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秋のスイーツ+ラブレッスン

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秋のスイーツ+ラブレッスン

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【イングリットグループ】

「どんなの作ります? ニコワさんのお菓子楽しみだなぁ」
レシピ本を広げながら、ミーナ・リンドバーグ(みーな・りんどばーぐ)は隣にいるコニワ・ヒツネ(こにわ・ひつね)に話しかける。
「ケーキ系にしようかなと思って生地の材料だけは持ってきたんですけど……。ミーナさんは?」
「このクッキーとか……。定番お菓子の方が作りやすいかもって」
 レシピ本を指差し、チョコクッキーのページを広げる。
「それも良さそうですね。あ、分量変えるだけだからミーナさんに分けますね」
「いいんですか? よかったー。材料費は撤収されるから抑えないと」
そうとくれば、と割烹着姿の立木 胡桃(たつき・くるみ)は椅子に立って、近くの人が「とりあえず持ってきた」という物の中から、必要な器具をかき集めた。小さな胡桃は椅子で身長を足しているのだ。
「危ないよ? 胡桃」
 ミーナが注意すると、携帯型ホワイトボードをサッと出し、「大丈夫です!」と言った。
「ミーナさんも、小さな給食当番さんもよろしくね。じゃあ私はこれにします」
 コニワは本の中から栗のパウンドケーキを選んだ。決まるとすぐに、二人は材料を取りに行く。コニワの勧めで、ミーナはクッキーの中にクルミを入れてみることにした。
「読みは違うけど、胡桃と同じ名前だよー」
 ミーナに同じ名前、と言われて「共食い!?」とホワイトボードに書く胡桃。
「ふふ、なんだか親近感わいて、美味しくなるような気がしたんですよ」
 結果的には、美味しい栗のパウンドケーキと、チョコ&クルミのクッキーができあがった。



 パートナーのセレスティア・エンジュ(せれすてぃあ・えんじゅ)の勧めにより、ハロウィンでもらったカボチャを活用しようと五十嵐 理沙(いがらし・りさ)はパンプキンパイを作ることにした。
 料理は苦手だが、かぼちゃに生地を乗せて焼けばいいだけらしいとわかり、「私にもできるかも!」と意気込んでいる。
「カボチャ切って、やらかくすればいいのよね」
「一応言っておきますけど、そのままみじん切りとかではないですわよ」
「わかってるってセレス。やっ! はぁっ」
 掛け声とともに、理沙は腰から剣を引き抜きカボチャに刃を入れた。均等に切られたカボチャがまな板に並び、周りにいた人たちはそれを見て「おおっ」と思わず拍手をおくる。
「普通に切ってくださいますか普通に」
 どうもどうもーと拍手にお礼を言っている理沙を、セレスティアは咎める。長い刃物を人の多いところで使うのは危ない。
「包丁より剣の方が扱いやすいんだもの。上手く切れたからいいでしょ?」
「腕は認めますわ……。では加熱しましょうか」
 カボチャは耐熱ボウルに入れて、電子レンジにかける。次は生地作りだ。小麦粉、薄力粉……とセレスティアが読み上げた順番に、理沙は別のボウルに混ぜながら入れている。
「卵と、砂糖、それから牛乳……って理沙!?」
「え、ちゃんと混ぜてるわよ」
 セレスティアは口をあんぐりと開けて驚いた。言われた材料は入れたのだが、分量がめちゃくちゃだったせいか生地がべちょべちょ。きっと牛乳をどばっと入れていたせいだろう。
「これじゃあもんじゃ焼きの生地に近いですわ……」
「何それ、美味しいの?」
「お菓子ではなく鉄板料理ですわ」
 その様子を見かけ、佐々木 弥十郎(ささき・やじゅうろう)は心配になり「大丈夫〜?」と声をかけてきた。
「大丈夫……かな? パンプキンパイが、パンプキンもんじゃ焼きって言うのになりそう」
 あははと理沙は言う。セレスティアは生地の経緯を弥十郎に話した。
「だったら作り直せばいいよ。せっかくここに来んだしねぇ」
「そうそう。私たちが教えるから覚えていきなよ。あ、一緒に作ってもいいかな」
真名美・西園寺(まなみ・さいおんじ)はダメでも安心して、と笑いかける。
「ええ、もちろん。助かりますわ」
セレスティアはほっと胸を撫で下ろし、お礼を言う。
「分量をきちんと計らなかったか、もしくは単位を間違えたかだね」
 弥十郎はさじや計量カップ、計り器できちんと計るようにと、理沙に指示をする。
「適当じゃダメなの?」
「慣れるまでは……というか慣れても、お菓子は分量加減で美味しいか不味いか分かれるから。あの生地のまま焼いていたら真っ黒焦げでおしまいだよー」
 何気に怖い事を言う。監視の目も増え、言われた通りに生地を混ぜ、捏ねていく。薄く伸ばしてまた重ね、何層も層を作っていく。作業が面白くなって慣れてきたようなので、自分たちもそろそろ、と作業に取り掛かり始める。
 カボチャを潰すのは真名美がセレスティアにアドバイスしながら進めて行った。あとは生地を乗せて焼くだけ、というところまで行くと、弥十郎は金柑に取り掛かっていた。
「佐々木作業早っ! もう火にかけてるの?」
 金柑のジュレを作るので、皮を向いて水飴を混ぜて、甘く煮ているのだ。
「ええ、コツを掴んでくれたようで」
「じゃあゼラチン溶かしとくからね」
 真名美は金柑の下ごしらえをしようと思ったが、粉末ゼラチンを水に溶かして弱火にかけた。そのとき他のグループからお呼びがかかり、「はーい」と飛んでいく。「生クリームはね、ジャムを一さじ加えると楽に泡立てられるよ! ……でね、」そう一言アドバイスをしていると、「私も!」と聞いてくる人が来て真名美はその場から離れる。
パンプキンパイをオーブンで焼いている中、聞き慣れない言葉が気になって理沙は聞いた。
「ジュレ……って何? ジェルみたいな?」
「ゼリーのことだよー。フランス語なんだ」
「そうなんだ。ちょっと勉強になった!」
「私も初耳ですわ」
 教えてもらった通りに作ったおかげで、パンプキンパイは無事美味しくできあがった。弥十郎は冷やし固めた金柑のジュレを綺麗にラッピング。
 パイとジュレを交換し合ったり、周りの人に分けてあげたりした。



