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第四章 サニーのためにできること

「コックさんお願い! ボクにチャーハンの作り方を教えてください!」
「うむ、ではまず厨房の掃除からじゃ!」
「へ?」
 サニーの家の向かいにある異国料理店。
 腰を痛めて療養中のコックに頭を下げた笹奈 紅鵡は、返ってきた意外な言葉に目を丸くする。
「我が店秘伝のレシピを知りたいということは、それ即ち我が店への弟子入り希望! ではまず基本の掃除じゃ!」
「いやその、急いでいるんだけど……」
「最初は包丁の使い方から! 火を扱うようになるまで3か月はかかる!」
「そんなにー!?」
「あのね、ちょっといいかな?」
 絶望の声をあげる紅鵡の隣から、ルカルカ・ルーがひょいと顔を出す。
「シェフ、腰の調子が悪いんだよね。そしたら、ダリルが治療するから作ってくれないかな? それか、ルカもダリルも、料理の心得はあるんだ。ちょっとでいいから教えてくれないかな?」
「ああ。まずは診察させてくれ」
「む? ま、まあ診てもらうくらいなら」
 横になったまま頷くコックをダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)が診察し、ルカルカはそっと腰をさする。
 ダリルのナーシングが功を奏したのか、コックの容体はみるみる回復していく。
「おお、これはすごい! 空でも飛べそうじゃ!」
「よかった! それじゃ、チャーハンを作ってくれるかな」
「うーむ、しかしワシには療養中に練っていた作らねばならない新作レシピが山のようにある! 回復させてくれた礼じゃ、特別に、店の掃除だけで弟子入りを認めてレシピを教えてやろう!」
「意外に妥協が早いんだね」
「ほら、何をぼさっとしておる! とっとと厨房を磨かんか! ほらそこの小僧も」
「え、今から?」
「え、ボクも?」
 戸惑うルカルカと紅鵡たちに、コックは更に追い打ちをかける。
「厨房が終わったら外もじゃ! ピカピカに磨かんとレシピは教えんぞ!」

「……っく、あと少し……」
「気を付けて。大分足場が小さくなってるわ」
「わ、分かってるわよ、セレアナ」
 セレアナの声にセレンフィリティが短く言葉を返す。
 しかしその声は、どこか震えている。
 セレンフィリティの立っているのは、高い高い木の上。
 その枝の先の先に、ほんの1個。
 真っ赤な小さな実が生っている。
 セレンフィリティとセレアナ、そして騎沙良 詩穂(きさら・しほ)は、赤い実のケーキを再現するために、赤い実を探していた。
 ケーキ屋に事情を聞き、赤い実の卸元に確認し、詩穂のトレジャーセンスを元に赤い実を探し回った。
 赤い実は、今年はほとんどその木に実を付けず、人の手も届かないような枝の先の場所にほんのわずかに生っているだけという情報と、その木の場所を得た3人は早速そこに向かう。
 そして木に登ったセレンフィリティの手があと僅かで赤い実に届こうとしたその時。
 ちち。
 赤い鳥が、ちょこんと枝の先に止まった。
「え、やだ。ちょっと待ちなさいよ」
 セレンフィリティの胸によぎる不安そのままに、赤い鳥はちょん、ちょんと赤い実に近づいていくと、ぱくりと赤い実を口にする。
 ばさばさばさー。
「こ、こらー!」
 赤い実をくわえたまま飛び立っていく赤い鳥。
「ま、まだ飲み込んでないよ、大丈夫! 北の方に行ったから追いかけてみるよ!」
 詩穂の声が遠くに聞こえた。

 がらり。
「ふーむ。サニーちゃんはカントリー系の服が好みなのかな。じゃあ、そっちの方向で作ろうかな」
 レインから許可を貰ってサニーのクローゼットを開けて、彼女の好みを確認していた筑摩 彩(ちくま・いろどり)は呟いた。
 あらかじめブティックに行って新作の傾向は確認しておいた。
 材料も全て調達済み。
「よし、じゃあ雑貨屋さんの小物が引き立つように、シンプルな方向で行こう」
 一人、元気に頷く。

「土の状態もいまいちだな。肥料を追加するか。けど、一番の問題は……」
 もくもくと土いじりをしていたリクトは、サニーの家の隣に立っている大きな建物を見上げる。
「この、日当たりなんだろうなあ」
 建物の影になり、昼だというのに薄暗い庭。
 庭の真ん中に生えている大きな木には、所々に蕾は見られるが、それが開く気配はいっこうにない。
「よし、ならこれだ」
 リクトは大きな鏡を取り出すと、その置き場所を決めるために周囲を見渡した。
 サニーの家の屋根に目を留める。
「うん、あそこがいいかな」