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リアクション
「こうなった原因が不明な以上、いろんな方法を試すしかない!」
目の前でごろにゃんしているパートナー、結崎 綾耶(ゆうざき・あや)の姿を見て、匿名 某(とくな・なにがし)はおー、と拳を振り上げた。
「にゃーん」
綾那は黒猫耳を生やして、芝生の上でゴロゴロしている。公園を散歩して居たら突然これだ。事情が飲み込めないながらも、某は事態の解決に向けて一歩を踏み出した。
綾那の横に座り込み、その耳に向けて手を伸ばす。
「おーよしよしよし……」
色々やってみる、の第一歩は「とりあえず可愛がってみる」だった。小動物を撫でるときのように、わしわしと頭を撫でてやる。
「にゃーん?」
綾那は何してるんですかー、とでも言いたそうな目で某を見上げる。しかし、撫でられているのが心地良いのだろう、その目に咎めるような色は無い。
その上目遣いが可愛いこと、可愛いこと。
某はうっ、と一瞬言葉に詰まる。それから徐に、丸まっている綾那を抱きかかえると、人目に付かない木陰へと移動した。
もうこれは思う存分可愛がるしかない。だが、そんな姿を人に見られるのは、恥ずかしい。
木陰へと身を隠すと、綾那の体を地面に下ろす。
撫でるのを中断されたからか、綾那は些か不機嫌そうににゃーにゃー言っている。それからごろごろと某にすり寄って、おねだりする。
くううっ、と内心その可愛らしさにノックアウトされながら、某は綾那の髪を撫で、頬を撫で、喉元を転がし、思う存分構い倒す。
すると綾那は満足そうにふにゃぁと鳴くと、ごろん、と仰向けに寝転がった。猫が完全に弛緩したときのポーズだ。
――ふあああ……可愛すぎますよぉおおっ!
お腹を見せてうっとりとしている姿は、なんだかイケナイことを想像させる。
これ以上可愛がったら理性を保っている自信がないのだけれど、かといってここで止めることなど出来そうにない。
「こうなったら……全力で可愛がってくれるわぁあ!」
何かがぷちんと切れたらしい某は、綾那の上に覆い被さるのだった。
「あらイオテス、寝ているの?」
両手に缶ジュースをもって戻って来た宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)は、ベンチの上でごろんと横になっているイオテス・サイフォード(いおてす・さいふぉーど)の姿を遠目にみつけて首を傾げた。疲れていたのだろうか、と思いながらすぐ傍まで歩み寄ると、丸くなって眠っているイオテスの頭に、見慣れない物体が存在することに気がついた。
黒猫耳である。
「……何かしら」
何かの冗談? と思いながら突いてみると、ぴく、と動く。どうやら本物のようだ。
祥子は反射的に手を引っ込めて、少し考えてから、ぐるりと周囲を見渡してみた。
そういえばジュースを買いに行く道すがら、同じような黒猫耳を生やした人を多く見かけた。今日はやたらと獣人が多いのね位にしか思って居なかったのだが、こういうことか。
「これはまた、変なことに巻き込まれたわね」
祥子はため息を吐きながら、イオテスが寝て居るベンチの、ギリギリ空いたスペースに腰を押し込んだ。
すると、人の体温を感じ取ったからか、イオテスがふにゃんと鳴いた。もぞもぞと体を動かすと、頬を擦りつけるようにして祥子の膝へと上ってくる。あらあら、と見て居る間に、すっかり膝枕の格好だ。
「もう、仕方が無いわね」
他にすることもないし、と祥子は懐いてくるイオテスの耳を撫でてやったり、喉をごろごろしてやったりする。撫でられたイオテスは嬉しそうになーおと鳴いて、体を起こすと祥子の肩に手を掛けて、顔に顔を寄せると頬をぺろりと舐めた。それから、もうちょっと体を伸ばして祥子の耳をかぷりと甘噛みする。