「女子力上げるぞーっ!」「おおーーっ」
 一部の調理台の周りでは、イングリットを中心に団結していた。「そこ、力なんだから上げるじゃなくて増やすじゃない?」とか、「女子力っつーか人間として生活力上達とかじゃないの」なんて心無い言葉が聞こえたとしても、聞こえないフリだ。
 一応はどう転んでも女子なのだ。

「桃花、女の子らしいって見返すにはどうしたらいいかな」
芦原 郁乃(あはら・いくの)秋月 桃花(あきづき・とうか)に聞く。やまとなでしこ、と言うのがぴったりな彼女に習えば、コンプレックスも解消するかもと思った次第だ。
「桃花お姉ちゃんみたいに、お姉ちゃんもなれれば……だって」
荀 灌(じゅん・かん)は郁乃を支持し、桃花にお願いする。
「ええ、だから郁乃様はここにいるんですよ」
 にこっと笑って桃花は言う。いい機会だからお菓子教室に参加しよういうことになったのだ。
「でも苦手だし、上手くできればいいけどなぁ」
 料理の苦手な郁乃は不安気に言う。「お姉ちゃん頑張れ」と灌は応援してくれるけれど、失敗したらと思うと気が進まない。
「大丈夫ですよ。私が教えますし、わからないことがあってもたくさん人がいて、郁乃様と同じような方も中にはいるんですから」
 それはフォローになっているのか、少しは不安材料は無くなったらしい。混ぜて焼くという基本のパンプキンケーキを作ることにした。
 慣れない手つきでカボチャをざくっと切っていく。加熱してやわらかくなったものをすりつぶしていく。上手くいかず苦戦していると、桃花が手を添えてサポートしてくれる。
「バターの黄色、かぼちゃの黄色、卵黄の黄色に生クリーム混ぜたら何色になるでしょう?」
「桃花……、それ呪文? クイズ?」
 ケーキ生地を混ぜながら、桃花は問いかけた。郁乃はなにそれ、と怪訝に聞き返す。
「ふふ、美味しくなる呪文でしょうか? それか否かはわかりません」
 灌はお姉ちゃんたちの手伝い! と言って、使い終わったものを洗っていく。
「あたしも見習わなければですね。桃花さんは凄いなぁ」
蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)は、作業をしているところをメモしていた。それが終わってしまうと、ごしごしと洗い物を頑張っている灌を手伝う。
「大丈夫かなぁ」
 型に流し込み、オーブンに入れるとのぞき込むようにして焼き加減を見守る。
料理をすれば兵器だテロだと言われ、落ち込むことが多かった。教えられた通り作ったとしても、自分の手から兵器のエキスでも流れ込んでるかもしれない。
「大丈夫ですよ、慎重に作ってたじゃないですか。なんでもできる桃花が教えてくれたんだし」
 マビノギオンは上手くできるよ、と優しく励ます。
「私も最初はよく焦がしたりしてましたよ。でも嫌だから練習したんです……あ、焼けましたね」
 タイマーがチン、と音を立てたのを合図に、オーブンから取り出す。綺麗な色に焼きあがっていた。
「わかった! キャラメル色! でしょ、さっきの答え」
 真っ黒焦げじゃない、美味しそうな色。それだけでも郁乃は嬉しかった。答えはそうでしょ? と桃花に問う。「そうなんですか?」と聞き返されてしまった。真相は謎だ。
 型から外して、切り分ける。恐る恐る口に運ぶと、予想以上に美味しかった。カボチャの味がするふわふわケーキがちゃんと作れたのだ。
「良かったね、お姉ちゃん」
 灌はケーキを口にしながら、美味しいと言ってくれた。
「やった! みんなありがとありがとーっ」
 郁乃は3人纏めてぎゅっと手を広げて抱き締めた。女子力1歩UPだ。



