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食材を巡る犠牲と冒険

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食材を巡る犠牲と冒険

リアクション

第二章 ジャガとゴーヤーのセット

「強く華麗に美しく☆ ボクの舞闘を魅せてあげる♪」
 物部 九十九(もののべ・つくも)の憑依した鳴神 裁(なるかみ・さい)が、トリッキーな動きでゴブリン達を倒していく。
「ボクは風、風(ボク)の動きを捉えきれるかな?」
 洞窟内を所狭しと駆け回る裁が纏っているのは、ドール・ゴールド(どーる・ごーるど)だ。
 今の裁にゴブリン如きが当然敵うはずもない。
 暴れまわる裁とは少し離れた場所で、白柳 利瑠(しらやなぎ・りる)は銃を撃っていた。
「食材の味を落としてしまうなんて、許せませんね……」
 こうして利瑠達が援護をすることで、食材を採りに行った人達の助けとなる。
 とはいえ、嬉しそうにスナイパーライフルの射撃を行う姿は、少しばかりハッピートリガーの傾向が感じられるだろうか?
「はーんばーぐ、はんばーぐー♪ てごねてごねはんばーぐー♪」
 そして、逃げまどうゴブリン達を追いかけているのはアリス・セカンドカラー(ありす・せかんどからー)理堵・シャルトリュー(りと・しゃるとりゅー)だ。
「ふふ、怖がらなくてもいいのよ? これで気持ちよーく逝かせてあ・げ・る☆」
「面白そうだねー。それ、回復する?」
 今までで一番怖い相手に出会ったゴブリン達は、なす術もなく蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
 こんな残酷とも思える相手に出会ったのだから当然だろう。
 無邪気な子供故の残酷さではあるが……そこに、それを面白がる理堵とトリガーハッピーな利瑠。
 縦横無尽に暴れまわる裁が加わっているのだから、その恐怖はどれ程のものか。
 少なくともゴブリン達は、この洞窟に近寄らなくなるだろう事は間違いない。
 そして、裁達が暴れまわっている間にも収穫作業は続いていく。
「よし、アハラ行くぜ!」
 そこにあったのは、暗黒ジャガイモの蔓を握るマイト・オーバーウェルム(まいと・おーばーうぇるむ)芦原 郁乃(あはら・いくの)の姿。
「これって芋ほりじゃない? まぁ確かにロケーションは変わってるけどさぁ」
 不満を言いながらも、マイトに合わせて蔓を引く郁乃。
 しかし、タイミングか力加減か。どれかが違っていたのだろう。
 飛び出したジャガイモがマイトと郁乃に強烈なアッパーを繰り出す。
「あー! もうアハラ何やってるんだ!」
「もぅ! それはこっちの台詞だよ。おかげで殴られたじゃないッ!」
 星になるかという勢いで飛んだマイトに涙目で言い返す郁乃。
 アゴに受けた強烈な一撃が、脳をグラングランと揺らすかのようだ。
「よっし! もう一度やるぞ!」
「そうだね、殴られっぱなしってのは性に合わないしね。見てろ! ジャガイモ、息のあったとこ見せてやろうじゃないかっ!」
 言いながら、別の暗黒ジャガイモの蔓を握るマイトと郁乃。
 今の二人であれば、暗黒ジャガイモの収穫まではそれ程かからないだろう。
 なんだかんだで息ぴったりの二人を見ながら、荀 灌(じゅん・かん)蒼天の書 マビノギオン(そうてんのしょ・まびのぎおん)に話しかける。
「お姉ちゃんとマイトさんって、仲いいんですね……」
 男女間に友情は成立しない、というのは誰の言葉だっただろうか。
 灌の言葉の真意を感じ取って、マビノギオンは安心させるように語り掛ける。
「あぁ、マイトさんはライバルで、戦友で、くされ縁って感じですから、いうなれば悪友に近いと思いますよ。それにたしかお付き合いしている人が別にいるという話ですしね」
