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 夕方。
 そろそろ暑さも和らいで、救護室には熱中症の患者ももういなくなった頃、救護室に駆け込んでくる者がいた。ホイップ・ノーン(ほいっぷ・のーん)に担がれたエルだ。ホイップは救護室の床にエルを寝かせる。ホイップの頭の上ではすやすや寝息を立てているじゃわの姿もある。
「すみません、お願いしますー!」
「はい! って、エル君!?」
 カッチン 和子(かっちん・かずこ)は体中を血で染めたエルを見て、かなり驚いていた。
 救護室の奥で薬の整理をしていた神楽坂 翡翠(かぐらざか・ひすい)も慌てて出てくる。
「すごい血ですね……応急処置くらいしかできませんけど自分にも何か指示ください」
 2人が血相を変えているのを見て、かえってホイップが慌てだした。
「あの……2人とも、エルさんケガじゃないよ? えっと……鼻血なの……」
「えっ……?」
 ホイップの言葉を聞き、2人とも一瞬顔を見合わせてから、もう一度エルを見る。
 エルはこれだけ出てれば当たり前だが、貧血になっているらしく気持ち悪そうにしている。どうやら意識もないようだ。
「えーっと……とりあえず、ティッシュと体を拭くためのタオル持ってきますね」
「うん、お願い……。私はエル君の鼻をつまんでおくね」
 翡翠はすぐに奥へと戻り、和子はエルを横向きに寝かせると目に近いところの鼻を思いっ切りつまんだ。
 翡翠がティッシュと濡らしたタオルを抱えて戻ってくると、和子は鼻を左手でつまみながらティッシュを鼻に詰めてあげ、翡翠はタオルで体を拭き始めた。ホイップも翡翠を手伝い、濡れたタオルでエルの体を拭く。
 10分ほどで和子はつまんでいた手を離す。どうやらもう鼻血は止まったようだ。
 しばらくして、意識が戻り、貧血も平気な事を確認すると、エルたちは和子と翡翠にお礼を言って、救護室をあとにしたのだった。
「ふぅ〜。大けがじゃなくて良かったね」
「ふふ、そうですね」
 和子と翡翠は救護する者がいなくなった救護室でタオルを洗い始めた。


 営業時間である20時の少し前に翡翠のパートナーである柊 美鈴(ひいらぎ・みすず)フォルトゥーナ・アルタディス(ふぉる・あるたでぃす)が戻ってきた。
 今まで2人で、プールで遊んできたのだ。
「おや? 美鈴はパーカーを脱いだのですね」
 そう翡翠に声を掛けられ、美鈴は真っ赤になって体を腕で隠そうとする。トップスは胸元に大きなリボン、下はパレオのピンクの水着だ。
 フォルトゥーナはナイスバディが映える黒のビキニで仁王立ちになる。
「せっかくいいもの持ってるのに、勿体ないじゃない? だから、あたしが引っぺがしたの」
「でも、布地が少なくて……恥ずかしいですわ……」
「ナンパにも顔赤くしてたわよね」
「だ、だって……私なんかよりもっと素敵な方はたくさん……」
 美鈴は真っ赤になって口ごもってしまった。
「へぇ〜、そうだったんですか。楽しかったみたいですね。今度はみんなで来られると良いですね」
 そんな2人の話をにこにこと翡翠は聞いている。
「たしかに、みんなできたら大騒ぎになって楽しそうですわね」
 翡翠の言葉に美鈴が賛同した。
(せっかくの夏なんだもの既成事実を作っちゃうっていうのも1つの手よね!)
 そんな心の声を隠し、フォルトゥーナは翡翠に言い寄る。
「そうだ! ねぇ、翡翠〜今度は邪魔が居ない時に2人で来ない?」
「2人きりですか? 機会があれば良いですよ」
 にこにこと答える翡翠を見て、心の中でガッツポーズをとるフォルトゥーナ。
 ここで、タノベさんに無事終わったことを告げに行っていた和子が帰ってきた。
「みんなー! タノベさんが報酬の一部として、これから21時までプールで遊んでいいってー!」
「ああ、そうなんですか。せっかくなので、遊んでいきますか?」
 翡翠がそう2人に聞いてみると、2人はすぐに首を縦に振った。
 和子とフォルトゥーナはいそいそと救護室をあとにし、その後ろに翡翠、さらにうしろを美鈴が歩く。
「2人きりは、修羅場にならないと良いですわね……?」
 そんな事を呟いたが、誰かに聞こえたのかどうかはわからない。