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INTO THE CAVE ~闇に潜む魔物と生きた宝石~

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INTO THE CAVE ~闇に潜む魔物と生きた宝石~

リアクション


【第二章】

 その頃、百合園女学院の職員室の窓の外から、そっと中を覗き込むものがあった。
 七瀬 歩(ななせ・あゆむ)だ。
 職員室内では、禁止区域内の異変に気付いた見周りの教師が、それを別の教師に伝えた事でちょっとした騒ぎになっている。
「先生達が気付き始めたんだわ。皆モルフィーを助けに行っただけなのにこのままじゃ大変な事になっちゃう!」
 七瀬は、肩から提げていたカバンに手を入れると、中をひっかきまわして何かないか探してみることにした。
「何か……何かないかな……?」
 パニックを起こした猫型ロボット状態で何の役に立たないものを出しまくると、一枚の紙が手に触れた。
 それは先日彼女が教師に提出したクラスで使う機材使用の為の申請書だった。
「あ!これだ!!」



「お嬢さん、待って下さい、お嬢さん!」
 頼りない足場を藍色のフラッフィーモルフォに照らされて、エース・ラグランツが進んでいる。
 しかし彼が呼びとめようと必死な相手は、そんな声等耳に入らないのか白杖を手にどんどん先へ進んでしまう。
「どうやら彼女、この空間でも問題ないようだね」
 エオリアの指摘通り、冬蔦 日奈々(ふゆつた・ひなな)は元々盲目の為視界を奪われる、
という他の者達がここで強いられている苦労は無く、更に足場の悪い場所や裂け目は空飛ぶ魔法↑↑で、器用にかわしていた。
「例えそうだとしても、可憐なお嬢さんだけ先に行かせるはいかないよ、紳士として」
 パートナーの笑顔の返事を受け取り冬蔦の方を向き直ると、少し高めの岩に手と足を掛け、昇ろうとしているのが見えた。
「んっ、しょ……あ!」
 頼りなく小さな指が滑り、後ろへ落ちようとしていたところを間一髪、エースが抱きとめる。
「……ありがとうございます……」
「当たり前の事をしたまでだよ。怪我はないかい?」
「手、少し擦りむいちゃったみたいですぅ……」
「見せて下さい」
 エオリアが冬蔦の手をとり、状態を見るが彼女の深刻通りそれ程のものではなかった。
「大きな傷ではないから問題はなさそうですね。でも、菌が這入らないか心配です。どこかに清潔な水でもあればいいんですが」
「……あるかも」
「え?」
「……この先」
 冬蔦は先程の岩の先を指をさす。
「水の音がするんですぅ……」



 その頃、別の洞穴では「さっきはありがとうございました」とぺこぺこと頭を下げるパートナーを背に、リョージュ・ムテンが首を捻っていた。
「なあ……洞窟の魔モノって何食って生きてんだ?」
「それは……あの様子から言ってフラッフィーモルフォは間違いなさそうですよね」
 リースの意見にリョージュはますます首をかしげる。
「そりゃまあそうなんだろうけどよ。あんなちっこいモルフォで腹一杯になるかね」
「そうだよね、確かに。私達みたいなのも食べそう」
 マーガレットの意見にもすかさず続いて言う。
「そこなんだよ!そこが納得いかないっつーか」
「リョージュくん?」
「あいつなんであそこから動かなかった?」
「そう言えばそうですね。私達を食べるなら入り口にきた段階で襲われてもおかしくないですし」
「餌を蟲に運ばせるだけでこっちにはこなかったもんね」
「逃げ遅れた忍すら襲いにこなかった。……なんでだ?」



