたのも、自分が原因だと薄々に感付いている様子だ。


「ぉめぅ、なさぁ」


 さつきが目を見開く。
 精霊語かと思いきや、どこで覚えたのか「ごめんなさい」と雨の精霊が謝罪していると知った時、さつきはいてもたってもいられず、
 虹色のオーラに包まれる精霊の両手を自分の両手で包みこんで、微笑んだ。


「わたしが、ありがとうって、言わなきゃいけなかったよね・・・・・・っ」


 次の瞬間、すんすんっと鼻をすする音が聞こえた。
 それがさつきの泣いている声だと向日葵やさゆみ、その他の探索組メンバーが気付いたのは、さつきを「だいじょうぶ?」と慰めている園児を
 確認してからだった。



 童子 華花ラルム・リースフラワーがさつきを心配して声をかけてからも、さつきは静かに泣き続けた。