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狩るのは果物? モンスター?

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狩るのは果物? モンスター?

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   ☆★☆★☆★


「勘違いしてしまって、申し訳ないです」

 村の青年は深々と頭を下げた。 ……チンパンジーに向けて。
「まあ仕方の無い事じゃ。間違いなぞ誰にでもあるのじゃから」
 そのチンパンジー、ジョージ・ピテクス(じょーじ・ぴてくす)は言った。
 コボルドに見つからない様に、1つでも収穫をしようとしていた村の青年は、途中で見かけたジョージを動物の果物泥棒だと思い、追い払おうとした。と、言う訳だ。

 間違いも何も、無理もないよね……。動物にしか見えないし……。

 そんな2人(?)のやり取りを見ながら笠置 生駒(かさぎ・いこま)は思った。
 そして、その場を去る青年を見送った。

「……っぷ。あはははははは! おっかしー! もームリ!」

 青年が完全に見えなくなると同時に、シーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)は堪え切れなくて大笑いをした。
「さっ、猿にっ、頭下げてっ!」
 彼女の手には中身の半分以上無くなった一升瓶がある。
「(声色を変えて)申し訳ないです(キリッ  ……だってさ! ……ぷっはー、日本酒サイコーやわ!」

 どう見ても酔っ払いです。本当にありがとうございました。

 ケラケラと笑いながら、シーニーは1人でフラフラと歩いて行ってしまった。
「アレは、大丈夫かのう……」
 ジョージが呟いた瞬間――
「あっ……とっとっとっとっとっ……」
 ぐらり、と、バランスを崩したシーニーは、木の陰の方へ倒れ込んでしまった。
「ちょっとお兄さん聞いてーな。猿が泥棒でお辞儀して可笑しいやろ!」
「は? ちょっ、何ですかアナタ!」
 倒れた先に人が居たらしく、訳の判らない事を言いながら絡んでいる様だ。

 ……ダメだコイツ。早く何とかしないと……。

「うちの酔っ払いが済みません」
 生駒は思って、シーニーの方へ向かった。
「連れですか? 何とかして下さいよ!」
「そうやろ? でな、 ……ふふふふふ」
 不気味な笑いを浮かべながら、シーニーは青年の足と一升瓶を両手に抱え込み、気持ち良さそうに眠っている。
「あー、もー……。ところで、その林檎は……」
 生駒は遠くにコボルドの気配を感じていた。

「収穫ですか?」

「そうですよ、当然でしょう。それより早くこの人、何とかして下さいよ!」
「ですよね。いえ、今ね、何か変だなと思って……」
 シーニーに足を取られて動けないのを良い事に、生駒はドラグーン・マスケットを青年の超至近距離で構えて見せながら言った。
 ジョージも牙を剥き、今にも襲い掛からんとしている。

「……正直に言った方が、良いと思うよ」
「……ふふふ…… もう一本持って来てー」
 シーニーは夢の中だった。

「居たぎゃ! 泥棒だぎゃ! 轟! 雷! ……」

 その時、突然飛び出してきた親不孝通 夜鷹(おやふこうどおり・よたか)は何の躊躇いもなく、生駒達を目掛けて轟雷閃を放とうとした。
「待ちなさい、バカ地祇!」
 セシリア・ノーバディ(せしりあ・のおばでぃ)の声と同時にDSペンギンが勢い良く宙を飛び、おでん串が夜鷹にぷすっと……

「ぎゃっ!」

 見事にヒットした。
「え? な、何?」
 驚いたのは青年だけで、生駒とジョージは 痛そう…… と、そんな事を思うだけだった。

「お騒がせして済みません」

 2人に続いて姿を現した神崎 輝(かんざき・ひかる)は申し訳無さそうに言った。
「突っ走るなと言ったでしょう……ヨタカ、何やってるんですか?」
 その後ろから更にもう1人、アルテッツァ・ゾディアック(あるてっつぁ・ぞでぃあっく)が呆れた物言いで現れる。そして口に出した言葉は

「これは……どういう状況ですか?」

 だった。
 銃を構える少女と、銃口を向けられた青年。それに威嚇するチンパンジーと、酔っ払い。おでん串がイイ感じに刺さってのた打ち回る子供……。シュールと言うか、カオスと言うか……。

 と、隙を見て、手にした林檎を捨てた青年は逃げ出してしまった。が、
「マナーの悪い泥棒は消毒だーっ」
 その進行方向から現れたレナ・メタファンタジア(れな・めたふぁんたじあ)は純白の杖をバットの様に振り、青年にヒットさせたのだった。



「……なる程、そう言う事ですか」

 アルテッツァは生駒から話を聞いて、頷いた。
 村の青年は、林檎を収穫していた人がコボルドに襲われた、と言っていた。だが生駒が銃を向けた彼は、林檎を手にして居たのに無傷だった。コボルドの視界の中に居たにも拘わらず、だ。
 今、その彼はアルテッツァのヒプノシスによって、シーニーと仲良く夢の中に居る。

「只の林檎泥棒とは、話が違うみたいね」
 セシリアが呟く。
「泥棒とコボルドが、何らかの形で繋がっている、と考えた方が良いのかな」
 輝はアルテッツァを見た。
「それが妥当ですね。……笠置君」
「はい」
 教諭と生徒らしく、アルテッツァは生駒に指示を出している。

「この林檎、傷が入ってるぎゃ。よし、喰うぎゃ!」
「駄目だよ、傷物でも他に使うかも知れないよ〜? それに、ちゃんと洗ってから……あ〜、もう」
 その後ろでは夜鷹とレナが、落ちた林檎を巡って会話をしていた。

「近くには誰も居ないよ」
 殺気看破を使っている輝が言う。
「でも何処かに仲間が居る筈だわ。こんな広い果樹園の林檎を1人で盗み出すなんて不可能だもの」
 セシリアは考えを巡らせた。

「笠置君には此処に残って頂いて、ボク達は泥棒の仲間が居ないか捜しましょう」

 アルテッツァが言った。
 此処に泥棒と思われる人物を眠らせたまま放置し、生駒とジョージに隠れて見張らせる。もしかしたら仲間が助けに来るかもしれないし、限りなく黒に近いが泥棒であると確定していない人間を縛り付けておく訳にもいかない。何より、目を覚ましそうにないシーニーを放ってはおけないからだ。
 進みだしたアルテッツァは心理学の観点から人目に付かなさそうな場所を探し、セシリアはディテクトエビル、輝とレナは殺気看破で周囲を警戒している。
 夜鷹は……、突っ走られると困るので、見るからに出荷の出来なさそうな林檎を失敬して食べている。お礼の先払い、と言う事で……。
「村の人達、ごめんなさいね」
 セシリアは申し訳なく呟いた。