 まぁそんな心配ないでしょうね。どう考えてもお二人とも隠れてただならぬ仲になれるほど器用そうじゃないですからね、と。
 そう考えながらマビノギオンは手の中の蔓をもてあそぶ。
「それに主が浮気していたとして、隠せると思いますか? あの性格ですから、今頃バレて大目玉ですよ」
「そういえば確かに、にこやかにお見送りしてたですね」
 信じているのか単純に失礼なのか。なんとも判断のしづらい会話をしながら、灌とマビノギオンはマイト達を見る。
 どうやら、今度こそ暗黒ジャガイモが抜けたようだ。
「さぁ! 荀灌ちゃん、集中して……息を合わせて……1、2、3っ!」
 しかし、少し力が強すぎたか強烈なアッパーを繰り出す暗黒ジャガイモ。
 どうやら、中々に難物な植物であるようだった。
「ジャガイモつと掘るもんて認識だったけど。パラミタのジャガイモつーとこれなのか、ただ単にジャガイモって名前なだけなのか」
 東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、そう言いながら暗黒ジャガイモの蔓を握る。
 ちなみに正解は、暗黒ジャガイモだからであり、れっきとしたジャガイモの仲間である。
 普通のジャガイモとは違うのだよ、というアレである。
 ちなみに一説によると、蔓が恐ろしく頑丈だから引き抜いたほうが早い、という説もあるらしい。
 掘り起こそうとすると連打でアッパーを食らうという説もあるから、恐ろしいものである。
「暗くて引っ張りにくくても行けないから灯りは用意して……ん?」
 椎名 真(しいな・まこと)が灯りを用意している間に、サツマイモっぽいなあ……などと言いながら蔓を引っ張っていたカガチがジャガイモのアッパーを受ける。
「よし、じゃあやろうかカガチ」
「よし、じゃあせえのでいこうせえええくっしょい!」
 クシャミと共に、思いっきり蔓を引く手に力を入れるカガチ。
 わざとではない。わざとではないが、アゴに感じる痛みは仕方なくないものだ。
「い、いたた……つ、次いこうか」
 気を取り直した真だが、次は引く瞬間に真が足を滑らせ。
 その次のタイミングでは、カガチの携帯に突然着信が入る。
 そして、いくつかのパターンと、何発かの暗黒ジャガイモによるアッパー。
「あ、アゴが……」
「くだけそうだ……」
 よくあるパターンをやりつくしたカガチ達は、ふとした事に気付く。
「……せぇの! で合わせたりせず互いに勘で引っ張ったほうがタイミング合いそうな……」
 真の言葉に、思わず目を丸くするカガチ。
 それで無事に抜けてしまうのだから、分からないものである。
 さて、別の場所で暗黒ジャガイモを見下ろしているのは、セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)の二人だった。
 今回のセレンフィリティ達のターゲットは、息のあった二人が必要な、この暗黒ジャガイモなのだ。
「二人の人間が同じ力で同時に引く……か、相思相愛のあたしたちには簡単よね☆」
「まぁ、他の暗黒食材に比べて一見簡単そうに見えるし、セレンフィリティとならそれほど難しくないようにも思えるが、油断は禁物ね」
 何でも雑な性格だから、上手く力加減をさせないと失敗しかねない……とセレアナは思う。
 尤も、恋人であるセレンフィリティのの様子を見る限り、今回は彼女なりにそういう部分を押さえて、自分と同調させようと努力しているのが判るから、余りうるさくは言うつもりはなかった。
「失敗しても死にはしないわ。落ち着いて……そう、じゃあ、いくわよ?」
 だから、セレアナはセレンフィリティが緊張しないようにそう言って微笑んで。
