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埋没遺跡のキメラ研究所

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埋没遺跡のキメラ研究所

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第三章 研究員掃討


「はぁ……はぁ……」

 研究所入り口から、一人の男が外へ出る。
 
「ここまでくれば後は何とかなるだろ……」
 彼はここの研究員だった。
 研究所の鎮圧にきた契約者達の目を掻い潜って、ここまで逃げてきたのだった。

 と、そこに。

「そこまでです!」

 突如頭上から声がした。驚いて見上げる研究員。
 今しがた自分が出てきた研究所の、遺跡の瓦礫を使った入り口の上に、一人の少女と奇妙な生物がいた。

 少女、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)は勢い良く跳躍すると、研究員の前に降り立つ。
 隣に居たイングラハム・カニンガム(いんぐらはむ・かにんがむ)も、研究員を挟んで反対側に飛び降りた。

「くそっ!」

 慌てて研究所へと戻ろうとする研究員。
 だが千里走りの術で加速した吹雪が、一瞬で肉薄。刀の柄で後頭部を強打した。

 研究員は小さく呻くと気絶し、その場に倒れた。

 吹雪は研究員のポケットやかばんを物色する。
 そしてかばんの中に小さな財布を見つけた。

「やはり逃走資金を持っていましたね。ボーナス代わりに貰っておくであります」
 そう言うと懐に財布をしまう吹雪。それを見てイングラハムは、

「どっちが悪党なんだか……」
 と呟きつつも、吹雪を手伝い始める。

 吹雪達が研究員を縛り上げていると、一人の人間が歩み寄ってきた。

「やれやれ、特に何も見つからなかったわ」
 ニキータ・エリザロフ(にきーた・えりざろふ)が嘆息する。

「何も無かったのでありますか?」
「ええ。てっきり自爆装置の一つや二つ設置してあるものだと思っていたんだけど……」

 ニキータは腑に落ちないといった表情だ。

「この手の施設は、いざという時に証拠隠滅の準備がされててもおかしくないはずよ。
 まぁ、内部に設置してある、って可能性もあるけれど……ま、その辺は中にいるメルヴィア大尉達にまかせましょうかね」

 肩を竦めるニキータ。吹雪は頷き、入り口の監視に戻る。
 ニキータもフラワシ、大熊のミーシャを呼び出し、それに加わる。

 イングラハムが口を開いた。

「誰か来ますな」

 研究所から二人の研究員が出てくる。内一人は銃を持っていた。
 ニキータが銃を持っている研究員をライフルで狙う。
 足を撃ち抜かれた研究員が倒れる。それを見てうろたえるもう一人の研究員に、背後からニキータのフラワシが攻撃、沈黙させた。

「自分が縛るであります」
「といいつつ物色するんであろうな……今度こそ資料の類を持っているといいのだが」

 呟くイングラハムの前には、意気揚々と倒れた研究者の下へ向かう吹雪の姿があった。





「くそっ、侵入者共め! 神聖な研究所を荒らしおって……!」

 研究所の奥では、未だたくさんの研究員達が研究に逃走にと走り回っている。
 その中で、他よりもやや上等な白衣を着た研究員がいた。
 彼は目の前に立つ三人の傭兵向けて、指示を出す。

「お前達、金ならいくらでも出してやる。何としてでもあいつらをこの研究所から追い出すんだ」
「えぇ……そうね」

 研究員の目前に立つ少女、日向 茜(ひなた・あかね)が小さく呟く。
 茜は無造作にライフルを取り出す。すると、突然それを研究装置向け乱射した。

「なっ、何をするんだっ!?」 
 慌てふためき大声を上げる研究員に、しかし茜は低く地を這うような声で答える。

「何をしてるのかって……? 決まってるでしょう? この最低最悪なイカレた研究施設をぶっ壊すのよっ!」

 茜が研究員の足をライフルで撃ち抜く。痛みに悶える研究員を無視し、彼女は近くにある機械を片っ端から破壊していった。

「珍しいな、茜がキレるとは」
 アレックス・ヘヴィガード(あれっくす・へう゛ぃがーど)が茜の破壊活動を手伝いながら呟いた。

「まぁ、当然といえば当然でしょう。これは流石に非人道的ですからね」
 エミリィ・メタファルクス(えみりぃ・めたふぁるくす)が答える。非人道的と言いつつ、彼女の表情には怒りのようなものは見えない。

「確かに。これは流石にな……研究員達も因果応報、という所か」

 茜にボコボコにされている研究員達を眺めつつ、アレックスが溜息をつく。
 エミリィはというと、そんな研究員達を呆れと蔑みを込めた目で眺めていた。

「くそっ!」
 研究員の一人がナイフを取り出し茜に飛びかかる。
 だが素人の攻撃を、傭兵の彼女が喰らう訳も無く。

「はあっ!」
 研究員の攻撃を難なく避けた茜は、ライフルで研究員のこめかみを強打、一撃で気絶させた。

「この辺はあらかた破壊し終えました。そろそろ移動しませんか?」
「そうね。ほらアレックス、あなたも行くわよ!」

 茜は未だ破壊作業をしているアレックスに声を掛けると、勢い良く駆け出す。

 アレックスとエミリィもその後を追い、走り出した。




「何やら奥が騒がしいですね……」
 御凪 真人(みなぎ・まこと)が呟いた。その目前に鋼鉄の拳が迫る。

「させないわっ!」
 間に割りこんだセルファ・オルドリン(せるふぁ・おるどりん)がオートガードでそれを防ぐ。

 攻撃を弾かれた半機械のキメラは、一旦距離を取ると、両腕から電撃を発射した。
 飛び退く真人とセルファ。

「ふはは! どうだ私の作品は! 機械と人間の融合キメラ、これぞ最強の存在だ!」
「最強って言っても、さっきから一発も当たってないわよ? これじゃ全然大したことないわね!」