 同じ頃、モルフィーと赤いフラッフィーモルフォの助けを借りて逃げた生徒達はある洞穴を進んでいた。
「聞こえますか?」
 美緒は小さく身構えながら隣に立つルカルカに言う。
「ええ、例の奴だわ」
 どうやら彼らが蟲から逃げる為に進んだ洞穴には、例のモンスターが居たようだ。
 先程から響いている声で皆がそれを認識し、空気が張り詰めていた。
「なんだか酷い臭いね、鼻が曲がりそう」
 騎沙良の言葉にミルゼアが壁を指先で触りながら答える。
「恐らくこの粘液の所為ね。壁も地面も其処ら中にこれでベタベタだわ」
「と言う事は美緒、ここが例のモンスターの巣の可能性が高いですね」
 ラナの声にうなづいていると、美緒は後ろで樹月が周囲を見回している事に気が付いた。
「どうかなさったんですの?」
「いや、パートナーの、月夜が……」
 異変に気付き始めた生徒らが、自分の周囲を見回すが、漆髪の姿は見当たらない。
「一体どこへ?」
 その刹那に、洞穴の奥から銃声と声が響いた。
「刀……真!……助け、て!!」
「月夜!!」
 遂に彼らの前に現れたモンスターは、蛙に似た巨体を揺らし、舌で漆髪の身体を巻きつけ捕えている。
「行きますわ!」
 美緒の声に全員がモンスターへ飛びかかった。
 ヴァーナーの咆哮の歌が響く中、如月がサイドワインダーを放つ。
「アコ!」
「わかった!」
 アコが両手でアシストし、ルカルカが飛びあがり薙刀を振り上げる。
「一!撃!必!殺!!」
 しかし、10メートルを超す身体の持つ跳躍力は恐ろしく、攻撃が当たる前に飛び去ってしまった。
 そんな中、騎沙良は震えていたフラッフィーモルフォの前で、彼らをガードするように立っていた。
「大丈夫よフラッフィーモルフォ、私が付いてるわ!」
「美緒、どうやらあの蟲はもう出せないみたいですよ」
「それにあのモンスター、きっと舌が出ないと攻撃が出来ないんですわ。今のうちに攻撃を……」
 美緒が言いながら後ろへ回り込もうとするが、モンスターは洞穴内を跳ね回り、地の利を生かして逃げ続ける。
 そうしている間にも漆髪の体力は限界に近付いていた。
「私は刀真の剣でパートナー……刀真のモノなの!あんたなんかに…食われたりなんかしないんだからあ!!」
 自分を鼓舞する為か、叫ぶ力はあるものの強い力で縛られた状態のため、呼吸が荒く顔色から血の気が引いて行く。
 もう時間は無い。
「行動予測します!」
 火村は宣言すると集中し、見えた状況を冷静にミルゼアに伝えて行く。
「分かったわ!シア!奴の行く先を塞いで!リディ!マイ!」
 ミルゼアの声に彼女のパートナー達が反応する。
 綿貫は隙を突いて飛びあがったモンスターに遠当てを放った。
 モンスターはそれを喰らうまいと避けるが、着地先にはリディルと巫剣が待ち構えていた。
 モンスターは透かさずまた飛びあがるが、目の前にルクレシアが放ったが飛んできて、バランスを崩し地面へ落ちてくる。
 地面には黒髪をなびかせた女剣士の姿があった。
「絶零斬!!」
 ミルゼアの剣はモンスターの舌を斬り裂き、漆髪の巻かれた部分ごと樹月がワイヤークローでキャッチする。
「やりましたわ!」
 生徒達は漆髪の元へと集まる。彼女を抱きかかえ様子を伺っていた樹月の口から笑みがこぼれた。
「気を失ってるが……大丈夫そうだ」
「……良かった」
 彼らが安堵していた束の間、モンスターの喉からゴロゴロと異様な音が響いてきた。
「なんですの?」
「兎に角……早く止めを」
 ミルゼアが血振りした大剣を再び構えた瞬間。
 モンスターの口から胃が飛び出してきた。
「な!?」
「一体何が……」
 余りの事に何も出来ずに見て居ると、モンスターは今度は自分の胃を口に含み租借し始めた。
「……う」
 気味の悪さに目を逸らしている隙にモンスターは胃の全てを食べ終え、こちらに向き直った。

「……まずい」
 如月が呟くと同時に、彼の横にいたはずのルクレシアと綿貫、巫剣が吹き飛ばされていた。
 モンスターが認識出来ない程の速さで攻撃を仕掛けてきたのだ。
「助けないと……!」
 美緒が走り出した時だった。突如頭に「危ない!!」と声が響いたかと思うと、意識が一瞬途絶えたのだ。

 次に頭がはっきりしてくると、彼女は地面に突っ伏して倒れている事に気が付いた。
 頭を打ったのか痛みで直ぐには立ち上がる事が出来ずにいると、彼女の目の前にヴァーナーが倒れているのが見えた。
「……何が……」
 まだ白っぽいままの視界の中で、如月がモンスターに一人、向かっているのが見える。
「……何が起こってるんですの?」
 美緒は両腕を引っ張り上げられ、引きずられて何処かへ向かっている。
「逃げて!!私達じゃ敵わないの!逃げて!!」

 薄ぼんやりの中、騎沙良の声が響いていた。