「……でねっ、アイシャちゃんに貰ったクッキーのお返しをするの!」
いいでしょ? と騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は自慢する。良くしてもらっているアイシャ・シュヴァーラ(あいしゃ・しゅう゛ぁーら)にプレゼントをする機会だからと参加した。
みんなのようにエプロンとバンダナ、ではなくみらくるレシピという可愛らしいコスチュームを身にまとっていた。
作るものは決まっていて、食材は持参済みだ。紅芋のタルトを作るべく、蒸かした芋を砂糖などを混ぜながらペースト状にしていく。
「『虹色スイーツ≧∀≦』も忘れないようにしなきゃ」
 回復魔法だが、このコスチュームじゃないと発動しない。美味しく食べてもらうため、というのもあるが、アイシャには食べて元気になって欲しいのだ。
 たまに、甘さや焼き加減に失敗してしまうけれども、完全魔法少女装備な今なら大丈夫。それに、美味しく作りたいと思う人たちに囲まれると自分もできるような気がする。
「アイシャちゃんみたいに作れたらいいんだけどなー」
 アイシャは装備なんかしなくても美味しく作れてしまう。ちょっとズルかもしれないが、きちんとしたものをあげたかった。
 タルトの生地を整えると、ペースト状になった紅芋を絞り袋で中に押し出していく。慎重に乗せ終わると、オーブンで少し焼き色がつくぐらいに焼いた。
「できた! あったかいうちに食べてもらおう!」
 後片付けはちゃんとするからいいよね? とラッピングを急いですると、こっそり調理室を抜け出した。流石騎士、と言ったところか、素早い足で、アイシャの元へとかけていく。仕事中に失礼するけど、少しの休憩になれば良いと思う。
「どうしたんです? 詩穂さん。そんなの息を切らして……」
「あっあのね……えっと……、これよかったら食べてください!」
 どうぞ、と詩穂を快く部屋に入れたアイシャは何事かと驚いていた。詩穂の差し出したタルトを両手で受け取る。
「あら、まだあたたかいのですね」
「作りたてなの。疲れてるだろうし、甘いものはどうかなって」
 アイシャほど美味しくはないかもしれないけれど、と謙遜するが、タルトを取り出して一口食べたアイシャは「ほっぺたが落ちそう」と言ってくれた。
「本当? 嬉しいっ」
「嘘は言いません。ありがとう。詩穂さんは表情にすぐでて、可愛いですからね。お菓子も美味しくなるはずです」
 アイシャは詩穂の頬に添えてそう言った。二重に嬉しくて力が抜けそう。
 喜んでもらえてよかった。しかも「休んでいって」とお茶を一杯頂いた。本当はもっと長く話したいけれど、後片付けがある。またお話しようねと言って調理室へとまた走った。