 以心伝心。それをキーワードに、暗黒ジャガイモの蔓を引っ張る。
 地面からは、アッパーが飛び出してくることはない。
 ボコリ、と。蔓についたままのジャガイモが優しく顔を出して。
 二人は、顔を見合わせる。
「ポテトサラダでも作る?」
「ポテトチップやバター焼きもいいわよね」
 そんな事を言って、嬉しそうに笑いあいながら。
「さて、そういう訳だが……ラウズ、とりあえずまずスイカと枝豆を採取してきてもらえるか? 俺とトゥマスはポテト行ってくるから」
「おお、スイカと枝豆だな! 判ったぞ!」
 御宮 裕樹(おみや・ゆうき)の言葉に不満一つ言わず、ラウズ・クラスト(らうず・くらすと)は走っていく。
 どちらも打撃系でかなり痛いのだが、それをラウズは疑問にすら思っていないようだった。
「俺もやっといてなんだが、アレは放置しといて良いのか? ラウズだから大丈夫とは思うが…」
「まあ、大丈夫なんじゃないか?」
 どちらもかなりの難物だが、タフなラウズならば大丈夫だろう。
 それよりも、暗黒スイカが壊れたりしないか心配だ。
 そんな事を考えながら、裕樹は足元の暗黒ジャガイモを見下ろす。
「まあ、ラウズだしな」
 そう言うと、トゥマス・ウォルフガング(とぅます・うぉるふがんぐ)も足元を見下ろす。
「で、俺らはポテトか……ん、了解、っと」
 タイミングはともかく、二人で同じ力で引くというのは、実はかなり難しい。
「で、それはそれとしてトゥマス、ポテト挑戦前に手ぇ出せ」
「ん〜……こうして試すとやっぱ俺のが力強いな。ちょい加減しないと合わんか……」
「ってか俺結構全力で押しても、涼しい顔だなオイ」
 そんな会話を交わしながら、裕樹とトゥマスは力加減を調整していく。
 狙うは、一発成功だ。
「よし、それじゃあせぇので引くぞ」
「よし、んじゃせーのだな、了解」
しっかりとタイミングと力加減を挑戦し、蔓を引っ張る裕樹とトゥマス。
 結果は勿論、一発成功であった。
 
 そして、暗黒ゴーヤーの蔓の前。
「特殊な方法じゃないと手に入らない食材があるってことで、せっかくだから食べてみようと思ってついてきたら特殊な方法ってこういうことかよ……」
 手元の紙を見ながら、斎賀 昌毅(さいが・まさき)は暗黒ゴーヤーの蔓を見上げる。
 一つ採る毎に一人の犠牲者を強いるゴーヤー。
 すなわち暗黒ゴーヤーである。
「えーと、確かカスケードは身体柔らかったよな。てことは、一部のサブミッションなら効果ないわけだ」
 良いことを思いついた、と手を叩く昌毅。
「うん、行って来い。多少筋伸ばされたりしたところで骨さえ極められなければ平気なはずだから。その間にしっかりと俺達がゴーヤは収獲してやるから、な?」
「ゴーヤは塩もみして……って昌毅、おぬしは一体何をいっとるのじゃ? 身体が柔らかいのはおぬしであって、鎧化した状態のおぬしが一部の関節技が効かないだけで人間形態のわしはバッキバキじゃぞ?」
 カスケード・チェルノボグ(かすけーど・ちぇるのぼぐ)は、いきなりの不穏な発言に手をパタパタと振って否定の意を示すが、しかし。
「な〜に、死にやしねぇって。多少壊れても俺が直してやっから……な?」
「いやじゃ、いかんぞ。絶対に腕がもげたりするのは嫌じゃ! イコプラだからってそんな扱いを受ける覚えは……」
「というか、わがまま言わずに行ってこぉぉい!」
 暗黒微笑を浮かべ、暗黒生命体の仲間入りをする昌毅。
 一気に蹴り出されたカスケードは、早速ゴーヤーにバッキバキに曲げられ始める。
 相手は人間ではなく、ゴーヤーの蔓。
 つまり繰り出される関節技も、人間には無いオリジナルホールドが多数存在する。
「あんな関節技、人間じゃ無理なの……」
 何やら極悪極まりない関節技をかけられているカスケードを、ゴブリンを連れてきたキスクール・ドット・エクゼ(きすくーる・どっとえくぜ)が眺める。