「あら、もう」
クスクスと笑いながら、祥子はイオテスの頬に軽く口づけを返す。イオテスが嬉しそうに頬ずりしてくるので、ちらりと周囲を確認してから唇にも触れるだけのキスをした。
「にゃーん」
すると、イオテスは祥子の唇の周辺をぺろぺろと舐め始める。
「ちょっと、くすぐったいわよ……」
咎めるような言葉とは裏原に、祥子の表情は嬉しそうだ。イオテスの方も楽しそうに祥子に懐いている。
「もう、こんなんじゃ今日は何も出来ないわね」
諦めたように笑って、祥子はイオテスの体をぎゅーっと抱きしめた。
暖かな日差しだけが、二人の周りに降り注いでいる。
「うん? ……あれ、なんだこれ、にゃん?」
お弁当片手に公園を散歩して居た城 紅月(じょう・こうげつ)は、自分の体の異変に気付いて足を止めた。と、思うが早いかムズムズしていた頭部からはにょきにょきと黒い耳が出現し、腰の辺りからは黒い尻尾が顔を出した。
え、と驚く間もなく思考が溶けていって、頭の中がぽわーんとする。何も考える事ができない。日差しの暖かさが嬉しくて、ひょこひょこと尻尾が揺れる。
「……え? 猫耳?」
紅月の後ろを歩いていたレオン・ラーセレナ(れおん・らーせれな)は、あまりに唐突なパートナーの変貌に言葉を失った。
レオンが立ち尽くしている間に、紅月はすっかり猫化してしまったらしい。にゃんにゃんとご機嫌そうにレオンの周りを飛び回っている。見て見て、とでも言いたそうなその姿に、とりあえず体に害のある類いの変化ではなさそうだ、と胸をなで下ろす。
「また……随分と可愛らしい姿になりましたね」
そう言って、飛び回っている紅月に微笑みかけると、紅月は解って居るのか居無いのか、にゃん、と嬉しそうに鳴く。
足を止めた紅月の頭をよしよし、と撫でてやると気持ちよさそうに目をすがめるものだから、レオンは調子に乗って耳の付け根や尻尾なども撫で回してみる。
初めは心地よさそうににゃーにゃー言っていた紅月だったが、そのうちにだんだん目が赤く潤んできた。落ち着かなそうな様子で、レオンのことを見上げてくる。
「おや……?」
半ば狙ってやった癖に、レオンは意外そうな顔を作って、わざと首を傾げて見せる。どうしました、と頭を撫でながら問いかけると、紅月はすりすりと頬を擦りつけてくる。何とかしてくれ、とでも言いたげな紅月に微笑みかけて、レオンは物陰へと紅月を誘った。
死角に入るなり、レオンは大人しく素直に後を付いてきた紅月を抱き寄せて、柔らかな黒い耳の付け根にそっと唇を落とす。それから洋服の中に手を滑り込ませて、知り尽くした体の弱いところを指先で攻め立てる。
「にゃぁ……ん……っ!」
紅月はいやいやをする子どものように体を捩って抵抗するが、レオンはその反応すら織り込み済みであるかのように上手に抱き寄せ、抵抗を封じ込める。
「愛していますよ、紅月……」
優しく囁きかけると、紅月はすっかり腰砕けになってその場にへたり込む。その体を支えてやりながら、レオンは懐から二本のボトルを取り出した。粘性のある粘膜用の保護薬と、強力な栄養剤・まっすぐドリンコJの二本だ――何に使うかはご想像にお任せする。
「ずっと、こうして居たいですね」
「にゃ……にゃん……」
ぎゅっと抱きしめられた紅月は、うっとりしながら、しかしどこか物足りなさそうな顔でレオンを見上げる。それでもレオンはふふふと笑っているので、紅月はぺろぺろと頬を舐めておねだりする。
おやおや、と嬉しそうに呟いて、レオンは紅月の体を抱き込むと、そのまま地面に縫い付けた。
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