 セルファの挑発に研究員は激昂する。

「何だと!? 小娘が調子に乗り追って! おい、そいつを先に始末しろっ!!」
 指示を受けたキメラがセルファに攻撃の照準を合わせる。
 発射された電撃を、オートバリアで防ぐセルファ。

「今だ、ウェンディゴ!」
 真人が召喚した大きな雪男が、キメラを押さえつけた。
 抜け出そうともがくキメラに、真人がヒプノシスをかける。

 キメラは深い眠りに落ち、ぐったりと横になった。

「おい、起きろっ、起きないか! この出来損ないめっ! 貴様を作るのにどれだけの時間が掛かったと思って……」
 
 気絶したキメラへと罵声を飛ばす研究員に、真人がつかつかと歩み寄る。
 そしてその頬を、力の限り殴り飛ばした。

「命を何だと思っているのですか!」

 殴られた研究員は、尻餅をついて呆然としていた。
 数秒たって、ようやく自分が殴られたということに気付き、わめき出す。

「なっ……この私を殴るとは貴様何様のつもりだっ!? 命がどうとか抜かしおって、これは人類の進化の為に必要な……っ!?」
 
 その首筋に剣の切っ先が突きつけられる。

「……忠告してあげる。これ以上馬鹿なことを言うとどうなっても知らないわよ。ここまで怒っている真人を見るなんてそうそう無いんだから」
 研究員に剣を向けたセルファが鋭く言い放つ。
 研究員は何事か言いたそうに口をパクパクしていたが、やがて項垂れて口を閉じる。

「……すみません、取り乱しました」
「いいのよ。私も同じ気持ちだからね。さ、早くいきましょ」

 二人は研究員を眠らせるとキメラと共に縛り上げ、その場を後にする。





「見つけたぞ侵入者っ!」
 研究員が声を上げる。

「やれやれ……見つけたのはこっちじゃというのに」
 神凪 深月(かんなぎ・みづき)が呟く。その顔には獰猛な笑みが浮かんでいた。

 研究員のキメラが深月へ攻撃を仕掛ける。振り下ろされた鉤爪を、自在刀で受けとめる深月。

「あまりキメラを傷つける訳にはいかんのでな……はっ!」
 深月はキメラを押し返し、距離を取る。そして周囲にしびれ粉を撒き散らした。

 痺れて動けないキメラの横を駆け抜ける。
 そして一気に研究員に肉薄すると、その顔面を鷲掴みにした。そのまま壁に叩きつける。

「があっ!!」
「貴様らは決して許さん。子供を食い物にする……自分達の欲望の為に使うと言うなら……
 わらわ……わたしは……許さない……さあ研究者共よ、お前らの人生全てを無駄に変えてやる」

 研究員は自分を押さえつける者の顔を見る。猫のように縦長に伸びた瞳孔と、鋭い八重歯。
 その鬼の如き形相に、研究員は恐怖し、声を上げることもできない。

「そのくらいにしておけ、深月」
 研究員の頭を砕きかねない深月の肩に手が置かれる。

「お前に人殺しをさせるわけにはいかん。後は教導団の者らに任せればいいであろう」
 平 将門(たいらの・まさかど)にいさめられ、渋々といった様子でつかんでいた研究員を投げ捨てる深月。

 キメラを縛っていた久遠・古鉄(くおん・こてつ)が研究員に駆け寄り、ヒールをかける。

「な……」
「勘違いなさらないように。マスターを犯罪者にするわけにはいきませんから、最低限の治療だけです」
 そう言って命に別状が無い程度にまで傷を回復させる。

 そして研究員の手足を縛り上げると、深月へ向き直った。

「この人達はどうしますか?」
「……そのうち教導団の者が来るじゃろう。そこら辺に転がしておけ」

 まだ怒りが収まらないのか、ぶっきらぼうに返事を返す深月。
 そこに第三者の声が響く。

「貴様ら、何者だ!?」
 研究員だった。戦闘の音を聞きつけてきたのだろう。その手には銃が握られていた。
 それを見た深月が笑みを浮かべる。

「これは丁度良いところに……次は貴様を血祭りにあげてやるわっ!」

 深月が研究員へ跳びかかる。将門がやれやれと首を振った。

「怒りのあまり笑っておる……これは暫く収まりそうに無いな……まぁ、無理も無いか」
 将門は地面に転がるキメラに目をやる。人の子供と獣を無理やり継ぎ合わせたようなその姿。
 このような行為、決して許されるものでは無い。

「研究員の手当ては私がします。マスターを諌めるの、頼みますね」
「ああ。承知した」

 久遠と将門は暴走する深月の元へと向かった。