 どうやら、ゴブリンを上手く説得してきたようだ。
「あ、こら。これはカスケードさんが身体はって取ってくれたものだからゴブリンさんは取ってちゃ駄目だよ。どうしてもほしいならゴブリンさん達も身体張らなきゃだめ」
 解放されたカスケードの代わりに、ゴブリンをゴーヤーの蔓へと押し出すキスクール。中々に鬼畜である。
「あ〜、こら。暴れたら味が落ちるってカスケードさん言ってたよ。う〜ん。それじゃあ、私が氷術で固めてあげるからゴブリンさん達は動いちゃ駄目なんだからね」
「う、うーむ。これは……」
 展開される鬼畜空間。けれど、暗黒ゴーヤーはたくさん収穫できたようである。
「なぁ、俺達野菜を収穫しに来たんだよな?」
 ビデオカメラを構えていた十田島 つぐむ(とだじま・つぐむ)は、そんな当然の疑問を口にする。
 ビデオカメラに映っているのは、暗黒ゴーヤーに関節技を仕掛けられながら艶かしい声をあげているミゼ・モセダロァ(みぜ・もせだろぁ)の姿。
 雰囲気作りに目隠しまでしているミゼの姿のせいもあって、何か違うビデオを撮影しているかのようである。
「安心しろ。俺もそう思っていた所だ」
 ガラン・ドゥロスト(がらん・どぅろすと)は、冷静に暗黒ゴーヤーを収穫しながらそう答える。
 そうして、ガランは収穫した暗黒ゴーヤーを米びつに入れる。
 ちなみにこのビデオは私達が収穫しました的な生産者証明であって、そういうビデオではなかったはずである。
 今回だってパワードスーツの開発資金が無くなり資金捻出の為仕事を探していたはずなのだが……まあ、今更である。
 どちらにせよ、きっとどうにかなるだろう。
「ミゼ先輩、がんばれ!」
 一方の宇真美・暁の雷を身に受けし者(うまみ・あかつきのいかずちをみにうけしもの)は、感動した声をあげながらミゼに声援を送っている。
 どうやら、宇真美の部族的な問題や認識があるようである。
「神様(つぐむの事)僕を食べて(文字通りの意味で)!」
「いや、ほら。今忙しいしな?」
 感動極まって何やら怪しい発言をする宇真美を、遠回しに断るつぐむ。
 何やらビデオの向こうではミゼの艶かしい姿が映り続けているが……色々と、諦めた光景ではあった。
「向こうは凄いことになってるねー」
「というか、助けてくださいな!」
 そこにあったのは、暗黒ゴーヤーの蔓にからめ捕られている真端 美夜湖(しんは・みよこ)と、その姿に向けてカメラを構えている崎島 奈月(さきしま・なつき)の姿。
「いや、折角の面白映像だし。まずは一枚……後で来てない人にも見てもらおっと」
「ちょ、やめ。あ。ちょ、なんて格好をさせるんですかー!」
 写真を撮る奈月に配慮したわけではないだろうが。
 美夜湖を捕まえていた暗黒ゴーヤーは、ロメロスペシャルから恥ずかし固めへと移行していく。
 その姿をカメラに収めながら、奈月は考える。
 ここまでも、色々と面白映像が奈月のカメラには収まっていた。
 暗黒ジャガイモ、暗黒スイカ、暗黒枝豆、そして目の前の暗黒ゴーヤー。
 どれも奈月のカメラに面白い光景を残してくれた。
 けれど、まだだ。
 まだ、尻を狙うという暗黒トウモロコシの写真を撮れていない。
 そちらに向かうべきだろうか?
 写真のデータを確かめながら考える奈月の肩に、ぽんと手が置かれる。
「これを灰にしてしまってもかまいませんわよね? 1株残せば次の収穫には問題ないでしょう?」
「そ、そうだね?」
 ゴーヤーをなにやら怖い目で見据える美夜湖の視線は、奈月にも注がれている。
「ところで、奈月さん? にもお話があるのですけれど……」
「いや、僕はちょっと用事が……」
 なんか、柔らかい物腰の下に凄いものが隠れてる気がする。
 勘良く察知した奈月は、脱兎の如く走り出すのだった。